終喰活慟(しゅうしょくかつどう)~神奈川奪還編~

武沢孝二

第二活 怪者説明会(かいしゃせつめいかい)

 “………………… ”

 「ん……、う~ん……」
 (こえ……、声……、おれの……、俺の……)
 「はっ!」
 俺は自分の声にビックリして顔を上げた。
 顔を上げたと言うのは、どうやら俺はイスに座り机の様な物に、頭をつけていたらしい。
 「ここは……?」
 周りを見ると、一面真っ白な空間にいた。

 (ここは天国か……?)

 いや、違う。机と思っていたのは、会議室にあるような大きな円形のテーブルであった。
 しかも周りを見れば俺一人じゃない。何十人もの人がいた。中には中年の小太りのオヤジがハンカチでおでこを懸命に拭っていたり、何歳か分からない様な女性が、コンパクト片手に化粧直ししている。
 その横には金髪リーゼントのヤンキーが、イライラした様子で周りの人たちに、あたり構わずがんを飛ばしているし、十代ぐらいの眼鏡を掛けて一点を見つめている不気味なヤツなど、色んな人たちが集まっていた。
 そこで俺は気付いた。
 どうやら全員リクルートスーツらしき物を身に着けている。
 (あれ? どこかの会社の面接にでも来ているのか?)そんな事を一瞬思った。なぜなら俺もいつの間にか、リクルートスーツを着用していた。だが自分が一体どこにいるのか、まったく思い出せない。そもそも俺はハローワークで……! 
 「カルラ! 剛田さん!」
 俺は思わず立ち上がり叫んでしまった。するといきなりヤンキーが俺に対して、
 「るせ~な! このボケが!」
 と、怒りのリーゼント、いや、矛先を俺に向けてきた。それに対して俺は、相手の威圧感におされ、サッとイスに座りなおした。
 「つ~か、ここはどこなんだよ! 知ってる奴いねぇ~のかよ!」
 ヤンキー君が、苛立ちを言葉にして出す。
 それにつられて周りも、ガヤガヤと騒ぎ始めた。
 (あれ? もしかしてみんな、俺と似たような状況でこの場所に? でも俺はあの時、死んだはずじゃ……)
 すると突然、
 “ガタン ”
 という音と共に、突然白い空間が漆黒に染まった。
 何も見えない。
 喧騒も、いつの間にか収まり、静寂が訪れる。
 それが全員に、言い知れぬ不安感を与えた。
 (何かが起こる事は間違いない)
 緊張と不安で、俺の手は汗でびっしょりに濡れていた。
 “ウィ~ン ”
 (何か音がする!)
 どうやら円形テーブルの、中央あたりから聞こえてくる。
 少しだけ目が慣れてきたのか、人らしきシルエットが下から出てくるのが分かった。
 “ガタン ”
 またさっきと同じ音と共に、今度は漆黒に包まれていた空間が、元の純白に変わった。
 眩しさから、目が慣れるのに数秒掛かる。
 シルエットで人と判別は出来たが、よく見るとそこには、白髪はくはつで初老の男性が立っていた。
 いかにもジェントルマンな雰囲気をかもし出していた。

 「え~、それでは人数も集まりましたので、説明会を始めます」
 初老の男性の一言に、みんな唖然とした表情をした。
 ――一人を除いて……。
 「オイオイ! 爺さんよ~。いきなり現れて説明会ってなんなんだよ! テレビカメラはどこよ! ドッキリなんだろ?」
 早速ヤンキーが絡む。
 「まず自己紹介します。私はCEOと書いて【セオ】と言います。これからは気軽にそう呼んで下さい」
 「ジジィ~、テメェ~……ガン無視してんじゃね~ぞ!」
 セオと名乗る男性は、ヤンキーに目もくれず話し続ける。
 「これから皆さんにはある物をお渡しします」
 完全に無視されたヤンキーは、絡むのを諦めたのか “チッ ”と舌打ちした。

