機動転生ヴァルハリオン ~ 俺の体がロボだコレ!? パイロットはヒロイン ~
第16話 轟け断捨離! エールズのお掃除奮闘記!
「ねぇ、王女様ぁ~……もう諦めない?」
「いいえ、まだですっ!」
「いくらなんでも張り切りすぎじゃない?」
三日三晩、あの村人達を探し続けた。
けれども、見つからない。
熱量計測モードを使っても、そこら中のゴミが反射しちゃって何もわからなかった。
ちなみにタフマシーンのアーティファクトは、
【アメイジング・リカバリー】
タイプ:アクティブ
中破までなら、魔力を消費して装甲を完全に回復できる。
一度使用するとクールタイムに三日を必要とする。
便利といえば便利だけど、乱用はできないね……。
タイミングをしっかり見極めないと。
それにしても人探しには全く向かないのが悩ましいな!
「ウチ、この前の戦いの後にでもアーティファクトのカスタマイズをしようと思ってたんだけどな」
「何を?」
「ウルトラロングレンジボイスだよ」
「あー! 長距離通信装置か!」
「そうだよ」
レキリアは背もたれを倒して寝転がる。
「作業中でも、痛みは我慢するから、できないかな?」
「やめときなよ、勇者君。ガワが硬くても、ストレスっていうのはバカにできないものなんだぜ。
こんな所あいつらの望みどおりほっといて、よそ行こうぜ」
「んんんむむむぅ~!」
あ!
エールズがむくれちゃった。
すっかりご立腹だ。
「言うだけ言って隠れたままなんて、わたし許せないんです……!」
「ほっときゃいいじゃんよ~」
「諦めませんっ!」
「だいたい食料はどうするんだよぅ。もう底を突きかけちゃってるけど。生ゴミでも漁る? ウチはやだよ、そんなの」
実際、このままじゃあ埒が明かないな……。
俺もレキリアの意見に賛成ということで、エールズに語りかける。
「一度撤退して、近くで食料を探してから来るべきなのかも」
「――……ますよ」
「え?」
エールズは俯いていて、表情が読み取れない。
ボソリと何かを呟いたのは確かに聞こえたんだけど。
「片付けますよ。これ」
俯いたままエールズが指差したのは、モニターに映る一面のゴミの山だった。
「え……」
「ちょ、ちょっとぉ! 本気で言ってるの!?」
レキリアが、エールズの肩を揺さぶる。
すると……。
かつてないくらい眉間と口元と顎にシワの寄ったエールズが、顔を上げた。
「部屋の汚さは心を荒ませます! お片付けは心の掃除でもあるんですっ! いいですか、そもそもこのごみの山が敵であるくねくねレヴノイドの手で築かれたものだとしてもだからといって散らかったまま放置しているからこそ先程のように面妖なカサカサ虫レヴノイドが湧いて出るのです。ならば今すぐにでもこれを退け、清潔な環境を作ってこそ――」
「――わ、わかった! わかったから!」
「あ……! その、ごめんなさい……」
まいったな。
「勇者様。お辛いようであれば、眠っていただいても構いません。わたしが頑張って操縦します。
レキリアさんも、長距離通信装置を優先していただいて、それが終わったらしばらく寝ていて下さい」
「そうは言っても……」
「任せて下さい。大丈夫です。子供の頃は“焼却炉を満たす者”の異名を持っていたほどです」
あら、とうとう腕まくりしちゃったよ。
やる気は十分……というか、ここで引き止めたら絶対こじれる……。
「後悔は、しないね?」
うーん、我ながらシリアスすぎる問いかけだ。
ちょっと重すぎたかな。
「後悔しない為に、掃除をさせてください」
「そこまで言うなら、お願いしちゃおうかな」
「いつも、わたしのわがままに突き合わせてしまって、ごめんなさい。必ず、結果を出します」
ここで“結果が出なくても大丈夫だよ”と言うのは、残酷なのかな。
もしかしたらそれはエールズの決意を軽視していると思わせてしまう。
だから、俺は……――、
「よし、じゃあ二人でやっちゃおうか!」
エールズの熱意に、乗っかった。
きっと、そのほうがいいと思ったから。
「ウチもやるよ」
「え?」
レキリアはあれだけ渋っていたのに。
意外な答えだった。
「アーティファクトが異常を感知したらアラートが出るから、そしたら教えて。
まあ、その、なんだ。ウチも勝手に付いてったわけだし、それくらいは……ね!」
レキリアは何故かエールズに微笑んだ。
なんか引っかかるなあ。
どうしてそこで母性愛溢れる微笑みを?
まあ、喧嘩してないなら別にいいけど。
「それに、廃材を見つけたらそいつを再利用して、痛み止めをどうにか作れないかなって。実はちょっと考えた」
おお、それは凄いかも!
