終喰活慟(しゅうしょくかつどう)~神奈川奪還編~

武沢孝二

第六活 険醜期間(けんしゅうきかん)

「――ん……、ここは」
俺が目覚めると、そこは見覚えのある場所だった。
「山人市の職安じゃないか」
「お、やっと目が覚めたな、あんちゃん」
「あれ? 剛田さん達は何ともないんですか?」
周りを見渡すと、気を失っていたのは俺だけのようだった。
「ああ、このスーツのおかげみたいだ」
そう言い、剛田のオヤジはスーツを叩く。
「支部長さんは通常の状態ですから、気を失ってしまったのですよ」
御堂条が俺の方に向かいながら話しかけてくる。
「そういやー最初に会議室に連れて来られた時も、かなり気を失っていたみたいだったな。ってことはどのくらい時間が経ったんだ?」
「二時間ほどですよ」
「二時間? え!? そんなもん?」
「今回、肉体は通常の人間と同じでしたが、リクルーツを着ているおかげで身体への負担が軽減されたのでしょう」
「なるほど。リクルーツも捨てたもんじゃないな」
「当前です。管理者たちが作り出した最高傑作ですから。脳力こそ普通の状態ですが、スーツ単体でもαクラス相手なら、手傷を負わすぐらいは出来るでしょう」
「マジか! あ、でも倒せはしないんだね。最低クラスでも……」
「それはそうです。なので無理は禁物ですよ」
「……は~、了解」
御堂条に念を押されはしたが、それでも俺の気持ちは少し楽になった。
敵に遭遇した時点で瞬殺、なんて事になったら元も子もない。

