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転生したら美少女勇者になっていた?!

ノベルバユーザー21439

第二十四話-足置きオープニング

 真っ暗闇の中。
 ガタガタと不規則な揺れに身を任せていると、頬を優しく叩かれているような気がした。

「ステフ、そろそろ到着しますよ。起きてください」
「んぅ・・・?」

 澄んだ声に起こされ、俺は重たい瞼を開く。

 目の前には良く知った顔。
 小振りの端正な顔立ちでにっこりと微笑んでいる。
 覚醒しきってない瞳には、まるで女神のように映った。

「おはよう、エラ」
「おはようございます。と言っても、まだ夕方ですけどね」

 そう言って女神、エラメリアは苦笑いをする。
 その顔すらもが癒しオーラを振りまいているように思われ、再び安眠に連れ戻されようとしていた。

「もう、二度寝はダメですよ」

 肩を支えられながら無理矢理起こされてしまう。
 仕方がなく俺も体勢を整えた。
 多少残念に思いつつ目元を擦る。

「ふわぁ、良く寝た。・・・ってかあれ、エラはいつの間に?」

 熟睡していたためか起きていた時の記憶が薄い。
 寝起きの脳は、俺がエルバークさんをお姫様抱っこして馬車に乗り込み、エラメリアたちを待たずして出発したあたりの記憶で止まっている。
 目覚めてすぐ彼女の姿があったことに、内心かなり驚いていた。

 だが俺の問いかけに対し、エラメリアからはこれといった返事がなかった。
 怪訝に思って顔を覗き込んでみるも、にっこり笑ったまま特に反応は無い。

「ん?」

 注意して見れば、視線が俺のちょっと後ろの方に行っている。
 背後に答えがあるのだろうか。

 首をぐるりと回してエラメリアの視線の先を追う。
 そこで飛び込んできた光景に脳が一気に覚醒するのを認識した。

「ちょっ何やってんだソコ?!」

 眼前には、パンツ一丁身ぐるみを全部剝がされたエルバークさんが四つん這いになっており、その背中の上で脚を組んでいるゾルフの姿があった。

 俺の声に反応したエルバークさんがこちらに顔を向け、何事かを話そうとする。
 だがその前にゾルフが踵で背中を打つ。
 「グエ」と妙な音を発して再び彼は下を向いた。

 足元の彼がそんな状態なのにも関わらず、ゾルフは「よう」と気軽に挨拶を寄越してくる。
 ショッキングな光景をスルーしたあまりにも普通の挨拶だったので、思わずこちらも素の返事をしてしまう。
 雰囲気とシチュエーションがまったく嚙み合っておらず、俺は完全に混乱していた。

 ちなみにゾルフは俺が使っているのとは別のソファにふんぞり返って座っている。エルバークさんはただの足置きの様な扱いだ。
 しかしそんな彼を見ても、別段やめさせなければ言った感情は湧き上がってこない。
 というか、あんまり下の人エルバークさんと顔を合わせたくないような気持ちが湧き上がってきた。

 なんだこれ・・・気まずさ? なんで?
 俺とエルバークさんとの間になんか変な事でもあったっけ。

 心当たりのない感情に気を揉んでいると、ふとエルバークさんの従者の事が気になった。
 彼がこのような扱いを受けているにも関わらず、誰一人として助けに入らなかったのだろうか。
 そりゃもちろんこの二人が相手だから結果的にこうなるのは確実だけど、それでも微かな抵抗ぐらいならあっても良さそうである。
 そう思って彼らの方に顔を向けてみた。

 結果から言えば、まあ酷い有様だった。
 皆一様に顔をこわばらせ、ぎゅっと拳を握りしめている。
 向けられた軽い会釈もかなりガクガクとしたものであり、真っ青な表情からここでどれほどの惨状があったかが伺えた。

 ・・・これは深く言及しない方が身のためだろう。
 夜も心地よく眠りたいなら尚更だ。

 なぜか心の中ではポイントが高かったエルバークさんがこんな扱いを受けていることに少なからず助けてやりたい気持ちはあったが、何もかも全てを忘れてこれからの毎日へと思いを馳せることにした。
 それが今出来る精一杯の心遣いだったからだ。
 誰しも無様な姿は子供に見られたくないものである。
 ・・・俺って超空気読めるよね(これが言いたい)



