悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!

花宵

第六十四話 ワイバーン討伐

 騎士団の皆さんのおかげで、怪我人もなく無事避難が終わったようだ。

「エルンスト様。弓兵部隊の準備が整いました」

 城の高台に弓兵部隊が待機しているのが見える。

「ワイバーンの硬い皮膚に弓は刺さらない。的確に瞳や口内を狙える者は居るか?」
「申し訳ありません、動いているワイバーンには難しいと思われます」
「それならワイバーンが城下へ逃げそうになった時に、退路を立つよう必要に応じて援護射撃を頼む。今はそのまま待機しておいてくれ」
「はっ! かしこまりました!」

 伝令兵は弓兵部隊に指示を伝えに戻った。
 ワイバーンは相変わらず空を旋回してこちらの様子を窺っている。

「何とか地上におびき寄せられればいいんだが……」
「リオーネ。そういえばさっき、ワイバーンは光るものを好むと言っていたな?」
「はい。ワイバーンは光るものを好んで巣に持ち帰る習性があります」
「それなら兄上、これでおびき寄せるのはいかがでしょう?」

 リヴァイはそう言って、床に散らばった宝石のついた装飾品を拾った。

 どうやら逃げる際に身につけた宝石を外していった人が多いようで、あちこちに転がっていた。

「なるほど、よい考えだ! 第一小隊は宝石を拾ってこの中央のテーブルに集めてくれ。ワイバーンをここへおびき寄せる。第三小隊は戦闘しやすいように、邪魔なテーブルや椅子を隅に避けてくれ」
「はっ! かしこまりました!」
「リオーネ嬢達は後方に待機して、ワイバーンが降下してきたら魔法で動きを封じてくれ。リヴァイドとルイス君は、リオーネ嬢の補佐を頼む。さらにその周囲を第二小隊で固めて援護を頼む」
「分かりました」

 後方待機しながら、騎士達に的確に指示を出すエルンスト様を見ていた。素晴らしい采配だ。それに騎士達も喜んでその指示に従っているように見える。きっと良い信頼関係が築けているのだろう。

 あんな風に皆に慕われたカリスマリーダーが居なくなってしまったら、確かに騎士団も弱体化するだろうな。

 王妃様は、第一王子としての自覚を持ちなさいってお叱りになっていたけど、充分に騎士達の士気を高め陛下に任せられた仕事をこなしておられるように見える。

 妖精の悪戯で突然姿を消す事さえなければ……

 このワイバーンを無事に撃退出来たら、王妃様のエルンスト様に対する評価も少しは上がるかもしれない。そのためにも、何としてでもここで仕止める!

「リィ、敵が降下してきたら僕が攻撃力と防御力、状態異常付与確率アップのバフをかけるよ」
「そんな事出来るの!?」
「うん。支援なら後は敵を弱体化するデバフと回復も可能だよ」
「お兄様、すごい!」

 流石はハイブリット傭兵、ボス戦においてはめちゃめちゃ心強い!

「でも敵の皮膚がかたくて、きちんと麻痺させれるか少し不安なんだよね。さっきは麻痺効いてなかったし……」
「先にワイバーンの体に水でも付与出来てれば、雷魔法はかなり効きやすくなると思うけど」
「それなら俺に任せろ」

 自信満々にリヴァイは胸ポケットからウォーターガンを取り出した。

「持ち歩いていたのですか!?」
「肌身離さず持っておるぞ。ミニマムリングがあれば、場所とらないしな」
「それなら僕だって持ってるよ、ほら」
「え、ルイスまで!?」

 まさか二人して持ち歩いていたとは驚きだ。

「ここからなら、あのテーブルまでは軽々届く。俺がワイバーンに水を付与するよ」
「はい、お願いします!」

 円卓のテーブルに、キラキラ輝く装飾品が集められた。

「よし、皆テーブルから一旦距離を取ってくれ」

 ワイバーンが集められた装飾品めがけて急降下してきた。

「ウィンドブレス」

 ルイスが皆にバフをかけてくれてた。力がみなぎり、頭が研ぎ澄まされたような感覚がする。ワイバーンの動きがさっきよりゆっくりに見えた。

 バフ効果すごい!