 ――すると突然、自分の目の前、テーブルの一部分が丸く、くりぬかれた様な穴が開き、その穴から筒状の突起物が現れた。そしてその突起物は、中央から左右に観音開きの要領で開き始め、その中から、銀色のタブレットケースの様な物が出てきた。
 勿論それは俺だけではなく、各々全員の前に出たようだ。
 「これ……ナニ?」
 十代ぐらいの眼鏡君が、首を傾げながら尋ねる。
 「それはこれから説明しますよ。では早速ですが皆さんは人間の脳が十パーセントしか使われていない事をご存知ですか?」
 とセオが問いかけてきた。

 俺は前にテレビか何かで聞いた事がある。
 かの有名なアインシュタインの言葉に、
 “我々は潜在せんざい能力のうりょくの十パーセントしか引き出せていない ”
 と言うのがある。つまり人間は十パーセントの力しか、発揮出来ていないと解釈することができる。だが一方で、そのアインシュタイン説に、意を唱える者たちもいる。
 “アインシュタインはもう昔の人間であり、その言葉は信用に値しない ”
 “医学が進歩した現代では、人間の脳は百パーセント使われている ”
 “グリア細胞なるものが、脳の九十パーセントを占めており、神経細胞のサポートをしているのみで、信号の伝達には使われていないから、脳が活動している部分は十パーセントのみと誤解している。だが本当はグリア細胞は、サポートではなくメインで働いてる事が、現代では判明しているから、実際は百パーセント脳は活動している ”
 と、既に百パーセント、脳が活動してる説を唱える者もいる。
 どちらにしても頭の悪い俺には、到底理解が出来ない。
 「そうだね。武山クンの言う通り、今の君たちには様々な説があり、混乱するだろう。だがその答えを私は知っている。人間の脳は十パーセントしか使われていない」
 (ちょっと待て! なんで俺の考えてた事がわかったんだ? 無意識に口に出してたのか? それにまだ俺は、自分の名前を名乗っていない……どうゆう事だ?)
 「ハハハハ、それは簡単な答えだ。私は脳の四十パーセントを使っている。だから意識を一個人に集中させれば、その人の考えを読みとる事は容易い。さっき武山クンだけが下を向き、何か考えてるようだったから、少し思考を読ませてもらったよ」
 (また……読まれた!)
 俺はセオが一体何者なのかを知りたくなったが、頭を真っ白にし何も考えないようにした。なぜならまだ正体も分からない人物で、敵か味方かもわからない現状では、こうするしかなかった。
 「ん~、意識をからにしたか。懸命な判断だ。失礼した、もう心を読むのをやめよう」
俺とセオのやり取りに、周りの連中は何が起きてるのか分からないといった感じで、呆気にとられていた。と、言うより、周りからしたらセオが突然、独り言を呟いている感じに見えてビックリしているようでもあった。
 「ジジィ~、お前ボケてんじゃね~ぞ! 一人で何ぶつぶつ言ってんだコラ! クソ気持ちわり~んだよ!」
 ヤンキー君は考えるより、素直に言葉に出るタイプな様で、セオも心を読む手間が省けるな、と俺は思わず苦笑した。するとセオは、
 「君はどう対応したらいいか難しいね~【鬼塚おにつか まもる】クン」
 「ジ……、ジジィー。なんでオレの名前知ってんだよ!」
 「それはちゃんと今から説明するので、大人しく聞いていて下さい」
 “チッ “とまた舌打ちして、ヤンキー鬼塚はイスに座った。
 「さて、話を戻しましょう。人間の脳は十パーセントしか使われていないのですが、普通に生きていく分には何の問題もありません。ですが、これからあなた方は大きな壁にぶつかります。その壁はとても大きく、超えるには脳の使用領域を高め、本来の能力を発揮しなければなりません。ではどうしたら十パーセントと言う脳の限界を突破するかは、先程皆さんの目の前に出てきたタブレットケースに答えがあります。まずはそれを手に取り、横にスライドして開けて見て下さい」
 一通りセオが説明を終えたが、俺は自分の置かれている立場にまだ理解できずにいた。
 (これから何かが起きるのか? 脳の限界を突破する?)
 そうしなければいけない何かが、これから始まるのだけは理解出来た。

