引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―

魔法少女どま子

ロニンへの感謝。トルフィンへの思慕。セレスティアへの思いやり。アルスとの誓い。

 いったいなにが起きている……!
 目の前の超常現象ちょうじょうげんしょうに、シュンは思考が真っ白になった。

 どこからともなく、大量の光の粒子が現れ――突如として、創造神ディストを包み込み始めたのだ。

 創造神はいま、無数の煌めきを身にまとい、狂気の威圧感を放っている。まさに神々しい……世界主にふさわしい、人智を超えた圧力。

「ふふ……あっはっはっは!」
 両手を空に掲げ、裏返った笑い声をあげる。
「これぞ神である! すべての天使の力を、再び私に帰依させ……私はいま、本来の力を取り戻したのだ!」
「なにを……言ってやがる……!」

 思わず後ずさるシュン。
 なにが起きたのかはわからない。
 だが本能では理解していた。
 あの創造神が……二人がかりでも倒すのに苦労したディストが、さらなる力を手にしたことを。
 シュンは気づいた。
 らしくもなく、鳥肌が立っている自分を。


 残り時間 ――0:00:40――


「では始めようか。本当の殺戮さつりくショーをね」
 創造神が片頬を吊り上げ、笑った――ような気がした。
 次の瞬間には、シュンの背後で、すさまじい爆発音が発生していた。
 同時に、
「かはっ……」
 と聞き覚えのある悲鳴も混じって聞こえる。

 シュンが慌てて振り向くと、息子トルフィンが呆気なくも倒れていた。
 身体が真っ黒に焦げている。高温に晒されたか、息子から黒煙が立ち上っていた。
「お、おい……」
 シュンが呼びかけるも、息子はぴくりとも動かない。

 ――そんなまさか……あいつがたった一撃で……

「ふふ……彼は私がステータスを上げてあげたんだけどね。それでも耐えられなかったようだ――神の力には。さあシュン君、次は君の番だ」


 残り時間 ――0:00:20――


 強い。強すぎる。
 込み上げる恐怖心を、シュンは律することができなかった。
 元より常識外の力を持つディストが、さらに強くなろうとは。残り時間も一分を切った。

 ――けれど。
 ここで諦めるわけにはいかない。
 どのような絶望的な状況であろうとも、俺は決めたはずだ。
 もう二度と、争いのない国を創ると。ロニンを救ってみせると。
 ここで挫けるわけにはいかない。
 シュンは改めて闇の双剣を構え直し、神と対峙した。

「ほう、この後に及んでまだ私と戦うつもりかね! 愚か者めが!」

 奴の御託を聞く気には毛頭なれない。
 シュンは大きく息を吸い込むと、覚悟を決め、創造神へ向けて駆けだした。


 残り時間 ――0:00:10――


 シュンはもてる意識のすべてを創造神の一挙手一投足に集中した。
 思考が焼き切れんばかりに高速回転し、かつてない高揚感を感じる。
 いくら尋常でない力を手に入れたとはいえ、相手もかなり体力を削られているはず。
 そこを突くしかない。

「さあ、あらがいたまえ!」
 ディストが杖を掲げると、そこから閃光がほとばしった。一条の雷が神速でシュンに飛来してくる。

 だが、シュンは避けなかった。
 瞬間。
 想像を絶する衝撃と熱量がシュンの胴体を射抜いぬいた。
 視界がにじむ。まともな呼吸ができない。
 激痛に顔を歪ませ、足をふらつかせながらも、シュンは走り続けた。
 ――時間がない。
 回避する暇があるのなら、せめて一撃だけでも叩き込め――!

「ほう……!」
 創造神が口元を綻ばせる。
「そう来るか……! やはり侮れない奴だ、シュンよ!」

 ディストの杖が再びまたたいた。
 今度は一筋どころではなく――いくつもの雷が、無数に絡み合ってシュンに襲いかかった。そしてディストは、この攻撃でシュンを始末するつもりだった。

「うぐっ……」
 身体の感覚がすべて消失し、呻き声をあげるシュン。痛みの感じ方さえ忘れてしまった。もはや自分が生きているのかさえ疑わしい。
 だが、それでも耐えてみせた。
 神へ到達するため。
 みんなを守るため。

 己の限界をも超えて。
 足をふらつかせてでも。
 神に向けて走り出した。

 このことに一番驚いたのは、ディスト自身であった。


 残り時間 ――0:00:03――


 シュンは剣を振りかぶった。
 渾身の力を込めたつもりだったが、それはあまりに覚束ない動作だった。


 残り時間 ――0:00:02――


 それでも攻撃には充分だった。
 ディストは恐れおののいていた。
 ステータス、スキルというシステムは彼が創り出した。
 なのに。
 理解できなかった。
 本来死んでいるはずの男が、なぜまだ立っているのか。
 なぜ、剣を振るうだけの余力があるのか……


 残り時間 ――0:00:01――


 シュンの打ち降ろした刀身は、弱々しくも創造神の全身を縦に斬り裂いた。
 それは攻撃とすら呼べない、子どもの遊技にも等しい一撃だった。
 だが、その一撃には《すべて》が詰まっていた。
 昔引きこもっていたことへの後悔。
 両親への申し訳なさ。
 ロニンへの感謝。
 トルフィンへの思慕。
 セレスティアへの思いやり。
 アルスとの誓い。
 ありったけの想いすべてを、神に叩き込んだ。
 そして。
 その見事なる斬撃は、残りわずかとなっていた創造神の体力を、残らず喰らい尽くした。

「愚かな……この私を滅するなど……!」

 最期の瞬間、神は悲痛なる叫び声をあげた。

「貴様も知るがよい。管理者としての運命を。世界を統治することの呪いを。それを知ったとき、貴様は後悔するだろう。私を殺したことを。その苦悶に歪むさまを……遠き場所から鑑賞してい……ふふふ……わーはっはっはっは!」


 

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