ヒーローライクヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その3・もう一つの門

[クロノ]
ハンス「はぁぁぁ‼︎」
上段から振り下ろされた剣を後ろへ避け距離をとる。
ハンス「せぇいやあああ‼︎」
こちらへ突進しながら連撃を加えてくる。
(隙はあるけど…攻める暇がねぇな…‼︎)
ガラ空きになっている部分は分かる。
剣を振り下ろす時は脇腹辺りの防御がない。
だが、攻めの勢いが強すぎてそこを突く暇がない。
(いや待てよ?わざと隙を見せているとしたら…?)
誰でも見つけられそうなほどガラ空きでむしろ怪しい。
(いやそれこそが罠という可能性も…)
相手を惑わす作戦ってのはちょっと考えてきやがるだけでも本当に神経使わされる。
ハンス「避けてばっかりじゃあシーラに追いつかないよ‼︎」
クロノ「あぁ、そうかい。」
剣を振り下ろしてきたところの手首を掴み、相手の右側に立つ。
ハンス「なっ⁉︎」
相手の左手の手首を内側に捻り、引っ張る。
人間は手首を捻られると痛い。
かといって捻られたものを戻そうとする力では耐えられないので、手首の向きを正しい位置に戻そうとして体が勝手についていってしまう。
その相手の右足に自分の左足を置く。
人間は前に進もうとしているところに足を置かれるとつまずいて転んでしまう。
ハンス「ぐぁっ‼︎」
後は相手の重心で上手いこと勝手に転んでくれるはずだ。
クロノ「昔見た合気道の動画でこんな感じのことをやってた気がするな。」
剣を奪う。
ハンス「くぅ…」
立ち上がらないように背中を床ごと剣で刺す。
ハンス「がぁっ‼︎」
クロノ「悪いが遊んでる暇はないんでな。これでも俺は強いんだ。シーラをどこに連れてったか吐いてもらうぞ。」
ハンス「くっ…ふふふ…とてもびっくりするだろうね…あそこに誰がいるか…」
クロノ「早く吐け。」
頭を掴んで地面に叩きつける。
ハンス「あがっ‼︎はぁ…ははは…町長の実験室にいるよ…シーラはそこに連れてくよう指示したんだ…」
クロノ「町長の実験室だ?何のために?」
ハンス「別にどうかしようってわけじゃないさ…その方が面白くなるかと思ってね…実験室は地下にある…二階降りた階だ…一本道だから…すぐに分かるんじゃないかな…」
クロノ「実験室って、何を実験してるんだ?」
ハンス「行ってみるといい…それこそ面白いことやってるからさ…」

ハンスに言われ城の地下に降りる。
言われた通り一本道で道中に何もない。
途中で大きな扉が見つかる。
クロノ「これがハンスの言ってた実験室か?」
押したりではなく横にスライドするタイプのドアだ。
ドアを開け、中に入る。
早速大きな機械が目に入る。
部屋もちょっとした会場くらいあるのに、機械だけでその半分埋まっているくらいにでかい。
機械の中心には光の渦ができている。
(魔界と人間界をつなぐ門みたいだな…)