――すると職安の自動ドアが開き、外から間藤と北条、それに天童子、ジュディスが入って来た。
どうやら外の様子を見に行ってきたらしい。
「主任、異常なし」
「そうですか。有難う御座います」
間藤の言葉に御堂条は軽く会釈をする。
「――あ、何? アンタやっと起きたの?」
「北条、お前は目上の人に対する口のきき方がなってないな」
「は? 別によくね? こんな世界になったんだから」
「そういう問題じゃ――」
「ああ、そこまでにして下さい。支部長さんと北条さんは犬猿の仲ですか?」
(いや、そうじゃないんだが、どうも北条相手だと説教じみてくる。それは自分でも分かってはいるのだが)
「さぁ気を取り直して、活動を始めたいと思います」
御堂条が言うと、周りの連中が集まりだした。
「ではとりあえず所内の説明をさせて下さい。まずひと月ごとの支部長会議で、先程の場所に戻る転送装置がこれです」
指差した場所に、コンビニでチケットなどを購入するような、端末機が置いてあった。
「これは支部長さんと秘書さんのみ、使う事が出来るように設定されています」
「ん? ちょっといいか? 俺と秘書のみって事は転送されるのも二人だけなのか?」
「ええ。そうです。支部長さんと、選別者である秘書さんのみです」
「じゃーお前らはもうあの場所に戻れないって事?」
「はい。そうなりますね」
「それってみんな知っているのか?」
「ああ、ワシらはセオのオヤジから一通り聞いているからな」
「でも剛田さん、もし何かあったら――」
「――大丈夫です。安心して下さい。職安には強力なバリア装置が設置されていますから。その証拠に敵の攻撃を受けたはずなのに、何も無かったかの様でしょう?」
そう言われ、俺は所内を見渡したが、以前と変わらない状態を保っていた。
「確かに……、でも――」
「――あんちゃん、いいんだよ。ワシらはあんちゃんを守るため、一緒に戦うためにこうしているんだよ。自分らのケツくらい拭けるって!」
「そうだな、ジジイのゆう通りだ! 支部長! あんたは兎に角、敵の指揮官をぶっ飛ばす事だけ考えてろ」
「おい! 小僧! ワシをジジイ呼ばわりするな!」
「誰が小僧だ! オレはもう三十路を過ぎているんだよ!」
「ワシからしたら小僧だろうが!」
「剛田さんに間藤……」
二人が言い合いをしているのを見ながら俺は決意した。
「よし! ぜって~に敵の指揮官の首を打ち取ってやる!」
そう声を大にして高らかに宣言した。
「アンタがウチらの大将なんだ! 当たり前の事を言うな」
「そうですよ~。みんなで力を合わせてがんばれば勝てますよ~」
北条とは対照的にほんわりした口調で美琴が言った。
「僕もいるのを忘れないで下さいね」
「ワタシのこともね」
「海道にジュディス……。ありがとう、みんな」
「いいですねー、締めるところは締める。いいですよ支部長さん」
「ああ。――御堂条、話の続きを頼む」
そう言うと二階建ての所内、一階を歩き回った。
特に目ぼしい所はなく、トイレや更衣室があるだけだった。
そして二階へ行くとすぐ手前の部屋で御堂条が止まる。その扉の上には【備蓄庫】とパネルが付いていた。
「この部屋の中にはこれから戦う為に必要な物があります」
そう言いながら扉を開ける。
“ギィ~ ”という軋む音と共に、予想以上の光景が眼前に広がる。
そこには無数の銃火器やら弾薬、刀剣類などの武器が所狭しと置かれていた。
「うあ~、これ【コルトパイソン】じゃないですか~」
歓喜の声と共にみんなを押しのけて美琴が言った。
「美琴、お前は銃に詳しいのか?」
俺が尋ねると、
「はい! これは拳銃のロールスロイスと呼ばれたりする、非常に威力の高いマグナムになります。コルト社製で第二次世界大戦後に、生産された蛇シリーズの最上級モデルですよ」
「そ……そうなの? ははは」
興奮しながら話す美琴に思わず顔が引きつる。
「あ、こっちはスナイパーライフルの最高峰、【H&K PSG‐1】! これはですね~敢えてボルトアクションの単発式ではなく、セミオートマチック式を採用した――」
(ん~彼女は自由にさせておこう)
「へ~防弾チョッキもあるぜ」
そう言いながら間藤がスーツの上から着る。
「それは気休め程度ですよ。敵の攻撃からはとてもじゃありませんが耐えらない」
御堂条が頭を横に振りながら答えた。
「そっか、そりゃそうだ」
彼はため息交じりに言うと防弾チョッキを脱ぎ、それを棚へ乱暴に置いた。
「皆さん、ここにある銃やナイフなどは、敵にある程度のダメージは与えられますが、致命傷を負わす事は出来ません。ですが一応、携帯しておいて下さい。とりあえず一通り見て頂き、お好きな物を所持していって下さい」
そう御堂条が言うと美琴は、
「これと、これと、これもでしょ、あとこれ!」
そんなに持てないだろうと思うぐらいかき集めていた。
だがサイコスーツのおかげか彼女はラクラクとそれらを背負い込む。
それを見ていた御堂条が、
「美琴さん、そんなにはいらないです。必要最小限にして下さい。機動力が落ちます」
その言葉に彼女はガクリッと項垂れながら選別し始めた。
「だが主任さんよ~、致命傷を与えられる武器はないのかよ」