 とりあえず俺は、目の前にあるタブレットケースに手を伸ばす。
 何が出てくるのか怖かったが “ゴクリッ ”と唾を飲みこみながら、ケースを横にスライドして開けた。
 すると中身には、小さな錠剤が入ってるだけだった。
 「これは……薬……? 危ないドラッグか何かですか?」
 そう聞いたのは、俺の隣にいる二十歳前後と思わしき、端整な顔立ちの可愛い女性であった。
 それに対して俺は思った、
 (なぜ今までこんなに可愛い子が隣にいたことに気付かなかったんだ……。俺のバカ!)と見当違いな方向に考えてしまうほどに、彼女はとても可愛く俺の思考はぶっ飛んでいた。
 「いえ、薬と言えば薬、つまりはドラッグですが、麻薬とか危険なものではない、とだけは誓って言えます」
 セオはそう答えた。だが俺を含めて、周りの誰もがその言葉を信用していない感じで、すぐにそれをテーブルの上に置いた。
 「皆さんには、これからその薬の効能を教えます。その後、別室にて一人ひとり個人面談をさせて頂きます。ここまでで、何かご質問はありますか?」
 セオがそう言った後に、俺はすぐさま鬼塚を見たが……反応しかった。
 こいつなら、真っ先に突っかかると思ったからだ。だが彼は眠そうに大あくびをしている。他の人たちも下を向き喋ろうとする者はいなかった。
 「ではご質問がないようなので、薬の効能について教えます。この薬の名前は【リミッターカット】と言います。ちなみにこの名前は私が付けた名で限界突破という意味です。これからは、リミッターカットを【LC】と呼称します。このLCは脳の活動限界領域を突破する薬です。さきも述べたように、人間の脳は十パーセントしか使われていません。それを一錠服用する事で、プラス三十パーセントアップさせることができます。そうすることで十パーセントだった脳を四十パーセント使える状態になります。するとどのような事が起きるかと言うのを、今から私自身がお見せしましょう。ちなみに私の脳は現在、四十パーセントまで引き出せる状態にあります」

 そう言うとセオはその場で地面を蹴りつけ、高く跳ね上がった。
 “――トンッ! ”
 その跳躍力に、みんなが驚きの顔を隠せなかった。なぜならNBA選手や陸上選手の垂直跳びでも平均が七十センチ前後なのに、セオは電信柱を越えられるほど高く跳ね上がった。
 そして “ストンッ “と着地するとセオは、
 「こんな感じで、脳の限界を超える事により、身体も強化させることが出来ます。ちなみにこれからは、この力を脳の力と書いて脳力のうりょくと呼ぶようにします。それではついでにもう一つ、お見せしましょう」

 “パチン ”とセオが指を鳴らすと、床の一部が開き、中から何か機械の様な物が出てきた。
 「これはいわゆるパンチングマシンです。これを使ってもう一度実証してみましょう。ではパンチに自信がある方は――」
 言い終わる前に鬼塚が、
 「――オレにやらせろ!」
 鼻息荒くマシンの前に立った。
 「では中央の赤いクッションめがけて、全力で殴って下さい」
 「殴るのはオレの専売特許だぜ!」
 と言うと、鬼塚はほほを膨らませ「シュッ」と息を吐き、思い切り殴った。
 “バスン “
 と大きな音をたてると、マシンの上に付いてるデジタルが、150キロと表示した。
 「ん~こんなもんかな」
 そんな事を言いながらも、鬼塚の顔はドヤ顔になっていた。
 「ワシにもやらせい!」
 “ドスドス “と音をたてながら、テーブルの奥から大男が歩いてきた。
 (こんなにデカいヤツいたんだ……二メートルは越えてるぞ)
 と思ったがよくよく考えたら俺は、ここに来て目を覚まし、起きた時には既に席は埋まってる感じだった。その数十人いるであろう中で、それぞれが席に座っていたから、この巨漢さに気付かなかった。
 “グラッ…… “
 一瞬イスが揺れた。俺があれこれ考えていた時に、大男はパンチングマシンめがけて殴っていた。数値は250を示していた。
 「なっ……、に……」
 鬼塚は明らかに動揺している感じだ。
 突然の事に、傍観ぼうかんしていた俺にセオが言った。
 「武山クンもどうだね? やってみては」
 (……。何余計な事言ってんだよ!)
 セオの意外なフリに俺は焦った。
 「い……、いや、俺はやっても二人よりは全然ダメですよ」
 「数値が全てではないよ。やる事がキミの為でもあり、これからの人生の為でもある」
 セオのいった言葉に、俺は何かを感じ、イスから立ち上がるとパンチングマシンの前に立った。
 「それでいい。あとは思い切り殴ってみなさい」
 俺は渾身の力を右拳に込めて殴った。
 “ガンッ…… “
 右手に激痛が走る。
 その拳はクッションではなく、横の鉄板を殴っていた。
 「いっ……、たーーーー!」
 俺の絶叫が周囲に響き渡る。
 それと同時に周りからゲラゲラと笑い声が聞こえてきた。
 (まずい……俺……、このままだと、只のお笑いキャラになってしまう)
 右拳は赤く腫れ上がり、血がにじんでいた。
 それを見ていたセオが俺の所にきて、
 「すまない、こうなることは分かっていたんだ。ただこれを見せたくてね」
 セオが俺の右拳に両手をかざすと、ウソみたいに手の腫れが和らぎ、痛みもなくなった。
 「このような事も出来ると証明したかったんだ」
 「それって……、俺じゃなくてもよくないですか!?」
 俺は顔を赤らめて怒った。
 「ま~、そうなんだが武山クンが気になって」
 (それどうゆう意味だよ!)
 と思いながらも俺は、スタスタと席に戻り座った。

