機動転生ヴァルハリオン ~ 俺の体がロボだコレ!? パイロットはヒロイン ~

冬塚おんぜ

第12話 夏の宴を阻むのは誰だ!?


 レジスタンスの拠点を救って、聖域ができた。
 しばらくはレヴノイドがあそこに出てくる事は無いと思う。

 そこから少し離れた孤島が中継地点になっていて、俺はその警備を任された。
 予定より物資が多く集まったから、ささやかなお祝いを開く事になった。
 島に住んでいた人達が、夜のキャンプファイヤーに向けて準備をしてくれている。
 俺達は、その準備が終わるまで暇をつぶしていていいとの事だった。


 そして俺は今、日傘になっている!
 体育座りで少し俯くだけで、日陰ができる。
 足元では、エールズとレキリアがはしゃぎ回っている。

「そーら、天才レキリア様特製の水鉄砲だ!」
「きゃっ! 冷たっ!? こーのー!」
「わーっはっはっは! 追いかけられるかな!? ジェット水流パックを装備したウチに追いつけるわけがない!」

 この世界にも水着が存在するのは、謎だけど……その、楽しそうで何よりです。
 あんまり沖のほうまで行かないようにね?

「隙あり!」
「ひゃうぅ!? うわっぷ、けほっけほっ」
「水遊び楽しい!!」

 レキリアの水遊びは、一般的なそれとはかけ離れている気がする。
 なんて、しみじみしているところに、雨が降ってきた。

「あれ、さっきまで雲一つない快晴だったのに」
「雨、降ってきてしまいましたね……」
「ちょっと一休みできるかと思ったら、これだもんなあ」

 まさかね。
 うん……そのまさか、なんだろうなあ。

『ドゥンッドゥンッドゥッデュワディッツィ、ドゥドゥンッドゥッドゥン、デュワディッツィ』

 でも流石に、こんなの想定外だよ!

『遠洋、はるばるやってきた! 俺達お前見てすぐピンと来た!
 勇者の名を騙る亡者! それがお前じゃ打ち首じゃ!』

 雲間からやってきた、海賊船みたいな飛行船。
 船首には巨大な骸骨をあしらっている。
 デザインは、そこまで突飛じゃない……けどさあ。

『ドゥンッドゥンッドゥッデュワディッツィ、ドゥドゥンッドゥッドゥン、デュワディッツィ』

 なんだ、この面妖なボイスパーカッションは!
 微妙にお祭りの太鼓みたいなリズムは!
 和洋折衷を通り越して、変な創作料理みたいになってるよ!
 騒ぎを聞きつけてやってきたお爺ちゃん達が、無理やり踊らされているし!

『俺達に立ちはだかる それならば!
 今すぐお前の首と胴体 さらば!
 北海道のおいしいカニ たらば!
 てっぺんから落ちて死ね うわらばっ』

 もういいよね!? カニとか意味わからないよね!?

「あうぅ……耳が、内側に破裂しそうです……」
「だ、大丈夫!?」

 駄目みたいです。

『俺達、屍! フライング・デッドマン号!(ゴー!)』

 ラップなの?
 それ、ラップのつもりなの!?

『おねだり、しちゃダメ? フライング・デッドマン号!(ノー!)』

 待って。
 ラップのようで、途中から韻を踏んですらいないから。
 そんなのラップって認めないからね!?
 もういい!

「みんな! コックピットに避難!」
「ぬ、濡れませんかっ!?」
「海水が滴り落ちるくらいどうってこと無い!」

 それより、あんななんちゃってラップを直接耳に入れるほうが駄目だ。
 レヴノイドなら、絶対に殺しに来るだろうし。

『時代は妖怪! 返事は“了解”! 一発ヤッたろかい!(ハーイ!)』
「うるさいよ!」

 必殺……かっこいいポーズ!
 コンセント何とかを溜めて、からの――目からビーム!

 よし、音楽が止まった!

『ちょ……興ざめなんだけどメーン!?』

 骸骨が露骨に嫌そうな顔をしている。
 いや、話は通じるかもだけど、会話にはならなさそうだなあ。

『Yo! 今、人が歌ってる所! 挑戦受けるぜ望むところ! やろうぜ今こそ頑張りどころ!』
「ラップはもういいから!」
『よくねーYO! 俺達のラップに乗せたソウルをぶつ切りにしやがったお前はギルティ! 捧げろ付人のおパンティ! 今すぐ実行ハイ決定!』
「ぱ、ぱん……いや違うだろ!
 音楽っていうのはね、気が付いたらノってるものであるべきだ!」

 ロケットパンチ! ――からの!
 引っ張って、引っ張って、引っ張り降ろす!

