終喰活慟(しゅうしょくかつどう)~神奈川奪還編~

武沢孝二

第七活 鋭業(えいぎょう)

「――サイコガン!」
その突然の声と共に、自分の後方から熱源を持った光が発射された。
“バシュッ ”
その閃光は強化人間と化したおばさんの左腕を吹き飛ばす。
後ろを振り返るとそこには、右腕を突き出し、息急き切る海道がいた。
「僕だって……、僕だって出来るんだ! 戦えるんだ!」
その瞬間、おばさんの赤い眼光が海道めがけ鋭く光る。
それで標的を変えたのが分かった。
彼に向かって滑走するように間合いを詰める。
「あ、あ……く、来るなー」
海道は兢兢きょうきょうとしながらも、サイコガンを敵に目掛けて連射した。
だが敵はそれをことごとく回避する。
そして彼の眉間目掛け爪を伸ばす。
“――ガンッ! ”
一瞬だった。
間藤が、備蓄庫から持ってきたのだろう【トンファー】で、強化人間の頭部を強打した。
「やらせねぇ~よ。コイツはまだ未来がある十六の坊やだからな」
そう言うと、両手のトンファーを振り回し、敵に息つかせぬ勢いで連打を叩き込んだ。
だが強化人間には表情がない為、攻撃が効いているのかが分からない。
そこで俺はグリフォスを使う。
「グリフォス、敵の体力をパーセンテージで教えてくれ」
《了解しました。……、現在戦闘中にある敵の体力値は残り40パーセントほどです》
「どうやら効いているみたいだな」
「ええ、そのようですね」
御堂条もグリフォスに手を添えながら答える。
「支部長さん、どうしますか? ここは一気に畳み掛けますか?」
「そうだな……やりずらいけど」
「――その必要はいらないぜ! 主任さんよ~」
俺が考えるまでもなく間藤が答えた。
だが片腕を失った敵に苦戦しているのは目に見えてわかる。
そこで御堂条が言った。
「ですが、ダメージを負っているとはいえ、まだ敵の方が戦闘力は上です。このままでは、あなたはやられてしまいますよ!」
「へへ、勝手に決めつけるのはよくね~ぜ!」
そう言ったあと、間藤は腰を落とし、右手のトンファーに力を込め始めた。
――だが、その瞬間を相手が見逃すはずがない。
爪を伸ばし、彼に向けて突き立てる。

――バンッ!

破裂音が轟く。
見るとそこには頭部を失ったおばさん――いや、強化人間が佇立していた。
一瞬の出来事で、みんな呆然としている。
それもそのはず、カルラが手こずった相手だ。
「ふ~、なんとかなったな」
彼はそう言いながらトンファーを後腰にしまう。
「間藤さん、今何をしたのですか?」
俺は率直に聞いた。
「簡単な事だ。美琴ちゃんがライフルの弾丸を強化したように、俺も意識はトンファーに、力を腕に集中してアッパーカットしたのよ」
「それだけですか?」
「ああ。それだけだ」
(それだけで、やれるほど簡単な事じゃないと思うが……)
「そうですか。あなたも物質強化型の脳力者みたいですね」
そう言うと御堂条が動かなくなった強化人間を人差し指で押す。
すると完全に機能を失った肢体は、容易く仰向けで倒れた。

「ホント強化型でよかったわ。そうじゃなかったら殉職していたね。一か八かの賭けだったから、冷や汗が出たぜ」
そう言い、間藤はサングラスを外すと額を拭う。
「あれ? 間藤さんってサングラス無い方がいいですよ~」
「え!? ジュディスちゃんホント!? じゃ~、おじさんグラサン外したままにしよう」
二人の会話を横で聞きながら、俺の胸中は複雑になっていた。
いくら敵でも元は彼女の母親だ。
(くそっ! どうして……。いや、気持ちを切り替えないと! 俺の気持ち次第でこのチームが崩れたら終わりだ)
心の中で自分に言い聞かせる。
この世界はもう普通の世界ではない事を、俺は再認識した。

