転生したら美少女勇者になっていた?!

ノベルバユーザー21439

≪エラメリア=シーストーン2≫

 夜になりました。女の子は起きてくる気配がありません。
 今さらになってやりすぎた感が・・・いけません、ここは心を鬼にして厳しく叱ってやらなければ。例え同性と言えどもやっていいことダメなことがあるのです。
 ふんと力強く呼吸をします。言ってやるぞ・・・。

 丁度そう考えていた時、背後からもそもそと音がしました。どうやら女の子が起きてきたようです。
 少し首を回し、横目でちらりと確認。どうやら女の子は自分の現状についていけてないようです。
 そして数秒停止したのち、掛かっていた布団を手に取ると私の方へ顔を向けました。
 今になって私がいることに気付いたみたいです。

 慌てて顔を戻します。あくまで気付かないふり。
 何故かはわかりませんが先にこちらから目を合わせるとそのあとに何も言えなくなる気がしてました。
 平静を装い女の子が近づいてくるのを待ちます。

 私の数歩後ろで彼女の足音が止まりました。
 また胸を揉まれたりしては堪りません。
 私は警戒を怠ることなく、ゆっくりとした動作で振り返ります。

 開口一番何を言ってやろう。
 そんなことを考えながら。
 私が両目をその女の子に合わせるまで、頭の中では色んな言葉が飛び交っていました。

 しかし、彼女の丁目をとらえた途端。それらは全て消え去ってしまいました。

 ・・・仕方がないじゃないですか。女の子の不安そうな、申し訳ない気持ちでいっぱいの潤んだ瞳を見てしまえば。
 始め多少なりとも怒っている様子を伝えられればと思ってそういった顔を女の子に向けていましたが、その女の子の表情を見た途端思わず微笑んでしまいました。
 少しでも安心させてやりたい。自分は怒ってないよー、と伝えてやりたい。
 一瞬でもそう思ってしまったんです。

 その時私は敗北を認めました。正確には認めさせられた、の方が近いですかね。
 一度笑顔を向けてしまった相手に、再び怒った表情をして叱ってやれるほど私の神経は図太くありません。
 私は諦めて女の子の言葉を待ちました。

「あの、毛布・・・あなたのですよね? 俺のために、わざわざありがとうございます・・・」

 しどろもどろになりながら、女の子はそう言って布団を私に差し出しました。
 丁寧に畳まれたそれを受け取り、私も言葉を返します。

「いえ、お気になさらず。私のせいなんですから・・・。誤ってあなたのことを吹き飛ばしてしまって。本当に申し訳ありません」

 ここで私が謝るのも筋違いだとは思いますが、とりあえずそう言っておきました。
 すると女の子は慌てた顔で続けます。

「こちらこそすんません。その節は俺の行動が原因なんですから、頭を上げてください」

 ほう、ちゃんと謝ることが出来る子供なようです。
 少し言葉遣いが男臭い気もしますが、そういった女性は今までにもたくさんいました。今更気に留める様な事でもありません。
 私はこの女の子に興味を持ち、少しでも仲良くなれればと話の続きを促しました。
 女の子は困った顔で言葉を紡ぎます。

「というか、ここはどこです? 留置所ではないようですが・・・」


~~~~~


 女の子は人懐っこい性格なのか、すぐさま私と打ち解けてくれました。名前はステラフラッシュ。
 快活に笑う彼女にぴったりの名前だと思いました。
 愛嬌を込めてステフと呼びたいと言うと、彼女は快く承諾してくれました。
 自分が提案した呼び名を好んでくれると結構うれしいものですね。

 そしてどうやら、彼女は自分のいる場所がよくわかっていないみたいです。
 話していくうちわかったこととして、ステフは昨日まで別の場所にいて、気が付いたらここに飛ばされていたそうです。

 はじめは私も全く意味が分かりませんでした。
 が、転移や移送といったものではないかと申告すると、彼女は考え込むようにしてその可能性を吟味していました。本人の反応を見るにそっちの線が高そうです。

 加えてステフは、魔術やら冒険やらといった類の話にはかなり疎いようでした。
 なんでもステフの住んでいた地域は魔術など使わなかったんだとか。
 一瞬彼女が『人間』ではないかと疑いましたが、人族である私に向けられる視線に負の感情が一切見受けられないことからその可能性は排除しました。
 そもそも『人間』あんな高いところから落っこちては生きていられません。

 そしてもう一つの可能性、彼女が獣族であるということも考えました。
 こんな細い腕で木登りをするぐらいですからその可能性も十分に考えられる話です。
 しかし見たところ、獣族特有の角や身体的な特徴が見受けられません。
 以上の事からこれも無いだろうと判断しました。

 彼女は人族で間違いないようです。


 さて、となればステフの故郷を探し当てるのはかなり難しいでしょう。
 地域ごとに突出した身体的特徴なんてタカが知れています。
 人族からステフの知り合いを見つけ出すのは相当に苦労を要します。
 彼女もそれはわかっているみたいで神妙な顔をしていました。
 しかし、ステフは驚きの提案をします。

 なんとこのまま、近くの安全な土地で滞在しようというのです。
 その瞳には諦めや絶望といったものは無く、代わりに新しい世界に対する憧憬や期待といったものが滲み出ていました。
 現代の若い子供にしては凄まじい精神力です。
 もともと親も家もない私でさえ、ステフぐらい幼い頃は孤児院を離れるなど考えられなかったでしょう。

 ですがステフがその気なら私も思うところがあります。
 その考えとは、私と一緒に旅をすること。
 こんなにも未来に対して前向きな、さらに冒険や魔術といったものに目を輝かせる子供を安全な土地ぬるまゆで腐らせるなど非常にもったいないことだと思ったのす。

 この提案は、またしてもステフには都合がよかったみたいでした。
 最初はこれ以上私に迷惑がかけられないと渋っていたステフも、私が自分の為でもあるのだと伝えると素直に了承してくれました。
 事実私も助かること間違いないですからね。

 ステフと旅を続けてくうちに、今の彼女が一人でどこへでも行けるようにするのが私の目標です。
 様々な土地を歩んでいく間にステフの故郷を見つけられたら尚善し。
 そういった楽観的な目線でステフとの旅を考えていました。

 というか、私の中では既にステフは妹みたいな扱いになっています。
 こんなかわいらしい幼気な子供を放っておくなど考えられない事でした。庇護欲、大事。

 多少の下心をうまく隠しながら、私とステフの旅は幕を開けたのでした。

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