君のことを本当に……?

ノベルバユーザー173744

《穐斗》〜もう一人の少年

 ふわふわの明るい茶色の髪と瞳の、細身の少年。
 高校の美術科に在籍する少年は、幼馴染たちには野暮ったいと言われる眼鏡をかけ直した。
 周囲は合成されたコンタクトで色を変えたり、髪を染めたりして姿を変えるが、穐斗あきとは生まれた時から金髪に近い茶色と色素の薄い瞳だった。
 その上、

「おい、穐斗」

こちらは細いフレームの眼鏡をかけた、シャープな印象の青年。
 黒髪に少々何故かタレ目なのがコンプレックスの一つ上の幼馴染……。

風早かざはやお兄ちゃん……じゃなかった、風早先輩」
「……お前が生まれた時から、兄ちゃん、穐斗だったのに、気持ち悪いぞ?」
「だって……」

 三年生で生徒会長の一条風早いちじょうかざはやと、二年生で一応副会長の清水穐斗しみずあきと
 風早は頭を撫でる。

「あのねぇ?お兄ちゃん。そんなことをすると……」
「オラァ!穐斗!兄貴に甘えんな!」

 教室の後ろが開き、華奢な穐斗より一回り大きくがっしりした青年……。

那岐なぎ!お前、うるさい」
「兄貴!ひでぇ!」

 一年生で書記の風早の弟の那岐である。
 小さい頃からやんちゃ坊主で、大好きな兄が構う穐斗を目の敵にする。
 それは、何度か穐斗が大怪我をしたり、穐斗がいじめられたりと散々な結果になるのだが……実際、年下の幼馴染が穐斗は苦手である。

「こらぁぁ!あきちゃんに何すんのよ!このクソガキ!」

 拳を振り上げるのは、顔は整いおしとやかそうな髪と瞳は黒い少女。

六花りっかちゃん」
「あきちゃん!」

 那岐を蹴り飛ばし、文字通り締めあげているのは、穐斗と同じ年の叔母……六花である。

「本当に、うちのあきちゃんに何をすんのよ!このあほんだらぁぁ!」
「こらこら、書記!生徒会メンバーが何しよるんで!」
「良いのよ、風早兄さん。それとも、那岐、茜にチクるわよ」

 茜は、六花や穐斗の従姉妹で、二人と同じ年。
 茜は六花の父、醍醐だいごの長兄、紫野むらさきのと穐斗の母のほたるの姉、雛菊ひなぎくの長女である。
 離れているが長期休暇の時には必ず行き来する、仲良しである。

「茜は那岐よりあきちゃんの方が好きなんだからね。いじめっ子嫌いだって言ってたわよ」
「……那岐?」

 風早は弟を睨む。

「いい加減に、穐斗に乱暴するな!父さんたちに言いつけるぞ!」
「親父なんか怖くないもんね〜!」
「……ふーん。じゃぁ、サキ伯父さんに言いつけてやる」

 六花は絞め技から関節技に変えていた。
 六花の柔道の師匠は、穐斗の叔母のひめである。
 六花の見た目は父親に似ているが、かなりお転婆である。

「サキ伯父さん、茜、可愛いもんね」

 茜は金髪に青い目だが、日本人の美少女の顔立ちである。
 茜の母の雛菊にではなく、父方の祖母に似ている。
 同じく六花と髪や瞳の違いはあるが、そっくりである。

「あだだだ!六花ぁぁ!やめろよ!」
「六花先輩でしょ?それより私とあきちゃんは、清水先輩って言いなさい!」
「言うもんか〜!年しか勝てるもんのない、穐斗に先輩面されたくねぇ!ふんっ!医者になる夢諦めたくせに!」