 そうこうしていると、最初にエラメリアが言った通り段々と目的地に近付いているようだった。
 先ほどよりも少しずつ車のスピードも落ちてきている。
 車内だと外の音が籠ってしまうが、それでも遠くの方からガヤガヤと賑わう街の雰囲気が伝わってきた。

 壁にピタリと耳をつけ、少しでも聞こえるように意識を集中する。
 あ、今ホラ貝を吹いたような音がしたな、とか、この声は赤ん坊の泣き声だな、などと一つ一つの物音に子供のようにわくわくと楽しんでしまう。

 人中へ出るのは何年ぶりだろうか。
 人が集まっているところは好きではなかったが、今ではこの世界の新天地を求めてはやく飛び出したい気持ちでいっぱいだった。

 喧騒が近づいてくるにつれて胸の動悸も高まってくる。
 俺だけここで下ろしてもらえないかななどと本気で考えていた頃だった。


「着きましたよ」


 エラメリアの一言に、はっと我に返る。
 気付けば車も停止していた。

 反射的にエラメリアのほうを振り向いたのと、ドアが解放されたのとは全く同じタイミングだった。
 そしてその視線は、エラメリアの下までたどり着くことなくドアの位置で固定されてしまう。
 微かな情報を少しでも漏らさんと釘付けだ。
 誰かの、俺の、息をのむ音がした。


 人間ひとりが通れるほどの隙間から入り込む風と光。
 何百何千もの人々の肌を撫でてきたであろうそれらは、しっかりとした温かみと生活感あふれる香りを持っていた。
 ドアを開いたことで大きさの増した声と調和し、和やかな匂いが車内に溢れる。

 その匂いに釣られるように俺は無意識のうちに立ち上がり、外界に向けての一歩を踏み出していた。

 歩を進めるごとに開かれていく視界。濃い風。営みの音。
 変調するそれらを噛みしめるようにゆっくりと進んでいく。
 秒ごとに違う雰囲気は、どれも愛しく感じられるのだった。

 しかしドアと俺との距離がそう離れているはずもなく、あっという間にドアの前まで来てしまう。
 そのことに多少の名残惜しさを感じつつも、それでも最後の一歩を踏み出さんと前を見据える。
 正直この雰囲気だけでも満足なのだが、やはり体は正直だ。
 早くこの街の土を踏みしめたくてウズウズしていた。
 ならばそれに従おう。

 俺は一度、強く目をつむる。
 視界を一瞬でも奪えば思い起こされる日々。
 時間で言えばそうでもなかった気がするけど、ここに来るまでは凄く長かったように感じられる。
 エラメリアやゾルフと出会ったこと、いっぱい知識を得たこと、たくさん失敗したこと、杖を握ったこと、剣を振ったこと。
 数々の情景が瞬時に頭を過ぎ去っていく。
 そして、最後にはそれらに負けず劣らずの光景が頭をよぎる。
 ドアを通して見たあの街の光景だ。

 片鱗を見ただけでもこの有様である。
 実際そこに降り立ってしまえばどうなるのだろう。
 人込みだって克服できたかどうかわからない。
 果たして俺はちゃんとやっていけるのだろうか。
 期待半分、不安半分。

 でも、やっぱりやってみなければ分からないこともある。
 そして、どんな事があろうと受け止め前に進んでいこうと決意したのはこの俺だ。
 だったらもう、行くしかないだろう?


 見開いた瞳に映るのは新世界。まだ触れたことのない、想像もつかないような文化だ。
 曇り無きその目には過去の苦悶や達成感と言ったものは見受けられなかった。

 もちろん忘れたわけでも振り切ったわけでもない。
 いざという時のために、心の中に、経験の中に仕舞いこんでおくのだ。
 そうでもしなきゃ、頭が爆発しでしまいそうだ。


 さて、では更なる”経験値”を求めて行こうではないか。
 もう体の抑えも効かないんだ。

 前置きはこのくらいでいいだろう。
 俺は肺の中の空気を一気に吐き出すと、一気に外へと飛び出した。

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