機動転生ヴァルハリオン ~ 俺の体がロボだコレ!? パイロットはヒロイン ~

冬塚おんぜ

第15話 唸れ、ポータブルバキューム!


「――このっ!」
「忍法・黒光りキックの術!」

 もはや術でも何でもない気がするけどな……。
 ただ、両手を地面についてカサカサと自転車を漕ぐようにして蹴ってくるのはビジュアル的に脅威だ。
 威力はともかく、見てくれが。


 ……状況を整理しなくては。
 俺は今、このゴキブリみたいな装甲の人型忍者レヴノイドであるタフマシーンと、無策で戦っているわけじゃない。
 レキリアに、アーティファクトカスタマイズを戦闘中にやるという前代未聞(レキリア曰く)の荒業をお願いしてある。
 だからその最中、時間稼ぎをしているのだ。

「これでもくらえ!」

 テンタクル・ツール・デバイスの幾つもある工具のうち、バーナーを使う。
 体表が油に包まれているならば、燃やしてしまえばいい。
 しばらく逃げ回ってくれるだろう。
 防戦一方だとなんとなく不安だし。

「イヒヒヒヒヒヒィヒヒヒヒ! 拙者がむざむざ喰らうと思うてか! 忍法・腹寄せ飛び移り!
「うわ、うわぁああああああああああ!!」

 俺は自らの愚行を後悔した。
 熱くはないし超合金ボディだから火傷もしない!
 けど!
 それでも!

 張り付かれたせいでカメラいっぱいに映っているお腹の模様が、最強に気持ち悪い……。
 泣きそう。
 というか、エールズは既に口元を押さえて泣いていた。

「ふぐっ、おうぅ、え、えふんっ……無理ですぅ……わたし、もう……」

 吐き気を堪えているのかな?
 今まで見たことないような泣き方に、流石にいたたまれなくなってくる。
 これはだいぶSAN値を持ってかれてるなぁ。

「……エールズ、大丈夫?」
「んはぁえ!? わ、わたし、もうちょっと我慢します……」
「気を確かにね。あくまで部分的に似ているというだけで、そのものじゃないわけだし」

 自分自身にも言い聞かせるように、俺はゆっくりと伝えた。
 自然と、気分が落ち着いてくる。

 ――と思ったその時だった。

「あ、痛、いだだだだだだ!?」

 急に、胃袋を内側から切り裂いたような痛みがやってきた。
 そういえば、前にアーティファクトをカスタマイズしてもらった時は眠っていたんだ。
 正確には、電源を落とされていたというか。
 カスタマイズは何故か痛みを伴うため、電源を落とすのが通例らしかった。

 なるほど、行けるだろうと思った俺が馬鹿だった!
 これめっちゃ、めっちゃ……めっちゃ痛い!!

「ンンンン!? どうしたのでござるか!? 拙者の這い蹲ったあとの弁当を口にして食あたりでもしたのでござるかなぁ!?」
「いや、食あたりって。俺は聖鉄だよ……?」
「ヒヒヒヒ! 戯言を! そなた、拙者の“殺虫剤”という言葉に反応しただろう」
「あ」

 そういえば、言ったような。

「この世界に殺虫剤があると思うてか!」
「……あああああ!!」

 冷静に考えたら、そうじゃないか!
 エールズがビクリと身を跳ねさせたけど、それを気にしていられる余裕は無かった。
 なんということだ……もしかして、今までに戦ってきたレヴノイドって……。

 けれど、でも、何のために!?

「そなたも前世では恵まれなかったのではござらぬか? 果たしたい未練はござらぬか?」
「ま、まさか……」
「拙者らも同じでござる。ネクロゴスはその未練を抱えた魂に救済を与えてくれるのでござるよ」
「馬鹿げている! だって、それじゃあ……」

 ――うっ!?

「痛、いだだだだだだ」
「随分と腹痛を長引かせておるようでござるが、拙者と話をするのがそこまで苦痛か」
「神経性胃炎でも胃潰瘍でもないから!」
「ふむ。まあ良いでござろう。ここまでの話は全て、冥土の土産。早々に消え失せるが良かろう!」
「させるか!」


 ジジジジジジッ――、と羽音を立ててドロップキックをしてこようとする。

 なので、

 ゴガシャアアアアン、バキイイ!

 受け止める!!
 そして、タフマシーンの背後に鉄球が出現していた。
 コックピット内に視線を移せば、エールズが召喚して動かしていた。

「女の子が踏ん張ってるんだ! 男の子だって、踏ん張らなきゃ……だろ!」
「無駄でござる!」

 あ、脚もいだァ!?

「ふんッ!!」

 再生したァ!?
 もうやだこのレヴノイド。

「勇者君! ゲンナリしてる!? 出来たけど、どうかな!?」
「お。言われてみれば胃痛が止まった」
「突貫工事だけど、これなら行けるんじゃないかな」

【ポータブルバキューム】
 タイプ:アクティブ
 前方の対象物を吸い込む。
 リサイクルはできなくなったが、亜空間に貯蔵できるようになった。
 ただし、あくまで掃除用であるため、貯蔵庫の衛生状態には注意すること。

「……打ってつけじゃないか。ありがとう」
「イェーイ! 天才の辣腕をご覧に入れてやったぞ!」
「すごい、レキリアかっこいい! ……よし!」
「やりましょう!」

 構える!

「イヒーイヒヒヒ! コソコソしようとも何度やろうとも無駄でござる!」

 受け止める!

「無駄と諦める人生なんて、もう二度とごめんだ!」

 発動する!

「――ふ、ご!? す、吸い込まれ……ふおぉ、やめ、あぁあ!」

 思った以上に大きなブラックホールが……。
 これ、周りのものまで吸い込んだりしないよね?

 ……大丈夫そうだ。

「ひぎゃあああああ!!」

 うん。
 大丈夫そうだ。

 ゴォオオオオ――キュポンッ。

『何故だ! ちょっと部屋の掃除サボっただけなのになんで俺がこんな目に……!』

 “アーティファクトを取得”

 吸い込まれたタフマシーンは、亜空間の中で散り散りのバラバラになっていった。
 なかなか手強かったな……。

「まさかタマゴ産んでたりしないよね?」
「いやぁ、流石にそういうレヴノイドは見たこと無いかな……」
「一応、付近を探索してみましょう。その後は、先程の方々と、お話をしてみたいです」
「王女様も懲りないねぇ~」
「手を変え品を変え、何度でもチャレンジする事の大切さを、再確認しましたので」
「……余計なスイッチ、押しちゃったかな?」

 聖域の光が、心なしかいつもより強い気がした。


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