 その言葉に、穐斗は目を見開き、俯いた。

「……ご、ごめんなさい……那岐ちゃん。僕……帰るね」

 立ち上がり、荷物を片付けると、バタバタと出ていった。
 しかし、途中に点々と教科書やシャープペンシルが落ちている。

 シーンと静まり返った教室では、何時もの時間が始まると、クラスメイトたちが息を飲んだ。

「……那岐……」

 沸点ではなく、絶対零度のような涼しげな声が響く。

「お前は、穐斗をそうやっていじめてたのか……」

 風早である。
 眼鏡を外し、穐斗の机に置くと、腕を組み、幼馴染の六花を見る。

「六花。そいつ貸せ。これから武道場で、足腰立たない位しごいてやる。代わりに……」
「うん。じゃぁ、今日は那岐は帰らないって、ひな父さんに伝えるね。じゃぁ、あきちゃんと帰る」
「頼む」

 カバンを持ち、穐斗が落とした荷物を拾いながら、

「あ、き、ちゃーん!待ってぇぇ!一緒に帰ろう〜!」

と六花は出ていった。
 それを見送り、弟を見下ろした風早は、

「武道場に、来い。久々に腹が立った。お前をぶちのめす」

と宣言したのだった。



 涙をこらえ、帰りかけた穐斗だったが、荷物が軽いのと、追いかけてきた六花が拾ってくれた荷物に、

「あ、ありがとう。六花ちゃん」
「どういたしまして。お礼は、あきちゃんのベアでね?」

その言葉に、ポロポロと涙がこぼれる。

「……僕、僕……こんなだから、情けないから、那岐ちゃんに嫌われてるのかな……すぐ泣くし、皆みたいに柔道とか……うまくないから……」
「那岐はほっときなさい。あきちゃんが那岐みたいになったら茜が嫌がるわよ。それに、教護きょうごこよみも『あきにいちゃんと遊ぶ〜!』って。それに、うちの妹たちだって、あきちゃん大好きなんだから」
「でも、杏樹あんじゅ結愛ゆめにも、『あきにいちゃん、可愛い』って……」
「と言うか、杏樹たちは、逆にあきちゃんがあきちゃんじゃないと嫌だって言ってるじゃない。それに、ゆう父さんは、あきちゃんが嫌いで、医者はやめろって言ったんじゃないわよ」

 しゃくり上げる穐斗をよしよしと撫でる。

「ほら、祐次ゆうじ兄ちゃんが大学6年でしょ?それに、それから2年も研修だって。父さんが、ゆう父さんに聞いたら、『そんなに穐斗と離れるのは嫌だ』だって」
「そ、そうなのかなぁ……僕、男なのに……情けないって……」

 父の祐也ゆうやは長身でがっしりとした体格。
 穏やかだがしっかり者で、現在40前だが、地域の事に率先して動く。
 優しい父。
 でも、長男の穐斗は、父に似ても似つかぬひょろひょろとした体格と、運動があまり得意ではなく、幼馴染たちは山を駆け回るが、テディベア作家の祖母や母の側で、一緒に作って楽しんでいた。
 幼馴染について行ったことはあるが、怪我をするか、追いつけず泣きながら家に帰ることも度々で、父は、

「穐斗が好きなことをすればいい。無理せんでええ」

と頭を撫でてくれた。
 しかし、小さい時に夢見た医師になる夢は、父の大反対にあった。

「穐斗は絶対に医者にはさせん。許さん!」

 いつになく激しく反対する父に、母はおっとりと、

「あきちゃん。パパはね〜?あきちゃんが嫌いやけん、いけんでって言いよるんやないんよ?パパとママはね?あきちゃんが辛い思いをしてほしないんよ。あきちゃんは大好きなものを、本当にしたいこと、やりたいことをして欲しいんよ。この家を継げとか、言いよるわけやない。あきちゃんが笑ってくれたらそれでええんよ」

穐斗の顔の作りや髪、瞳は全部この母譲りである。
 あまりにも瓜二つの為、小さい頃から女の子と間違われていた。

「……パパ、僕のこと、情けないって思ってたら……」
「どうしたんや?穐斗」
「あ、父さん!」

 六花が手を振る。
 穐斗たちの住む集落には小学校と再開校した中学校しかなく、高校は町に出ないといけない。
 その為、朝はスクールバスが出る。
 しかし、帰宅時間はそれぞれ違う為、家族もしくは買い物などで町に出た近所の人が迎えに来る。
 今日は、六花の父で、穐斗の、

