悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!
第六十二話 緊急事態発生!
悪魔に魂を売ったと言われる超天才ヴァイオリニスト、ニコロ・バガニーニが作曲したヴァイオリン協奏曲第2番第3楽章。私が親しみがあるのは、それを主題として編曲されたフランツ・リストのピアノ曲【ラ・カンパネラ】の方だけど。
カンパネラとは、イタリア語で【鐘】を意味している。きらびやかな鐘の音が響き渡るように美しいその魔性の旋律は、一度聞いた者の心を虜にし、たちまち奪ってしまう。
初めて私がその曲を聞いたのは、翼と初めて会った時だった。
世界中のピアニストが口を揃えて難しいと評する超高難易度のピアノ曲。それを翼は弱冠五歳にして弾きこなしていた。
その煌めくような研ぎ澄まされた旋律に思わず釘付けになって、聞き入ってしまったのをよく覚えている。
ヴァイオリンが主旋律になると、本当に鐘の音のように聞こえるんだな。
ルイスとリヴァイの演奏に、会場からは感嘆のため息が漏れた。歓談を止め、手にしたティーカップをソーサーに置くのも忘れるくらい、皆が自然とステージに注目して聞き入っている。
鬱憤をぶつけるように激しめに演奏された二人の音楽は、若干先ほどの出来事に対する苛立ちが混じっているようにも感じられた。
それでも息の合った二人の演奏はうまく調和して、会場を情熱的な音色で包み込んだ。
観客の心を掴み熱くさせたのか、演奏が終わると自然とスタンディングオベーション沸き起こった。
とても素晴らしい演奏だった。
思わず聞き入ってしまった。
しかしそれよりも、今の私にはもっと知りたい事があった。
どうしてあの曲を知っているのか!
作中で使われた曲に前世の有名なクラシック曲は一切無かった。
奏でる音楽は全て、「リューネブルクの錬金術士」の多彩なBGMをクラシックバージョンにアレンジした楽曲だった。
壇上から戻ってきたら問いただそう。そう思っていたのに
「ギシャァァアアア!」
突然空から割れるようなモンスターの声が降り注ぐ。
「上だ! 空にモンスターが居るぞ!」
見上げると、空には大型ワイバーンの姿があった。
どうして今現れるの……まさか、本来ならもうエルンスト様は旅に出ていた時期だったの!?
今はそんな事を気にしている場合じゃない。
小さくしておいたポシェットを元のサイズに戻して斜め掛けし、武器を取り出す。
ワイバーンは獲物を見定めたかのように、王妃様の居らっしゃる方向をじっと見ている。
どうして、王妃様を狙っているのだろう。
そういえば作中でワイバーンは、光るものを集める習性があった。
ホルン山脈の最奥のボスであるワイバーンは、自身の巣にたくさんの光る宝物をため込んでいた。
そのお宝は品質の良い素材が手に入るから、宝箱がリポップしたら定期的に狩りに行ってたんだよな、そういえば。
そっか、王妃様はこの会場で一番煌めく格好をされている。
豪華な髪飾りに大ぶりのパールのイヤリング。胸元には大きなルビーの嵌め込まれた金細工のペンダントがあって、遠目でも分かるほど煌めく手元にはサファイアの腕輪とダイヤモンドの指輪のダブルコンボ。ドレスにまで宝石が散りばめられていて、少し動くだけで太陽の光に反射してキラキラ輝く、格好の餌食だ。
そういえばワイバーンの巣の背景には、さりげなく人骨みたいなものも混じってる描写があった。
もしかすると宝石を身につけた人間ごと拐って、巣に閉じ込めておいたのかもしれない。リアルに考えるとこわ……って怯えている場合じゃない。王妃様を助けないと!