 「大丈夫ですか?」
 隣の可愛い子が、俺に声をかけてきて思わず “ドキッ “っとする。
 「あ、いや大丈夫だよ。なんか恥ずかしい所を見られちゃったね。ハハハ」
 「いえ、でも場はなごみましたよ!」
 彼女は “グッ “と親指を立てた。
 「あ、水奈みなの名前まだ言ってなかったですね、【領家りょうけ 水奈みな】って言います。呼ぶときは水奈でいいですよ。武山さんの方が年上だろうし、苗字の領家は堅苦しいので」
 「じゃ~遠慮なく。――でも水奈ちゃんの名前は、ホントに芸能人みたいな名前だね」
 「名前負けしてますけどね」
 と水奈ちゃんは舌を “ペロッ ”と出して笑った。
 (か……、可愛すぎる……。反則だろ……、こんなの)
 思わず頬を赤らめて、
 「いやいや、名前負けなんかしてないよ……、マジで」
 と俺は真顔で言った。
 「あ……、ありがとうございます……」
 水奈ちゃんも頬を赤らめ、俺の言葉に恥ずかしさを隠せないでいた。俺にはそれがまた可愛いらしく思えた。

 「では今の計測を参考に、私もやってみますので見ていて下さい」
 そう言うとセオは、両手を腰の後ろで組みながら、マシンの真横に立ち、俺らの方を見たまま右手を前に突き出すと、裏拳うらけんでマシンを叩いた。
 “――バッゴ~ンッ ”
 物凄い音をたて、マシンが “ガタガタ ”とはげしく揺れた。
 みんながあまりの凄さで呆気にとられていると、マシンの表示が……、何もしめさない。
 「あ~、そう言えばこれは古い機種だから、五百キロまでしか表示されないんでした」