「おじいちゃん……」

慌てて涙を拭う穐斗に近づいた醍醐は、娘と同じ年の孫の顔を覗き込む。

「どないしたんかいな?穐斗。怪我をしたんか?」
「ううん!何でもないよ。おじいちゃん……」
「六花?」
「那岐があきちゃん泣かせたの」
「り、六花ちゃん!言わないで!」

 慌てて首を振る。

「僕が情けないから……」
「穐斗はあての自慢の孫や。泣かんでえぇ!おじいちゃんがちょいと行くわ」
「父さん、大丈夫!風早兄さんが那岐を今日は鍛えるって」
「ほんならかまへんな。穐斗。六花も帰ろうや。あとで、ひなに迎えにこさせたらええわ」

 車に二人を連れて行くと、珍しい人物が車に乗っていた。

「あぁぁ!祐次お兄ちゃん!」
「よぉ!久しぶり。ようやく休暇が取れたわ……」

 20代半ば……医大生の祐次である。

「それにしても、穐斗に六花!会いたかったわ」
「祐次兄さんは、あきちゃんに会いたかったんでしょ?」
「なにいよんで。六花もや、大きなったなぁ」

 助手席に座った六花に笑い、そして隣の席に座った穐斗の頭を撫でる。

「兄ちゃん、これが癒しや……でも、穐斗、どうしたんで?目が赤い」
「う、ううん。大丈夫だよ。祐次お兄ちゃん」
「あ、那岐がアキちゃんいじめたの。風早兄さんが締めるって」
「よし、グッジョブ!俺は向こうで柔道と勉強漬け……しばらく穐斗に癒されたい……」
「ん?観月みづきちゃんとデートはせんのかいな?」

 醍醐は弟分をからかう。

「醍醐兄ちゃん。穐斗は俺の弟!可愛がって悪いんか?」
「祐次お兄ちゃん。観月ちゃんとデートの時は邪魔しないね?」
「そんなん気にするな。全く……穐斗は、兄ちゃんが心配しとったで?普段はおとなしゅうて、どっか行ったと思ったら泣きよるって、父親失格やって」
「パパは違うもん!僕の自慢のパパだもん!……でも、パパって言うと、那岐ちゃんが笑うから……お父さんって言うと、泣きそうな顔する……」
「パパでかまんやろ。祐也が喜ぶんや。それでええんよ」

 醍醐が孫に笑いかける。

「祐也は穐斗が急に大人になってしまう言うて焦ったんやなぁ……祐也は、蛍や穐斗に甘えて欲しいんや。今のうちに存分に甘えときや。かまんかまん」
「そうそう。兄ちゃんは穐斗たちが自慢で可愛いんや。今のうちやで、俺なんか親父にもうウザがられる」
葵衣あおいが祐次より先に結婚したけんなぁ」
「俺は学生!それに観月はもう働いとるのに、スネかじられへんわ。情けない。まぁ、葵衣は留学して学生結婚したけどな……あはは」

 5歳下の妹に先を越された祐次である。

「あ、じゃぁ、祐次お兄ちゃん。お兄ちゃんたちの結婚式のウェルカムベアは、観月ちゃん作るでしょ?ウェイトベア僕作る〜!」
「おぉぉ!本当か?嬉しいなぁ。穐斗のベアは穐斗らしい」
「僕らしい?」
「あぁ。お前のベアは目が印象的なんだ。周囲に安堵感を与えるって言うのかな?お前の色がしっかり出てる」

 祐次は穐斗を何度も撫でる。

「お前は兄ちゃんの自慢の息子で、俺にとっても自慢の弟や。泣くなよ。お前は笑顔が一番や」



 穐斗は家に帰る頃には笑顔になり、

「ただいま〜!パパ〜!」

と、父親に抱きついたのだった。
 久しぶりの息子の行動に、よろめきもせず、

「お帰り、穐斗」

と嬉しげに抱き上げた親馬鹿がここにいたのだった。

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