忘却の焔

陰東 一華菱

破滅の一族――ルイン

「一族の生き残りって……どういう事なんでしょう」

 マーヴェラが再び眠りに入った事を確認してから、自室へと戻ってきたレルムたち。
 リリアナは二人きりになったのを見計らって書斎の入り口のドアをそっと閉めながら、先ほどから気にしていた事をレルムに訊ねた。
 レルムは眉間に深い皺を刻み、不思議そうに見つめてくる彼女の視線から逃れるように目をそらしたまま、おもむろに口を開く。

「……あの子の事を引き受けると言った時から、実は色々と調べていた事があるんだ」

 レルムはそう言いながら、机の引き出しから重要書類を纏めた入れ物を取り出し、その中から数枚の紙をリリアナに差し出した。
 リリアナはその紙を受け取って見ると、紙面には細かな文字がびっしりと書かれている。

「元々野生児として暮らしていたあの子が人として生活が出来るようになったら、いつかは聞かれるだろうと思っていた。なぜ、他の人とは違うのか。なぜ、野犬に育てられていたのか。そしてなにより、本当の両親は誰なのか……」

 レルムは深いため息を吐き、職務机の椅子に腰を下ろす。そんな彼の言葉を聞きながら、文字の羅列を追っていたリリアナが険しい表情を浮かべ、ゆっくりと目を上げる。

破滅ルイン一族……。これが、マーヴェラの本当の姿……?」
「そう。調べてみたところによると、その一族は皆、緋色の髪と目を持った人種だったらしい。そして破滅ルインと言う名に反してとても穏やかな性格をした部族だと言う話もある。人数の多い部族ではなく、彼らは森の奥深くに集落を造って住み、あまり外の人間との関わりを持たなかったようだ。だからこそ、彼らを知る人間の数も少なくてね。その人たちの間では、ごく最近までいた“生きた古代人”とも言われている」

 レルムの言葉に、リリアナはぎゅっと眉根を寄せる。

「最近までいたって……。今はもういないんですか?」
「……残念ながら。どうやら、33年前に勃発したギリング大戦頃に滅んだと言う話だ」
「33年前って……本当、ごく最近ですね……」

 リリアナの表情が複雑な顔になる。
 ついこの間まで、マーヴェラが本来共に生きるはずだった仲間がいたのだ。そしてその中には彼女の本当の両親もいたはずで……。
 リリアナは持っていた書類に再び視線を落とし、力なく呟く。

「何が原因で滅んだんでしょう。病気の蔓延か何かなんですか?」
「いや、それが良く分からなくてね。これ以上の情報が、今はどこにもないんだ」

 大きなため息を吐いて、レルムもどこか沈んだような表情で視線を手元に下げた。
 なぜ一族は滅んだのか。なぜ、滅んだと言われている一族の一人、マーヴェラは生き残り森にいて野犬に育てられていたのか……。そしてなぜ、その部族が破滅ルインと呼ばれる由縁を持つのか。今となってはそれすらも分からない。
 謎が深まる中で、先ほどマーヴェラが再び眠りに就く前に言っていた言葉を思い出しながら、レルムは何かに気付き、おもむろに口を開いた。

「マーヴェラがさっき見たと言う夢。あれは、あの子が今まで忘れていた過去……だと思わないか?」

 その呟きにリリアナは目を瞬き、書類から視線を上げてレルムを見る。
 レルムはそんな彼女を見つめ返す事はないまま、思いつめたような表情で顎に手をやり、言葉を続けた。

「その夢で見たと言う女性は、もしかしたらリズリーだったのかもしれない……」
「え……?」
「元はと言えば、彼女が最初にあの子を森で拾ったんだ。そうだとしか思えない。彼女が生きていれば、破滅ルイン一族の事をもう少し知る事は出来たかもしれないが……」

 レルムはそこで言葉を濁した。
 マーヴェラを救ったリズリーは、もうこの世にはいない。その彼女の命を奪ったのは他でもないレルム自身なのだ。

 落ち込んだように肩を落とすレルムに、リリアナはそっとその肩に手を置いた。

「まだ、他からでも情報を得られるかもしれないですし、もう少し調べてみましょう?」

 彼の心に残る傷を気にかけて、リリアナは元気付けるように明るくそう声をかける。
 レルムは、余計な心配と気を使わせてしまった事を申し訳なく思いながら、小さな笑みを浮かべて肩に置かれた手をそっと握り返した。

「そうだね……。余計な心配をさせてしまって、すまない」
「いえ。でも、この話はマーヴェラには……」
「……もうあの子も一人前の大人だ。だから、私達が知る限りの事は話してもいいのかもしれない。あの子の体調が回復するのを待って、折りを見て話をする事にしよう」

 少し悩みはするものの、いつまでも隠しておくべき事でもない。何より本人が一番気にしている事なのだ。
 大人になり、落ち着いて話を聞ける年頃になった。だからこそこの話を明かすには良いタイミングだと考える。
 自分自身の事を知り、そして今後どうするのか。それは追って話をしていく事もできるだろう。とそう考えていた。

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