引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―
トルフィンの部 【葛藤】
子どもというのは、時に残酷なものだ。
シュロン国の危機にかけつけた騎士たち。
そして騎士長ゴルムの最期を、生徒は滔々と語り続けた。
やはり騎士たちは惨敗だったらしい。天使たちに《ステータス操作》された後は、抵抗さえもできず、無防備なところを殺されていったと。いくら日々の鍛錬で身体を鍛えていたとしても、天使にかかれば物理攻撃力を一瞬で無にできる。適うわけがないのも道理だった。
騎士たちは悟った。どう考えても天使には勝てないと。間違いなく自分たちは殺されてしまうと。
――おまえたちは逃げろ。必ず生き延びるんだ。
そう言ってひとり、戦線で剣を握る者がいた。
彼こそが騎士長ゴルムであった。
ステータスをいじられていてもなお、彼は気迫と根性で立ち上がっていた。気合いなんかで勝てる相手ではないが、ゴルムは部下を守るため、ひとりで天使に挑んでいったのである。
しかしながら、天使たちに人の心はなかった。無造作にゴルムを殺害すると、せっかく逃げ出した騎士たちをも丸ごと殴り倒していった。シュロン国の人間、モンスターも、みな、無慈悲に殺害していったのだという。
聞けば、ゴルムを殺したのはさっきの筋骨隆々の天使だったらしい。だから一応、敵討ちはしたことになるが……
「ほんとに、ありえない強さだった。あんなの……勝てるわけないよ」
「……そう」
長々と話し続ける生徒に、リュアは淡々と頷いていく。
――リュア……
トルフィンは彼女の小さな肩に触れようとした。
だがすんでのところで手を引っ込めた。
幼い子どもにとって、親とはまさに心の依り所。実際にもリュアはゴルムをかなり信頼していた。なのに、出会ったばかりの自分が励ましたところで、いったい何になるだろう。
「……リュア、大丈夫か」
だから、こう聞くことだけが精一杯だった。
リュアはゆっくりとトルフィンに目を向けると、にっこりと微笑んだ。
「大丈夫。こうなってるかもって……思ってはいたから……」
「リュア……」
なんと痛々しいことか。
口角こそ上がっているが、目が笑っていない。彼女の瞳はこれ以上ないほどの哀惜に包まれている。
「あれ……おかしいな……」
笑いながらリュアは一筋の涙を流した。
「泣くなって言われてたのに……戦士なんだから強くなりなさいって言われてたのに……」
とめどなく溢れてくる涙に、彼女自身抑えることができなくなったらしい。恥ずかしそうに顔をそむけ、そそくさと立ち上がる。
「ごめん……ちょっと、ひとりになりたい」
「あ、ちょっと待って!」
セレスティアの呼びかけにも応じず、リュアは教室から抜け出していった。パタパタパタと、彼女の足音だけが周囲に虚しく響きわたる。
トルフィンは無言でセレスティアと顔を見合わせた。
親を亡くした苦しみ。それはトルフィンにはわからない。
だが間違いなく、六歳児でなくとも辛いはずだ。彼女は父を尊敬し、好いていたのだから。
だからそっとしておいてあげたい気持ちはあるが、しかし……
いまや世界に安全な場所はない。どこに天使が潜んでいるかわからないこの状況で、彼女をひとりにさせるわけにはいかない。
「……俺、行ってきます。あなたたちはここで避難しててください」
決然と立ち上がるトルフィンに、セレスティアも神妙な表情で頷いた。
「わかったわ。あなたなら大丈夫だと思うけど……なにかあったら、絶対に戻ってくるのよ。無茶しないで」
「わかってますよ。必ずあいつを連れ戻してきます」
シュロン国の危機にかけつけた騎士たち。
そして騎士長ゴルムの最期を、生徒は滔々と語り続けた。
やはり騎士たちは惨敗だったらしい。天使たちに《ステータス操作》された後は、抵抗さえもできず、無防備なところを殺されていったと。いくら日々の鍛錬で身体を鍛えていたとしても、天使にかかれば物理攻撃力を一瞬で無にできる。適うわけがないのも道理だった。
騎士たちは悟った。どう考えても天使には勝てないと。間違いなく自分たちは殺されてしまうと。
――おまえたちは逃げろ。必ず生き延びるんだ。
そう言ってひとり、戦線で剣を握る者がいた。
彼こそが騎士長ゴルムであった。
ステータスをいじられていてもなお、彼は気迫と根性で立ち上がっていた。気合いなんかで勝てる相手ではないが、ゴルムは部下を守るため、ひとりで天使に挑んでいったのである。
しかしながら、天使たちに人の心はなかった。無造作にゴルムを殺害すると、せっかく逃げ出した騎士たちをも丸ごと殴り倒していった。シュロン国の人間、モンスターも、みな、無慈悲に殺害していったのだという。
聞けば、ゴルムを殺したのはさっきの筋骨隆々の天使だったらしい。だから一応、敵討ちはしたことになるが……
「ほんとに、ありえない強さだった。あんなの……勝てるわけないよ」
「……そう」
長々と話し続ける生徒に、リュアは淡々と頷いていく。
――リュア……
トルフィンは彼女の小さな肩に触れようとした。
だがすんでのところで手を引っ込めた。
幼い子どもにとって、親とはまさに心の依り所。実際にもリュアはゴルムをかなり信頼していた。なのに、出会ったばかりの自分が励ましたところで、いったい何になるだろう。
「……リュア、大丈夫か」
だから、こう聞くことだけが精一杯だった。
リュアはゆっくりとトルフィンに目を向けると、にっこりと微笑んだ。
「大丈夫。こうなってるかもって……思ってはいたから……」
「リュア……」
なんと痛々しいことか。
口角こそ上がっているが、目が笑っていない。彼女の瞳はこれ以上ないほどの哀惜に包まれている。
「あれ……おかしいな……」
笑いながらリュアは一筋の涙を流した。
「泣くなって言われてたのに……戦士なんだから強くなりなさいって言われてたのに……」
とめどなく溢れてくる涙に、彼女自身抑えることができなくなったらしい。恥ずかしそうに顔をそむけ、そそくさと立ち上がる。
「ごめん……ちょっと、ひとりになりたい」
「あ、ちょっと待って!」
セレスティアの呼びかけにも応じず、リュアは教室から抜け出していった。パタパタパタと、彼女の足音だけが周囲に虚しく響きわたる。
トルフィンは無言でセレスティアと顔を見合わせた。
親を亡くした苦しみ。それはトルフィンにはわからない。
だが間違いなく、六歳児でなくとも辛いはずだ。彼女は父を尊敬し、好いていたのだから。
だからそっとしておいてあげたい気持ちはあるが、しかし……
いまや世界に安全な場所はない。どこに天使が潜んでいるかわからないこの状況で、彼女をひとりにさせるわけにはいかない。
「……俺、行ってきます。あなたたちはここで避難しててください」
決然と立ち上がるトルフィンに、セレスティアも神妙な表情で頷いた。
「わかったわ。あなたなら大丈夫だと思うけど……なにかあったら、絶対に戻ってくるのよ。無茶しないで」
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