ヒーローライクヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その6・やりたいことの為に

[クロノ]
モニカ達を探そうと思ったものの、この魔王城の構造がどうなってるかは分からない。
だが、上の方で何やら争っているような音が聞こえてくる。
(こんだけゴツい爆発音してるってことは、戦闘中か。)
クロノ「とりあえず上にあがる階段でも探すか。」
爆発音のする方へ走っていく。

やがて大きな扉の前に来た。
クロノ「どんな巨人が出入りする扉だっての。」
音は収まっていた。
(ここだな。)
手で押し開ける。

魔王城に連れてこられたときに最初に入った広間だった。
中ではモニカが膝をつき、キュリーが奥の巨大な椅子の前で立っていた。
2人の距離はそんなに離れているわけでも近いわけでもない。
キュリー「クロノ?なぜ…いや、どうやって部屋から出てきた…?」
モニカ「なん…」
(俺とモニカが結託してることはバレてんのかな…)
キュリーを油断させる為に演技でもしておこうか。
俺とモニカが敵同士だと思わせればどっかで隙くらいは生まれるはず。
クロノ「あらあら、これまたどういう状況?なんで魔王同士戦ってんのさ?」
キュリー「変な芝居はしなくてもいいぞ。貴様らが手を組んでいたことは知っている。」
クロノ「なぁんだ。バレてたのか。」
キュリー「私の部屋から拷問室を見れるように魔力を設置していてな。貴様らの会話の内容も知っている。モニカから協力を持ちかけたこともな。」
監視カメラが付いてたってことか。
キュリー「まったく…人間に助けを請うなど、魔王として恥ずかしいと思わないのか?」
モニカ「くっ…何が魔王としてよ…人間と敵対するのが魔王の仕事なんて誰も決めてないわ。魔界を統治するから魔王よ。」
キュリー「その魔界の住人は人間を怨んでいる。それを発散させてやらねば、魔族は崩れるぞ?どこかで捻れて惨い戦争になるかもしれん。」
モニカ「あんたは自分のことしか考えていないでしょうが!あんたが…人間を殺したいってだけでしょうが!」
キュリー「あぁ。丁度いいではないか。人間を怨む魔族と人間を殺したい私。利害は一致している。」
モニカ「させないわよそんなこと…そっちの方が魔界の平穏を崩すもの…」
キュリー「貴様には言ったぞ?魔界の平穏なぞどうでもよいと。」
会話を聞きながらモニカの近くまで歩み寄る。
キュリー「貴様は何のためにここに来たのだ?」
クロノ「あんたをぶん殴るついでにモニカのお手伝いでもしようかなって。」
モニカ「封印は失敗よ…もう私には魔力は残ってない…」
クロノ「あら?そうなの?」
キュリー「そういうものなのだ、そいつが私に使おうとした封印の魔法はな。」
クロノ「へぇ〜。そらまためんどい魔法だな。」
モニカの前に出てキュリーと向き合う。
クロノ「あんたは結局何がお望みなのさ?」
微笑みながら答える。
キュリー「私はただ人を殺したいだけだ。怨みも何もない。昔から、人を殺すことに快楽を覚える生き物であったというだけだ。」
クロノ「ほ〜ん…。」
キュリー「どうした?怒りでも感じたか?」
クロノ「いや、別に?」
キュリー「………」
クロノ「そりゃ当然嫌なわきゃないさ。あんたがただ単にそういうことが好きなタイプ人ってことに…あぁ〜人ではないな…まぁいいか。そういう人だってこと自体には別に怒ってるわけじゃない。自分と違う考えのヤツなんざこの世にゃいくらでもいる。何もおかしくはない。モラルだなんだってのは抜きで考えてな。人殺しが良いものか悪いものかってのは今は別のところに置いといての話、頭ん中の話だ。」
キュリー「珍しいな、人を殺したいと言った私にそのような返答をするとは。200年前のあの男ですら私のことをクズ呼ばわりしたというのに。」
クロノ「俺がイカれてるだけだとも思うけどね。俺はあんたがやりたいって思うことを止める気はない。」
モニカ「クロノ⁉︎」
キュリー「ほう?」
クロノ「だかしかしだ。俺だってやりたいことってのがあるわけよ。」
キュリー「やりたいこと?」
クロノ「今人間界には、こっちの世界でできた友人が何人かいてな。そいつらがあんたに簡単に殺されちまうとは思ってはいないが、そうでなくてもあいつらが傷つくのは人並みに嫌なんだ。あと、俺のいた世界にも行こうとしてるんだろ?あんたのことだからどうせうちの世界の侵略とか略奪とかするつもりだろ?あっちの世界にもそれなりに知り合いはいるんだ。仲が良くないやつばっかではあるか、そういうやつが傷つくのも嫌なんだ。だからそういうのを全部させない為に…」
クロノ「俺を拷問した怨みで2,3発殴るついでにあんたを殺したいってのが俺のやりたいことだ。」
モニカ「あんた…」
キュリー「魔法陣…詠唱魔法…ふむ、貴様のその言葉は嘘偽りのない本音、というわけか…」
クロノ「ん?あぁ、本当だ。魔法陣出てるじゃん。」
足元を見ると、自分を中心に魔法陣が作られていた。
初めて詠唱魔法を使った時と同じ。
体に力が漲ってくる。
キュリー「ふふふ…そうやって私に本音をぶつけてきてくれるとは…200年前のあの男も似たようなことを言っていたが、詠唱呪文とはならなかったな。」
キュリーがこちらに向かって歩き、階段を降りる。
キュリー「モニカ、どけ。この人間と…いやクロノと正々堂々、邪魔も無しで戦いたい。クロノ、来てくれ。」
キュリーに促され、広間の真ん中に来る。