「しかし間藤さん、生か死か思い切った賭けでしたね。もしかして根っからのギャンブラーですか?」
御堂条の問いに彼は、
「そうだ! 俺の趣味は賭け事だ!」
と自慢げに言ってみせた。
だが趣味が賭け事とは、どうなのだろうか。
俺はそう思いながら、カルラのもとに行く。
「――大丈夫か?」
「うん。平気」
いや、俺には平気そうに見えなかった。
なぜなら彼女が、唇を血が滲むほど噛みしめるのを見たからだ。
恐らく、敵に勝てなかった自分に、憤っているのだろう。
短い間だが、彼女はプライドが高く、負けず嫌いだと、俺は感じていた。
だから今回は負けないまでも、敵を倒せなかったのが悔しかったのだと思う。
「あなたこそ平気なの? 彼女の母親だったわけだし、本人自体が行方不明でしょ?」
「うん。おばさんに関しては正直ツラいけど、ここで気を落としてもいられないし……ね」
言葉として口に出したはいいが、まだ内心動揺していた。
もしかしたらトモミも強化人間にされているのではと脳裏をよぎる。
無事だとしてもおばさんの事を、どう伝えたらいいのかも考えてしまう。
「支部長さん、これからどうしますか? 彼女さんの行方は、分からなくなってしまいましたが」
御堂条の言葉に俺は、
「当初の目的を遂行しよう。とりあえず敵の指揮官がいそうな都心部、横浜に向かおう。その道中で戦闘になったら殺さず生け捕りにし、詳しい本拠地の場所を聞き出す」
「分かりました。では皆さん、お聞きの通りです。まずは横浜方面に向かいましょう」
一団は瓦礫の山を乗り越え歩き出す。その道すがら間藤と海道の会話が耳に入ってきた。
「間藤さん、先程は助けて頂き有難う御座いました!」
「ん? ああ、いいってそんな事。でも貸しにしとくわ。だから俺がピンチの時はヘルプよろしく!」
「はい! 勿論です! でも間藤さんは何故その武器を選んだのですか? トンファーなんて、かなり特殊な武器ですけど」
「確かに扱いが難しい武器ではあるな。ま~プライベートな事は女の子以外には話したくはないんだが、海道くんには特別に教えてあげよう。実はオレ、中国拳法を習っていたのよ」
「え? そうなんですか? 凄いじゃないですか! でも習っていたって事は、今はやってないんですね。 どのぐらいやっていたんですか?」
「小学一年の時から。で、やめたのは最近。あ、やめた理由なんて野暮な事は聞かないでくれよ」
おちゃらけたキャラの間藤の言葉は、どこからが本当で、どこからが嘘なのか分からない。

そうこうしている内に、山人市から横浜市に入った。
「――ん?」
市をまたいだ瞬間、空気が一変するのが分かった。
「なんか知んないけど、ヤバい雰囲気になってね?」
北条が放った開口一番の言葉に、みんなが息をのむ。
「確かに先程とは打って変わって、殺気が伝わってきますね」
御堂条がネクタイを締め直しながら答える。

“ガチャンッ ”
――その時、半壊したマンションの物陰から何者かが出てきた。
『まだ地球人の生き残りがいたのか』
その人影は、体躯が小さく頭部が異常に大きい。
それは近づくにつれ、次第にハッキリと分かるようになった。
グレイタイプのネライダだ。
『――キサマらに選択肢を与えてやる。ここで悶死もんしするか、我々の手で長命を得るか、どちらかを選べ』
「選択肢が一つ足りないな。俺たちの答えはお前の生け捕りだ!」
そう言いながら俺は、グリフォスにサーチの実行を命令した。
《ランクβ 戦闘力・E 戦闘脳力・B》
「情報通りだ。だが戦闘脳力が高い。みんな油断するな!」
『小賢しい地球人どもめ。色々と準備はしているみたいだな』
「ここはアタシがやるよ! こんなヒョロイの一瞬で縛り上げてやるよ」
「亀甲縛りで?」
「アンタの方が先にやられたいようだね!」
北条は拳をポキポキ鳴らしながら、間藤に対して鋭利に尖った眼を刺した。
「す、すいません」
と、素直に謝る間藤。
『余裕だな。一人ではなく、全員でかかってきた方がいいんじゃないか?』
「はぁ! オマエみたいな、ひょろっこいのアタシだけで十分だ!」
そう言い彼女は手のひらを広げる。
お得意の発火能力をお見舞いするようだ。
「パイロキネシス!」

