僕の妹は死霊使い(ネクロマンサー)~お兄ちゃんは妹が心配です~

黒眼鏡 洸

15 オーク討伐作戦。そして、妹は転ぶ。

 ユウたちの作戦はこうだ。
 まず、ユウが先攻して一体と交戦。
 その後、レイとミカがそれぞれ残りのオークを引きつけ、その間にユウはオークを倒す。

 残りも順にユウが倒し、レイとミカは引きつける以外の攻撃を一切しないといった手筈だ。

「グヒィ!」

 オークの一体がユウたちに気が付く。
 それをきっかけに戦いの火蓋は切られた。

 まず、先攻したのはユウだ。

『《超加速》!』

 ユウが使ったのは《弱チート》の一つである《超加速》だ。
 肉体が千切れて、弾け飛んでしまう程の速さで飛び出すユウ。
 安心して下さい、ユウは幽霊です。肉体は御座いません。

『そこから……《加減不可能なパンチ》!』

 ユウは三体のうち、真ん中にいたオーク一体に狙いをつけ《加減不可能な拳》を放つ。

 この《加減不可能な拳》とはお察しの通り《弱チート》の一つで、効果は単純だ。
 強化した拳で相手を殴りつける。

 だがしかし手加減は不可能なため、無闇矢鱈に使いすぎれば死人が出ることも……。

 まぁ、モンスターに使う分なら問題ないだろう。

『せいやっ!』

 《超加速》のスピードが上乗せされた一撃が、オークの鳩尾あたりを抉るようなアッパースイングで撃ち込まれる。
 綺麗な放物線を描いてオークは後方にぶっ飛ばされる。

 あまりにも綺麗であったため、その場にいる全員が宙に舞うオークを見た。
 仲間であるはずのオークたちも口を開けて「グヒィ……(すげぇ……)」と呟く。

 ユウは勢いのまま、ぶっ飛んだオークを追いかけて茂みの奥へと突っ込む。
 一拍遅れてからレイとミカも作戦を思い出し、行動に移る。

 レイは左のオークに狙いをつけ、手頃な石を地面から取るとオークへ投げつける。

「グヒィ!?」

 ミカも同じように右にいるオークへと石を投げつける。

「グヒィ!?」

 敵対心ヘイトが上昇した。
 作戦の第一段階、第二段階はどうやら成功したようだ。

 レイはユウが飛び込んだ茂みの左側へオークを誘導する。
 ミカは右側へオークを引きつけて行く。

 ***

『決めます』

 どうやらユウがオークにトドメをさすらしい。
 オークの顔をみると、もう諦めていた。
 灰色に染まっていたよ。

 膝をついているオークにユウは《加減不可能な拳》を撃ち込む。
 一瞬にして光の粒子となり、その光は魔石へと変わる。

『次は……あっちだ!』

 ユウが見た方向は右。
 つまりミカが引きつけているオークだ。
 ミカは問題なくミッションをこなしている。

 ユウは《超加速》を使って、所々生えている木々を避けながらミカの元へと駆けつける。

「ユウ!」

 ユウが到着。所要時間わずか一秒。

『お待たせ!』

「グヒィ?」

『いや、君には言ってないんだけど……』

 変な会話は無視して、どうやらユウの第二ラウンドが始まる。
 ファイト!

『はっ!』

 繰り出された《手加減不可能な拳》はオークにクリーンヒット。それも顔面に。
 これは痛い。
 オークの酷い顔が、さらに酷いことに。

「うわぁ……」

 ミカも思わず同情の声を上げる。

『もう一発!』

 しかし、ユウは容赦がなかった。
 もう一度放たれた《手加減不可能な拳》はオークの腹を捉える。
 そして、追撃とばかりに撃ち込まれる連打。

 オークは倒れる。

「ぐ、グヒィ……」

 悲痛にも聞こえる声を出し、オークが魔石に変わる。
 無事に倒せたようだ。

「お疲れ様、ユウ」

『ありがとう。僕はレイのところに行くね』

「うん」

 ユウはレイがいるであろう左の茂みを見る。
 そしてユウは《超加速》を使う。

 ***

「こっち」

 レイはオークと近づき過ぎず、離れ過ぎずの距離を保つ。
 あまりにもオークが遅いので、たまに待ってあげていた。

「はやくー」

「ぐ、グヒィ!」

「そうだ! お前なら出来る!」

 レイとオークは変なテンションになっていた。

 よく見るとレイは肩で息をしている。
 いくら追いつかれる心配はないとしても、体力は無限ではない。
 体力で言えばオークの方が断然上だ。

「お兄ちゃん……まだなのかな?」

 ある程度距離が縮まり、再びレイは走り始める。
 レイの走る速さは女の子の平均的な速さより少し遅い。
 それでも追いつかれないのだから、オークの遅さはむしろ恐ろしい。

「あ、」

 レイは体力の限界が近づき始めたのか、つまずいて転んでしまう。
 レイちゃんはか弱い子。

「う、うぅ……おにいちゃぁああん!!」

 オークに追いかけられても泣かないレイちゃんは、転んだら泣いちゃいます。

 最初は我慢しようとしたレイだが、うるうるとさせていた瞳から小さな雫がこぼれ落ちる。
 雫は少しずつ大きくなり、ついに耐え切れなくなって泣き叫び出すレイ。

 その甲高い泣き声は遠くまで響く。

 ***

 ユウは《超加速》を使ってレイの元へと向かう。
 その時だ。

『……おにいちゃぁああん!!』

『レイ!?』

 レイの泣き声が聞こえる。
 直ぐ近くのようだ。
 ユウは更に加速する。

(間に合ってくれ!)

 ユウの顔は焦りに満ちていた。
 最愛の妹が危険に晒されている。
 一刻も早く。それだけがユウの頭の中を埋め尽くす。

『レぇええイ!!』

 ユウの声が響く。

「おにいちゃん!!」

 どうやらユウは間に合ったようだ。
 レイは涙の跡が残った顔で兄を呼ぶ。
 その顔はとても嬉しそうに見える。

 ユウがオークを見る。
 レイとオークの距離は開いたままだった。

 しかし、ユウは妹が大切です。

『レイを泣かせたな? の妹を泣かせたな、お前』

 ユウは自らメガネを投げ捨てる。
 そう、これは“俺様モード”だ。

「ぐ、グヒィ!?」

 ユウから放たれる殺気にオークは背筋を伸ばし、額に冷や汗を流す。
 完全なとばっちりだ。

『許さん』

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