導帝転生 〜仕方ない、世界を救うとしよう。変態の身体だけど〜

飛びかかる幸運

3 - 12 「弱点漏洩」


 ハルトが訪れたこの村は、50世帯程が住む小さな村だった。

 連合諸国地域の外れにあり、国境沿いの町が近くにあるため、ここに住む若者は少なく、老人が大半を占める。

 若者はこぞって町へ出稼ぎに行き、そのまま町へ定住する者も少なくない。

 一方で、小さいとはいえ、村としての最低限の機能は有しており、質素ながらも雑貨屋や宿屋は存在していた。

 ひと騒動終えたハルト一同は、気絶したネイトを抱え、馬小屋付きの宿として貸し出されていた平屋を借りた。

 普通の宿では、漆黒の巨狼ウォセの居場所が確保できないためだ。

 どうやら、炎の雄牛ファラリスの宿るハルトの身体へはあまり戻りたくないらしい。

 渋る漆黒の巨狼ウォセを馬小屋へ待機させると、ハルト達は、木の根でぐるぐる巻きにしたネイトを囲みながら、この娘をどうしたものかと頭を抱えていた。


「どういうことだか、説明してもらえますか?」


 ティアが眉間に皺を寄せながら話す。

 なんだかご立腹のご様子。


「えーっと、皆は信じてないと思うけど、勿論、演技でした。シロとは数日前にたまたま出会っただけで、血の繋がりはないよ」

「えっ…… でも、シロちゃんが……」


 驚いた表情で問うティアに、シロが耳をヘナっと倒しながら、不安気に答える。


「うそ、ついて、ごめん、なさい」

「いやいやいやいや! ごめんごめん。俺が咄嗟にお願いしたんだよな? でも、シロの演技は最高に上手かったよ。急にお願いしたのに、あの演技ができるなんて、天才子役も顔負けだ!」

「ししょう……」


 ハルトが褒めながらシロを軽く抱きしめると、シロがちょうどお腹のあたりに顔を埋めながら、腕を回してギュッと抱きつき返してきた。

 いつの間にか二人の世界に入り込んだハルトとシロに、皆、顔をぽかんとさせる。

 どうやら、あり得ないと思いつつも、シロの迫真の演技に騙されてしまっていたようだ。


「でも、なんでそんな嘘を?」


 すぐ立ち直ったティアが、今度は探るような目つきで話すと、空気を読まないミーニャが話に割り込んできた。


「そうだニャ。ミーニャも理由が知りたいニャ。ニャんでミーニャじゃニャくて、シロが師匠の子供役だったんだニャ!?」

「ミーニャさん! 馬鹿な質問で話をかき混ぜないで!」

「ば、馬鹿って言われたニャ…… ひ、酷いニャ……」


 真面目にお馬鹿な質問を差し込んできたミーニャが、ティアに怒られて撃沈する。

 そして、再びティアが問う。


「どうしてですか?」

「それはー……」


 特に答える義務はないのだが――


 というか答えたくない……

 自分の意思ではないとはいえ、理解し難い変態行為と、温泉で起きてしまった痴漢紛いの事故のことなど……

 何か良い手は……

 あっ、閃いた。


「ハイデルトのせいで、この娘にも命を狙われてたから」

「ハイデルトが……? 一体何を……」

「ハイデルトのしそうなこと…… 特に変態行為方面で……」


 必殺、他人のせい!

 ティアはハイデルトの被害者なため、この嘘の信ぴょう性は増すだろう。

 変態行為の被害者かどうかまでは分からないが、きっと噂くらいは聞いているはず。

 ハイデルト。

 ごめんな。

 お前のせいにして。


 “はっはっはー! 気にすることはないぞ? 我が相棒、心の友よ!”


 そう、空耳が聞こえた気がした。


 ――ん?

 ちょっと待てよ。

 お前のせいにするもなにも、半分以上はお前のせい――って言うかよく考えれば、ほぼお前のせいじゃねぇーか!!

 クソハイデルトがっ!!

