とある少女の冒険紀行

海沼偲

とある少女の冒険紀行

 私は唐突にどこともわからない草原の真ん中に立っていた。遠くに町のようなものが見えるが、歩いていたら、数時間はかかるだろう。分かっていることは、私は望んでこの場にいるということであろう。
「おい、お嬢ちゃん。そんなところにいると危ないよ」
「そうだぜ、お兄さんたちと一緒に居たほうが安全だし楽しいぜ」
 と、わたしの近くへ二人組の男が近づいて来る。私にはわかる。彼らは親切心で私に話しかけているわけではないということが。
「ほら、そんなにかわいい顔しているんだから、危ないおじさんに襲われちゃうかもよ? それでもいいのかい?」
 と、男の一人が私の腕を掴んでくる。
「離してください」
「なんでさ、俺たちは安全な場所へ連れてってやろうとしているだけだぜ?」
「離してください!」
「黙ってついて来い!」
 とうとう本性を現した。いや、最初から本心が丸見えだったけど。はあ、嫌だなあ。こんなところで使いたくなかった。
「な、なんだ……その眼は」
 私は男たち二人を睨む。私の眼の色は先ほどまでの色から碧く輝いている。
「へ、脅したってそうはいかねえぞ」
「その子を離せ!」
 と、またもや乱入してきた人がいた。少年だ。少なくとも、成人を迎えているとは思えない体躯をしている。剣先が震えている所から見ても実戦経験もないのだろう。
「なんだてめえは?」
「その子は嫌がっているだろ! 離せ!」
 彼は負けるだろう。別に助けてもらわなくても大丈夫なのだから、今すぐ逃げたほうがいい。
「私は気にしないで」
「ほら、こいつも俺たちといたいってさ」
「そんなわけないだろ!」
「くそ、うるせえな。おい、やっちまえ」
 男の一人が剣を抜いて少年の前に立ちふさがる。少年から緊張が伝わる。男たちもわかっているだろう。少年は弱いということが。
「さっさと死ねや」
 男は剣を振る。私は男の動きを止める。
「な、なんだ! 何が起きている?」
 男は動揺を隠せないようだ。私はさらに一本ずつ骨を折っていく。
「ぎゃああああああ!」
 男は悲鳴を上げて動けなくなった。
「な、何をしやがった!」
 私の腕を掴んでいる男は私に向けてうわずった声で怒鳴る。
「私は彼に触れていませんよ」
「いや、お前以外に誰がいる! その眼に秘密があるんだろ!」
 あー、ばれた。私は空いている方の手で男の腹に触れる。力を送る。男は血反吐を吐いて倒れた。私は、眼の色を元に戻す。
「君、大丈夫?」
「だ、大丈夫だけど……君は一体誰なんだ?」
「さあね」
 私は彼をおいてその場を離れる。……失敗かな。あの少年が主人公っぽいけど……あまり面白くなさそうだしな。ちゃんと、あらすじに目を通してから遊びに来るべきだったかも。
「ね、ねえ! ちょっと待ってよ!」
 彼は私のもとへ駆け寄る。私は呆れた様子で振り返る。
「なに? 私はそこまで暇じゃないんだよね」
「名前、教えてくれるかな?」
「……あなたが強くなったら教えてあげる」
 私は、「じゃあね」と一言だけ言って彼から離れた。私は、ウエストポーチに乱雑に入れていた本の中から一冊取り出す。
「えーっと……この本の主人公、とっても強そうね。とりあえず、彼の生き別れの姉という設定でここへ行ってみようかしら」
 私は本を閉じる。次の世界は楽しい世界であることを祈って。

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