……何も起きない!
「え? うそ……」
何度か試しているようだが、炎どころか火種さえ出ない。
「……まさか!」
御堂条が何か気付いたようだ。
『ん? 一人気付いた者がいるようだな』
「どういう事だ? 御堂条」
俺の問いに彼は呆然とし、血の気が引いた顔をしていた。
「横浜市に入った途端、違和感がありましたよね? 恐らく結界の様な物によって、我々のスーツが正常に起動しないのかと」
「! 確かにみんな違和感を覚えたが、そんな事……」
『正解だ! そこの地球人。そのスーツを解析し、無効化バリアを作った』
「――解析だと? どうやって」
『簡単な事だ。貴様らの仲間から拝借させてもらった』
するとネライダ人は手をあげ、何か合図の様な動作をした。
その瞬間、物陰からテラスが現れる。
[なに!]
みんなが一斉に驚愕の表情と共に声を発した。
その驚きはテラスが現れた事による驚きではない。
その口に、天童子の亡骸をくわえていた。
その事による吃驚きっきょうの声である。
『このゴミを有効利用させてもらったよ』
「て、めぇ~!」
北条がネライダ目掛けて突進する。

“ドンッ ”

破裂音と共に彼女は、後方へ大きく弾き飛ばされる。
「サイコキネシスですか……くっ!」
御堂条が歯を食いしばった。
「北条さん、大丈夫ですか?」
ジュディスが急いで駆け寄る。
「ぐ、ぐふっ! ……はぁ、はぁ」
吐血しながらも何とか息をしていた。
「不味いですね。かなり不利な状況になってしまいました。脳力が使えないのなら我々、協力者はただの人間です。テラスにさえ勝てないでしょう」

「――なら私が全て片づける!」

カルラがみんなの前に躍り出た。
『貴様は選別者とか言う、スーツ無しでも脳力を使える人間か』
(――? 何故コイツ選別者の事を知っているんだ?)
そう俺が考えている間に、彼女は脇差を鞘から抜く。
『オ前ヲ喰イ殺スノハ、オレダ!』
テラスがカルラの前に立ちはだかる。
「ペットに用はない」
『ペットダト? コノオレヲ馬鹿二スルナ!』
テラスの鋭い牙が彼女に襲いかかった。
「くっ!」
体勢を立て直そうとした一瞬、彼女の顔が苦痛に歪む。
(もしかして強化人間との戦いでケガを?)
俺の予感は的中した。
彼女は敵の攻撃を受け止めながらも、片足を庇っているようだ。
「秘書さん、様子がおかしいですね」
御堂条も気付いたようで、心配そうに見ている。
『オイオイ、コンナモノカ? ガッカリサセルナヨ』
カルラは防戦一方で完全に押されている。
だが幸いにもリクルーツは、無効化バリアに影響がないみたいで、相手の鋭い爪の攻撃にも耐えている。 

『そろそろ終わりにするか』
痺れを切らしたネライダの強力なサイコキネシスが発動する。
“ドンッ ”

「――グッ!」
カルラに向けられた衝撃波を、俺は自分の身を挺して庇う。
「孝!!」
「!? はは、初めて名前で呼んでくれたな。それだけでもこの俺の行動には価値がでる」
リクルーツの耐久性を信じて彼女を守ったが、思ったよりダメージは大きい。
「支部長さん! LCを使って下さい! でなければ窮地を脱するのは無理です!」
「ああ、俺もそう思っていたところだ!」
手には既にタブレットケースを握りしめていた。
スライドさせて一粒取り出す。
すぐさま口唇こうしんにケースを当て、LCを奥歯まで飛ばし噛み砕く。
“ガリッ! ゴクリッ ”
数秒で体が火照り始め、みるみる力が湧きあがる。
「ありゃりゃ、あんちゃんの体から湯気が。な、なんか若返ってないかい?」
「これは……。これが適合者の脳力。体の内部から新陳代謝を高め、十分に力を発揮できる年齢に戻しているのでしょう」
剛田のオヤジと御堂条が、驚嘆の声を発する。