間藤が欠伸をしながら言う。
「勿論ありますよ。その為にここに来たのですから」
御堂条が壁にあった黄色と黒の縞模様のボタンを押した。
するとボタンを押した壁が横にスライドする。
“ガガガガガッ ”
「ワオッ! これまたクレイジーだネ~」
天童子がオーバーリアクションで驚く。
だが驚くのも無理はない。
開いた壁の中からガラスケースが出てきた。
それが武器であるのは何となく分かったが、見たこともない形状をしている。
例えるなら金属のリストバンドに、拳銃の銃口が付いているといった感じだ。
「これが敵に致命傷を与えられる武器、名称は【サイコガン】です」
(何かのアニメで聞いた事のある名前だ~! 目には目を、歯には歯を、骨には骨を)
俺はあるアニメを思い出していた。
「これはリストバンドの様な物です。というより手枷てかせと言った方が正解かも……。では皆さんに一つずつお渡ししますので私のやるように付けて下さい。ちなみに支部長さんと秘書さんの分はありませんので御理解下さい」
(まーなんとなくそんな感じはしたけど)
と俺は心の中でぼやいた。
そして御堂条がそれをみんなに渡し始める。
「行き渡りましたね。それでは皆さん、今そのリストバンドは枷みたいに横へ開いている状態ですね? それを利き手でも、そうじゃなくても、どちらでも構いません。手首に着け、挟み込んで下さい。これでロックがかかり外せなくなります。簡単でしょう」
“ガチンッ、ガチンッ ”と周りで音が鳴る。
…………。
「いやいや、簡単とかじゃなくて今 “外せない ”って言わなかったか?」
間藤が慌てて御堂条に詰め寄る。
「ええ。外せません。やっぱりこれはリストバンドと言うより手枷ですね」
と言いながら微笑していた。
「アンタ舐めてんの? こんなアクセいらないんだけど」
北条も顔を引きつらせて言った。
「僕は結構好きだな。ヒーロー物の光線銃みたいで」
「海道クンは私と気が合いそうですね」
「でも御堂条さん、外せないって事は一生このままって事?」
「いえ、命が途切れれば自然と外れます」
「オイ! ちょっと待て! それって死ぬまで外れないって事か? ざけんなよテメェ~」
間藤が御堂条の首根っこに掴みかかる。
「こうでもしなければ勝てません。ここからはそういう世界です」
そう言い放った彼の眼力に間藤は手を放した。
「それにあらかじめこの事を伝えた後に、皆さんはこの器具を素直に付けてくれていましたか? 一生取れない物を。答えは否! 正常な思考の方なら躊躇するか拒否します。それが普通です」
御堂条の言葉に語気が強まる。そこに剛田のオヤジが、
「いいんでないかい。これから世界を救う決戦が始まるんだ。主任さんに四の五のゆうもんじゃない。覚悟を決めてやろうや。ま~それだけこの武器は強力なんじゃろ?」
「ええ、剛田さん有難う御座います。この武器はハイリスク、ハイリターンです。外せないだけではなく、武器として機能させるにはその人のエネルギーを使います。つまりは自分のエネルギーこそが弾丸になるのです。込める力が強ければ強いほど強力な弾丸が放てます」
「それって使い続ければすぐにへばっちゃうんじゃない?」
北条が聞いた。
「そうですね。だから通常の武器と併用し、いざという時に使うといった感じで使い分けて下さい。それとそこまで一度に大量のエネルギーを消費する訳では無く、食事を取れば回復します。仮にエネルギーを撃ち続け、使い果たしたとしても専用の食べ物があります。それはこれ、【エネルギーメイト】と言った物があります。これを摂取すればその場でエネルギーを補填出来ます」
そう言って取り出したのはスティック状の、見たことのある形の食べ物だった。
「かと言って乱用は出来ません。数に限りがあるからです。一人五本といったところでしょうか。それ以上はありません。使いどころは各々に任せます」
と言いながら、御堂条はみんなに配りだす。
「ではそろそろ行きましょう。まずは敵の司令部探しですね」
階段を下り自動ドアの前で立ち止まる。
「一応皆さんに伝えておきますが、このひと月は研修期間とし、私が指示を出させてもらいます。支部長さんは初めての戦場になりますので、的確な指示は出せないと思いますので、まずはこれからの戦闘経験を体感し、慣れて下さい。その次の月には全てをお任せしますので、よろしくお願いします」
「それは分かった。だが御堂条、お前は何者だ? 俺ら素人とは、かけ離れている感じがするんだが。むしろ既に経験済みって感じだ」
「……支部長さん、その話は無事にひと月経ってからではダメでしょうか?」
「……ああ、そうだな。まずは生き残らないと」
「有難う御座います。必ず説明すると約束しますので」
そして御堂条はみんなの方に向き直る。
「職安から一歩でも出たら戦場です。いつ敵が襲ってくるか分かりませんので、用心を怠らず周囲に警戒して下さい」
「だけどさっき外を見てきたけどヨ、ここら辺に敵の気配はなかったゼ」
そう言いながら天童子は先頭に立ち、自動ドアが開く。
“ウィーーン ”
そして天童子は勢いよく飛び出した。
「行くゼ! オマエ等ついてこ――」