 謝って損した。


「それは…… そう…… だったのですね……」


 ハルトの言葉を受け、ティアは悲痛な顔をして俯いた。


「でも、そんな辛い目にあった彼女にあの仕打ちは、酷いと…… 思います。他に良い方法はなかったのですか?」

「思いつかなかったから、あの方法をとった訳で。まぁ結果として無駄な血が流れなかったから、俺はベストな選択をしたと思ってるよ」

「それは、そうですが…… でも……」


 ティアが、歯切れの悪い感じで何かをぶつぶつと呟いている。

 あれは彼女なりの、一種の抗議だと受け止めていいのだろうか?

 何か不満があるなら、今までみたいにはっきりと言えばいいのに。

 それにしても、やけにネイトの肩を持つのは何故だろう。

 ハイデルトの被害者同士という境遇から、何か特別なシンパシーを感じてしまったとか?


 まぁいいや。

 取り敢えず、今は、この件を脇に置いておくとして――


 問題は床に転がしてある娘っ子――ネイトだ。

 また騒ぎ出すと面倒だからと、口と手足は縛ってある。

 だが、このままにしておくこともできない。

 対処が必要だ。


「とにかく、今は先のことを考えよう」

「何を考えるニャ?」

「先ずは、ここに転がしてるあの娘っ子をどうするかだな」

「ほっとけばいいんじゃニャいかニャ?」

「駄目だろ。ネイトが有る事無い事騒ぎ出したら、流石に村人も怪しがるぞ? この拘束状態でさえ、村人に見られたら事だ。それで嘘がバレたら、残念ながら俺たちは村から追い出される。まぁ、それでも出発が早まるだけだし、俺は別に構わないけど」

「じゃあ埋めるしかニャいニャ」

「思考が極端過ぎる!」


 アホミーニャに相談した俺がバカだった。

 どうしようか考えていると、ふと、良いアイディアが浮かんだ。


「あ、転移魔法でどっかに飛ばすって方法もあるか」


 そう呟くと、ティアが呆気に取られながら口を開いた。


「普通は、そんな簡単に転移魔法を使えないはずです……」

「まぁ俺は普通じゃないしね。転移魔法で一人飛ばすくらいなら大丈夫…… な、気がする」

「そう、ですか……」

「あ、なんならメイリンも飛ばしちゃおうか」


 ハルトがそう話しながらメイリンへと視線を向けると、メイリンが怯えた表情でブルブルと首を振った。


「こ、今度はどこに転移させる気だ!?」

「いや、ちゃんと行き先イメージすれば、その場所に送れると思うけど」

「よ、よせ! 止めろ! も、もう転移はしたくない!」


 メイリンは転移先が悪かったせいで、転移魔法にトラウマのようなものを抱いてしまったらしい。

 まぁ、でも、誰でも怖いか。

 行き先の分からないワープなんて。


「大丈夫だと思うんだけどなぁ」

「そ、そんなに自信があるのなら、自分で試してみたらどうだ!?」


 メイリンの発言に、その手があったかと気付かされる。

 ――が、実際に自分で試すとなると、話は変わる。

 ちょっと嫌な予感がしたのだ。

 空を飛べると思って飛んでみたら、思ったほど上手く飛べずに、地面へ真っ逆さまに落下した時の記憶を思い出す。

 あれは、めちゃんこ怖かった。

 死んだと思った。

 うん。

 過信はいけない。

 万が一、地中や深海にワープして即死余裕でした! みたいなことになったら最悪だ。


「よし、違う方法を考えよう」

「や、やはり自信がないのではないか!!」


 メイリンが立ち上がり様に俺を指差し、そう指摘する。

 すると、その反動でふわりとローブがめくれ上がった。

 サザエさんのワカメちゃんばりに短い丈から覗く、すらりとした美脚。

 ――からの、縦に線を入れたような綺麗なおへそ。

 途中はご想像にお任せする。

 だが、全て丸見えだった。


「くっ…… メイリン、いい加減何か着ろよ! 目のやり場に困るだろ!」

「着るものがこれ以外に何もないのだから仕方ないだろう!」


 そう言いながら、自身でローブを引っ張った。

 すると、元々ボロボロだったローブが、反動でビリビリと破けてしまう。


「あっ……」


 破れたローブの隙間から、ぽろんとこぼれ落ちる熟れた果実。

 その果実がぶるんと揺れる瞬間が、ゆっくりと視界に入る。

 そして、雷に打たれたかのようにバチバチビキビキと刺激が駆け巡る下半身。


(ま、まずい!? 見るな見るな見るな!!)


