ヒーローライクヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その4・自問自答

[クロノ]
カイズが門を起動し、向こう側の世界から1人の人間がこちら側に送られてきてしまった。
その人間は自分が向こうにいた時に住んでいたアパートの隣人だった。
クロノ「高坂さん‼︎」
高坂「玄野さん⁉︎あの、え?何これ?」
(なんでよりによってあの人が‼︎)
カイズ「実験は成功か…これなら問題はないな…」
クロノ「てめぇ、何のために‼︎」
カイズ「簡単だ。向こうの資源、技術…あらゆる物を略奪し、この世界に持ち帰る。そして、強大な力で全てを従える。それだけだ。」
クロノ「んなクソくだらねぇもんのために‼︎」
高坂さんの所に行こうと足を踏み出す。
その瞬間銃声が鳴り、シーラの足から血が吹き出る。
シーラ「きゃあああ‼︎」
クロノ「シーラ‼︎」
撃ったのはメイだ。
メイ「警告は1度までと言いました。」
顔をシーラに向けたままこちらに話しかけてくる。
マキノ「今のメイは誰の言うことも聞かない…。私が許可を出さない限り…。」
(命令は続行中か…)
シーラ「大丈夫…大丈夫です…」
シーラの顔は苦痛に歪んでいるが、耐えようとしている。
カイズ「次にあいつが動いたらそこの女を狙うよう指示しろ。」
(なんだと⁉︎)
マキノ「な…⁉︎」
クロノ「てめぇふざけんな‼︎」
シーラ「マキノさん…‼︎」
カイズ「マキノ?」
マキノ「くっ……メイ…聞こえたな?次の対象はそこの女性だ…」
マキノが嫌々ながらも応じている。
マキノはこの状況を良しとは思っていないということか。
メイ「了解しました。」
高坂「玄野さん…?これ…何が起きて…」
自分の真横でいきなり人が撃たれ、その上自分に銃口向けられたら誰だって真っ青になる。
クロノ「高坂さん。そこから動かないで。何とかして助けるから。」
高坂「えっと…なんて…?」
クロノ「そこを動かないで!」
高坂「あ…え…あの…何て言ってるのか分からないんですが…」
(何て言ってるか分からないってどういう…あぁ、そうか…そういうことか…‼︎)
自分がこの世界に来たときにハゼットに喉をいじられた。
話す言語が違うため、日本語はこちらの世界の住人には通じないし、こちらの言葉は向こう側の世界の人間にも通じない。
しかし、ハゼットに日本語を自動的にこちらの言葉に翻訳する魔法をかけられたことにより、こちらの世界で何の問題もなく会話ができるようになった。
この魔法は自分が発した日本語を魔力が分析して、魔力から俺の声でこちらの言葉を発しているものだ。
つまり、俺の喉では日本語を発しているのに、口から出ている言葉はこちら側の言葉なのだ。
俺が日本語を喋れば問答無用でこちら側の言葉になってしまう。
こちら側の言葉を知らない高坂さんには俺が何と言ってるのか分からないのは当たり前だ。
クロノ「えーっと…えーっと…ステイ‼︎ウェイト‼︎」
手のひらを高坂さんに向ける。
高坂さん「動くなってこと…?」
クロノ「そう‼︎そう…」
首を縦に振り、正解だと示す。
(さて、どうする…めちゃくちゃ面倒くさい状況だぞ…)
ジェスならこのタイミングで入ってきてくれたりするものだが、今のあいつは戦闘中だろう。
それとも終わっただろうか。
後ろのドアが開いた音がする。
カイズ「お前か…」
後ろを振り向く。
クロノ「最悪だ…本当な最悪なタイミングで最悪なやつが…」
ハンス「やっぱり…面白いことになってたじゃないか…どうだい…?クロノ…」
ハンスが両手に自分の剣を持ち、腹を抑えながら入ってきた。
カイズ「クロノがここにいるのだから死んだのかと思っていたが、よく生きていてくれた。」
ハンス「クロノが僕に情けをかけたのか…生かしておいてくれたんですよ…でもねクロノ…僕に情けをかけても改心するつもりはないよ…僕は…町長殿から…実験が成功したら世界を1個好きにしていいって…言われたからね…」
足を引きずりながら門の方へと歩んでいく。
カイズ「さて、クロノ。門の実験の成功も見れたことだし、ハンスが来てくれたことで色々とやりやすくなった。」
クロノ「なにを言ってんだ…」
ハンスがシーラの姿勢を正す。