“――ザシュッ! ”

妙な音と共に、サッカーボール大の物体が宙を舞った。
「――な!」
一瞬の出来事で何が起きたか分からず、みんなが呆然と佇立する。

「う……うそ……だろ」
俺の口からやっと出た言葉の通り、信じられない事が起きた。
職安の自動ドアを飛び出したはずの、天童子の首から上が無くなっていた。
つまり宙を舞った物体は彼の頭部だったのだ。
「――引け!」
御堂条の声でみんなが我に返ったように、後ろへ飛び退く。

『おやおや、飛び出してきたのは一匹だけですか』
そう言って空から降りてきた人影に見覚えがあった。
「ランクγ……、フライングヒューマノイド、ソフォス!」
俺の額から嫌な汗が流れ落ちる。
「――なぜランクγのソフォス人がこんな所に……。活動地域はもっと都心部のはず」
御堂条のその言葉に、予想外の出来事が起きたのをみんなが察知した。
『あらあら、出てこないのですか? つまらない』
能面のような無骨な笑みを浮かべた顔をし、身体は白亜のように生白く、何かを着ている感じはない。人間で例えるなら裸体だが、そいつには生殖器の様な物はなく、全体が鋼のような筋肉で覆われている。そして片手には鎌のような物を抱えていて、それで天童子の首を刎ねたのは容易に理解できた。
「オイオイ大丈夫かよ! コイツ入ってくるんじゃねーのか」
「ワタシたちの脳力で勝てる相手ですか?」
間藤とジュディスの言葉に他のメンバーも不安を隠せないでいる。
「皆さん、安心して下さい。各職安のバリアはランクγまでなら入ってこられない強度で作られています」
御堂条は一旦落ち着くように、みんなに言ったのだろうが当の本人の拳は強く握りしめられていた。
その時だった。
――ガキンッ! ガキンッ! 
職安の入り口めがけてソフォスが鎌を振り回している。だが切っ先が当たる瞬間、蜂の巣状の模様が浮かび上がる。どうやらバリアがちゃんと役目を果たしているようだ。
(でもこれ――いつまで保つんだ!?)
その様子を見て危機感を感じた俺はタブレットケースを取り出す。
「待って! ここは私がやる」
気付くと目の前にカルラがいた。
「私の脳力は時間無制限。あなたがこんな所でLCを飲むなんて、無駄玉を使うようなものだから。数に限りがある分、節約してよね」
そのカルラの言葉に俺はケースを胸ポケットにしまった。
「いけるのかよ」
「一対一なら私は負けない!」
「……分かった。任せる」
そういうとカルラは自動ドアの前に立つ。

“ウィーーン “

『ククククク、今度は女人にょにんですか。余程死に急ぎのようですね』
「貴様の様な害虫に殺される気はない」
カルラの口調が変わった。
『……あなたは我様われさまを笑わせたいのですか?』
「フッ、自分を様付か? 貴様の方が笑いのセンスは上な様だ。もっと地球の言語を学んで来い」
『……いいでしょう。相手になります。ですが結果、あなたはこれから徒死としする事になる』
「――無駄死にするつもりはない!」
――瞬間カルラは疾走し、ソフォスとの間合いを一気に詰める。
『な、なに!』
敵は相手の思わぬ速さに喫驚した。
そしていつの間に手に入れたのか、彼女は腰に差していた【脇差わきざし】を相手めがけて振り下ろす。
――キンッ!
ギリギリで弾かれる。
だがそれを予測していたかのように、切っ先を連続で相手に叩き込む。
――キンッ キンッ キンッ!

