昔々ではないものの縁結び?

ノベルバユーザー173744

性別は一応女です。

翌日、縁結びの神の下っ端、和久は、初歌ういかの家に向かう。

すると、
ベランダから、ダンダンダン‼と凄まじい板に釘を打ち付ける音がする。
周囲を見回し誰もいないことを確認すると、玄関をすり抜け、

「何してるんですか?」

と問いかける。

「ん?釘を打っとる。これがまたストレス発散にもってこいなんよ」
「……はぁ、そうなんですか……御近所は……」
「昼間にしよるやんか。夜の22時に洗濯機回しよるんよりもましやわ」
「夜……」
「何回クレーム言いにいこかと思ったわ‼しかも23時に干し初めて、あぁ、鬱陶しい‼」

憤慨する。

「まぁ、仕事とか学校とかあって、大変なんはわかるけどなぁ……一応周囲にいっといてくれへんかなぁ‼」
「まぁそうですね……で、何作っているんですか?」
「ん?ベランダの多肉植物達を並べる棚。セメントだからさぁ……ベランダ。夏は暑いし、冬は冷たいんだよね。うちの子達が可哀想だもん……。それに、この間ドングリを拾ったから、植えとこうかなと思って。苗を育てて返すか、大きく育てて夏の間に日除けになるといいなぁとおもって」
「何年ここにいるつもりですか」

突っ込む。
振り返った初歌は微笑む。

「さぁね……死ぬまでじゃない?」
「家族はいるんでしょ?」
「ん?うちにいるでしょ?可愛いうちの子達がぁぁ‼」
「……ぬいぐるみじゃありませんよ」
「なぁにぃぃぃぃぃ‼うちの子達をただのぬいぐるみ扱いするなぁぁ‼」

お多福の面の顔が、般若に変化した。

「うちの子にはちゃんとした名前がついている‼今度来る子には、『五虎退ごこたい』か、『にっかり青江』か『童子切安綱どうじぎりやすつな』か『鬼丸国綱おにまるくにつな』にしようかと……」
「それは全部日本刀の名前じゃないですか‼物騒なと言うよりも、あんたも最近のゲームオタクですか‼」
「ん?あぁ、日本刀の?違うわ。うちは、昔、坊さんになろうとして出家を止められて、じゃぁ、刀鍛冶になりたい言うたら、女はいかんって言われて、宮大工も駄目、仏師に、錬金術師に、練丹術にあれこれもいかんかったんよなぁ……あ、山岳信仰は希望やったけど、体が弱いけんって禁止された」

何故か遠い目で呟くが、聞いていてはっきり言えばヤバイ。

「で、テディベアを作ったら、棄てられるし……もういい加減に嫌になった……で、今度来る子は三国志の『五虎将』に似てるから『五虎退』がいいなぁ……」
「ネーミングセンス怪しいですよ」
「失礼な。日本の限定ベアだから日本名にしたんで。もっと可愛い名前なら、静御前、巴御前、常磐御前……不幸やないか~‼それとも義経か?義仲か?実朝か?鶴岡八幡宮にしようか?それなら立体曼荼羅にしたるわ~‼」

だんだんずれていく。

「それとも太宰府天満宮かぁぁ‼」
「……地名と言うか、かなり変ですが……」
「んなら、『五虎退』で、けちつけるなぁぁ‼『八艘飛び』ってつけるで‼」
「九郎判官じゃあるまいし……」
「……じゃぁ、直江兼続にするか……友人は喜ぶ」

頷いた初歌である。
よろめく和久……。

「あ、友人の方もオタクですか……」
「オタクの友人はオタクってのは知らんのか?」
「知りませんよ‼」
「まぁ、あんたも注意せな、オタクの仲間入りだよ?」

にやっ……

笑う初歌は、最後の一撃‼とばかりに叩きつけると、

「あースッキリした‼」
「……何ですか?これ……サボテン?」
「ん?ヒスイ殿ひすいでんって言う多肉植物。トゲトゲで可愛かろ?で、そこのニョキニョキのお花みたいなのが、黒法師。他にも……ブロンズ姫に……星の王子さまに……」

にこにこと嬉しそうに説明する中に、何故か異物がある……いや、一般のベランダにはあり得ない……。

「これは……」
「ん?ヨモギ。で、こっちはハーブ。本当はハーブをもっと大きい鉢で育てたいんだけどねぇ……大葉おおばとか、紫蘇しそとか……」
「大葉?」
「はぁ?知らんのかね?青紫蘇あおじそのことや。夏に素麺とか、冷やしうどんとかにいれるとおいしいんよ」
「他にラベンダーは来年に植えようかと思って。プチトマトに、カミツレとか、ミント系も……」

嬉々とする。

「カミツレ?」
「……あんた勉強不足やな……カモミールや‼炎症を抑える効果がある。歯肉炎とかにも効果がある。歯磨き粉に入っとるで。それにハーブティーの定番やないか‼女性似合うハーブティーは、ローズヒップ。ミントは清涼感があるから熱くても夏にお勧めや。ラベンダーは安眠効果、鎮静効果」
「えっと、どんなものでしたっけ?」
「……全く……」

部屋に入っていった初歌は、図鑑を数冊持ってくる。

「はい、ハーブの本。これがカモミール。レモングラスに、ミントはアップルミントとかスペアミント……かなりミントは繁殖しやすいから、畑より植木鉢。ラベンダーは多年草だし、匂いも優しいからポプリにすると喜ばれるんだよ。紫蘇系も増えるけど、トマトとかキュウリとかと一緒に植えると虫が匂いで逃げるんよ」
「はぁ……よく知ってますね」
「勉強したからね……かわいがっとった、松や梅に野ばらをここでは面倒見られずに、実家に預けとる……はぁぁ……本当に盆栽習いたかった……」
「盆栽……」

かなり変人の域である。
そう言えば、ベランダに来るまでの部屋にずらっと並んでいたのは、片方はぬいぐるみ……もう片方には日本刀の雑誌が並んでいた。

「えっと、そろそろ中で掃除しません?洗濯しましょう」
「……」

うんざりとした顔でため息をつく。

「いや……」
「きれいな方がいいでしょう?」
「……皆私の宝物、捨てるか、持っていくもん……」
「と言うか、私は、貴方の宝物が何かわかりませんし……。ごみだけでも捨てません?それとか洗濯物を仕分けして、洗濯しましょう」
「うぅぅ……」

嫌々動き始めた初歌を追いかけ、部屋に入っていったのだった。

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