背筋を伸ばさせ、膝で直立させる。
高坂さんにも同様のことをする。
シーラと高坂さんの間に立ち、両手の剣をそれぞれの首に押し付ける。
クロノ「何してやがる…⁉︎」
カイズ「クロノ、私は君に死んでもらわなくてはならん。このまま君を逃してしまえば、何年かかろうと邪魔をしてくるだろうからな。だが仲間想いな君のことだから、人質でもとれば何とかなる。君に3つの選択肢をやろう。そこの君の知り合いである女性を見殺しにし、シーラを助け、ラフの連中と引き続きギルドの一員として活動するか。シーラを見捨て、そこの女性と向こうの世界へと戻り、君が本来送るはずであった生活を取り戻すか。この2人を助け、自らの命を差し出すか。」
(なんだよその選択肢…)
マキノ「町長‼︎それはあんまりだ‼︎」
カイズ「逆らうなマキノ。ここまで完成させてくれたのだ。君は用済みでもあるのだぞ?」
マキノ「だが…⁉︎」
カイズ「逆らうか?」
マキノ「あぁ……あぁ…クロノ…すまない……本当に…こんなことになるなんて…‼︎」
マキノが泣き崩れてしまう。
クロノ「あんたは悪くない。カイズがクズ過ぎるだけだ。マキノは悪くない。」
ハンス「クロノ…早く選ぶんだ!さもないと2人とも斬ってしまうぞ?」
シーラ「クロノさん‼︎」
高坂「玄野さん‼︎」
(あぁもう‼︎どうすれば⁉︎)
シーラ「クロノさん、私はいいですから‼︎この人を‼︎」
(そんなこと言うなよ‼︎ちくしょう…ちくしょう…‼︎)
カイズ「クロノ、君が死ねばこの2人が助かるんだ。そこの女性も元いた世界に送り返してやる。約束しよう。安全に送り届けると約束する。さぁ、選ぶんだ。」
(考えろ…考えろ…考えろ…)
『さすがに頭ん中パンク中か?まぁ、そろそろ頃合いってところだし…ちょっとツラ貸してよ。』
クロノ「へっ?」
頭の中で声が鳴る。
ふと周りを見ると、シーラも高坂さんもマキノも誰もおらず、ずうっと真っ黒い空間が広がっている。
『今のお前の精神状態をそのまま映すようにしてもよかったんだけどねぇ…さすがにあんな面白グロい光景の中じゃあしっかり考えられないだろうと思ってシンプルなのにしたんだ。これの方が落ち着くんじゃない?』
声がする方を振り向く。
そこには1人の男が立っていた。
顔だけ黒いモヤモヤした霧がかかっているせいで見えない。
クロノ「あんたは…」
『じゃあ問題です。俺は誰でしょう?まぁ、今あんたが心ん中で思ってるのが正解だと思うよ?』
霧はだんだんと消えていき、顔が見えてくる。
この男の顔を見たことがある…
クロノ「…俺?」
『ピンポーン‼︎じゃあ次の問題。俺の何だと思う?』
クロノ「………」
『ん〜、名前くらいは知ってるはずだぞ?ほらもうちょい思い出せって。それっぽいのがあるから。ほら!今!思った!それそれ!ちょっと言ってみ?』
クロノ「俺の…闇…?」
『大せいか〜い‼︎そう‼︎俺はあんたの闇だ。』
ハゼットさんが魔力を持っている者全員に闇を抱える可能性があるとか言っていたが、俺にもあったなんて…。
『まぁ、闇ってのはヤンデレちゃん以外にも自分が究極の選択を迫られてる時にも現れちゃうものだからね、仕方ないね。さて、それじゃあ次の問題です。』
クロノ「それより、あの2人を…」
『だーいじょぶだいじょうぶ‼︎ここは外とは違って時間が経たないの。あんたが俺とのお喋りを終えて元に戻るまで、外は1秒も経たねぇよ。これは…あれだよ、あれ。この間0.1秒!ってやつ。さぁ次の問題出すぞ!あんたは究極の選択に対する葛藤、当惑、及び困惑という条件によって闇が発動したわけだが…さて、その究極の選択とは何でしょう?』
究極の選択…
クロノ「シーラと高坂さんと俺の誰を犠牲にするか…」
『はいブブー。ザンネーン。連続で当ててくれたら嬉しかったのに〜。』
クロノ「は?」
『まぁ、これを当てられちゃったら俺が出てきた意味がないんだけどね〜。』
クロノ「何を言って…」
『誰を助けて誰を犠牲にするか、に関する答えはあんたはもう決まっている。あんたは別のとあることで悩んでるんだ。それに関しても答えは決まってるっちゃあ決まってるんだが、その決めた理由がどうにも認めきれないでいるから、今のこれを迷ってるって思おうとしてるんだよ。』
(何を言ってるんだ…?)
