世界を滅ぼせ太郎

極大級マイソン

第8話「一度、お前らの舌をじっくり調べてみたいですね」

 取り敢えず、立ち話も何なのでという話になり、三人はこの近くにある喫茶店へやってきていた。
 喫茶店には客人が殆どおらず、カウンターにいるウェイトレスが退屈そうにグラスを磨いている姿が見て取れた。
「この時間は滅多に客が居ないので、どこでも好きな席に座ってください」
「はぁ…」
「なあなあ佐藤! なに注文する? 俺バナナジュースが良いっ!」
「お前は早くも順応してそうだな」
「それで、お二人は何の用で僕たちに会いに来たんですかね? 様子を見た限りだと、どうも三条に用があったように見えましたが…」
「ああ、それは…」
「なあ佐藤! 俺が勝手に頼んで良いか? 佐藤は何にする? この納豆ドリンクとかで良いか?」
「それを頼んだら、俺はマジでお前を許さないからなぁ」
「それを頼むんでしたらちょうど良いことに、この店には『納豆ドリンクバー』っていう飲み放題のサービスがあるんですよ」
「なんだその悪魔みたいなシステムはっ!?」
「因みに僕のオススメは『なす汁ドリンクバー』です」
「この店のドリンクバーだけは絶対に頼まないぞ俺は。もっと普通の物を注文してくれ」
「じゃあ俺『砂糖山盛り乗せ、ミルクたっぷり甘々バナナジュース』ね」
「僕は『茄子ましましなす汁一番搾り』で。え〜っと、佐藤さんは何にしますか?」
「デスソースって置いてる?」
「貴方も大概悪食ですね!!」
 そうして、それぞれが注文した飲み物がテーブルに出された。
 飲み物を持って来たウェイトレスは、変質者を見るような目で彼らを不審がっている。
 しかし当の三人はそれを全く気にせず自分たちの頼んだ飲み物を美味そうに飲んでいた。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺は佐藤、高校教師だ。こっちは石垣、俺の生徒」
「ちゅうちゅうちゅうちゅうっ!」
「おい飲み方っ!」
 石垣が注文したドリンクは、バナナジュースの上にこれでもか! というぐらい山が出来るほどの砂糖が積み上がっていた。
 その、シュガースティックを適当に盛って作られたような砂糖の山は、石垣がストローでちゅうちゅう吸うごとに形を崩していき、やがて跡形もなく無くなってしまった。
「なにぃ!?」
 佐藤は驚きのあまり絶叫してしまう。
「? どうした佐藤」
「いや、お前ジュース……というか砂糖が……」
「??」
「あ、いや、何でもない…」
 佐藤は怪奇現象を目撃してしまったような衝撃を受け、気を紛らわすために近くにあったデスソースをグビグビと飲み干した。
「ふぅ、落ち着いたぜ」
(こいつらヤバいんじゃないかな?)
 那須は厄介な奴らに絡まれたんじゃないかと内心恐怖し、自身が注文した『なす汁』を飲んでいた。
「佐藤さんと石垣さんですか。改めましてご挨拶します、僕は那須太一。三条正樹と同じ高校の野球部に所属しています」
「ほぉ、野球部の生徒さんでしたか。三条……三条くんも野球部なんですね」
「マサキはうちのエースです。野球はJr.リーグ時代からエースをやっているくらい強いですね」
(大物の不良だって聞いていたけど、野球児でもあったんだな。石垣はそんな話をしていなかったけど…)
「ズ〜〜〜〜〜ッ!! …………ふぅ。野球とかそんなもんはどうでもいいんだよ!! 俺はあの三条に復讐するためにやって来たんだ!!」
「バナナジュース飲み終えた途端キレんなよ。ビックリするじゃねえか」
「…………(ビクビク)」
「ほら見ろっ! お前が怒鳴るから那須くんが虚取っちまったじゃねえか!」
「ゴメンッ!!」
「謝るならよろしい!! そもそも石垣、お前復讐って言うが具体的に何を要求するんだよ」
「取り敢えず1発ぶん殴る!!」
「……っと、申しておりますが」
「あーそうするとマサキの性格上、絶対にやられる前にやり返すと思いますね。あいつ喧嘩っ早いから、女性だろうが容赦無くチョップ喰らわします」
(それでもチョップなんだな…)
「マサキは中学時代は名の知れた不良として活躍していたそうで、その界隈では負け知らずで有名だったそうです」
「今は違うのか?」
「高校に上がってから、裏での関わりは極力減ったみたいですね。それでもたまに、当時の仲間たちと遊んでいるそうですが」
「なるほど…」
「あの、そこの、えー石垣さんが、どれくらい強いのかは知りませんが、今のあいつはただの野球児なので同じ部員としてはなるべく暴力沙汰を起こして欲しくないといいますか…」
「大丈夫、こいつ滅茶苦茶弱いから。腕立て伏せ一回もできなくて体験入部も追い出されるレベルだから」
「おい! 俺の唯一の黒歴史をサラッと明かしてんじゃねえ!!」
「だって聞いた限りどう考えたってお前が敵う相手じゃないし。負け知らずらしいじゃん三条正樹は」
「そうですね…。マサキはそこらの不良だったら十数人を片手であしらえるくらいは強いですね。他にも熊より大きな獣を相手に単身で挑んだり、自動車に轢かれてもピンピンしてられる程頑丈な肉体を持っています」
「聞いたかおい! そんな奴勝てるわけねえだろうが、諦めて帰るぞ」
「それじゃあ俺の虫が治らねえんだよ!! 三条正樹をギャフンと言わせるまで、俺は奴を許せない!!」
「だから、三条正樹は何も悪くねえじゃん! お前が勝手に犬に追いかけ回されて川に落ちたんだろう!? ついでに俺も川に落とされたし!」
「そう、謂わば俺と佐藤は共通の敵を持つ運命共同体! だから一緒にあいつに勝てる方法を探そうぜ!」
「嫌だよ馬鹿なんじゃねえのか本当っ! だいたい現在の三条はただの野球児で、不良ではないんだ! ただの他校の野球部員に殴りこむなんて迷惑以外の何モノでもないだろう!!」

