君のことを本当に……?

ノベルバユーザー173744

《希望》……穐斗

 祐也ゆうやは実家に帰った母に電話をかける。
 すると、

「あぁ、祐次ゆうじくんの産着ね。あるわよ。一応この間出して洗っておいたの。後で持っていくわね」

と答えが返る。
 ホッとしていると、ほたるはいつのまにか熟睡しており、祐也は悩む。
 これが産後の母親か……。

と、スマホが鳴り、

「祐也よう。部屋はどこぞ〜?」

祖父の麒一郎きいちろうである。

「あぁ、じいちゃん。病室はパンダの絵が描いとる。あ、くれないが出て言った」
「あぁ、おったんか〜紅」
「おじいちゃん。おばあちゃん、ひな兄さん、だいちゃん兄さんよう来たね……って、なんで着物……」
「正装をとおもて」
「嘘つけ。運転が面倒やったくせに」

 紅の後ろから姿を見せるのは、蛍の祖父の麒一郎と晴海はるみと、祐也の先輩の日向ひなた醍醐だいご
 醍醐は、蛍の母、風遊ふゆと結婚しているので、蛍の義父でもある。

「で、祐也。赤ん坊は?それに蛍……」
「……ようねよるなぁ……起きんのか?」
「それが、陣痛が来とるのに、『眠い……寝る……』言うて、破水もしとったのに、『眠いよ〜痛いよ〜でも、寝たい』言うて、起きんかぁぁ!いきまんといくまいが!生まれたら寝てかまん!言うて……」
「出産より睡眠……蛍らしいなぁ」

 祖父母は笑う。

「で、写真撮る時間だけなんとか起きとって、熟睡よ……。産着の準備とか、名前をどうしよか言う話もできんかったわ」
「そうや、赤ん坊は?」
「小さいけん保育器よ。赤ん坊も泣きもせんと、スヤスヤねよる」
「母親似やな」

 顔も見ていないのに断言する。
 すると、

「失礼します……まぁ、ご家族ですか?おめでとうございます。可愛い男の子ですよ」
「子供は大丈夫ですか?」
「あぁ、今日明日位は、ご家族が心配でしたら保育器にと先生が。でも、健康状態に異常はないそうです。それに、熟睡していて、診察しても全く泣かないので……」

看護師は感心したように告げる。

「後でお連れしますね」
「見にいこか」

と四人はついて出て行った。



 しばらくして戻ってきた家族に、目を覚ました蛍が、媛と話している。

「うーん。男の子やったら、ゆーやに似て欲しかった〜」
「可愛かったよ〜?蛍ちゃんに似て、色白?泣きよったせいか真っかっかやったね〜」
「うーん……宇宙人やったらどうしよう……」
「自分の息子の名前決めんと、宇宙人はやめんか!全く!」

 祐也は妻の楽な姿勢の手伝いをしながら説教する。

「……本当に、頭痛いわ……こんなんで、かまんのやろか。まぁ、夜の世話は起きれるけど、昼間……抱っこして連れていこか」
「やめんか!赤ん坊になんかあったらどうするんぞ。それより名前は?」

 日向の声に、両親は顔を見合わせ、

「えっと、男だったら穐斗あきと、女だったら杏樹あんじゅにしようって……」
「穐斗だよ〜。やっぱり祐也に似てたら良かった!祐次くんみたいになるのに!」

 蛍の言葉に、祐也のミニチュア版……祐次に瓜二つの穐斗が、



「母さん!お腹すいた〜めーし!メシー!」
「ちょっと待ってね〜えっとぉぉ、ゆーやぁぁ。おにぎり〜どれくらいの大きさがいいと思う〜?穐斗がお腹すいたって」
「母さん!でっかいの!こーんなの!俺食うよ!」
「本当?じゃぁ作るね〜」



のんびりした蛍と、やんちゃすぎる祐次そっくりの……祐也だけでなくうんざりする。

「でもさぁ、祐也。蛍そっくりの穐斗、二人の会話にお前着いていけるのか?」

 兄の一平の一言に、



「あきちゃーん。何してるの?」
「絵本読みながら、パパ待ってるの」

母親そっくりのふわふわの髪と、大きな瞳、顔立ちの女の子のように愛らしい。
 母親は台所で夕食の準備、息子は庭のベンチで絵本を読んでいる。

「あきちゃん?知らないおじさんに着いて行っちゃダメよ?」
「うん、ついて行ってないよ?あきと、抱えられて車に乗せられちゃうの」
「そう言う時には、パパ助けて〜!って言うんだよ?パパ来るからね!」
「パパ助けて〜!」
「そう!そう言いなさいね?」
「ウワーン!ママ〜!パパぁぁ!」