 (……、いやいやいやいや、そうゆう問題じゃね~だろ!)
 少なくともあの大男より、二倍以上の威力をこの爺さんが出したって事だろ。
 「この様に脳は、身体の向上をもになっています。ですが今のみなさんは、十パーセント程の脳力しか使えていません。ですが薬を飲めば私のような力が出せます。……かと言って、そのLCをすぐに飲めと言われても無理な話でしょう」
 セオはそう言い終わると、深刻な面持ちになり、
 「すみません。みなさんが一番気になっている事を、伝えておりませんでしたね。何故ここにいるかを説明します。ここにいる人たちは全部で四十七人います。それぞれ住んでいた地域が異なり、それはすなわち四十七都道府県から一人だけ選ばれてここにいる方々です」
 その言葉に周囲がザワついた。
 「恐らく皆さんは、ここに来る前に職業案内所にいたのではないですか?」
 (確かに俺は、転職活動の為にハロワにいたが……、みんなも職探ししてた人たちなのか?)
 すると水奈ちゃんが、
 「武山さんも……、もしかしてハローワークにいたんですか?」
 俺は「うん」とだけ頷き、答えた後に聞き返した。
 「え? すると水奈ちゃんも?」
 そう聞くと、
 「はい……、ちょっと事情があり、就職活動してました」
 (そっか、人それぞれ事情があり職探しをしに、ハロワに来てるんだもんな)
 と思い、水奈ちゃんに対してこれ以上、突っ込んだ質問はしなかった。
 その間もセオは話を続けている。
 「言わば私は、会社の社長といったところで、みなさんは私の会社に、面接を受けに来た就職活動者です。今は我が社の、会社説明会に参加していると思って下さい。そしてこれから、大事な説明をさせて頂きます。それは自分たちが何故ここにいるのか、死んだはずでは? と最初に思われたでしょう。実際あなたがたは死んではいません。正確には死ぬ直前に私と、ある方たちの力を使って皆さんをここに呼び寄せました。今この場所にいる皆さんは、選ばれた方たちです」
静まり返った会場に、セオの声だけが響く。そして尚も、彼の力説は続く。
 「私の他に力を使える者たちがいます。その方たちの事を【(()選別者せんべつしゃ】と言います、その方たちが、一人ひとりあなたがたの潜在能力をみて、私にコンタクトを取り、その潜在能力が高かった人物を、この空間に呼び寄せました。皆さんの中にここへ来る前に、選別者に気付いた方もいるのではないでしょうか。見知らぬ人物に声をかけられたり、突然携帯を持てと言われたり」
 ――俺は気付いた。
 (カルラ……。剛田さんの方も考えたが、あの人は以前からあの場所で、オヤジ連中と仲良く話しをしているのを何度か見たことがあった。でも彼女は初めて見たし、職探しをしている感じがしなかった。すると彼女が選別者?)
でもその後、どうなったんだ?
 「すいません、その選別者はどうしたんですか? 今どこに?」
 俺は気になってセオに尋ねた。
 「選別者の方たちは大丈夫ですよ。私に近い、もしくは同等の力をもっていますから、自分の身は自分で守っているはずです」
 それを聞いて少し安心した。
 あともう一つ気になる事を聞いた。
 「なんで職安にいる人たちだったんですか? 他を探せば俺以上の人はいたと思うけど」
 「いい質問ですね。確かに職安限定にしたのには理由があります。まずは、生きがいを見失った者。一度でも人生に落胆し、死を考えた者。そして絶望の中でも、何かをしなければと考え行動する者です。あと大事なのは、私のやろうとしている事はあくまで仕事です。つまり我が社は人材を求めておりました。仕事を失っている、又は探している者、精神面で負けずに抗う術を持った方たちが理想でした。そう考えた時、全てに当てはまる人間が集まる場所は職業案内所でした」
続けてセオは言う。
 「それで、理想とする人物を見つける為にある求人募集を出しました。この求人は潜在能力が高い方のみ、検索にヒットする様に仕組ませてもらいました。勿論、私たちの脳力を使ってね」
 それを聞いて俺は、
 「でも検索にヒットし、閲覧したとしても、その求人に応募しなきゃ意味ないじゃないですか?」
 「そこで選別者の方々に頼んだのですよ。脳力を使い、応募させるようにとね」
 (そうか! だからあの時、怪しいと思いながらも、気持ちとは裏腹な行動をしていたのか)
 「それは選別者の力で、操られていたからですか?」
 「そうです。先程も述べたように彼らも、私と同等の脳力をもっています。相手の行動を多少なら操る事が出来るのですよ」
 (なるほど……、それであの時の違和感がハッキリした)
 「では話を続けさせて頂きます。今あなた方がいるこの空間も、私が脳力を使い作り上げたものです」
 衝撃的な発言に、誰も言葉を発しなかった。
 実際に自分たちはこの空間にいて感情を持ち、話し、肌身で物を感じいる。
 ここは現実なんだと思わざるを得ない。
 (こんな事まで出来るのか!)
 脳力と言う物の凄さに驚嘆きょうたんした。

