醜い花

海沼偲

醜い花

 私はある男の前に座っている。その男はとある犯罪を犯しており、今現在警察の事情聴取を受けている。
 私は、すっと一枚の写真を出した。被害者の中学二年生頃の少女である。
「君は、どうしてこの少女を殺害したのかね?」
 彼は通報から警察が駆けつけた時までずっと少女を殴り続けていた。現行犯逮捕というやつだ。
「…………」
 男は黙ったままだ。
「君が黙ったところで、君の罪が消えるわけではない。どうして君が彼女を殺す必要があったのか聞いているんだ。答えてくれないだろうか?」
 男の口元が少し吊り上った。
「いいでしょう。僕とあなたたちは同じタイプの人間だ。それに、黙っていてもメリットはないしね」
 男はすがすがしい表情でそう語った。
「その女は道の真ん中にいたんです。一人でね。とても困った様子だった。道に迷っているのかもしれない。僕はそう考えた。だから話しかけたんですよ。そしたら……」
 男は感極まったように机を叩いた。
「そいつは、ひどく険悪なかおをしたんです。どんな顔か想像できます? 僕を殺人鬼か何かを見るような目で見たんです。僕がそんな顔に見えます? 刑事さん。僕はパッと見犯罪を犯してそうな顔ですか?」
 男は私に意見を求めているようだった。ここはしっかり答えておくべきだろう。私はそう思った。
「たしかに、君を捕まえた時はなんでこの男が人を殺したんだとは思った」
「ですよね。だけど、そいつは僕の顔で犯罪者だと思ったんです。で、そいつは携帯電話を取り出した。何をしたと思います? 僕の顔を取ったんです」
「そうだな、被害者の所持していた携帯電話から、君の写真が見つかった」
「そしたらその女がふざけた事をぬかしやがった。『次話しかけたら通報するから。キモイから話しかけて来てんじゃねえよ変態』だってさ。だから殺してやった」
「だからって……」
「刑事さん? よく見てくださいよ、その写真を。こいつの顔、めちゃくちゃ不細工ですよね? こんな人間と思えない今世紀最大のブスに罵られたことあります? その時の僕の気持ちを一瞬でも理解できます? 出来ないですよね? ね?」
「だとしても、犯罪は許されない」
「は? ふざけた事言ってんじゃねえよ! このメスは悪事も一切起こしていない善良な市民を犯罪者呼ばわりした自意識過剰なゴキブリなんだぞ! 同じような被害にあっている奴も何人もいる! テレビやネットでよく見るぞ! 話しかけただけで通報される社会だ! それも全てこんな自意識過剰の不細工が我が物顔で歩いているからなんだよ! 俺はそれを掃除してやったんだ! わかるか? この世からゴキブリを一匹駆除してやったんだ! むしろ、社会は俺に感謝するべきなんだ!」
 男は興奮したように言葉をまくし立てる。そしてそのまま、警察官に取り押さえられて部屋を後にした。
 私は、頭を抱えた。

 翌日、男は舌を噛み切って死んでいた。

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