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転生したら美少女勇者になっていた?!

ノベルバユーザー21439

第三十三話-それなりの覚悟

 ササッと金属パーツを外し、服を置く棚の上に放り投げる。
 硬いものを洗濯してはならない、というのは現世の洗濯機とさして変わらない。
 システムは違っても、本質的には似たようなものなのだろう。
 わかりやすくて何よりだ。

 続いて流れるように服を脱いでいく。
 数日洗濯していなかった衣類は汗を吸ってぐっしょりしており、乾いた今でも若干の重みが感じられた。
 久々に外気に当てられた肌はヌメヌメしてて気持ちが悪く、よくこんなんで数週間も持ったなあと我ながら驚愕している。
 ニートしてた時ですら四日に一度は風呂に入っていたぞ。

 ジーパン生地のショートパンツも脱ぎ終わり、エラメリアとの出会いを思い出して懐かしさに心和ませながら、その汗と泥で汚れた衣類を抱える。
 全裸になった俺は、ペツァニカに言われた通り洗濯機の蓋に手をかざした。

「おおお」

 するとすぐに発光し始め、手から気力を奪われるような感覚を得る。
 頭がくらっとしたような気がした。
 やはりドアのカギを外す時とは電力・・・じゃなくて、魔力が違う。

 少々この体勢の維持にも疲れてきた頃、それでもこの洗濯機は魔力の吸収をやめない。

「ちょ、これ吸いすぎ・・・!」

 流石に身の危険を感じた時だった。
 ウウウウン――と落ち着いた音で魔力が溜まった事を告げ、静かに上蓋が開いて行く。
 ホッとした思いで、現れた穴に衣類をぶち込んだ。

 危なかった・・・もう少し長かったら確実に倒れていた気がする。
 流石に全裸で気絶は恥ずかしい。

 洗濯機は服を取り込むと、風を斬るような音を響かせながら洗浄を開始した。



 全裸で待つことしばし。

「遅え」

 一向に音が止む気配がない。
 かれこれ10分程ここで待っている。
 全裸で棒立ちと言うのは、なかなか心に来るものがあった。

「流石に入れすぎたか・・・」

 ペツァニカの場合は、ハンカチ一枚だったから早かったのだろう。
 今回は色んなものをぶち込んだ。
 だから遅いのだ。

「っくしゅん」

 くしゃみまで出てきた・・・。
 少し寒い。

「仕方ない、先に風呂入るか」

 そうぼやくと、俺は洗濯機をちらりと確認してから風呂場の方へ足を運んだ。



 ――カラカラカラ

 恐る恐るガラスのドアを開け、冷たい石畳に足を踏み出す。
 ひやりとした感覚が体を震わせた。

 もう片方の足も丁寧に踏み入れる。
 後ろ手にドアを閉めながら、改めて中の様子を探ってみた。

 浴場は全体的に薄暗く、奥の一つの光源が風呂場全体を照らしている。
 壁は濃い色の木で張られており、シックな雰囲気を醸し出していた。

 一言で言うと超カッコいい。
 なかなかセンスのいい浴場だった。

 ぽつぽつ歩き出すと、同時に視界に入ってくるのは日本では見られない突起物。
 壁から突き出たそれは、たしか湯突と言うんだっけ。
 ひざ下までしか高さのないそれは、シャワーと言うよりはむしろカランと言うべきか。
 腰掛けの横に置かれていた、簡素な桶に湯を溜めて使うんだろう。
 シャワー世代の俺には、慣れるのに時間がかかるかもしれない。

 湯突に意識を向ければ、自然と目に付くのは真上の鏡だ。
 それに気が付いた途端、思わずウッと声が漏れる。

 いずれこうなることはわかってたし、それなりの覚悟はしてたんだけどなあ・・・。
 自分の顔を見るのには少々抵抗がある。
 今もできるなら自分の顔を知ることなく過ごしていきたい感じが否めない。

 とりあえず少しでも先伸ばしにしようと腰掛けと桶を取りに行く。
 だんだんと足取りは重くなっていった。
 それでも気休め程度の時間、あっという間に手に入れてしまう。

