市民警察法

海沼偲

市民警察法

 二×××年に、日本に銃刀法違反がなくなった。つまり、銃社会の仲間入りを果たした。しかし、それでは犯罪が増加することなど目に見えている。だからこそ、政府が生み出した新たなる法律。市民警察法。
 そんな社会で生きている俺こと、中野雄二郎は、今日もライフル銃を肩にかけて家に出る。政府が新たに生み出した法、市民警察法とは、簡単に言うと『犯罪者に限っては殺害を許可する』というものだ。
 毎朝、新聞、テレビ、ラジオ、インターネットなどのメディア媒体を通して刑務所から解放された犯罪者の顔と名前を放送される。で、俺たちはその情報をもとに犯罪者を探し殺害するゲームをするわけだ。俺たちは、ルールで認められた殺人によって、武器を手に余すことなどなくなり、それ以外の市民も、捕まるではなく、殺されないようにビクビクと怯えた生活をしたくないために、犯罪に手を染めるということはなくなる。よって、今現在の日本における犯罪率は市民警察法導入前よりも大幅に下がっている。そう、これは、世界が真似するべき最高の法律なのである。
「市警法反対!」
「「「市警法反対!」」」
 しかし、頭のおかしい奴らはこの素晴らしい法律というものをしっかり理解していないらしく人権侵害などと薄っぺらい正義を掲げて議事堂前で抗議デモなんかをしている。しかし、少しでも暴力行為をしたら、俺たちから命を狙われる立場になってしまうということで、デモはたいした凶暴性を示さない。たいしたことはないのだ。
 ちなみに、犯罪者を殺すと懸賞金がでる。つまり、人を殺すだけで必要最低限の生活をすることが出来るのである。何故金が出るのかというと、犯罪者を解放した後に殺してくれる人間が現れてくれないと困るためである。俺たちは抑止力としてある意味では国に雇われた存在と言えるだろう。
 俺はタブレット端末のアプリで犯罪者一覧を見ながら、周囲を歩いている人を観察する。ううむ、やっぱり、この辺りにはめぼしい奴はいないなあ。別の場所で罠をはるか。
 俺はライフル銃をむやみやたらに見せびらかしているわけではない。ギターケースの中に隠している。それに、ファッションも売れないバンドマンに見える様に研究もした。犯罪者に怪しまれて逃げられたら、追うのが面倒だからな。
「さて、次はどこに行こうかね」
 俺は、辺りをぶらぶらと歩いて、ある大通りへと出た。ここは、人通りも多い。まだ、逃げ遅れている犯罪者がここに潜伏している可能性もある。
「捕まえて! そいつ、ひったくりよ!」
 と、大通りの奥の方で女性の叫び声が聞こえた。少し遠いが、肉眼でギリギリ確認できる距離である。しっかりと目を凝らして確認すると、確かに、顔をヘルメットで隠した人がこちらへ向かって走ってきている。俺は高揚した。今まで犯罪の現場に居合わせたことは一度もなかった。現行犯をその場でぶち殺す。俺はすぐにその考えに移ることが出来た。今まで何人もの犯罪者をあの世に送ってきただけの実力はあるということだ。
それにしても、バカな野郎だ。こちらには、犯罪者狩りの雄二郎様がいるというのにな。犯人には同情するよ。慈悲はかけないけどな。
 しかし、ばれないように殺さなくてはならない。他の者への危害は禁止だからな。俺は、ひったくり犯が俺の横を通り過ぎるのを見計らってギターケースからライフルを取り出す。何度もやってきた動作だ。洗練されている。一秒もかからない。そして、狙いを定めて引き金を引く。命中。心臓へ直撃だ。ひったくり犯は地面に倒れ込む。
 俺は、近くまで行くと、どうやらかろうじて生きているらしく、最後の力を振り絞るようにして腕を動かしている。
「あばよ」
 俺はヘルメット越しに引き金を引いた。ひったくり犯はピクリとも動かなくなった。俺は、女性にバックを返すと男を担ぐ。
「えー、一番近くの警察署ってどこだっけ?」

 次の日。
『昨日解放された犯罪者の名前を読み上げます。、大島奈緒、加藤真司、佐藤琢磨、鈴木八郎、中野雄二郎、山本美恵子。以上です。もう一度繰り返します――』

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