「だったら、野球で三条を任せばいいじゃねえか!!」

「……はぁ?」
「野球なら、野球部の三条に堂々と勝負を挑めるし、その試合で奴を倒せれば俺の気も治る。…おお、我ながら良いアイデアだな、コレ」
「いや、いやいや待て石垣。つまりお前は、三条に野球試合を申し込むって言うのか?」
「駄目なのか?」
「駄目っていうか、それは一対一の勝負だよな。Jr.リーグからエースやってる相手に、いくら何でも無謀だろう」
「ハッハッハッ! 何言ってるんだ佐藤は、野球だぞ? 俺だけで出来るわけねえじゃん!!」
「そこは自信満々なんだな」
「でも、野球は九人でやるものだろう? だったらチーム戦だから、俺が野球出来なくても全然問題ないぜ!」
「…何が言いたい?」
 佐藤は半ば諦めた様子で石垣の次のセリフを待った。
 石垣は那須にビシッと指差して、高らかと宣言する。

「那須太一! 俺は、俺たちはあんたの部活に所属する三条正樹に、宣戦布告する!! 野球で勝負するぞッッ!!!!」

 ……那須太一は目を丸くしていた。
「えっとぉ、それはうちの野球部に対外試合を申し込むっていう話ですか?」
「有り体に言えばそういう事だ」
「あー部長とかと相談しないと何とも言えないんで、受理するかどうかは後日伝えるという事になりますが…」
「待て待て待て、ちょっと待ておいこら石垣。いきなり訳分からん理由で対外試合申し込んでんじゃねえぞ!! そもそもお前は野球部でも何でもねえだろうが!!」
「野球部だけしか他校に試合を申し込んではならないという決まりはないはず」
「そりゃそうだが…」
「まあ問題はメンバーだけど、適当に声かければ何とかなるだろう! 七人くらいあっという間に見つかるさ!」
「ナチュラルに俺をメンバーに入れてんじゃねえぞ、俺は教師だ」

「まあ一応部長には伝えておきますんで、それまでにメンバーを揃えてくれるなら何とか…」
「えぇ〜本当にこんな適当でいいのぉ〜!」
「いいじゃねえか、どうせ公式の試合でもねえんだから」
「教師も出場する高校野球ってなんだよ運動会か」
「……そんなことよりも佐藤、俺はもっと重大なことを申したいんだ」
「何だ、またくだらないこと言ったら次は納豆ドリンクバー注文するからな」
「いや、バナナジュースお代わりしたいなって」
「そんなことかよっ! うーんじゃあ俺もデスソースお代わりする」
「ならついでに僕もなす汁を注文します。店員さーん!」
 するとウェトレスは、奇妙な飲み物をばかりを頼む三人に不気味な感覚を覚えながらも、注文された通りの商品をお出しするのだった。

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