一般人に魔王をしろと言われても

百舌@

1-5.リトライ ※1/20加筆

※2017/1/20に少し加筆&改変しました。


炎に飲まれ、あまりの熱さに痛みも感じることなく、
そこで感覚が無くなった。
溶けたと言っても良いのかもしれない。

ともあれ、異世界転移した俺はなんの活躍もすることなく
事故に巻き込まれたようにその生涯を終えたのである、まる。

「よもや、召喚と同時に殺される事になるとはのぅ…。FPSでもこれほど綺麗にリスキルされた
ことはないぞ?」

ふと、意識浮上する感覚がする。
なんだろうか、声はするものの真っ暗でなにも見えない、
ついでに身体も動かせない、というか身体中が麻痺したように身体の感覚がない。

「ん、なんじゃ? あぁそうかそうか。安心せい、身体は在るぞ。」

そう言われると身体がある気がする。
手も足もいつの間にか動く、目も見えるし声もはっきりと耳で聞こえているのがわかる。

目の前にいる女性は誰だろうか。
狼のような蒼い耳に3本の尻尾、言葉どおりに捉えるならこれは自分が召喚したのはこの人と
いうことだろうか。
ちなみに着ている服の上からもわかるくらいにはあるし襟から覗く谷間も見える。うん、やはりいい。

「馬鹿は死んでも直らぬというが……。まぁ良い、狼でなく狐じゃ。そこは忘れるな、ご主人よ。」

「……あれ、俺喋ってないぞ。」

「通常よりも繋がりが強いからのぅ、考えていることなどはわかるぞ。」

なるほど、すごくドヤ顔で言っては腕を組んでいるためとっても強調されてくれているが、ま
ったくもっていらない能力だな。
自分の考えが覗かれるのはなんというか気持ちの悪いものだ。

「ところで、ここは何処なんだ?」

俺は炎に飲まれて死んだはずだがそれにしては意識も身体もはっきりしている。
ただ、自分と相手以外なにもない空間にいるというのはわかる。

「ふむ、今は船頭をしてもらっとるとこかの。」

辺りに景色が広がる。
自分たちは小さな小舟に乗っており暗い洞窟の中を進んでいる。
船頭は嗄れたお爺さんでゆったりと櫂を漕いでいる。

「さて、このままでは本当に死んでしまうが良いのかな?」

船の端に腰を掛けこちらを楽しげに妖しげに見つめてくる。

「良いも何もどうするっていうんだよ、」

「ワシに命令すれば良い。今ならまだ戻してやれるぞ?」

戻してやるとはどういうことだろうか。
死んでしまったんだ、このまま終わりじゃないのか。

「なんじゃ、もしやこういう風にお願いされるのが好みなの?お兄ちゃん、」

女性の身体がみるみる内に縮んで少女に変わる。
妖しげな動作で身を寄せ首に手を回し、顔を近づけてくる。
息遣いが聞こえるほどに近づいてきた少女の顔は歳不相応に唇を三日月に曲げて妖しく笑う。

「そんなわけないだろ。好みならさっきのが好みだ…って、そういうことじゃない。戻せるな
ら戻りたいが、まずお前はなんなんだよ」

不意にキョトンとした顔がこちらを見つめる、変なことを聞いたわけでもないはずだが。

「ふむ、名も形もない故な。帰った後にご主人が付けてくれ。」

なにか気になることでも言ったのかキョトンとした顔のまま少女の掌が自分の目を覆う。
同時に聞こえてくる相手の言葉とともに意識が遠くなっていく。

「ワシがなんであるか……。あちらでは教えてくれるとありがたい。ではの」

結局なにが起きているのかもわからないままではあるが、
とりあえず、自分が帰った後にすることはわかった気がする。

意識が遠退く中、小舟がなにかにぶつかる感触がする。
顔を覆う掌が離され朦朧とした視界が彼女を追う。

船頭に導かれ船から降りる姿は少女のものではなく、
元の女性ものとなっていた。
船頭はこちらを振り向くことはなく彼女を連れて何処かへ歩いて行く。

残された俺は、もう、指一本も動かすことが出来ず、、彼女にはなにも聞く事も礼を言うことも出来ず、このまま……。

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