進化上等~最強になってクラスの奴らを見返してやります!~

三浦涼桜

第一話 プロローグ

 僕の名前は海崎うみさき ひかる
 普通の高校生だ。
 特に突出したところもなく、勉強も運動も普通。
 アニメや漫画にもあまり興味がなく、テレビもあまり見ないので周りから世間知らずとよく言われる。

 特にいじめがあるというわけでもなく、クラスのみんなは仲がいい。
 何もない、それゆえの幸せな時間。
 普通のこの時間が、僕は好きだった。
 でも、そんな幸せはいつか壊れるってことを、僕は一番理解していたはずなのに。
 僕は頭の中で、きれいに忘れ去っていた。

「それじゃあHRを終わるぞー。日直」
「起立、気をつけ、礼」
「「「「「ありがとうございました」」」」」
 水曜日最後の授業が終わり、僕は伸びをしながら帰宅準備をする。

「おーし、晃、ゲーセン行こうぜ」
 僕の肩をど突きながら、親友である海城かいじょう 幸希こうきが話してくる。
「今日は来週のテストに向けて勉強するって言ってたじゃないか。ゲーセン行ってる暇があるならちゃんと勉強しなきゃだめでしょ」
 僕の反応に幸希は面白くなさそうな反応を返す。

「ったくこれだから優等生は違うよな~、頭交換してくれよ」
「そんな猟奇的なことはしないよ」
「脳だけならOK?」
「NOだよ」

 そんな軽口をたたいていると、目の前から女子が歩いてきた。
「晃君たち今帰り?」
「うん、今帰るところだよ、静香」
 目の前の女子の名前は久美先くみさき 静香しずか
 僕の幼馴染であり、この学年の二柱女神である。確か非公式ファンクラブも設立されてたはず。

「そうなんだ。ねぇ、どこか行くの?」
「今から僕の家で幸希と一緒に勉強会をする予定」
「あ、なんなら久美先も一緒に来たらどうだ?」
 幸希が静香を誘う。静香は全国模試でもトップ10に入るほど頭がいいので、来てもらえるとこちらもうれしい。
「いいの? じゃあ私も行かせてもらおうかな」

「じゃあ私もいくー」

 静香が答えるのと被せるように、後ろから声がかかる。正確には幸希の後ろから。
「やべっ」
 幸希は慌ててその場を離れようとするが、首に手を回されて徐々に首を絞められている。
 僕は幸希に心中で軽く詫びながら、幸希を絞めあげている女子生徒に声をかける。

「おはよう、刎内さん」
 僕は眠そうな顔で幸希の首を絞める女子の名前を呼ぶ。
 刎内はねうち 南海みなみ
 静香の親友で、この学校の不良をまとめる番長ヤンキーだ。
 幸希とは幼馴染で、言葉が出るよりも手が出てしまう困った生徒である。

 父親がヤクザの元締めなので、たとえ教師であろうと彼女を止めることはできない。
「おう、晃。私も行っていい?」
「別にかまわないけど……」

 意外かもしれないが、刎内さんは頭がいい。この学校のトップ20にははいるのではないだろうか。
「ご飯食べに来るのだけは勘弁してよ」
「大丈夫大丈夫。次から親父連れてくるから」
「大丈夫じゃなかった!?」

 僕はすこし刎内さんの家に借りがあり、よくヤクザの仕事を手伝わされたりしていたので、刎内さんの父親とも面識がある。あんな優しそうな人がヤクザの元締めなんて、人は見かけによらないというものである。

「まあ、構わないけど、いきなり来るのだけはやめてよ。心臓に悪いから」
「アハハハハ。まあ善処するよ」
「ねぇ南海。そろそろ幸希君離してあげないと……死んじゃうよ?」
 静香がオロオロとした風に言うと、しぶしぶ幸希を離す。
 幸希がゼェーハァーと肩で息をして、僕のほうを見る。
「おまえ、後で覚えとけよ……」
「悪かったよ。あとでアイス奢ってあげるから」

 僕たちはワイワイと騒ぎながら、扉にドアに手をかける。

 ―――――ドアが開かない。
「あれ、ドアの建て付けが悪いのかな?」
 がたがたと揺らしてみたりするが、ドアは開かない。
「おい、窓も開かねぇぞ!」
「割ったり出来ないの!?」

 クラスは騒然となる。

 次の瞬間、教室の床が光り始めた。
「! おいおいなんだよこれは!?」

 そして、その光に何かを言い終わる間もなく。

 僕たちの姿は、この場にはなかった。







「……てくだ…い…………起きて下さい」
 その声に、僕たちは目を開ける。
 そして、その目に飛び込んできた光景に絶句した。

 そこには、何もなかった。
 真っ白で何もない世界。まるで、真っ白な紙の中に入り込んでしまったかのような。
 驚いているのは僕だけではないようで、ほかのみんなもこの光景に驚いている。