床には半径10メートルほどの円が描かれており、その丁度反対側で向き合うように立つ。
キュリー「さて、クロノ。お前は私に本音を話してくれた。それのお返しとして、私も話させてもらおう。なにせドラキュラとサキュバスのハーフというだけで気持ち悪がられていたのでな。そこのモニカですら。だがお前は驚かずに聞いてくれたではないか。だからお前にも改めて言わせてもらおうと思う。」
キュリーが大きく深呼吸をする。
キュリー「私は殺しが好きだ。人間だけでない。同じ魔族との間でも。誰かを殺すことが好きだ。その時だけは自分が相手より上回っているという優越感に浸れるからな。同じ理由で侵略も略奪も好きだ。異世界があることが分かった。お前を殺したあとにお前の世界であらゆる限りの暴力を行うつもりだ。お前を殺すのはお前が嫌いだからではない。むしろ…私はお前のことが好きだ!大好きだ‼︎自分でもこんな気持ちになったのは初めてというくらいにな‼︎初めて人を殺した時よりもずっと激しい‼︎私をまっすぐ見つめるお前が大好きだ‼︎だからこそ…殺したい。お前は私のことを嫌いかもしれない。だが、クロノ…私にお前を…大好きなお前を殺させてくれ‼︎」
キュリーの足元にも魔法陣が完成していた。
ということは…
クロノ「それがあんたの本音ってわけか。随分とヤバイヤンデレに好かれてんな、俺は。でもまぁ、あれだ。俺だってあんたに拷問されたことを根に持ってるってだけで…あんたのことは嫌いじゃない。俺はすぐに人を好きになるような変人だからってのもあるからだが…あんたのこともそれなりに好きだぞ?」
キュリー「…‼︎………ふふふふふふふふふふふあはははははははははははははははははは‼︎‼︎これが…‼︎これが両思いというやつかぁははははははは‼︎そんなことを言われたら余計にお前を殺したくなってしまうではないか‼︎」
キュリーが構える。
それに合わせて自分も構え、右手に全魔力を集中する。
武器があれば黒龍の時と同じように7回に分けて攻撃を放つが、武器がない今、1度に魔力を全部放出することしかできないので、1発に魔力を込める。
クロノ「それじゃ、行きますかね…」
キュリー「……」
クロノ「一撃で決めるぞ…」
キュリー「詠唱魔法と詠唱魔法のぶつかり合いだ。嫌でもそうなるだろうな…私はもっとお前を傷つけたいというのに…」
キュリーが言い終わるとほぼ同時に、2人が相手に向かって飛び込む。

