引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―
トルフィンの部 【引きこもりの決意】
寸前のところで、トルフィンの剣は阻まれた。
天使が右手を差しだし、見えない壁を発生させたからだ。
「くっ……」
トルフィンも力づくで壁を破壊しようとするが、どうにも切り抜けられない。剣先から水のように波紋が広がっていくばかりで、天使には一向に届かない。
「はあっ……はあっ……」
息切れが激しくなってきた。
いかんせん、さっきまで勇者アルスと命をかけた戦いをしてきたばかりなのだ。体力的にも限界である。 
そんなトルフィンを見て、天使はニタリと醜悪な笑みを浮かべた。
「ふふ……だいぶ疲れてるね……そんなんじゃ私には勝てないヨ!」
「くっそ……」
たぶん万全の状態であれば、こんな小物感満載の奴なんかに負けはしない。すこしでも休んでおくべきだったか――
そうしてトルフィンが崩れかけた、そのとき――
「トルフィンくん、諦めないで!」
ふいに背後からセレスティアに叫ばれた。
と同時に、身体の底から不思議な力が沸き起こってくるのを感じる。トルフィンの本来のステータスを超えた、圧倒的な物理攻撃力を。
「こ、これは、まさか……!」
「頑張って! 私も援護するから!」
聞いたことがある。
セレスティアの最も得意とする魔法は、すなわち補助魔法であると。かつて母ロニンも、セレスティアの魔法に助けられ、ピンチを切り抜けたことがあるという。
――抜ける!
トルフィンは思い切り叫んだ。
我を忘れ、全身全霊をもって、剣を押し込んでいく。
「な……ん、だと……?」
天使が驚愕したように目を見開く。
「この力は……人間のくせに……馬鹿なぁぁぁぁぁあ!」
後半の台詞はほとんど悲鳴に近かった。壁を突破したトルフィンの剣が、見事に天使の胴体を縦一文字に切り裂いたからである。
「おのれ……私を滅したところでいい気になるなよ……創造神ディスト様は人間ごときに絶対勝てない……」
――ディスト、だと……?
「待て、それはどういう――!」
トルフィンは問いつめようとするが、しかし遅かったようだ。命尽きた天使が、力を失ったように仰向けに倒れるや、その姿を無数の粒子へと変えたからだ。
終わったか……
トルフィンは片膝をつき、乱れる呼吸をなんとか整えた。物理攻撃力を強化してもらったとはいえ、肉体的な疲労が消えたわけではない。
そんなトルフィンの頭を優しく撫でてくる者がいた。王女セレスティアである。
彼女はトルフィンの隣にしゃがみこむと、沈鬱な声で一言、言った。
「なんだったの……? いまのは……」
「わかりません……。ただ、さっき妙なことを言ってましたね」
「うん。創造神ディストって……。ディストってシュロン国の幹部でしょ? 創造神って、さっきアルスが言ってた……」
そう。
アルスはおそらく、創造神とかいう奴に記憶を操作された。
その創造神がディストだということは、今回の黒幕は――
「その通りです」
そんなトルフィンの思考を読んだかのように、どこからともなく女の声が聞こえた。トルフィンとセレスティアは慌てて周囲を見回すも、声の主は見当たらない。
「探しても見つかりませんよ。私は遠くからあなたたちに話しかけています」
「遠くから……」
「はい。私の名はアリアンヌ。シュンさんとロニンさんの任命で、トルフィンさん、セレスティアさん、リュアさんに、一時的に《ステータス低下無効スキル》を授けました」
そこからトルフィンたちはなんとも荒唐無稽な話を聞いた。
やはり今回の黒幕は幹部ディスト。彼の真の姿は《創造神》であり、ステータスを自由に操作する力を持つという。また、アルスを陰で操っていたのもディストらしい。
そして、いま現在、神族なる連中が人類とモンスターを滅ぼしにかかっていること。
シュンとロニンは、創造神を倒すべく、アグネ湿地帯で修行中だということ。
その間、トルフィンたち三人に、世界を守ってほしいということ。