『クッ……この小娘っ!』
カルラが、グリフォスを談合モードにしている為、離れていても相手との会話が聞こえる。
『うぐ……アーーーー』
敵の怒気と共に、鎌が大きく空を切り裂く。
「どうした。さっきの威勢はどこにいった?」
『おのれ……オマエは何者だ! 地球人の力ではないな』
「私は歴とした地球人だ。この力は寿命と引き換えに手にした」
彼女の言葉に経緯いきさつを知らないメンバーが驚く。
「あんちゃん。カルラちゃんの言っている事は――」
「聞いての通りですよ剛田さん。彼女は選別者としての脳力を得る代わりに、五年しか生きられない代償を払ったんです」
「五年! そ、そんな……」
剛田のオヤジは肩を落とし、目を赤くしていた。
『なるほど。ハイリスク、ハイリターンという事ですか。悲しいですね~』
「そうでもない。貴様らを殲滅出来れば、私はこの力をリスクだとは思わない」
『いやいや、我様が言ったのはその寿命が来る前に、烈女れつじょたるアナタがこの場で儚く散ってしまう事を悲しんだのですよ』
そう言い終わるとソフォスは手のひらをカルラに向けた。
『フロガ!』
呪文のような言葉と共に彼女の体が炎に包まれる。
「な、これはパイロキネシス――」
敵の虚をつく攻撃に、大きく後ろへ飛び退く。
「こんなもの」
そう言い彼女は手をアスファルトに押し付け、
「ハッ!」
蛮声と共に地面が爆発し、アスファルトは砂粒と化す。

砂埃でカルラの姿が見えない。
『やりますね。砂で炎を消しましたか』
徐々に彼女の姿が見えてくる。
「私を舐めるな!」
リクルーツのおかげもあってか、スーツも彼女も無傷の状態だった。
と、その時、

――ボンッ!

