機動転生ヴァルハリオン ~ 俺の体がロボだコレ!? パイロットはヒロイン ~

冬塚おんぜ

第2話 転生! 俺はヴァルハリオン!


 視界が晴れていく。
 俺は、完全に目覚めて立ち上がる。
 身体中から、錆の塊みたいなものがバリバリと剥がれ落ちていく。


 目の前に、四角い箱から何本もの触手を生やしたようなロボットがいる。
 触手の先端には工具のようなものが。

 そしてその上空には、カラスのような形をしたロボット達が飛び回っている。
 数にして十二機。
 ……勝てるのか?

 よく見ると、四角いロボットの上には拡声器を持った、いかにも悪の女幹部な服装の人が立っていた。
 その女幹部っぽい奴が、拡声器を使って叫ぶ。

「貴様ぁ、何者だ! 名乗れ!」

 ちゃんと言葉が理解できるのは、この身体のお陰なのかな。

 それより、どうして名乗る事を強要されなければいけないのか?
 名乗った所で、攻撃してくる事には変わらないだろう。
 女幹部は言葉が話せても、説得が通じる相手とは思えないし。

 でも、ここで名乗れば、さっき俺に呼び掛けてた女の子も安心してくれるかもしれない。
 言語でのコミュニケーションというのは、理性の証明でもあるだろうし。

「・、・――・――」

 あれ?

「――! ガッ、ゴッ!」

 上手く喋れない。
 まさか「ガオー」とか「マッ」しか言えないわけじゃないだろうに。
 困るよ、そういうの。

 ――おや?

 どうやら音声機能とかいうメカニズムが、上手く作動していないらしい。
 警告ウィンドウに、そんな事が書かれている。

 女幹部はそんな俺を見て嘲笑う。

「ふん、古代文明のポンコツめ! 王国の切り札とやらも、大した事は無いな!」

 王国がどうだか知らないけど、ナメられるのは嫌だ。

 俺は振り向く。
 後ろのほうに、さっき俺を呼んでいたらしい金髪碧眼の女の子がいた。
 丈の短いドレスの上に軽装の鎧を着込んでいる、細身の女の子。
 お姫様のようにも見える。

「……っ!」

 その表情は、不安で今にも心が折れそうになっているようだ。
 そりゃ確かに、必死に呼び掛けた相手がポンコツかもしれないって思ったら、心中穏やかではないよね。

 俺が親指を立てて頷くと、お姫様も少し微笑んだ。

 ……そうだな。
 俺がやらなきゃ、誰がやる。
 俺は、また女幹部に向き直った。

「お、オお……オ、れ……ハ――」

 少し、コツが掴めてきたぞ。

「(ヴッ)ァルハ、リオン!」

 よし!
 変なノイズが走ったけど、少しずつ回復してきているぞ!

「なるほど。貴様はヴァルハリオンと言うのだな? やれ、ブンカイザー!
 ヴァルハリオンをネジ一本までバラバラにしてやるのだッ!」
「ブ・ブーンッ!!」

 何か、致命的な勘違いをされた気がする。
 けど今は訂正している場合じゃない!

 四角いロボット――ブンカイザーが触手を振り回しながら、俺に飛びついてくる。
 しかし――。

「な、何だと!? 先刻までは錆びていた筈だ!」

 ブンカイザーのドリルは、俺の装甲に弾かれてひん曲がった。
 ペンチも、凹みを作る事すら出来ていない。
 ハンマーは根元から折れる。
 触手でぺちぺち叩かれても、痛くも痒くもない!

 すごいな、この装甲……戦車より硬そうだ!

 俺は、ブンカイザーの触手を引っ掴む。
 ……でも投げたら多分、みんなに迷惑が掛かるよな。

 迷っているうちに、カラス型ロボ達が俺に機銃をばらばらと浴びせてくる。
 俺は目からビームを放ち、そいつらを薙ぎ払った。

「くっ! 飛び道具とは卑怯な!」
「カラスの豆鉄砲はOKなの?」

 俺の素朴な疑問に、女幹部が地団駄を踏む。

「貴様が墜としたアレはな! カラスなどというものではない! レヴノイド・グラインクロウというのだ!」
「……」

 そんな固有名詞を言われても困る。

「ブブン、ブンブブン! ブーン!」
「心得たぞ、ブンカイザー。貴様の犠牲、無駄にはしない!」
「ブンブブブブン!」
「死は万物の序章なり!」

 女幹部は魔方陣を空中に作り出し、そこへ入っていく。

 そしてブンカイザーは、赤紫の粒子を噴き始める。

「この!」

 俺は両手をロケットパンチで飛ばし、ブンカイザーを突き放す。
 そして目からビームを放ち、奴の装甲を融解させた。

「ブンブ・ブーン!」

 ブンカイザーはそれでも向かってくる。
 さっきの女幹部と何を話していたのかは知らないが、こいつに時間稼ぎをさせて増援を呼ぶつもりだったとしたら?

「させるか!」

 俺は両手を戻し、背中に背負っていた剣――バルムンクを構える。
 そしてブンカイザーが飛び掛かってきた瞬間に、振り下ろす!

 ズッ――ジャキイィイイイン!

 両断されたブンカイザーが、爆発する。
 そして紫色だった粒子が、薄緑色に変色して拡散していく。

『お前をバラバラに、してやりたかったァッ!!!』

 ブンカイザーの、心の声のようなものが頭の中に響いてきた。
 それと同時に、ウィンドウが表示される。

 “アーティファクトを取得”

 アーティファクト?
 一体、どういう事なんだろう?
 とにかく、それは置いとくとして!

 お姫様、爆風に吹き飛ばされてないよね!?
 俺は振り向いて、膝を突く。

「大丈夫かい」
「ありがとうございます……助かりました」

 お姫様は、ぺこりと頭を下げた。
 無事で良かった。

「わたしはエールズ・ルミナスフィーレ。
 ミロントリス王国の王女……でしたが、国が滅んだ今、わたしが最後の一人です」
「最後の一人?」
「わたしの故郷は、あの死霊帝国ネクロゴスに滅ぼされてしまいましたから……」
「そう、か……」

 そんな相手、俺一人でどうにかなるのかは判らない。
 でも、少なくとも目の前の一人の命は守れた。
 俺は小さな小さなお姫様の足下に、手の平を差し出す。
 するとエールズ王女は、そこに一生懸命よじ登った。


 辺りを見回すと、バリアのようなものが出来ていた。
 野良のカラス型ロボットが、バリアに激突して爆発する。

「あれ、何だろう」
「伝説によれば、いにしえの聖鉄が邪悪なる者を倒すと“聖域”が現れるそうです」
「つまり、ここはもう安全って事だね。この後は、どうしようか」
「私のワガママを、聞いてくれますか?」
「内容によるけど、どうぞ」

「全てのネクロゴスを、討って頂きたいのです」

 ……気が遠くなる話だ。
 でも、俺がこの世界に呼ばれた理由はそれだ。
 この身体なら、へっちゃらに違いない。

「付き合うよ」
「ありがとうございます……! よろしくお願いします。勇者ヴァルハリオン様」

 そう言って、俺の手の平の上で一礼する。

 名前の訂正は面倒だし、もういいかな……。
 俺はヴァルハリオン。
 この世界では、そう名乗ろう。



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