 「では何故みなさんはここへ連れてこられたかと言うと世界は今、地球外知的生命体によって殺されるか、【エイリアン・アブダクション】、つまり捕獲され、そこで人体に改造手術を施され、強化人間にされてしまいます。その強化人間は、生き残った人類を殺すために作られました。つまり奴らの狙いは地球侵略です!」
 衝撃的な内容で、SF映画の世界に入り込んだ様な気分がした。
 (確かにあの時、宇宙船が現れて、そこから小型船が出てきて、死ぬ瞬間、俺はここに連れてこられたけど、剛田のオヤジ達はどうなったんだ? みんな殺されたのか?)
 「ここまでで大体の事が、把握できている方もいるのではないでしょうか。有名な宇宙物理学者は言いました{地球外生命体が地球に来たら、コロンブスの米大陸上陸時のように、先住民族のことをよく知らないため起きた結果【大虐殺】になる}また、{高度な文明を持つエイリアンは、自分たちの惑星が住めなくなった為、別の惑星を植民地化する}と。……それが現実に起きてしまったのです。皆さんも、ここまで言えばわかるでしょう。我々の住むこの地球を守らなければならないのです」
セオの力説に周りは傾聴けいちょうしている。
 「その地球外から来た外来種は、我々より遥かに進んだ文明を持っています。今戦えばサルが機関銃を持った人間に挑む様なものです。対等に渡り合うには、地球人も脳力を底上げしなければならない」
 「なるほど、それであの薬を作った!」
 そう言ったのは、眼鏡をかけたあの若者だった。
 「話が速くて助かるよ、【斉藤 春馬(さいとう はるま】クン」
 春馬は名前を呼ばれ、照れ隠しに “フン ”といった感じで腕組みをした。
 「では説明の続きだが、駆逐して頂くためには薬に適応力のある人間が必要です。そこで私と選別者の脳力を使い、この空間に皆さんを呼び寄せました。奴ら外来種はグリーゼ832Cと言う、遥か遠い惑星から来た宇宙人です。我々は奴らをそのまま、グリーゼ人と呼称するようにしました。距離は地球から十六光年、およそ百五十兆キロメートルも離れた惑星から来ました」
すると春馬が手を挙げ、
 「なんでそんなにそいつらに詳しいんですか?」
 確かに誰もが疑問に思った事だろう。

 「そこを説明していませんでしたね。我々は脳の研究を以前から進めており、なんとか人間の脳の十パーセントを突破できないかを考え、やっと一年前に今の薬、LCの開発に成功しました。と、言っても試薬の段階でした。最初は【ラット】ネズミを使い試した所、投薬後、五秒ほどで身体能力が飛躍的に上がり、一瞬で鉄の檻を食い破り、一人の研究者に襲い掛かりました。腕に噛み付き離れず、三人掛かりで引きはがしましたが、その研究者は腕の肉の一部分が食い千切られてしまいました。ラットはその後、防弾ガラス付きの檻に閉じ込めてから三十分後で通常の状態に戻りました。そして残る実験としては人体実験だけでした。誰もが実験台になる事を嫌がりましたが、研究者の中で一人の女性が名乗り出ました。そして実験者である女性が、その薬を飲み込んだところ、ラットと同じように五秒ぐらいの速さで身体に異常が出ました。最初はまた暴走するのかと皆が警戒しましたが、その逆で静かにその場に立ちつくし、目を閉じ集中しているようでした。そして突然ペンと紙を要求し、何かを書き始めたのです。そこには一年後、地球に害を及ぼす何者かが来る、と言う予言的な文章でした。それを書いたのち三十分ほどで、ラットと同じように女性は元に戻りました。最初は誰もその予言を信じようとはしなかったんですが」
 かなりの長話に、鬼塚は半分寝ていた。

