君のことを本当に……?

ノベルバユーザー173744

《家族》地域のこと

 宇治ひろはる麒一郎きいちろうと共に歩いていった場所は、テントで座って飲み食い、おしゃべりに興じるのは麒一郎や宇治と同年代から年上が多い。
 テントの売り子もほとんどそうで、一人見えたのは嵯峨さが伏見ふしみの幼馴染、醍醐だいごである。
 子供たちを両手に、そして肩車して歩いている。
 醍醐の子供たちだろうか?

「あぁ、宇治さん。あれがわのとこの孫、醍醐と風遊ふゆの子供たちに、風遊の孫……ひ孫やなぁ。あっちで遊んどんのが、ひなの息子の風早かざはや那岐なぎ。小さいんがひ孫の穐斗あきとや。それに、あかね教護きょうごこよみは、サキの子供や。おぉ。よう来たなぁ?ロナウドにクリスティン」
「おじいちゃん!」
「パパがまた大暴れだよ?」

 顔立ちは幼いが、金髪とアイスブルーの瞳の子供たちである。

「困ったもんやなぁ。あぁ、宇治さん。この二人が祐也ゆうやの兄の子供なんや。二人とも、嵯峨のお父さんや。ちゃんとあいさつせぇよ?」
「こんにちは!クリスティンです」
「ロナウドです。おじいちゃん。こんにちは!」
「えぇこやなぁ。あては大原宇治や。おじいちゃん呼んでくれるんか?ありがとう。よろしゅうに」
「クリスティン、ロナウド?」

 姿を見せたのはスラッとした長身、ナチュラルメイクの美女。
 艶のある金髪にアイスブルーの瞳である。
 ラフな格好だが、一方的に知っている。
 映画やドラマで出演する……。

「ヴィヴィアン・マーキュリーはんでっか?あ、あては大原宇治どすわ、嵯峨のてておやどす……」
「はじめまして。嵯峨兄さんのお父さんですか、いつも嵯峨兄さんにはお世話になっております」
「いやぁ……お世辞やのうて……映画よりもべっぴんはんやなぁ……」
「まぁ、ありがとうございます」

 ニッコリと笑うと、知的で冷たい印象が柔らかく、優しげになる。

「嵯峨兄さんは私のお兄さんですわ。お父さんは、じゃぁ、私のお父さんですね」
「あての娘!べっぴんはんが多いわ……柚月ゆづきはんすら、勿体のうて……」
「素敵な人ですものね。でも、嵯峨兄さんもお父さんも素敵です」
「ねぇ?ヴィヴィ?くれないどこ?」
『あっ!ランスロット!行くぞ!』

 ロナウドが突進するのを、抱えあげ、

「ロナウド。兄ちゃんはウェインでしょ?このやんちゃ坊主」
「ウェイン。嵯峨兄さんのお父さんよ」
「あぁ、初めまして。私は、ガウェイン・ルーサーウェインです。ウェインと呼んで下さいね?伯父さん」
「えっ?ガウェイン・ルーサーウェインはんと言うと、あの、ランスロットや最近は……」

 美男美女である。
 10年程前の、今でも話題に上る『アーサー王伝説』のアーサーの王妃グェネヴィアと、湖の騎士ランスロットを演じた二人である。
 確か、演じた際は二人は20歳前後だったはずだが、演技力はもちろん美貌に、二人の親密さに恋人かと噂されたのだが、お互いに別の相手と結婚をしたらしい。

「あれ?そう言わはったら、安部はんの……」
「私の妻の兄がヴィヴィと結婚したんです。私とヴィヴィは幼馴染なんですよ」
「はぁ……」

 そう言えば、息子の幼馴染みの標野しめのの結婚の時には、大騒ぎになったはずである。

「でも実は、私は、もっと前に京都で風遊や醍醐、忘れているみたいですけど、サキさんやシィさんに嵯峨さんとその弟さんだと思いますが、会ったことがあります。櫻子さくらこおばさまだけではなくて、多分嵯峨さんのお母さんにも」
「えっ?」
「ちょっと待って下さいね?」