これらを淡々と、アリアンヌは告げてきた。
「最後に、遠方ながらあなたたちのステータスも全回復させて差し上げます。私の力は創造神のように万全ではありません。いつでもこれができるわけではないことを、肝に銘じておいてください」
「……あっ」
ふいに、さっきまでベッドで寝ていたリュアがぴょんと飛び跳ねた。
「な、治った! 治ったよ!」
「……はい。《怪我》という状態以上を解除しましたので」
突如元気になったリュアを見るに、このアリアンヌという者の力は本物だ。トルフィンの疲労も嘘のように消えてなくなった。
「最後にシュンさんとロニンさんの声を届けます。お願いします。人類の命運は、あなたたちにもかかっています」
アリアンヌがそう言い終わらないうちに、急に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おうトルフィン、元気にしてるかよ!」
「その声は……父上……」
「ああ。事情はいまアリアンヌが説明してくれた通りだ。頼む。いまみんなを任せられるのはおまえたちしかいねえ。頑張ってくれ」
「シュンくん……」
若干の涙目になりながら、セレスティアが頷く。
続いて、こちらも聞き覚えのある声が室内に響いてきた。
「私たちも頑張って強くなるから……だから負けないで! 平和になったら、絶対、いっぱい、コッペペン食べさせてあげるから!」
「それは母上が食べたいだけでしょう?」
しかもコッペペンって。たぶん、っていうか絶対、緊張してる。
「むう。こんなときくらい素直に返事してよ!」
「……ごめんなさい。母上。私たちも死にたくはありませんからね。精一杯頑張らせていただきますよ」
そして同時に、トルフィンは気づいていた。
ステータス無効のスキルを授けられた者のなかに、ゴルムはいなかった。つまり、リュアの父親は、もう……
しかし、怪我が治って嬉しそうにしているリュアにどうしてそれが言えよう。
――世界だけじゃない。もう一つ、俺には守らなきゃならねえもんがある――
トルフィンはひとり、決意を新たにするのであった。
天使が右手を差しだし、見えない壁を発生させたからだ。
「くっ……」
トルフィンも力づくで壁を破壊しようとするが、どうにも切り抜けられない。剣先から水のように波紋が広がっていくばかりで、天使には一向に届かない。
「はあっ……はあっ……」
息切れが激しくなってきた。
いかんせん、さっきまで勇者アルスと命をかけた戦いをしてきたばかりなのだ。体力的にも限界である。 
そんなトルフィンを見て、天使はニタリと醜悪な笑みを浮かべた。
「ふふ……だいぶ疲れてるね……そんなんじゃ私には勝てないヨ!」
「くっそ……」
たぶん万全の状態であれば、こんな小物感満載の奴なんかに負けはしない。すこしでも休んでおくべきだったか――
そうしてトルフィンが崩れかけた、そのとき――
「トルフィンくん、諦めないで!」
ふいに背後からセレスティアに叫ばれた。
と同時に、身体の底から不思議な力が沸き起こってくるのを感じる。トルフィンの本来のステータスを超えた、圧倒的な物理攻撃力を。
「こ、これは、まさか……!」
「頑張って! 私も援護するから!」
聞いたことがある。
セレスティアの最も得意とする魔法は、すなわち補助魔法であると。かつて母ロニンも、セレスティアの魔法に助けられ、ピンチを切り抜けたことがあるという。
――抜ける!
トルフィンは思い切り叫んだ。
我を忘れ、全身全霊をもって、剣を押し込んでいく。
「な……ん、だと……?」
天使が驚愕したように目を見開く。
「この力は……人間のくせに……馬鹿なぁぁぁぁぁあ!」
後半の台詞はほとんど悲鳴に近かった。壁を突破したトルフィンの剣が、見事に天使の胴体を縦一文字に切り裂いたからである。
「おのれ……私を滅したところでいい気になるなよ……創造神ディスト様は人間ごときに絶対勝てない……」
――ディスト、だと……?