ソフォスの顔面に火が舞い上がる。
『グオッ! こ、これは同じ力?』
顔を歪めた敵がある人物に目を向ける。
『貴様か! 猪口才な真似を!』
「へへ、秘書だけにイイ所を持っていかれるのは、しゃくなんでね」
北条がそう言い放った。
 (そうだった。こいつもパイロキネシスを使えるんだったな)
「北条さん、危ない! 戻って下さい!」
いつの間にか職安の外に出ていた彼女を、御堂条が語気を強めて言った。
しかも威力が弱かったせいか、敵の怒りを買っただけの様だ。
『女傑がもう一匹いましたか――』
言い終わる瞬間、敵は標的をカルラから北条に移し、襲いかかった。
「や、やば!」
北条が慌てて職安の中に戻ろうとしたが、敵の動きの方が速かった。
『二匹目!』
――バンッ!
破裂音と共に敵の眉間に穴が開く。
そしてその総身は地に落ちる。
音の出所を目で追うと、そこには美琴がいた。
だが彼女は職安の中にいる。よく見ると銃身の長いスナイパーライフルだけがバリアの外に出ていた。
「ふ~、なんとか当たった」
安堵の言葉と共に、可愛らしい笑顔が覗く。
「美琴、ありがとう! アンタのおかげで命拾いしたよ」
北条の口から感謝の言葉がでる。
「たまたまだよ~」
(いやいや、あの緊迫した状態でたまたま当たるものか? 銃に関しての知識もあるし、実はこの子、サバゲーでもやっているのか? もしそうなら、かなりの上級者とみた)
そうこうしているうちにカルラが戻ってきた。
「安心しないで。それってただの銃でしょ? ならコイツには効かないんじゃない?」
「そうですね。足止め程度と考えた方がいいでしょう」
御堂条が冷静に答えると、カルラは踵を返し、脇差を手に敵に近づく。
とどめを刺すつもりらしい。
『ククククク、まさか地球人の武器で、地に御身を横たえるとは思いませんでしたよ』
――瞬間起き上り、後方へ飛び退く。
「くっ! すぐに殺るべきだった」
カルラが歯を食いしばりながら言う。
『もう充足じゅうそくの時です。そろそろ終わりにし、ま、……?』
言葉を言い終わる前に、敵の様子がおかしくなった。
『こ……これ……は……』
突然ソフォスの肉体がひび割れ始めた。
『なぜ……だ。……こんな低能な……地球人ごときに……くっ……』
最期の雑言を言い終わる前に目の前の敵は憤死し、総身は灰と帰した。
「一体どうなっているんだ? 御堂条、分からないか?」
俺は彼に訊ねた。
「いえ、……分かりませ、? 美琴さん、弾丸を撃ち込むとき、何かしましたか?」
「え? 何かって言われても~。……あ、引き金を引くときに(あの敵は絶対に許さない)って思って撃ちました。それ以外は、銃では倒せないって言うのも聞いていたから(そんな事ない、絶対倒せる)と強く念じました」
美琴は小首を傾げたあとに、両手を強く握りしめながら言った。
「なるほど、分かりました。彼女は【物質強化系】の脳力を発揮したみたいですね」
「ぶっしつきょうかけい?」
彼女は顎に人差し指を当て、また小首を傾げた。
「つまりは強く念じることで、物を強力な物質に変化させられると言う事です」
「ふ~ん。そうなんだ~」
(この子、ちゃんと理解しているのか? キャラがキャラだけに絶対分かってないな)
俺はそう思いながら、御堂条と美琴のやり取りを静観していた。 
「まさかあなたに、この様な脳力が発揮されるとは思いませんでした。これから続く戦いに大きく役立つでしょう」
「はい! まかせてください!」
そう言って彼女は可愛く敬礼をした。
それを見て、俺の頬は緩む。
まるでオヤジ感丸出しで、思わず周囲の反応を見てしまった。
「おい! 三十路」
「はぁ!?」
メンチを切りながら振り返ると、カルラが眉間にしわを寄せて腕組みをしていた。
「いま程度の相手なら、私たちでなんとかなる。だからLCをすぐ使おうとするな。使う時を間違えるな」
カルラのキャラが、戦闘の前後で変わっている事に驚き、
「はい! 分かりました」
と背筋を伸ばしながら言った。
(え~キャラ変わりすぎじゃね~。脳力を使った反動だろうか?)

「――そうですね。γぐらいなら対抗できる事が証明されました。支部長さんは、いざという時の切り札です。初っ端から敵に手の内を明かす様な事は、なるべく避けましょう」
「ああ、そうだな」
「ですが忘れないで下さい。我々はすでに尊い命を一つ亡くしてしまったのも事実です。天童子さんの冥福を祈ると共に、ここからは気を引き締めて行きましょう」
 その言葉に俺は彼の遺体へと行き、首のない亡骸に手を当て、
(すまない天童子、自分にもっと力があれば……)

「さぁ、行きましょう」
御堂条が心得顔で俺の肩に手をのせ言った。その言葉で立ち上がる。
 「みんな、私情を挟んで申し訳ないんだが、寄りたい場所があるんだ」
 「寄りたい場所ですか? それは何処でしょう?」
 「ここから歩いて五分ほどの所なんだけど…………俺の彼女の家だ」
 その言葉に北条が、
 「オマエふざけんなよ! 今になって彼女に会いたいって? 他の奴らだって家族の所まで今すぐ行きたいんだ! 自分だけ特別扱いしろってのか? どう言う状況か分かってんのか?」
 彼女の言葉に何も言い返せない自分がいた。
 「そうですね。確かに彼女の言う事は正しいです。ですが、ここから近いのであれば、探訪する目的で行くのはどうでしょうか? まず敵を生け捕りにし、情報を聞き出さなくては始まりませんから」
 御堂条の言葉に北条は、
 「勝手にしろ。どっちにしたってアタシらは、アンタらについて行くしかないんだから」
 「すまない」
 俺の深謝の言葉はみんなの耳には届かず、空を無駄に漂っていた。