「ふ~。初めてのLCを使った実地研修だな」
『なんだ貴様は!』
ネライダの目が見開く。
「お前は後回しだ。まずは――」
“バッ ”
一瞬でテラスの眼前に立ちはだかる。
「孝……あとは、お願い……」
緊張の糸が切れたのか、カルラはそのまま気絶した。
『ナンダ、オ前ハ。コンナ奴イタカ? マーイイ、後モ、先モ死ヌノニハ変ワリハナイ』
相手の牙が頭蓋めがけて襲いくる。

『――グハッ!』
テラスの巨躯に風穴が開く。
瞬殺だった。
そのまま体の一部を失った骸は、地に平伏す様に倒れる。

その様子を見ていたネライダの顔色が変わった。
『こ、こ、こんな事が……。クソ! くらえ!』
“バンッ ”
「もうそんなの無駄だと分からないのか? 地球人より自分たちの方が優れていると思っているんだろ? じゃー気づけよ。もう勝てないことに!」
ネライダ渾身の衝撃波を片手で防いだ。
「――さぁ、お前らの指揮官は何処にいる」
『な、いつの間に!』
俺は敏速に敵の背後にまわった。
自分でも信じられない。
妙にLCが身体に馴染んでいる。
今ならどんな敵にも、負ける気がしないと思うほどだった。
(何だ? セオとの個別面接の時より、力が溢れてくる)
『……居場所を言ったら見逃してくれるのか?』
「ああ、俺たちは大将の首さえ打ち取れればそれでいい」
『……そうか。辿り着いたところで、お前程度の脳力では、あの方にキズさえ付けられんがな』
「いいから言えよ」
瞬間、ネライダは脱兎の勢いで逃げる。
――しかし俺はそれをさせない。
それより早く先回りした。
「言うんじゃなかったのか?」
『グググググ……。お前らのような奴らに言うんだったら死を選ぶ』
「そうか」
“斬 ”
『グワーーーー!!』
片腕を切り落とされた敵の絶叫が響き渡った。
俺の手には、具現化させた刀が握られている。
「日本刀! いつの間に?」
海道の言葉に、御堂条は、
「支部長さんの脳力は具現特化型ですか……」
「ぐ、ぐげ、なんだって?」
「剛田さんは知らなくても大丈夫ですよ」
剛田のオヤジに対して、御堂条は一笑に付しながら言った。

「時間が無いんだ。答えろ!」
『フフフ、どうやらお前らの中に【記憶探索者サイコメトラー】はいないようだな』
「サイコメトラー? マンガか何かで聞いた事あるな。確か相手に触れるんだったよな。試してみるか」
俺はそう言い、ネライダの頭に手をのせる。
「……なるほど!」
『な、なに! ば、馬鹿な! そんな簡単に』
「――さっぱり分からん」

「たははははは。あんちゃん、やっぱ面白いわ~」
「笑い事ではないですよ! 私もてっきり分かったのかと思いました。まったく支部長さんは」
「脳力は上がってもバカはバカだな」