「くらえ!」

 そこへリヴァイがウォーターガンの出力を最大にして、ワイバーンへ水を付与してくれた。ルイスのバフのおかげか、水の威力が格段に上がっている。

「サンダーチェイン」

 雷の鎖でワイバーンを縛り付ける。今度はきちんと体全体を覆うことに成功した。水付付与+バフ効果でしっかり効いてくれたようだ。

 ワイバーンは着地に失敗して、そのまま地面に落ちた。

「ウィンドカース!」

 ルイスが呪文を唱えると、ワイバーンの体が黒紫色に変化して「ギィ……」と苦しそうに鳴いた。どうやデバフをかけてくれたようだ。

「今だ! 狙うのは前肢の翼。ワイバーンの皮膚は硬いから無理に斬ろうと思わなくていい。左側を的確に刺して飛べなくしてくれ」
「はっ! かしこまりました!」

 指示を出した後、エルンスト様が攻撃を仕掛ける。

「グランドレイ!」

 ワイバーンが空へ逃げないよう翼と一体化した右前肢を、閃光のような一撃で一本見事に切り落とした。すごい威力だ。

 続いて騎士達が、左前肢に剣を突き刺し翼には穴が開きボロボロになった。

 あれではもうワイバーンは空を飛べないだろう。勝利を確信したその時、ワイバーンは大きく口を開けた。

 そうだ、ワイバーンは全体ブレス攻撃をしてくるんだった。このままでは近くにいる騎士達が灼熱の炎に包まれてしまう。

「リヴァイ、ワイバーンの口の中へもう一度水を!」
「分かった」

 突然口の中へ入ってきた水に驚いたのか、ワイバーンは一瞬ひるんだ。

「サンダーランス!」

 ワイバーンの口内めがけて雷の矢を放った。ルイスのバフのおかげで、運良くまた麻痺を付与できた。

「ナイスアシストだ!」

 開いたままの口に、エルンスト様が渾身の一撃を放つ。内側からスパッと斬られたワイバーンはパラパラと灰になって消えていった。

「うおお!」
「よっしゃー!」
「流石はエルンスト様!」

 騎士達が喜びの声をあげた。
 よかった、何とか倒せた! ほっと胸を撫で下ろしていると、エルンスト様がこちらへやってきて仰った。

「此度の一番の功労者は、リオーネ嬢だ」

 えっ!?
 一気に注目され、背中から嫌な汗がダラダラ流れる。

「すごいよ、リィ!」
「やったな、リオーネ!」
「え、いや、その……リヴァイド殿下がワイバーンに水を付与し、兄がバブをかけてアシストしてくれたおかげです。それに皆さんを一つにまとめて素晴らしき采配を振るったエルンスト殿下こそ、称賛されるべきだと私は思います!」

 この機会に、是非ともエルンスト様の凄さをもっと布教しておこう。この国にとって必要とされる存在なんですよって、エルンスト様自身にも深くご理解してもらえるように。

「リヴァイド! 怪我はありませんか!?」

 その時、心配そうに呼び掛ける声が聞こえた。リヴァイの元へ駆け寄ってこられた王妃様は、手に怪我がないか確認されている。

 後ろからは、ぞろぞろと避難していた人達も戻ってきた。騎士達の活躍を称賛しに来てくれたのだろうかと思ったら――

「俺は大丈夫です。それよりも……」
「エルンスト! リヴァイドを危険に巻き込むなんて、貴方は何を考えているのですか! 指に少し傷がつくだけで、音に狂いが出るのですよ! リヴァイドがピアノを弾けなくなったら、どうしてくれるのですか!」

 物凄い剣幕で、王妃様はエルンスト様に怒声を浴びせた。まさかの事態に、皆言葉を失っている。

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