クロノ「あああああああああああああああ‼︎‼︎」
キュリー「はああああああああああああああ‼︎‼︎」

キュリーの右の拳と自分の右の拳をぶつけ合う。
手と手がぶつかったとは思えない程、低くゴツい音が広間を埋める。
手が重なり続けていた時間はほとんどなかった。
キュリーが放った拳に真正面から向かった自分の拳がぶち当たり、お互いが弾かれる。
大きく後ろへ吹き飛ばされそうになるのを耐え、体を無理やり前へと押しキュリーへ近づく。
キュリーは姿勢をまだ直せていなかった。
隙だらけの顔面へ、1歩踏み込み右の拳を思い切り叩き込む。
1歩後ろへバランスを崩すキュリーに向かってもう1歩踏み込み左の拳で腹を殴りあげ、キュリーの体を持ち上げる。
左手を引き、右手を強く握ってキュリーの後頭部へ振り下ろす。
クロノ「おおおおおおおおらああああああ‼︎‼︎」
後頭部へ当てたそのまま拳を地面に向かって振り抜き、キュリーの顔面を思い切り床にぶち当てる。

あたりは静まり返った。
数秒ほど静寂に包まれる。
クロノ「一撃って言ってたけど…お前を2,3発殴りたいって言ってたからな。俺のやりたいことその1達成ってわけだ…。」
息切れをしながらもキュリーに向かって独り言を言う。
うつ伏せだったキュリーが寝返りをうち、仰向けとなる。
キュリー「ははは…はは…」
クロノ「その2はどうしたものか…」
キュリー「私を殺したいという願いなら同時に達成されたぞ…?」
クロノ「ふぇ?」
キュリー「お前の拳に私の体は耐えられなかったようだ…見ろ…」
キュリーが右手をあげる。
手首から先がなくなっており、砂のようにだんだんと崩れ落ちていく。
キュリー「ドラキュラの死に様というのは皆こうでな…自分の体が砂のように崩れ落ちていくのだ…これを止めることはできない…こうなった時点で既に寿命が過ぎたのだ…」
クロノ「キュリー…」
キュリー「なぁ…クロノ…1つだけ…私のわがままを聞いてくれないか…」
クロノ「わがまま?」
キュリー「砂と成り果ててしまう前に…お前を抱かせてくれ…そして…ほんの少しだけ…血を吸わせてくれ……」
クロノ「……吸いすぎるなよ?」
キュリーの体を持ち上げ、腕でキュリーの体を抱きかかえる。
首元にキュリーの顔を口が当たるように持っていく。
口を開けたキュリーが首に噛み付く。
しばらくそうした後、口を首から離す。
クロノ「……ホントに吸っても良かったんだぞ?」
キュリー「……いや…吸わなくても…お前に満たされて幸せだ…お前を殺せたなら…もっと幸せだったかもな…」
クロノ「俺が不幸せだから遠慮してくれ…」
キュリーが自分を抱く力を少し強くする。

やがてキュリーの体が全て砂へと変わった。
クロノ「……せっかく俺を好きになってくれたのになぁ…」
モニカ「クロノ‼︎」
モニカがこちらに向かって走ってくる。
クロノ「いや〜まさかヤンデレにパワー勝ちするとは思わな…」
急に体に力が入らなくなる。
(あら…?)
モニカ「クロノ⁉︎ちょっと⁉︎ねぇクロノ‼︎ねぇってば…」
目の前が暗くなり、だんだん声が遠ざっていく…。

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