探す妻

とびらの

探す妻

 妻が死んだ翌日、遺品を整理しようとタンスの引き出しを引いた僕のすぐ横で、妻がジッと見ていた。 

 そして自分の洋服が詰まった段に手をつっこみ、ぐるぐるとかき回して、「ここにはないなぁ」とつぶやく。 

 「なにを探してるんだ、おまえはもう死んだのに」 

 と、僕が聞くと、妻は「わからない。でも見つけないと」と独り言のようにブツブツ答え、ふらりと白い足をゆらめかせ退室した。 

 寝室から続くリビングに向かうと、妻がやはりうろついている。キャビネットをあけ、食器棚や貴重品箱の引き出しをスゥと覗いては無い、無いといって移動する。 

 なにを探しているのか本人もわからないらしいが、実際にこの家にあるのだろう。だからこうして地縛霊、あるいは3LDKの平屋室内に限り浮遊霊になっている。忘れているのは死んだショックのせいか、それとも元々の性格だろうか。

 しっかりものに見えて案外抜けたところもある妻だった。 

 しかし探してうろつくだけなら未だしも、いちいち扉を開け放し、棚を出してはそれを戻さないのに苛立ちを覚える。 

 最初は僕が妻のあとをついて、閉めて回ったが、しまいには面倒になり普通の生活をすることにした。 

 ときに、僕のジャケットやズボンのポケットに手を入れてくるのだけは断固抗議したが、霊になった妻の理性は稀薄なものらしい。聞き入れてはもらえなかった。 

 そして妻の霊は、家事などはもちろん出来なかった。もしも妻が捜し物を諦めたとしても、やってはくれないだろう。世話になりたくもないが。僕はこれから独りで生きていかなくてはならないのだ。 

 僕は冷蔵庫をあけ、ひとまず、ナマモノや妻が生前作り置きしたものを温めて、食事をとった。 

 僕が食事をしている間も妻は床にはいつくばり、テーブルの下をうろついて、木目の隙間を覗いていたりした。 

 2日が経ち、冷蔵室のものが一通り片付いた。 

 次に、僕は冷凍室を開いた。日持ちがするためあとまわしにしていた冷凍物の消費にかかろうとしたのであるが、餃子を取り出したとき、妻の声がした。 

 「あ、あった」 

 妻は、冷凍室のなかでパーツわけにされた自分の身体を指差した。 

 ああコレを探していたのか、と納得をしたが、妻は自分の死体を乱暴に放り出してしまう。そして首の肉に張りついていたペンダントを回収した。
 鎖骨のすこし上で切断してはいたが、血で濡れたまま冷凍したために、皮や肉に張りつき引き剥がす必要があった。 

 ペンダントのチェーンにはリングが2つ付いていた。妻は大きい輪のほうを、にっこりと笑って指差した。 

 「おたんじょうびおめでとう、あいしてるあなた」 

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コメント

  • ノベルバユーザー602658

    亡くなったはずの妻との世界、おもしろかったです。

    0
  • 形の無い悪魔

    狂気だわ

    0
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