「聞こえているんだよ北条!」

「ちょっとこの談合モード、どうにかなんないの?」
「戦闘中は強制的に、談合モードへ移行するように設定していますので、御理解下さい」

『お前等はどちらにしても我々の脅威ではないな。あの方は――』
――言いかけた瞬間、ネライダの体が真っ二つに裂ける。
「!! なんだ!?」
周囲を見渡すが、自分たち以外は誰もいない。
『御喋りがすぎるのも困りものだな。ネライダ人よ』
声をたよりに上空を見ると、ソフォスがいた。
「な、お前は倒したはずじゃ……」
「いえ、支部長さん違いますよ。胸の辺りをよく見て下さい」
「胸の辺り? ……あ、女だ!」
御堂条に言われ見てみると、胸に膨らみがある。
それに声を聞いた時、地球人の女性の様に声高だった事に気付いた。
「だがなぜ殺した? 仲間じゃないのか?」
『仲間? フフフ、テラスもネライダ人も、我々ソフォス人も、ある銀河団の惑星の住人でしかない。』
「どういう事だ?」
『貴様らの住んでいるこの地球は、太陽と言う恒星を中心とした太陽系惑星の中の一つだ。その太陽系も天の川銀河団に属している。この宇宙は果てしなく広大で、銀河団だけでも相当な数だ』
「――それでお前らは別の銀河団から来たのか?」
『物わかりが良くて助かる。私たちは種族こそ違えど目的は同じ。だが仲間ではない。ただ目的を達成するための駒にすぎんのだよ』
「で? そんな奴らがなぜ地球に来た!? 目的はなんだ!?」
『目的は全ての銀河団をべる事。つまりは宇宙の統一だ。その一歩目がこの地球だった。ここはどの惑星より綺麗だ。コレクションとして欲しい。が、くれ! と言ってもくれないだろ!? ならば力ずくで奪うのみ』
言い終わると武骨な表情に薄ら笑いを浮かべた。
「なるほど。だがお前らソフォス人も駒にすぎないんだろ?」
『……今はそうだ。だが必ず我らソフォス人が……』
後半は何かぼそぼそと呟いていたが、何を言っているのかは聞こえなかった。
「一応聞くけど、お前らのボス、この神奈川の指揮官はどこにいる?」
『ククククッ、簡単に教えるとでも?』
「思わない。だから力ずくで吐かせる!」
そう言いながら刀を握り直し、神速で間合いを詰める。
「片腕はもらった!」
居合切りを放つ。
だが刀はむなしく空を裂くだけだった。
『ネライダ人のような、戦闘に不向きな種族と一緒に考えないでほしいな』
ソフォスは腕から鞭のような武器を出した。
『貴様の武器は厄介だ。渡してもらおう』
しなる物質が俺の刀に絡みつく。
「くっ! なんだこれ」
刀はあっという間に、手からすり抜けていった。
『さぁ、武器は無くなった。どうする? 仲間に頼るか?』
その言葉に一瞬みんなの方に目がいった。
『愚かな。戦闘中に余所見か!』
(――やられた!)
完全に僻目ひがめになった。
ソフォスの拳が腹部にめり込む。
「ぐはっ!!」
その勢いで数十メートル吹き飛ばされる。
「支部長さん!」
御堂条の言葉が空しく響く。
『仲間と言う者がいるからそうなるのだ。――必要ない。使えないなら切り捨てればいい。それが出来ないのが地球人の弱い所だ』

その言葉に瓦礫を押しのけ、スーツの埃を払いながら立ち上がった俺は憤慨していた。
「弱い所だと! お前は間違えている! 仲間は最強の武器であり、最高の防具でもある! それは頼ってくれる事に対して応えようと思う気持ち! 心配させまいとする己の意志の強さ! それが支えとなり、糧となる!」

そして俺は念じる。
「もっと強い武器だ。一つじゃ足りない――二つ!!」
すると一陣の風が両掌に集まってくる。
それは二刀一対の刀となった。
「に、二刀流! 適合者はあそこまで具現化できるのか!」
御堂条が驚嘆の声を発する。
『ほう。今の一撃では死ねぬか。それに武器を二つ増やしたところで戦況は変わらぬぞ。圧倒的な力で止めを刺してくれる!』
形状が鞭から大鎌に変形する。
『そう言えば長々と、仲間について述べていたようだが。……反吐が出る! 貴様同様、弱き者は死するべきだ!!』
「……お前は弱い。あの場でネライダ人と協力していたら、負けていたのは俺の方だったろうな。だがお前はそうしなかった」
『戯言を! くらえ!!』
「――斬!」
大鎌と刀が交差する。

――具現化した刀が消え去ると同時に、ソフォスの肉体から血飛沫が舞う。
俺はその血を浴びながら、膝から崩れ落ちるソフォスを見ていた。
「やったぞ! 武山さんが勝ったんだー!」
海道が歓喜の声を発する。
『くっ……。我に勝ったとて……この先には……地獄しかないぞ……グハッ!』
その言葉を最後にソフォスは息絶えた。

“ドサッ ”
「――支部長さん!」
LCの限界時間に達した俺は、そのまま地面に倒れる。
「大丈夫ですか?」
「死んでるんじゃない? てか、なんかさっきより老けてねぇ? なぁ美琴」
「そうですね~。言われてみれば――」

