悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!
第七十五話 偶然の再会
「あの時は大変お世話になりました! おかげで綺麗に傷も治りました。本当にありがとうございます」
お礼を述べられたルイスは、困惑しているようだ。
「誰かと勘違いしてないかな? 僕は君に会った事はないよ」
「え、ですがあの時……転んだ時に散らばったナーバの実を拾って傷薬までくださいました」
「僕、傷薬なんて持ち歩かないし。軽い傷なら治癒魔法使えば治せるから」
ルイスが容赦なく主人公ちゃんとのフラグをポキポキと折っていく。
そもそもフラグなのかも分からないけど。『夢色セレナーデ』でルイスのルートしたことないから、どんなイベントがあるのか知らない。むしろ誰のエンディングも迎えられなかった身としては、音楽に勤しんだ三年間だったなという感想しかない。
「その時、青白色の長い髪の男性と一緒に居られましたが、ご存知ありませんか?」
「だったらそれはきっと、僕じゃなくて妹じゃないかな。ねぇリィ、何か心当たりない? 青白色の長い髪の男性ってセシル先生だよね?」
主人公ちゃんが不安そうにこちらを、じっと見ている。
「昔、武器を買いに来た時に男装してたから。紛らわしくてごめんね……」
「そうだったのですね。あの時は本当にありがとうございました! 私、アリーシャと申します。よかったらお名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「私はリオーネ、兄はルイスだよ。こちらこそ、頂いた果実美味しかった。よかったら見せてもらえる?」
「はい! こちらに……ひっ!」
ちょっとケイオス、近い近い!
なんでそんなにナーバの実を至近距離でガン見してるの!
「ごめんね、護衛が驚かせちゃって」
「これ、うまそう」
ナーバの実を指差してケイオスが言った。一つ手にとってステータスを確認してみた。
『ナーバの実』
品質:新鮮
特性:MP微回復
性能:みずみずしくて甘い赤い色の果実。
これ、MP回復効果が少しついてる。ケイオス、もしかしてマナ回復出来る食べ物分かるの?
『微弱ながらも魔力を放っているからな、見ればすぐに分かる』
よし、ケイオスが反応した食材は全部買っていこう!
「右側にある赤い果実がナーバの実、今が旬で甘くて美味しいのです。真ん中にある黄色の果実がバウムの実、酸味と甘味の絶妙なバランスが最高なんです。左側にあるのはグレール、一つ一つの実は小さいのですが食べやすくて人気なんですよ」
ナーバの実はリンゴみたいなのに、マンゴーのような味がした。見た目的にバウムの実は柑橘系の果実だろう。そしてグレールはブドウっぽそう。
「全部うまそう」
よし、全部買おう!
転送バッグで倉庫にすぐ送れるし、鮮度も保てるから新鮮なうちにたくさん欲しい!
「アリーシャちゃん、これ全部欲しいんだけど……」
「そんなにお買い上げ頂いてよろしいのですか!?」
「私は問題ないんだけど、他のお客さんの分が無くなっちゃうから迷惑……かな?」
嫌な客にならないよう、配慮大事!
「いえ! 同じ果実を売ってる屋台は他にもありますし問題ありません!」
余計な配慮だったようだ。それなら遠慮無く買わせてもらおう。
「これで足りるかな?」
小銀貨1枚を渡すと、「白銅貨1枚あれば十分です!」と恐縮されてしまった。
やばい、大量に買うつもりだったから小銀貨からしか持ってきていない。
「ごめんなさい、細かいのがなくて……」
私の馬鹿!
この世界では前世みたいに、コンビニで数百円のお菓子買うのに1万円出す感覚で気軽に買い物出来ないというのに!
ここで両替は出来ないだろうし……かくなる上は……
「アリーシャちゃん。よかったら少しだけこの辺を案内してもらえないかな? お釣りは案内料ってことで……ダメかな?」
「よ、よろしいんですか?!」
「うん、私は全然大丈夫」
「ありがとうございます!」
買った物は転送バッグで倉庫に送りつつ、アリーシャちゃんに色々美味しい食材を教えてもらいながら一緒に回った。
異国の熟練冒険者のような風貌のケイオスを見て怯む店員さんも、アリーシャちゃんと一緒だとほっこり笑顔になる。
「アリーシャ、今日はお友達と一緒なんだね!」
アリーシャちゃんはこの辺では顔が広いようで、行く先々のお店で気さくに声をかけられていた。そのおかげで、お店の人達に下手に警戒心を与えずに買い物が出来てすごく助かった。
「ここのミルクセーキ、とても美味しいんです! 良かったら飲んでいきませんか?」
「うん、飲んでみたい!」
「ジキルおじちゃん、ミルクセーキを4つちょうだい」
「あいよ! アリーシャの友達なら特別に1つ20リルにしとくよ」
「おじちゃん、ありがとう!」
高い食材を買って崩した白銅貨を出そうとしたら、アリーシャちゃんに止められてしまった。
「ここは私が払いますので! リオーネ様達はあちらの席で少しお待ち下さい」
「いいの?」
「はい、勿論です! せめてこれくらいはさせて下さい」
「ありがとう」
「アリーシャさん、運ぶの手伝うよ。リィはケイオスと一緒に座って待ってて」
「ルイスも、ありがとう」
歩きっぱなしだったから、休憩できるのはありがたい。席に座って二人が来るのを待った。
「ケイオス、普通の食べ物は食べれるの?」
「実体化している時は何でも食べれる。まぁ、栄養になるのはマナを含むものだけだけどな。それ以外は雀の涙ほどしか回復しない」
「そうなんだ。味覚は感じるの?」
「ああ、それは分かる」
精霊って不思議だな。効率的に栄養を取るには、やっぱりマナが必要なんだね。
そんな話をしていたら、アリーシャちゃんとルイスがミルクセーキを持ってきてくれた。
「二人とも、ありがとう!」
「リオーネ様、召し上がってみてください」
「うん、いただきます」
見た目はクリーム色のドリンクだ。甘いミルクベースの飲み物に、見た目では分からなかった甘酸っぱい果実の酸味が良いアクセントになってて飲みやすい。
「アリーシャちゃん、これすごく美味しいよ! ルイスもケイオスも飲んでみて!」
「本当だ、美味しい」
「味は悪くないな」
「気に入ってもらえて嬉しいです! ホワイトベリーソースが入ったミルクセーキなんです。ジキルおじちゃんのお店は、その時の旬の果物をミルクセーキに使ってあるんですよ」
「ってことは、季節によってまた違う味が楽しめるの?」
「はい、そうなんです!」
「ルイス、季節変わる毎に通おう!」
「仕方ないな、付き合ってあげるよ」
そう言いつつも、お兄様嬉しそうに見えるのは気のせいじゃないよね? 甘いもの好きだもんね?
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