「やっと目が覚めましたか」
 その声に僕たちは飛び跳ねるように後ろを向いた。

 そこには、絶世の美女が佇んでいた。
 人ではありえないような存在感を放ち、人にはない、一対の白銀の翼があり、その姿はまるで神そのもの。
 男子はその姿に見惚れ、女子はそんな男子を見て嫉妬のこもった目線を向けている。

 僕は困惑していた。僕にだって人並みの性欲はある。ほかの人と比べると大人しいといわれるが、自分ではそうでもないと考えている。
 そんな年頃の男子高校生である僕は、目の前の美女を目にしたとき、何も感じなかった・・・・・・・・
 それだけ聞けば、男好きなのかと言われそうだが、そうではない。その証拠に静香や南海にはそういった感情を持つこともある。

 だが、目の前の美女を見たとき、美しいや綺麗だ、などという言葉よりも、危険だ、という感情が沸き上がった。だから自然と、彼女を見る目が鋭くなる。

 そんな時、彼女と目が合った。彼女は一瞬驚いたような様子を見せた後、再びクラスのみんなに目を向ける。
「みなさん、まずはあなたたちが一体なぜこんなところにいるのか、ということを説明しましょう。あなたたちは、地球で言うところの異世界である【アルティリオス】の国の一つに、勇者として召喚されました」
 女性がそこで言葉を区切る。
「ゆ、勇者?」
「い、異世界って……なんなんだよそれ!」
「俺たち地球に帰れるのかよ!」

 クラスが騒然とする中、僕たちの教師である弘原海わだずみ たけし先生が、皆をなだめた後、代表して彼女に聞く。
「最初に聞きたいのですが、あなたは誰ですか?」
 弘原海先生の問いに、彼女は答える。
「申し訳ありませんが、名前を教えることはできません。あえて言うとするならば、女神とだけ答えておきましょう」
 再びクラスがざわざわとするが、今度は副担任がクラスを代表して話す。

「私たちが今から召喚される世界はどういった世界なのでしょうか」
「あまり話すことは出来ませんが、科学の代わりに魔法が存在し、魔物と呼ばれる化け物が蔓延っている世界です。あぁ、心配しなくても、このままあなた方を召喚させるつもりはありません。せっかく召喚されるのにすぐ死なれては困りますからね。ですので、あなた方には恩恵、あなたたちが言うところのチートを渡したいと思います。これはあなたたち一人ひとりが持つユニークスキルですので、それなりに強力なのは保証しますよ」

 彼女―――――女神が一気に捲し立てる。

「時間もございませんので、早速スキルを譲渡したいと思います。…………はい、もう渡し終わりました。それでは、あなた方にはアルティリオスに跳んでいただきます」
 女神は皆に質問をさせる暇もなく、異世界に跳ばした。

「さて、残るはあなただけですね」

 女神はこちらを向く。

 そう。女神は僕だけを意図的に残していた。
 僕は警戒するように後ろに下がる。
「ふふふ、そこまで警戒しなくてもよいでしょう?」
「ううん、僕の本能があなたを警戒しろとうるさいんですよ。それより、なんで僕だけをこの空間に残したんですか?」

 僕の質問に、女神は微笑みながら言う。
「あなたには素質があります」
「素質……?」
「ええ、あなたには、神を殺せる素質があります」
 女神の物騒な言葉に、僕は驚きを隠せない。
「それはいったいどういった意味……」

 僕の質問に被せるように、女神は言う。
「本当は言ってはいけないのですが、あなたには言っておきましょう。私の名を」
 僕の目をじっと見つめ、言い放つ。
「私の名は―――――ミルティスです」







「起きて下さい、晃君!」
 僕の名を呼ぶ声に、僕の意識は覚醒する。
「やっと起きましたか……心配しましたよ」
「ごめん……皆は?」
「もう別室で待機しています」

 静香の言葉を聞き、部屋を見渡す。
 床に敷かれた赤い絨毯。
 晃は静香に聞く。
「ねぇ、ここはいったいどこなの?」
「……ここはアルティリオスの人族領【グリンデル皇国】ですよ」

 どうやら僕たちは普通という幸せを奪われたようだ。

コメント

  • ノベルバユーザー602508

    とても面白かったです。

    0
  • ノベルバユーザー601712

    面白いです。続きも楽しませてもらいます。

    0
  • ノベルバユーザー297118

    面白かった

    2
  • チイター

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    8
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