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レディ・ヴィランの微笑み

ノベルバユーザー91028

開幕ベルが鳴り響く

–––––サンサーラ【samsara】
サンスクリット語で輪廻転生りんねてんしょうを意味する。
加えて、同人ゲーム「dream・lovers」メインシナリオより「ルナティックモード」における攻略最高難度を誇る隠しキャラとして有名。
※「『dream・lovers』キャラクター&設定資料集」より、一部抜粋


「やぁ、久しぶりだねぇ。少年♪」
「なんだよ。ボクを牢獄ココに閉じ込めた裏切り者がよくもノコノコ姿を現せたもんだな……とうとう生きるのに飽いたか?」
「いやいや、私だって本心から行った訳ではないのだよ。正直、済まないとは思っているさ。あと、別に死ぬ気はない」
「はっ、……心にもないことを言うなよ、虫にも劣る下等生物風情が」
人間界から遠く離れた、魔物達の棲む領域–––––魔界の奥地にひっそりと佇む屋敷。壮麗な城の形をした、今では魔王として君臨した異形の眠る墓所として知られるそこに、一体の化け物が封じ込められている。
彼の名は–––––サンサーラ。
かつて人間界と魔界の双方を支配しようとして、人間と魔物それぞれに退治された魔王の魂を現代に受け継ぐ者である。
今も尚、その力は健在にして図り知れず。万能と無敵を誇る、全生物の頂点に立つ者。
だが、あまりにも強すぎるその能力チカラを同胞たる魔物達に恐れられ、かの者は魔王の眠りし地に封印された。彼は生まれてより一度も城の外へ出たことはない。
「おっと、本題を忘れるところだった! 君に吉報を届けに来たんだ。きっと、興味を持つと思うよ」
「へぇ。くだらない話ならその首刎ねるぞ」
「ヤレヤレ、相変わらず物騒なことを言うなあ。まあ聞きなよ」
自ら危険を冒してまで彼の住まう城を訪れたそいつは、音もなく一瞬で彼に肉薄しコソッと耳打ちした。
「およそ**年ぶりに、『転生者』が現れた。……しかも、この世界の人間ではない異世界からの、だ。どうだい、気になるだろ?」
「転生者……異世界からの? ってことは、」
「あぁ、そうさ。いずれこの世界に変革をもたらすことになるかもしれないね。或いは……時代の趨勢に負けて朽ちるか、そのどちらか」
「なんでもいい。とにかく、ココを出なくてはな。……封じを解く良い口実が出来た。情報提供、感謝する」
「おやおや、君から礼を言われるなんて初めてだよ。きっと明日は槍でも降るかな?」
魔王の「転生者」としてこの世に生を受けたサンサーラをこの城に閉じ込めた張本人は、全身を覆う黒革のコートを翻し、彼から背を向けた。
「では、私は確かに伝えたからね。そろそろ帰るとするよ」
だが–––––、去ろうとする男をサンサーラは呼び止めた。
「おい。少し待てよ。お前、それだけのためにボクまで会いに来たわけじゃないだろ」
「あらら、バレちゃったか。……そうそう、そのなんといったかな、転生者の人間。彼女の傍にね、厄介な虫がくっついているのだよ。これがまあ結構な実力者でね、私としても駆除に大変困っている。……君、掃除は得意かな?」
「へぇ……、アンタがそこまで言うってことは、めちゃくちゃ強いんだろ、そいつ。情報提供料代わりに引き受けてやるよ。これは貸し一つってことでいいかな」
黒コートの男はくつくつと苦笑し、頷いた。
「まあ、いいだろう。君に借りを作るのは気分が悪いが仕方ない。ではよろしく頼むよ」
「あぁ、任せろ。……こう見えても綺麗好きな方でね。虫は特に嫌いなんだ」



–––––そうして。その日、破獄は起きた。
太古の昔に滅んだ魔王の力をそのまま受け継いで生まれた者……サンサーラ。彼は自らの意思で牢城を抜け、人間界へと降り立った。



「……と、言う訳で。まずは拠点を築かなくちゃね。それと協力者も必要かな」
人間界で最も巨大な国–––––シュバルツベルンにやって来た彼は、本性ではなく人間と同じ姿で王都を散策する。
折しも今日は法律で規定された休暇日。街中は人が溢れかえり、たいそう賑やかだった。表通りには出店の類がいくつも並び、そこで買い物をする者も見受けられる。貴族も平民も等しく、和やかで平和な一日を楽しんでいた。彼にとっては初めて見る景色だ。細密な意匠のステッキを突きつつ歩を進める少年は興味深げに街の様子を眺めていた。
背に流れる艶やかなプラチナブロンドを高く結い上げ、真っ白な貴族服で華奢な身体を包み、中性的且つ繊細に整った美貌は凍りついたかのような無表情。血の如き紅い瞳だけが烱々と光を放っている。
「……ふぅむ、ボクがあそこで寛いでいる間に世界は随分と時の針を進めたようだ。と言っても、ボク自身は外に出たことなんてない訳だが。それにしても、……面白いな、人の世というものは」
生まれながらに全てを持ち合わせていた彼にとって、何もかもがひどく退屈でつまらないものに見えていた。魔物の世界はいつだって変化がない。貪欲に強さを求める彼ら魔物は無益な争いを繰り広げ、無駄に同胞の命を奪ってばかりいる。
彼らは何かを創り出そうともせず、発展させようという気概もなく、ただ無意味な殺し合いばかりを延々と続けている。そのことに彼はずっと辟易としていた。
だからこそ、同胞の住む世界を捨てて人間界まで来たのだ。
「あぁ、そうだ。まずは会わなくちゃいけない人間がいたな。異世界からの転生者……えぇと、名前は……確か『ジュリア=オーウェル』といったか」
破獄し城を出てすぐに彼は「転生者」に関する情報を集め始めた。とはいえ情報収集など初の経験なため、まだまだ完璧とは言い難い。
「貴族の令嬢らしいな。ちょうどいい、彼女をボクのものにしよう。それと、拠点にもなってもらおう。……東の国の言葉で『一石二鳥』といったっけ?」


–––––その瞬間。
少年は、ゾクリと背筋を震わせる。
強烈な悪寒がほんの僅かな間に彼を襲った。
(なんだ……これは)
とてつもなく厭な気配。濃密な意思の塊を感じる。悪意、殺意、隔意……その全てをドロドロに混ぜて溶かしたような。
「初めまして、サンサーラ。『叔父』から話は聞いている。俺を殺しに来たんだって? 人間界へようこそ。……歓迎するよ、いつでも遊びにおいで」
背後から囁かれる声。すぐさま振り返る。
だが、もう何も感じない–––––誰もいない。


「……は、どこが『虫』なんだよ。こりゃあとんでもない大物じゃないか……っ」
呻くように呟き、少年–––––サンサーラは額から伝う冷や汗を拭った。

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