 ヴィヴィは持っていたバッグからアルバムを出すと、

「この写真、私と風遊と穐斗……風遊の息子で、蛍の双子の兄です。そして醍醐と櫻子おばさまと撮ったんです。私は、日本語がほとんどできなくて困っていたら風遊が『ここが一番美味しいお店よ』って。本当に美味しくて、それに美しくて……喜んでいたら、おばさまが笑ってくれたんです。『あてのだんはんが作りましたんや。味はあてが保証しますえ?』って、写真を撮ってくれたのが、確か嵯峨さんです。で、今度は、シィさんが撮ってくれました。こちらが嵯峨さん、そしてお母さんと弟さんですよね?」
「……美園みその……伏見ふしみ……この頃は……」
「確か、20年ほど前ですわ。醍醐は私より一つ下で、伏見さん?えと、フミちゃんとお母さんと櫻子おばさまが呼んでいました。私より二つ上で、嵯峨さんが私と会話をしていると、ムゥゥっとした顔をしてました。嵯峨さんは大学受験を控えていて、息抜きがてらここに来るのだと言っていました。『私は手先が器用じゃなくて、叔父さんや父のように器用だったらと思うんだ。それに、シィはうるさいだけじゃなく器用で、サキは少し不器用。でも、叔父さんのような職人になりたいって言ってる。でも、私はそんなに父のようになりたいとかは考えてないんだ。……伏見が医者になりたいって言ってるから、跡取りには問題ないし、私は法律を勉強したい』と。私は凄いですねと言いました。嵯峨さんは『医者としては失格だけど、別の面からサポート出来ればと思ってるんだ』とまっすぐな目をしていました」
「……嵯峨が、そがいに……」
「大体10年経ってお会いしたら、私も最初は印象が変わっていて解らなかったです。でも、真っ直ぐな瞳は変わりませんね。あ、この写真差し上げます。もう一枚も……」

写真を抜き取ると差し出す。

「えぇんですか?大事な……」
「おじさまにとって大事な写真だと思います。持っていて下さい」

 差し出された写真を受け取り、先程見た写真から二枚目を見ると、

「……これは……」

嵯峨に伏見が後ろから抱きつき、よろけるのを美園が慌てて支えている。
 普段は無表情に近い嵯峨には、珍しい驚いた表情と、家では大人しかった伏見が、楽しそうに笑っている。
 そして、その兄弟の様子にあきれているのか、苦笑している美園。

「……嵯峨さんには見せてないんです。偶然シャッターを切ったので。でも、おじさまには持っていて貰えたらと」
「……ありがとう……」

 涙をこらえ……ヴィヴィを見る。

「美園や伏見の哀しげな顔の写真はあっても……笑うとるのは数える程で……特に伏見のいけずなのは……ありがとう……」
「いいえ。でも、おじさま。フミちゃん……伏見さんに似てますね。嵯峨さんはお母さんに」
「そないやろか?」
「えぇ。良く似ています」
「それは困ったなぁ……」

 目をぬぐいながら笑う。

「美園に似たらえらい優しい子や、でもあてに似てしもたら、頑固であきまへん」

 ヴィヴィは微笑む。

「フミちゃんは『あてはお父はんとお母はん大好きや。でも、おにいはんは一番好きさかいに、ヴィヴィにはやらしまへんえ!』って。嵯峨さんが『こら、喧嘩はあかんえ?』言うてました」
「……そうやった。伏見は……」

 ほのぼのとしかけた時に、会場の奥で激しく泣きじゃくる声が響く。

「穐斗!」
「何かあったんか!」

 ロナウドを置いて走っていくウェインと、日向ひなたが人々の間をすり抜けていく。
 胸のポケットに写真を納めた宇治も近づいていく。

「わぁぁん!」

 血まみれの穐斗は倒れ込み、その側には真っ青な顔の幼馴染みの風早と那岐。

「何があったの?」
「穐斗!頭か?」

 二人に、宇治が声をかける。

「見せてみい。あては医者や。穐斗やったな?じいちゃんに痛いところ言えるか?」
「う、うぇぇぇ……」
「風早。何があったよりも、穐斗はどこを怪我しているか解るか?」
「えと、な、那岐が……」

 ちらっと弟を見る。

「石を蹴飛ばして、危ないからっていってたら……ふんって」
「わざとじゃないもん!穐斗がいたんだもん」
「言い訳をするんじゃない!病院に!」
「えっとなぁ……嵯峨。車ん中にあての鞄がある。取ってきてくれるか?それと、ちゃんと傷が見たいさかいに、学校の保健室の様なところに運んで貰えんかな?穐斗ぼん?しばらく我慢してくれんか?」

 ウェインが抱き上げ、担架に寝かせると祐次と運んでいく。
 打っていて、出血しているのは額と膝、そして転倒した際に腕を痛めているようである。

「消毒薬と包帯、腕の様子を見て、単純骨折なら一時的に処置をして病院に運ばなあかんな……近くに病院は?」

 祐次は答える。

「じいちゃん。小さい内科でも、車で10分走ったところで……大きい病院は30分。救急車呼ぶ間があったらこっちから言った方が早いと思う。ここは過疎地域やけん。郵貯や交番、小さい店はあっても、病院はないんよ。大きいスーパーもな。やけん、兄ちゃん達が交代で車を出して病院の送り迎えや、買い物に連れて行きよる。まぁ、スーパーもなぁ。こんな小さい地域に店は出せまい。でも、病院でも診療所でもあったら、こんな時に何とか出来るのに……」
「……そうか……」
「穐斗の傷も大丈夫やろか?」

 しゃくりあげる穐斗の傷を宇治は確認しつつ運ばれていくのだった。

「君のことを本当に……?」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く