「老けてねー!! 元がこんなだわ!」
「あ、生きている」
「北条に神之~!」
「冗談ですよ~。冗談」
「アタシは本気で言ったけど」
「この――」
「武山さんに御堂条さ~ん!」
少し離れた場所から海道が駆け寄ってくる。
「これを見て下さい。何か分かりますか?」
そう言って見せてきたのは、リモコンのような物体だった。
「なんだそれ?」
「何かの装置のような気もしますが……! ちょっと貸してください」
突然、御堂条が半ば強引に、海道からそれを受け取る。
そして何か色々と細見しては、ブツブツと独り言を呟いている。
「海道くん、これはどこにありましたか?」
「あ、あのネライダ人の傍にありました」
「そうですか……。もしかしたら、これは無効化バリア装置のリモコンかも知れません」
「本当なの?」
背後からジュディスに肩を貸してもらいながら、カルラが歩いてきた。
「ええ。確証は持てませんが、刻まれている文字が地球の言語ではないのです。つまりはあのネライダ人が持っていた物でしょう」
「そう言って自爆装置でしたじゃシャレにならないぞ」
北条が腕組みをしながら抗言する。
「そうですが、この先も我々の力が使えなければ苦戦は必至。支部長さんと秘書さんだけでは限界があります。ここは一か八か賭けてみませんか?」
「アタシは構わないよ」
「僕も……大丈夫です」
「あんちゃんと、カルラちゃんにだけ負担を掛けたくないし、ワシはいつ死んでも悔いはないぞ」
「ワタシも大丈夫ですよ」
「美琴も平気だよ~」
「いいんじゃないの? 主任さん」
「皆さん、有難う御座います。では支部長さんと秘書さんは離れて下さい」
「は? なんで?」
「いや、あなた方は選別者に適合者。ここで死なれては誰が指揮官を倒すのですか? 私たちは協力者。言わばお二人の矛であり、盾でもある。巻き添えには出来ません」
「じゃー支部長命令。……二度とそんな事言うな! 俺はお前らを盾なんかと思ってない。仲間だ! 守る盾になるんじゃなくて、闘う最強の矛になれよ!」
「……支部長さん、ですが――」
「――うるせ~な! さっさと押せ!」
俺は強引にリモコンのスイッチらしき部分を押した。
⦅なっ!⦆
みんなが驚愕の声と共に目をつむる。

…………。
――何も起こらない。
だが空気が一変したのは分かった。
「……もしかして。これは無効化が解けたんじゃ?」
そう言い御堂条が腕を上げ、
「サイコガンッ!」
“シュンッ ”
閃光と共に、目の前の瓦礫が吹き飛ぶ。
「やったー、戻ったー」
喜びを露わにしたのは、撃った本人ではなく、無邪気に飛び跳ねてる海道だった。
そんな彼を微笑ましく見ていた俺だが、背筋に凄まじい悪寒が、
「てめぇー、いきなり何してくれてんだよ!」
「そうです。ワタシもビックリしましたよ!」
「支部長も人がわるいですよ~!」
「さすがに私も今のは……」
北条、ジュディス、美琴、カルラの女性陣四天王が、俺に対して誅殺の眼差しで立っていた。
「いや、だって――」

――数分後。
「さて、これからどうしましょうか。支部長さん?」
「ふぁい?」
俺の顔はえげつないほど膨れ上がっていた。
「……天誅ですね」
「みほうふひ(御堂条)、おはえは(お前な)~」

――さらに数分後。
「いやー、ジュディスありがとう」
「いえ、少しやりすぎましたね」
(あれで少しかい!!)
「でもジュディスに治癒脳力があるとは」
「ワタシが癒せるのは、ダメージの程度にもよりますけどね」
彼女は美人な上に、癒しの脳力。
完璧だな。
そんな事を思っていた俺を北条が、
「チッ!」
「舌打ちすんな!」
「まぁまぁ、とりあえず物資の調達も含めて、突火区の職安に行きましょう」
御堂条がこの場を何とか抑え、一行は突火区目指し歩を進める。

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