 咄嗟に視線を逸らし、目を瞑った。


(静まれ静まれ静まれ静まれ……)


 必死で心を落ち着ける。


(見ただけで逝きそうになるとか、末期過ぎるだろ……)


 そんなハルトを他所に、メイリンとギヌが何やら話し始めた。


「す、すまない。貰ったローブを破いてしまった……」

「気にするな。あれは元からボロボロだった。私が村で何か着るものを探してこよう」

「……助かる」

「困ったときはお互い様だ」


 こちらに向かって足音が近づいてくる。

 勿論、ハルトはまだ目を瞑ったままだ。


「だ、誰だ? メイリンじゃないよな?」

「違う。お前はさっきから何をしている」

「その声はギヌか…… 何って、メイリンの裸を見ないようにしてるだけだよ」

「フッ、何を今更」


 ギヌが鼻で笑う。

 だが、そこでミーニャが要らぬ情報をぶっこんできた。


「師匠は超早漏さんなのニャ。しかも、イった後に仮死状態になる弱点があるみたいだニャ」

「お、おま! 何言って! そんなことある訳ないだろ!」

「恥ずかしがらなくても良いニャ。ミーニャは、化け物みたいな力を持った師匠の唯一の可愛いところだと思ってるニャ。最初はミーニャも驚いたニャ。すっごく気持ち悪いと思ったのも確かニャ。吐き気もしたニャ。何て変態野郎ニャのかと、心の中で滅多滅多に罵ったニャ。でも、師匠を見ているうちに、それが愛らしさに変わっていったニャ! 最強の魔術師! でも超早漏! ギャップ萌えニャ!!」

「お、ま、え、は、馬、鹿、かぁあっ!?」


 ミーニャは色々とあれだった――


「ふざけんなっ! そんなのに萌える奴なんていねぇ!!」

「ここにいるニャ。ミーニャをキュンキュンさせるなんて師匠以外いニャいニャ。自慢していいニャよ?」

「アホ! 誰が自慢するか! 超早漏と言われて喜ぶ男がいるかバカ!!」


 ハルトとミーニャが言い合っている最中、誰かが「……弱点 ……仮死状態」と呟いた。


(まずい!? リアクション間違えたか!?)


「な、なーんてな。そういって女に股を開かせる作戦だ」


『お主、流石にその言葉は嘘くさいぞ?』

(う、うるせー! 俺は今、必死なの!!)


「師匠はお可愛いニャ」


 まさかの、あのアホなミーニャにからかわれる展開。

 すると、ギヌが再び声をあげた。


「おい、そこの超早漏野郎。邪魔だ。どけ」

「くっ……」


 ひどい! 

 深く傷付いた! 

 だが、身体の内側がむず痒くなるこの感じがなんか気持ち良い! 

 ああ! 

 泣きたい! 

 今、凄く泣きたい気分! 

 罵られて感じるとか、俺は変態だ!

 変態だぁあああああ!!


 そんな葛藤を心の中で繰り広げながら、道をギヌへ譲ると、すれ違い様にギヌの舌打ちが聞こえた。


「チッ……変態野郎め」

「グハァッ!?」


 トドメの罵倒に、声を上げて仰け反る。
 
 身体の内側を、出口を求めて駆けずり回る甘美な快楽。

 危うく白眼を剥きかけた。


「し、師匠? 急にどうしたニャ!?」

「い、いや、何でもない」


『難儀なものだな』

(……今は、そっとしておいてくれ)


 敵はエロメイリンだけではなかった。

 快楽に繋がる全ての行為が、“死” に直結する危険がある。


 弁慶の泣き所。

 アキレスのアキレス腱。

 オタクのフィギュア。

 携帯のサイト閲覧履歴。

 成人男性のプライベートHDD。

 昔のプリクラ。


 どれも死に直結する代名詞だが、これらの弱点と違い、ハルトの弱点は対策のしようが無い。

 夢でさえ死の危険があるのだ。


「はぁ…… こういう事が起きる度に、俺は内股にならなきゃいけないのか…… 辛い……」


 ふわふわとした意識の中で呟いたその言葉は、近くにいたシロにも聞こえない程の小さな呟きだった。

 だが、そんなハルトを、ティアとメイリンは、何かを考えるかのようにじっと見つめていた。

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