 ――歩いてから五分、目的の場所に着いた。
道中、焼け野原と化した景色に愕然とし、その家々の残骸から、黒く焦げたような棒状の物体があり、近づくとそれが人の手だと分かった時には、空嘔からえずきに苦しんだ。

 「……ここが彼女の家だ」
 俺の言葉に、みんなは正視する事が出来ない感じで、視線を下に落とした。
 「……くっ……こんな……」
周りの様子を見れば分かってはいたが、そこは最早更地と化していた。

その時、近くで何かが動いた気がした。
「おい! 今、何か動いたぞ」
間藤の言葉に全員が注視する。
“ガタンッ ”
瓦礫の山から人影が現れた。
俺はその人影に見覚えがあった。
「……おばさん!」
それは彼女の母親だった。
俺はすぐさま駆け寄る。
「大丈夫ですか? ケガとかはしていませんか? ト、トモミはどこですか?」
捲し立てるように聞いた。

――バゴンッ 
鈍い音と共に、自分の体が、おばさんから遠退いていく。
何が起きたのか分からない。ある程度の距離が離れてから、背中が地面についた。

「だ……じょ……き……」
目の前が歪んでしまい、誰が何を言っているのかも聞き取れない。
しばらくすると意識が回復した。
「支部長さん、だいじょうぶですか!?」
美琴が俺の体をゆすりながら、憂色ゆうしょくをただよわせていた。
「あんちゃん、良かった。気がついたみて~だな」
「美琴に剛田さん……俺は一体……」
「見えるか? あんちゃん。あれは……普通の人間じゃね~ぞ」
剛田のオヤジが俺の体を、起こしながら言った。
するとそこには、信じられない光景が広がっていた。
「な……なにやってんだよ……」
そこには、ゆらりゆらりと歩いてくるおばさんに、脇差を向けているカルラがいた。
「なにって、あれはアナタが思っている人間じゃない」
「人間じゃないって、じゃーなんなんだよ!」
「セオさんの話、聞いてなかったの? あれはアブダクションされた強化人間よ」
「まさか……そんな……」
「リクルーツのおかげね。普通ならあの一撃で即死していた」
その言葉で、どうやら俺はおばさん、いや、強化人間にやられたらしい事が分かった。
「さぁ来ますよ! 皆さん戦闘態勢に入って下さい」
強化人間は三十メートルほどの距離で立ち止まった。
その眼光は赤く光り慄然りつぜんとする。

――刹那、相手は一気に俺の眼前まで迫ってきた。
その爪は長く伸び、もはや短刀のように変造されていた。
“――キンッ ”
カルラが脇差で応戦する。
かなり激しく火花を散らす。
それを何もできず静観して気付いた。
(カルラが苦戦している? ソフォスと対等に接戦していたのに。あの時ケガでもしたのか? いや、そんな素振りはなかった)
疑問に思いグリフォスを呼ぶ。
「サーチ!」
相手の力を計る為にモードを切り替える。
 “ピピピ ”という機械音の後に、
《ランクγ 戦闘力・B 戦闘脳力・E です》
「なに! 強化人間でランクがγだと!」
「どうしました支部長さん?」
「御堂条、サーチしてみろ」
「え? はい。グリフォス、サーチ。……っ! これは」
彼も気付いたらしい。
「ありえない。強化人間は精々ランクβが限界のはず。しかも戦闘力がBだなんて。職安でのソフォスはサーチしましたが、ランクはγ、戦闘力はCでした」
「ていう事は、あの強化人間はソフォスより強いって事か」
「そうですね。あくまで計算上での話です。ソフォスにも個体差がありますから一概には言えませんが、職安のヤツよりは手強いかと」
そうこう話をしている間に、カルラが防戦一方になっていた。

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