「それに比べて君達のそれは何だ! まるで呪いだよ! 無理矢理踊らせたお爺さん達、すっかりヘトヘトじゃないか!」
『今なんて!? 俺達のリリックがスローテンポだって!?』
「いや“のろい(↓)”じゃなくて“呪い(↑)”! カースのほうです」
『スカムバッグ!? 俺そろそろブチキレちゃうぜ、お前はマジでハードラック!』
「それはこっちの台詞だよ! カースをどう聞き間違えたらスカムバッグになるんだよ!」

 あ、やめ、目からビーム撃たないで!
 海水が蒸発してお魚が! お魚があああ!
 やめろおお! 環境破壊をやめろ!

 怒りの引き込みアタックだ!

『あわあああああ!』
「ぬおおおおお! チェストおおおおおおッ!!」

 揚力、浮力ともに侮れない!
 けれど、負けるもんか!

「歌っていうのは! 人を喜ばせるものじゃなきゃ、駄目だろ!」

 ここで使えるアーティファクトは……?
 何か、何か無いのか!

【フォールダウン・フォース】
 タイプ:アクティブ
 指定した対象を色々な意味で“下げる”。
 どのような効果が現れるかは使用するまで予測できない。

 また随分とニッチな……でも!
 ありがたい!

「降りてこい、にわかラッパー!!」
『メーンッ!? 俺はフライング・デッドマン号だって言ってるだろうがYO!』
「知るか! 俺の知っているラップは、争いはStop itなんだ!」
『お、落ちる……!』

 あと少しだ!

「勇者様! 私はどうすれば……!」
「いいよ、いいよ! 釣りみたいだね!」
「釣り……レキリアは釣りを知ってるの?」

 コックピットに音声の出力先を切り替えて話をする。
 何かヒントが得られるかもしれない。

「大物を引っ掛けた時は、こうね、グッと引いて、ガッと上体を逸らすんだ」

 ……駄~目だこりゃ。
 理論が個人の頭の中だけで完結しちゃってるタイプだ、この子。
 グッと引いて、ガッと上体を逸らす……かぁ。
 やるだけ、やってみるか。

「さあ来いドスコイ大物釣り上げお前を晒しあげ!」
『いや、お前、それ……ラップのつもりなの!?』
「う……うるさいよ!」

 急に恥ずかしくなってきた。
 鋼のボディだと赤面とは無縁だけど、やっぱり恥ずかしい。
 俺は誤魔化すようにして、引っ張る!

「ちーがーうーよ!」
「え、違うの?」
「グッと引いて、ガッだよ!」

 必死に身振りを交えて説明してくれるレキリアだけど、正直、違いがわからないです。
 こう? それとも、こう?

「だいたい、ラップだソウルだリリックだって言うけど、一人くらいリスペクトしてる人はいないの?」
『俺達実際天涯孤独。だからこの世の全てをディスる使命帯びる』

 まともに韻を踏めてすらいないじゃないか!

「とにかく、合意の上でだよ! 無理矢理なんて駄目だよ!」
「あ、あの……勇者様? ちょっと、ついて行けません」
「こういうのは考えちゃ駄目だ。感じるんだ」
「――! なるほど! ひらめきました! レキリアさんがおっしゃった事、わたし、できそうです。アーティファクトの操縦権限を、わたしに!」
「なんかわからないけど、頼んだ!」

 デッドマン号はそろそろ疲れてきたのか、無表情になってきていた。
 骸骨だから本来無表情で当たり前だけど。

『もういいです。お説教とかウザいだけなんで。今の俺達、マイウェイを滑走する爆撃機なんで』
「でも船だよね」
『そこはフィーリングで脳内変換しろよ!』
「――今ですっ!」

 エールズは一瞬の隙を見て、一気に引き込んだ。
 グラリと傾いた船首が、俺のところへ目掛けて落ちてくる。

「勇者様! 例のアレを!」
「わかった!」

 どれのことかは解らないけど。
 多分、きっと、これだ。




「昇天のぉおおおお!!



 ――バルムウウウウウンクッ!!!!」



 最大限にエネルギーを充填した大剣バルムンクが、一直線に船を突き破る!
 木造船がちぎれ跳び、木片がパラパラと装甲を撫でる。

 “アーティファクトを取得”

 見慣れたウィンドウが表示される。
 そして、爆発を中心に淡い光が広がっていく。
 ここも安全地帯になる筈。

『ホラー路線が受けないから軌道修正したのに……!』

 ホラーも音楽も、押し付けがましくなればそこまでだから……。
 でも、ホラーじゃなくて良かったかもしれない。
 エールズは多分、ホラーが苦手だろうから。



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