機械の横にシーラが座っていた。
というか拘束されている。
シーラ「クロノさん…」
クロノ「おまたせ。」
シーラの隣には腕が小型の大砲のようになっている女が立ち、シーラに銃口を向けている。
クロノ「メイ?…ってことは…」
その横に見たことある白衣が立っている。
クロノ「こんなもの作れるのはあんたくらいか。まったく予想してなかったぜ?マキノさんよぉ。」
マキノ「…すまない。」
申し訳なさそうな顔で立っている。
マキノ「協力しろと、言われてな。本当にすまない。」
クロノ「こんな大層なもん作ってんのに、よくもまぁ研究室留守にしなかったなぁ。」
マキノ「右側の壁を見てくれ。」
(右?)
言われた方には同じく光の渦が見える。
マキノ「研究室の私の部屋とをつなぐワームホールだ。それで行き来ができる。」
クロノ「なるほど。いつ訪問されてもあっちに一瞬で戻ることができると。」
マキノ「あぁ。こっちの研究を疎かにはできないし、かといって怪しまれるわけにもいかないしな。」
クロノ「ふーん。」
光の向こう側には写真立てやベッドやマキノの私物などが散らばっている。
クロノ「隠れてこういうことやって…仲間だって思ってたのはこっちだけだったってか…意外とこういうの辛いな。」
マキノ「違う‼︎違うんだ…その…」
クロノ「もしかして、前からギルドのメンバーだった人ってみんなグル?」
マキノ「いや、私だけだ。私とメイ…」
ハゼットさん達はこれを知らないのか?
クロノ「これ何の機械?」
男「これはこの世界と異世界とをつなぐ門を形成する為の機械だ。」
後ろから声が聞こえてくる。
男「直接会うのは初めてだな。カミヅキ・クロノくん。私はアリアンテの町長を務めているカイズ・ギル・スラスベインという。」
いかにもうざい喋り方をするうざい系の貴族というような感じの髭だ。
カイズ「人間界と魔界とがあるように、どこか他の世界が別にあるんじゃないかと私は考えた。もともと魔界というのは誰もいなかった無人の世界に魔族を追いやってできたものなのだや。そういった世界は一つだけではないはずなんだ。だがそれを探すのに、私には技術力はなかった。そこで私はマキノくんに頼んだのさ。彼女の技術力はこの世で最高のものだからな。喜んで引き受けてくれたよ。」
マキノ「………」
(心の中を読むなんてのはできないから分からんが…苦い顔をしてるってことは、今の結果を望んではないってことか?)
カイズ「今からだいたい3年前にようやく完成して稼動させてみたのだが、失敗してしまってな。向こう側にはワームホールを設置させて安定させることはできたのだが、その機械を出口に設定したはずが、こちらの世界の別のところに出口ができてしまってな。その上、向こうの世界の人間が1人こちらの世界に来てしまったのだ。」
それって…
マキノ「それがヤマネ・ハルカだ。知ってるんだろう?」
(名前だけだけどな。)
カイズ「それから何度かやってみたが、安定はしなかった。人の往来があった反応はなかったがな。が、1年前。1人の男がこっちに来てしまった。」
クロノ「それが俺か。」
カイズ「あぁ。1人目は途中でこの世界についていけずに死んでしまったが、君がここまでの人間になるとはな。あの魔力湖の水の摂取の仕方もそのうち考えてみようかな。」
クロノ「いろいろと筒抜けってわけか…」
マキノ「そんなつもりは…」
クロノ「つもり〜とかこんなわけが〜とかの話はしてねぇよ。実際何が行われてたかってのにビックリしてるだけだ。」
マキノ「うっ…」
クロノ「今の俺内心それなりに怒ってるからな?あんたがスパイじみたことしてたことじゃなくて、シーラちゃんが人質にとられてるっていうこの状況にさ。」
マキノ「うぅ………」
クロノ「それで、何のためにこんなもの作ろうって思ったの?他の世界あるかも〜なんて、あんたみたいな人間が企み事なしに考えるわけねぇだろ?」
カイズ「あぁ。向こう側の世界の技術力や文明、そういうものが無いにしても、資源だとかくらいは見つかるだろうも思ってな。」
クロノ「根こそぎ奪ってやろうと。」
カイズ「そういうことだ。」
クロノ「このクズやろうが。」
カイズ「おっと、私を攻撃するな?シーラくんに何があっても知らんぞ?」
クロノ「まじでクズだなあんたら。」
カイズ「ふふふ…。」
カイズは自分を通り過ぎ、機械の横にあるパネルの前に行く。
パネルにはいくつかのレバーやスイッチがある。
カイズ「さて、この間の稼動実験でようやく入り口と出口両方が安定するようになったのでね。特別に君の目の前で見せてみよう。」
クロノ「おい、やめろ。」
カイズ「そこで見ていたまえ。もしかしたら、君の知り合いなんかに会えるかもしれないぞ?」
クロノ「⁉︎おい、ほんとにやめろって‼︎」
メイ「それ以上の接近は認められません。」
メイが銃口をこちらに向ける。
メイ「警告は1度までです。」
再び銃口をシーラに向け直す。
クロノ「向こうの世界の人間をこっちに連れてこようってか⁉︎それが何になる‼︎」
カイズ「たまには何の意味にもならないことも必要だとは思わないかね?なぁに、これで問題なく転送できれば、我々も向こうに行くのに安心して行き来ができるようになる。その為に何度か実験を重ねなければならない。」
クロノ「それで失敗でもしたらどうなんだよ⁉︎」
カイズ「運が悪かったのだろう。もちろん、修正はするがな。さて…おっ、これは丁度いいんじゃないかな?君も懐かしく感じるはずだろう。」
(何が来るってんだ…?)
光の向こうから人が入ってくる。
ゆっくりとその姿が見えてくる。
スカートを履いているから女性だろうが…
やがて全身が出てくる。
女性は座り込みながら辺りをキョロキョロ見回す。
さすがに知らないところにいきなりこんな変な送り方されたらどんな奴だって驚くだろう。
(てゆーか見覚えが…おいおい、まさか⁉︎)
玄野「高坂…さん…?」
高坂「玄野くろのさん?」

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