 さらにセオの話は続く。
 「それから数か月後、ラットにも、その研究者にしても、後遺症のような副作用がなかったので、次は別の実験者、今度は男性が試しました。すると様子に変わりはなかったので、私が彼に何か出来ないかと言ったら本人は冗談だったのでしょう、実験室の防弾ガラス目掛けて拳を叩きつけました。すると防弾ガラスは木端微塵こっぱみじんに砕け散りました。それを見て研究者たち全員が実感しました。どうやら薬は完成し、脳の限界を超える事で、身体的向上も計れたのだと。ラットは暴走したかに見えましたが、恐らく脱出しようとしたのでしょう。最初の実験者は脳の別の部分が飛躍的に伸び、第六感【シックスセンス】ともいうべき場所を使って、何かが見えたと考えられます。その脳の限界を超え、近い未来の出来事まで読みとる事が出来たと考えました。ですがその予知も近い未来しか読み取れず、他の者たちも薬を飲みましたが、女性の様に未来を読みとる事が、出来る者はおりませんでした。これは個人差によって、発揮する能力が違うと言う見解に至りしました。つまり身体的向上は薬を投与した人間、全員が等しく力を発揮出来ますが、それに加えて個人それぞれ突出した脳力を持つことが出来る、という事です。そして予知脳力を持った研究者は、再び薬を飲み集中しました。すると月日が経ったせいか地球に接近してきているグリーゼ人との距離が縮まり、奴らの詳細までも彼女は分かるようになりました。そう、彼女の予知脳力のおかげで、我々人類は相手より先に、対抗策を練られたのです。その個々の脳力を見極める事も含めて、皆さんにはこれから一人ひとり個人面談と言う形で、実際にLCを服用し、脳力を見させていただきます。ですが勿論、強制はしませんが、現状を知れば分って頂けると思います」
 「あの……選別者は世界に四十七人しかいないのですか?」
 と水奈が聞いた。
 「いいえ、あくまで私の管轄する日本では四十七人ですが、世界にも少なからず私のような国の【管理者】と選別者がいて、おそらく同じような事をしていると思います。正確な人数は分かりませんが、少なくとも管理者は、国連加盟国を考えて百九十人程度はいると思います。その管理者それぞれが当時の研究者たちで、皆LCを持ってます。あなた達のように適合者を見つけて、その薬を渡しグリーゼ人と対抗する為に……」
 「ちょっと待ってください。なぜこの世界の管理者や選別者たちは、団結していないのですか? 団結すれば戦況を変える事が出来るんじゃないですか?」
 春馬がセオに鋭い質問を投げかける。
 「確かに団結し続ける事が出来たら、少しは希望が持てたのだが……」
 セオは肩を落とし、下を向きながら話し続けた。
 「実は私が皆さんをここに呼び出して、既に一月ひとつきが経っています」
 “え? ”と誰もが思っただろう。職安からここに呼び出されて、気が付いた時には一か月も経っていたなんて……。
 「無理もないでしょう。瞬間的にこの場に連れてきたのですから、皆さんには肉体的負荷が強すぎたのでしょう。それで極度の気絶状態になってしまっていたのです。その間にグリーゼ人は、自分たちの技術力を使い地球侵略を開始しました。まず地球人たちが一致団結し、抵抗するのを防ぐために、世界の各国を孤立させ、大陸を一つ一つ国ごとに分断したのです。分断と言っても各国に次元空間を作り、外部との連絡を絶つために閉じ込めたのです。今こそ世界の国々が手を取り合い、一致団結する時だったのに……。奴らの技術力の前に、我々人類は無力にもそのすべを絶たれてしまったのです。それだけではない、日本も都道府県ごとに分けられてしまいました」
その言葉に誰もが絶句した。だがその中で俺は聞いた。
 「国内でも連絡が取れないって事ですか?」
 「そうです。都内、県内、道内では連絡が取れますが他の都道府県、つまりは隣の地域さえも連絡を取る事が出来ません」
 「そんな……ではどうしたら……」
 俺がガックリと項垂れるとセオは、
 「ですがそれぞれの地域には敵の指揮官がいます。そいつを倒すのです。そうすれば奪還した地域は空間が破られ、隣の地域へと応援に向かう事が出来ます。例えるなら、東京を奪還したら隣の千葉、埼玉、神奈川へと行く事が出来るのです」
 「どうしてそうする事で、そうなるとわかったのですか?」
 疑問に思い、俺は聞いた。
 「それは既に北海道へ、選別者たちを集め、力を結集し、指揮官らしきグリーゼ人を倒した事で隣の青森県に行けることが確認出来たからです。ですがだからと言って、選別者たちだけでは時間が掛かってしまい、グリーゼ人もその間、大人しくはしていないでしょう。ですから選別者と適合者で、各都道府県を短時間で奪還して欲しいのです。そうして日本を取り戻し、世界をまた一つにするのです。それにはまず人間の潜在脳力を開放し、立ち向かわなければなりません。通常の人間ではとてもではありませんが、グリーゼ人には敵いません。体力もそうですが知力がすでに、人間よりも勝っているからです。個体それぞれがLCを使った人間と同等の力を持っています。倒すのはあくまで指揮官一人のみですが、そう易々と指揮官の場所までは行けないでしょう。ですがこれから個別に見させてもらう個々の得意な脳力を私が見つけ、その脳力を最大限に活かせるすべを教えます。それでグリーゼ人に勝てるでしょう」
 「今までの事を全て覆すような事を言いますが、予知能力者はこの事を予知出来なかったのですか?」
 春馬が “キラリッ ”とメガネを中指で押し上げながら言った。
 「他の方も春馬クンと同じ事を思ったかも知れませんが、残念ながら予知能力を持った彼女は、既にこの世にいません。なぜなら彼女は不治の病を患っていました。だから実験の時、自分の寿命が短い事を知り、率先して名乗り出たのです。その病の為、彼女の体力が自分自身の脳力についていけずに……。非常に残念です。彼女がいてくれれば……。だから現状に至るのだよ」
 セオは唇を噛みしめながら、悔しそうに言った。
 そして再び話しを元に戻す。
 「世界各国の状況は分かりませんが、まさか国はおろか、都市さえもこんなに細かく分断してくるとは思いもよりませんでした。グリーゼ人は、かなり用意周到に計画していたのでしょう。もしかしたら以前から人々が見てきた、UFOは奴らのドローン、つまりは偵察機で地球を調べていたのかもしれません。でなければこんなにも短時間に奴らの思い通りになったとは考えにくい。」
 「下手したら政府の中にも裏切り者がいて、情報を流していた恐れもあるのでは」
 春馬が立て続けにセオに尋ねる。
 「確かに我々もそれは考えたが、私たちにはそう言う者を探す脳力にけた者がおらず、徒労とろうに終わったよ。だが我々は不幸中の幸いか、脳の研究でLCと言う、奴らに対抗できる唯一の物を作りあげていた。私はそれを使い奴ら、グリーゼ人に対抗することを、世界の研究者たちに誓い、製造方法を教えていた。恐らく散らばった研究者たち、いや今では管理者たちはLCを作り、選別者を使って、適合者に薬を渡し、グリーゼ人に対抗し始めていることでしょう」
 彼は言い終わると、指を “パチン ”と鳴らした。すると、