 その声に風遊が飛び出す。

「あ、穐斗!誰か!穐斗が誘拐される!」
「穐斗!」



 リアルに想像できる家族に、一平は、

「武術鍛えないかんなぁ。俺は向こうやけん。媛に頼め」
「それよりも、祐也お兄ちゃんが、穐斗に『パパがかまん言うまでかくれんぼや』言うたら?無駄に鍛えても小さい頃は攻撃するよりも逃げるのを覚えさせたほうがいいって、一平にいちゃんじゃあるまいし」
「あはは!俺は、全部敵!でぶちのめして、師匠と親父にぶん殴られた」
「……全部敵」

祐也は思う、自分の過去はそんな感じだったが、兄の敵とはなんだろう……。

「祐也、俺の敵について知りたいか?それはなぁ?兄妹に着く虫は全部敵!特に、頑張っている祐也をからかう馬鹿は羽虫以下!徹底的に排除させてもらった!……中学までだが。だって俺、馬鹿だから、高校体育系の推薦しか貰えなかったし〜。祐也の高校超進学校……」
「……兄貴……」
「祐也、愛されとるなぁ……」

 醍醐の言葉に、口には出さないが、重すぎる愛はいらないと思う。

「えっと、穐斗……でかまんやろか?」
「まぁ、季節がずれとるけど、えぇんやないか」

『穐』は『秋』と同じ意味であり、別の読みでは『とき』『しゅう』とも読む。
『大事な時期、特別なとき』と言う意味であり、もう一人の『穐斗』も早生まれだったが、風遊と両親は息子に『特別な大切な』子供だと相談してつけた。
 祐也も蛍も悩んだものの、風遊たちの思いに、名前を選んだのだった。



 しばらくして、看護師が、

「泣かないのですけど、そろそろお腹がすいた頃かと……」

と赤ん坊を連れてくる。
 ベビーベッドが大きすぎるほど小さい赤ん坊は、クゥクゥと眠っていて、ただただ無邪気である。
 祐也が確認をとって、穐斗を抱き上げる。

「穐斗……よう寝る子やなぁ……」

 祐也の仕事で潰れたマメだらけの大きな手にすっぽりと入った赤ん坊は、身動きはするが、全く起きる気配がない。

「……おぉぉ……かいらしいなぁ。穐斗。じいちゃんや」
「おい、じじい。目も見えん赤ん坊にじじいも馬鹿もわかるか」
「一平先輩。よう言うてくれました!じじい。嵯峨さんに連絡したか?それにお前の両親や兄さんたちに」
「忘れとった。写真撮って送って……電話や。ちょっと抱っこさせてや」

 抱き上げようとすると、赤ん坊が顔を歪め、

「う、にゃぁぁ……」

イヤイヤと言いたげに、手を突っ張る。

「穐斗、ちょっと待ってや。京都のじいちゃんとばあちゃんに『あては穐斗やで』って言わなあかんし」
「ふっ……にゃぁぁ!」
「嫌だと。醍醐。祐也の方がえぇんやと。写真だけ送れ。それに、お前の根性の悪さが、赤ん坊には感じるんやろな」

 日向は笑う。
 渋々祐也抱っこの写真を送っていた醍醐は、

「ほな、日向はどないなんや?」
「赤ん坊はまだ小さいし遠慮する」
「抱けんけんやろ」
「だけんかった人間に言われたないわ」
「抱きます?」

祐也に渡された赤ん坊は小さく、軽く弱々しい。
 日向には一つ上に息子はいるが、大きかったので赤ん坊とはこんなものだと思っていた。
 その為、こんなに華奢で小さく可愛らしい……庇護欲をかきたてられる子とは思わなかった。

「穐斗。俺たちの大事な子供や。風早と仲ようせえや。穐斗らしゅうおおきなり」
「穐斗、ひなさん、大好きみたいや」
「そうか?」

 ちなみに、成長した穐斗は、両親も大好きだが、日向が大好きで良く話をするのだった。

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