凄い、嫌な予感がする!
「おい勇者君、今なんか凄い失礼なこと考えなかった?」
* * *
「ふう、どっこいしょ……」
あれから更に一日ほどかけて、瓦礫の撤去はようやく区切りが付いた。
持っているアーティファクトをほぼ総動員した。
途中から、効率化の為にどれをどのように使うかというところまで、三人でアイデアを出し合った。
分解が必要ならテンタクル・ツール・デバイスだし、粉砕したほうがいいならオービタル・アイアンボール、危険物はまとめておいて、後でポータブルバキューム……と言った風に。
使っていたアーティファクトは特にエラーもなく、どれも快調に作動していた。
レキリアが適宜メンテナンスをしてくれたおかげだ。
ちなみに、痛み止めはテンタクル・ツール・デバイスで廃材や薬品を加工して作った。
よくこんなの思い付くな……毒素検知器なんて初めて使ったよ。
途中から長距離通信装置を使って応援を呼んだから、作業は更に捗った。
応援に来てくれた人や聖鉄のみんなには、使えそうな廃材を持って帰ってもらった。
聖鉄の部品っぽいのもあったしね。
それが報酬の代わりって事になった。
「ざっと、こんな感じかな?」
それにしても、すごく片付いたな。
あんなにいっぱい――それこそ東京ドームひとつ分くらいはあった瓦礫の山が、今となっては八両編成の在来線くらいの量しか残っていない。
そして、そこにこそ探し求めていたものがあった。
すなわち、地下への入り口だ。
「エールズ」
「はい」
「頑張ったね」
「……! はいっ!」
いい笑顔だ。
頑張った甲斐があった。
「そうだねぇ~、王女様も勇者君も、応援に来てくれたみんなも頑張った!」
「レキリアさんも頑張っていました。本当にありがとうございます」
「いやいや、ウチはそんなに……」
レキリアは言いかけて止め、はにかんだ笑みを浮かべた。
「いや、ウチも頑張れたのかな。エールズのお陰で」
<<―― レキリア視点 ――>>
ウチが以前、西の都で勇者君を眠らせて、アーティファクトを改修していた時のことだった。
「魔力供給……でしたか? 勇者様の場合、その必要も無いということですよね?」
分厚い教本を片手に、王女様が訊いてきた。
「勇者君は、魂の熱量だけで自己完結してしまってる。何もかもが規格外だよ。すごすぎる」
「わたし……いる意味、あるのでしょうか……」
ふと王女様が呟いた言葉に、胸がズキリと痛んだ。
どうして、そんな悲しいことを言うんだよ。
ずっと一緒に旅をしてきたんじゃないの?
「多分なんだけどさ。王女様が勇者君に目的を与えたんだろ。傍から見てるとそんな感じするんだよ」
「目的……ですか……わたしが勝手に呼び出して、巻き込んで、そのくせ安全なコックピットに閉じ籠もって……こんな最低なワガママ女に、そんなに崇高な事ができるとお思いですか?」
初対面の相手に、どこまでさらけ出すつもりだよ……。
なんて思ったけど、ちょうどよく言える相手がいなかったのかもしれない。
実際、東のほうはエルフの里を除けば壊滅状態だったしね。
「いいかい、王女様。付人とか国とか、そういう拠り所を失った聖鉄はね……。
少しずつ気力が萎えていって、最後には微動だにしなくなってしまうんだよ。聖鉄が死ぬのは、何も戦いだけじゃないんだ」
そんな体験を何度もした。
あんな体験を二度としたくなかった。
だから、ウチは必死に覚えた。
学んだ。
聖鉄の構造を片っ端から頭に入れた。
「……」
「絶対に繋ぎ止めろ。その手伝いはするから」
「……はい」
王女様の口から出てきたのは、実にいい返事だった。
ただ、まぁ……まさかネグリジェを着て誘惑するとか訳わからん事を言い出した時は、流石にちょっと親のご尊顔を拝んでみたいと思ったなぁ。
もう死んでるだろうっていうのが、何より悔しいよ。
国王陛下。
あんた、どういう育て方をしたんだよ。
故郷が滅びても、いつか反撃をするために、心折れずに旅をする……。
なんて言えば聞こえはいいだろう。
けれど、この子はとっくに壊れかけだ。
無力感に打ちひしがれながらも、犠牲の対価で得たものに、全てを捧げようとするだろう。
……なんて、最初は思ったっけ。
気付けば、いっちょまえに意見を言えるようになった。
ワガママなんかじゃない。
この子は表現方法こそ拙いけれど、自分なりに考えて、最善の方法を取ろうとしている。
少なくとも、ひた隠しにしているウチみたいな奴よりはずっといい。
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