 “――シュン……シュシュシュン ”

 と言う音と共に、セオの周りに突然何人もの人影が現れた。
 そしてその中に……カルラはいた。そう彼らは選別者たちだ。
 「カルラ……」
 俺は思わず彼女のもとに駆け付けた。
 「大丈夫だったんだな、良かった! ……それで剛田さんたちは?」
 「あの人たちの運命を、私は変えられなかった」
 彼女の感情無い喋り方に、俺は落胆した。
 「そっか……分かった……」
 俺は自分の席に戻った。
 「分かると思いますが、彼らは選別者です。それぞれ見覚えのある顔がいるとは思いますが、私情は一先ずあとにして頂いて、私の説明を続けさせてもらいます」
 セオが俺を横目で見ながら、周りに言った。
 「先程の続きですが、世界が分断され各国の管理者にも連絡が取れないので状況は分かりません。ですから我々は、この日本をまず先に解放します。これから言う事は忘れないでください。皆さんが自分たちの地域に戻った時には、既に周りは焼け野原かも知れません。グリーゼ人に占領されているでしょう。ですがそれぞれの地域には敵の指揮官がいます。それを倒すのが各々の目標です。それにはこのLCが必要になります。限界を超えなければ勝てません。逆にこれさえあれば、各都道府県は奪還出来ます。そして奪還した地域は隣の地域へと、応援に向かう事が出来ます。そうして日本を取り戻し、世界をまた一つにするのです。それにはまず人間の潜在能力を開放し、立ち向かわなければなりません」
 とセオは力強く熱弁ねつべんを振るった。その言葉にみんなが唾を飲みこみ頷いた。薬を飲むのに躊躇ちゅうちょしていた者を説得するには、充分すぎるほどだった。

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