 両手に道具を抱え、湯突の方に戻ろうとする。
 と、くるりと反転した際に、鏡に反射した自分の下半身が目に飛び込んできた。

「すすすすいません!」

 女の子の体、という単語に思考を奪われ、うっかりそんな言葉を叫んでしまった。
 それでもそんなことに気を遣う余裕もなく、ぱっと顔を背ける。

 ・・・しかし、よくよく考えてみれば自分の体だ。
 性別や年齢がどうであろうと、今後長く付き合っていかねばならない大事な身体だ。
 だったら今の内から目を慣らしておく必要があるだろうと、そんな言い訳を頭の中で展開しつつ。
 顔は逸らしたまま、目だけチラリと鏡の方に向けてみた。

 途端、限界まで高まった緊張と集中力が、稀に見ない情報を掴んで脳に伝達してくる。

 つるっとした裸体、細くて健康的な足。
 テカテカとした膝は、汗や湿気のせいで輝いて見えた。
 そして意識せざるを得ない、小さな体。
 それこそ小学生ほどの未発達な体は、やや寸胴気味で逆にそこに目を奪われてしまった。
 もちろん毛なんてどこにも一切生えてない。
 マジでつるっつるだ。

 一瞬自分の裸体に気を取られてしまい、そんなナレーションを思いついてしまうほどには。
 なかなか、恵まれた体をしているんじゃないかなと思ってしまった。

 ぼーっとしていると、腕から桶が転がり落ちる。
 それは回転することなく真っすぐ下に直進、狙いは俺の足。
 直後、カーンと軽い音が浴場いっぱいに響き渡った。

「っぐあああああ!!!!」

 涙目で足の小指を抑えながら、冷たい足場を転げ回る。

 やばいやばいやばい!
 これは痛い。
 冗談抜きで。

 ごめんなさい、もうしません!
 胸の中でそう何度も叫んでいた。



 五分程ダウンした後、いよいよ湯突の前までやってくる。
 ごくり、と自分の喉が鳴る。

 鏡の目の前までやってきたせいで、自分の下半身が先ほどよりもかなり精細に描かれているわけだが、桶の騒動もありいくらか楽な姿勢でいられた。
 それでも多少は気になるものであって、やはりチラチラと目が行ってしまう。

 それは置いといて。

 これからいよいよ自分の素顔を知ることになる。
 手に持った腰掛けを床に置き、そっと体を乗せればすぐさまその顔が映し出されるだろう。
 そこには一切の遠慮も待ったも無い。
 結果がどうであれ、嫌でも現実と向き合わねばなるまい。

「――すぅ・・・」

 深呼吸をひとつ。
 それでも不快なドキドキは収まってくれることもなく、ただ無意味な時間が過ぎ去ってゆく。

 覚悟は、まだできていない。
 だが、そんなものを待っていたらいつまでたっても腰を下ろすことが出来ないだろう。

 今必要なのは、鏡を覗き込む勇気だけだ。

「・・・よし!」

 決めた。
 もうどうだっていい。
 現世の頃に比べて少しでもマシなら、それで良しとしよう。
 簡単には変わらない素顔が上方修正されたなら、感謝すべきことだと考えたのだ。

 反対にブサイクに生まれ変わっていたとしても、それは現世の頃と大して変わらないだろう。
 みんなから忌避されないだけずっとマシなんだと思えばいい。
 素敵なパーティに恵まれて、今後も幸せに生きていくだけだ。

 そうだ。
 どうして俺は今まで高望みしていたんだ。
 一度人生の最底辺を経験した俺なら、きっとどんな環境でも恵まれていると感じるに違いない。
 いまこの状況に少しも不満を抱いていないなら、それは不服を言うべきでは無いんじゃないだろうか。

 そう結論にたどり着くと、高まっていた鼓動もいくらか落ち着いてきた。

 なんてことはない。
 ただ体を丸めてかがめば済む話だ。
 最初だけ背中を押してやれば、あとは勝手に話が進む。

「・・・りゃ!」

 俺は今一度大きく深呼吸すると、腰掛けを叩き付けるようにして地面に設置する。
 そしてそのまま、勢いに任せてでん!と腰を下ろした。

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