「待て、それはどういう――!」
トルフィンは問いつめようとするが、しかし遅かったようだ。命尽きた天使が、力を失ったように仰向けに倒れるや、その姿を無数の粒子へと変えたからだ。
終わったか……
トルフィンは片膝をつき、乱れる呼吸をなんとか整えた。物理攻撃力を強化してもらったとはいえ、肉体的な疲労が消えたわけではない。
そんなトルフィンの頭を優しく撫でてくる者がいた。王女セレスティアである。
彼女はトルフィンの隣にしゃがみこむと、沈鬱な声で一言、言った。
「なんだったの……? いまのは……」
「わかりません……。ただ、さっき妙なことを言ってましたね」
「うん。創造神ディストって……。ディストってシュロン国の幹部でしょ? 創造神って、さっきアルスが言ってた……」
そう。
アルスはおそらく、創造神とかいう奴に記憶を操作された。
その創造神がディストだということは、今回の黒幕は――
「その通りです」
そんなトルフィンの思考を読んだかのように、どこからともなく女の声が聞こえた。トルフィンとセレスティアは慌てて周囲を見回すも、声の主は見当たらない。
「探しても見つかりませんよ。私は遠くからあなたたちに話しかけています」
「遠くから……」
「はい。私の名はアリアンヌ。シュンさんとロニンさんの任命で、トルフィンさん、セレスティアさん、リュアさんに、一時的に《ステータス低下無効スキル》を授けました」
そこからトルフィンたちはなんとも荒唐無稽な話を聞いた。
やはり今回の黒幕は幹部ディスト。彼の真の姿は《創造神》であり、ステータスを自由に操作する力を持つという。また、アルスを陰で操っていたのもディストらしい。
そして、いま現在、神族なる連中が人類とモンスターを滅ぼしにかかっていること。
シュンとロニンは、創造神を倒すべく、アグネ湿地帯で修行中だということ。
その間、トルフィンたち三人に、世界を守ってほしいということ。
これらを淡々と、アリアンヌは告げてきた。
「最後に、遠方ながらあなたたちのステータスも全回復させて差し上げます。私の力は創造神のように万全ではありません。いつでもこれができるわけではないことを、肝に銘じておいてください」
「……あっ」
ふいに、さっきまでベッドで寝ていたリュアがぴょんと飛び跳ねた。
「な、治った! 治ったよ!」
「……はい。《怪我》という状態以上を解除しましたので」
突如元気になったリュアを見るに、このアリアンヌという者の力は本物だ。トルフィンの疲労も嘘のように消えてなくなった。
「最後にシュンさんとロニンさんの声を届けます。お願いします。人類の命運は、あなたたちにもかかっています」
アリアンヌがそう言い終わらないうちに、急に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おうトルフィン、元気にしてるかよ!」
「その声は……父上……」
「ああ。事情はいまアリアンヌが説明してくれた通りだ。頼む。いまみんなを任せられるのはおまえたちしかいねえ。頑張ってくれ」
「シュンくん……」
若干の涙目になりながら、セレスティアが頷く。
続いて、こちらも聞き覚えのある声が室内に響いてきた。
「私たちも頑張って強くなるから……だから負けないで! 平和になったら、絶対、いっぱい、コッペペン食べさせてあげるから!」
「それは母上が食べたいだけでしょう?」
しかもコッペペンって。たぶん、っていうか絶対、緊張してる。
「むう。こんなときくらい素直に返事してよ!」
「……ごめんなさい。母上。私たちも死にたくはありませんからね。精一杯頑張らせていただきますよ」
そして同時に、トルフィンは気づいていた。
ステータス無効のスキルを授けられた者のなかに、ゴルムはいなかった。つまり、リュアの父親は、もう……
しかし、怪我が治って嬉しそうにしているリュアにどうしてそれが言えよう。
――世界だけじゃない。もう一つ、俺には守らなきゃならねえもんがある――
トルフィンはひとり、決意を新たにするのであった。
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