『何を言ってるって言われても、これはあんたの頭の中の話だぜ?俺はな、あんたの闇なんだ。あんたの本心の奥の奥。だから、あんたよりあんたの心の中を知ってる。でも表の意識であるお前がそれを認めようとしてないんだよ。』
クロノ「じゃあ俺は何に悩んでるってんだよ…」
『まぁ、今のあんたじゃあ何日分の時間取ってもわかんにゃいだろうね〜。仕方ない、答えを教えてしんぜよう。ズバリ、だ。あちら側の世界に戻るか、こちら側の世界に残るか、で悩んでいるのさ。』
クロノ「戻るか残るか…?」
『さて、ではここで再び問題です。今度こそ当ててもいいのよ?何が原因で、戻るか残るかを悩んでいるのか。その原因となる理由を答えよ。』
原因となる理由…?
クロノ「こっちでできた友人と離れたくないから…」
『ぶー』
クロノ「あっちの世界に友達がいないから…?」
『ぶぶー』
クロノ「なんだよ…じゃあ…」
『分かってるはずだぜ?でもあんたの良心が納得いってないのさ。』
なんなんだ…
『この世界でお前はたくさん人を殺したよな?ベルージアで何人か、ヤシュールで何十人か…。さすがに3桁にはいってなかったとは思うが、かなり殺したよな…?……楽しかったか?』
クロノ「はぁ⁉︎」
『人殺しは楽しかったかって聞いてんだ。どうなんだ?正直に答えてくれ』
いつの間にか体が動かない。
そしていつの間にか、闇は右手に剣のようなものを持っている。
『俺のご機嫌をとろうとそれっぽい回答はしなくていい。人殺しが楽しかったかどうかっつー質問に正直に答えてくれ。それが答えなんだ。』
クロノ「俺は…俺は…」
『俺は…?』
クロノ「人殺しは好きじゃない。嫌いなやつだとか…悪いやつを殺すのは…好き、というか…やってて嫌にはならない…けど…罪もない人を殺すのは嫌いだ…。」
『それでファイナルアンサーってことでいいんだな?』
闇が剣を振り上げる。
これは俺の本心なはずだ。
クロノ「あぁ。」
『………ピンポーン‼︎いや〜、なんか久しぶりに当ててくれた気がしたね〜‼︎そう‼︎あんたは人殺し自体は好きじゃない。悪人を殺すのは大好きなんだが、そこのズレはまぁ、許してやろう』
剣を降ろす。
『さて、本来の問題はこっちじゃないな。なぜ、戻るか残るかで悩んでいるのか。もう分かるんじゃないのか?』
(悩む理由…それは…)
クロノ「向こうの世界じゃあ、人を殺せないから?」
『ぶっちゃけて言うとな。殺せないことはない。勇気を出せば向こうの世界でも殺しはできる。でも、その後は裁判、からの刑務所送りだ。当然だけどね。でもそれのおかげで、悪いことしようってやつがあんまり増えない。それでも増えてるっちゃあ増えてるけど、そいつらを殺しても自分が一方的な極悪人になっちゃうからね。こっちの世界だと…同じように人から嫌われるし、捕まって死刑にされる可能性もあるし、あんまり変わらないが…楽しいアクションが待ってる。正義も執行できてハリウッドも土下座するレベルのアクションもできるこんな世界から離れたくないから。それが理由だ。さて、これを聞いてどう思った?』
クロノ「どうって…」
『特に何も思わなかったなら、あんたはそれで納得いったんだろう?あんたは受け入れたんだ。俺をな。』
クロノ「闇を…受け入れたのか…?」
『実感もないってか?でもまぁ、受け入れたのは事実さ。それじゃあ。』
闇が持っていた剣が自分の心臓に突き刺さる。
だが、不思議と痛みは感じない。
『ここからは俺に代わってもらおう。俺が外であんたの代わりにあんたのやりたいことをやる。安心しろ。あんたから意識を奪うんじゃない。あんたが俺に気づくだけだ。何も問題はない。』
だんだんと意識がなくなっていく…。

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