空を旋回してスピードを増したワイバーンは、王妃様めがけて一気に急降下した。
だめだ、走っても間に合わない。
小さくしておいたライトニングロッドを取り出し呪文を唱える。
「サンダーチェイン!」
間一髪、雷の鎖がワイバーンの両足に絡みつき、何とか動きを止める事が出来た。飛距離長くてよかった、このスキル。
でも見た感じ翼はパタパタさせてるし、麻痺には掛かってないようだ。両足にぐるりと巻き付いた雷の鎖を解こうと必死だ。
「王妃陛下、身に付けた宝石をなるべく遠くへ投げて下さい! ワイバーンは光るものを好んで、巣に持ち帰る習性があります!」
私の言葉で、王妃様は身に付けていた宝石を遠くへ投げやった。
「ナイスだ、リオーネ嬢!」
エルンスト様が助走をつけてテーブルを踏み台に跳躍し、ワイバーンに斬りかかる。しかし硬い鱗で覆われた皮膚に物理攻撃はあまり効かないようで、決定打にはならない。
動けるようになったワイバーンは警戒したのか、一旦空へ逃げた。空をゆっくり旋回しながら、こちらの様子を窺っているようだ。
「王妃陛下、お怪我はありませんか?」
「え、ええ。貴方のおかげで助かりました。でも腰が抜けてしまって立てないのです」
ポシェットから状態異常を解くアイテム『沈静花の葉』を取り出して王妃様へ渡した。
「状態異常を解くアイテムです。こちらを使われてください」
今のうちに、戦えない人は建物の中へ避難した方がいい。
「かったいな、あいつ。空中じゃ斬れない。何とか地面に落とせればいいんだが……」
「エルンスト様、私が魔法で援護します。ですがまずは皆さんを、避難させた方が良いと思います」
「そうだな。あの巨体がここに落ちてきたら、皆下敷きになる」
異変に気付いて駆けつけた王国騎士達に、エルンスト様は速やかに皆を建物へ避難させるよう指示を出した。王妃様も騎士達に預けたからこれで一安心だ。
人々を守りながら誘導する騎士の中には、エルンスト様が前に連れてきたあの元山賊達の姿もあった。
流石は荒くれ者のシュトラール。
無自覚に悪党を改心させるのが上手すぎる。
エルンスト様が国に残ってくれたら、ウィルハーモニー王国の騎士達が弱体化する事もなさそうなんだけどな。
カンパネラとは、イタリア語で【鐘】を意味している。きらびやかな鐘の音が響き渡るように美しいその魔性の旋律は、一度聞いた者の心を虜にし、たちまち奪ってしまう。
初めて私がその曲を聞いたのは、翼と初めて会った時だった。
世界中のピアニストが口を揃えて難しいと評する超高難易度のピアノ曲。それを翼は弱冠五歳にして弾きこなしていた。
その煌めくような研ぎ澄まされた旋律に思わず釘付けになって、聞き入ってしまったのをよく覚えている。
ヴァイオリンが主旋律になると、本当に鐘の音のように聞こえるんだな。
ルイスとリヴァイの演奏に、会場からは感嘆のため息が漏れた。歓談を止め、手にしたティーカップをソーサーに置くのも忘れるくらい、皆が自然とステージに注目して聞き入っている。
鬱憤をぶつけるように激しめに演奏された二人の音楽は、若干先ほどの出来事に対する苛立ちが混じっているようにも感じられた。
それでも息の合った二人の演奏はうまく調和して、会場を情熱的な音色で包み込んだ。
観客の心を掴み熱くさせたのか、演奏が終わると自然とスタンディングオベーション沸き起こった。
とても素晴らしい演奏だった。
思わず聞き入ってしまった。
しかしそれよりも、今の私にはもっと知りたい事があった。
どうしてあの曲を知っているのか!
作中で使われた曲に前世の有名なクラシック曲は一切無かった。
奏でる音楽は全て、「リューネブルクの錬金術士」の多彩なBGMをクラシックバージョンにアレンジした楽曲だった。
壇上から戻ってきたら問いただそう。そう思っていたのに
「ギシャァァアアア!」
突然空から割れるようなモンスターの声が降り注ぐ。
「上だ! 空にモンスターが居るぞ!」
見上げると、空には大型ワイバーンの姿があった。
どうして今現れるの……まさか、本来ならもうエルンスト様は旅に出ていた時期だったの!?
今はそんな事を気にしている場合じゃない。
小さくしておいたポシェットを元のサイズに戻して斜め掛けし、武器を取り出す。
ワイバーンは獲物を見定めたかのように、王妃様の居らっしゃる方向をじっと見ている。
どうして、王妃様を狙っているのだろう。
そういえば作中でワイバーンは、光るものを集める習性があった。
ホルン山脈の最奥のボスであるワイバーンは、自身の巣にたくさんの光る宝物をため込んでいた。
そのお宝は品質の良い素材が手に入るから、宝箱がリポップしたら定期的に狩りに行ってたんだよな、そういえば。
そっか、王妃様はこの会場で一番煌めく格好をされている。
豪華な髪飾りに大ぶりのパールのイヤリング。胸元には大きなルビーの嵌め込まれた金細工のペンダントがあって、遠目でも分かるほど煌めく手元にはサファイアの腕輪とダイヤモンドの指輪のダブルコンボ。ドレスにまで宝石が散りばめられていて、少し動くだけで太陽の光に反射してキラキラ輝く、格好の餌食だ。
そういえばワイバーンの巣の背景には、さりげなく人骨みたいなものも混じってる描写があった。
もしかすると宝石を身につけた人間ごと拐って、巣に閉じ込めておいたのかもしれない。リアルに考えるとこわ……って怯えている場合じゃない。王妃様を助けないと!
空を旋回してスピードを増したワイバーンは、王妃様めがけて一気に急降下した。
だめだ、走っても間に合わない。
小さくしておいたライトニングロッドを取り出し呪文を唱える。
「サンダーチェイン!」
間一髪、雷の鎖がワイバーンの両足に絡みつき、何とか動きを止める事が出来た。飛距離長くてよかった、このスキル。
でも見た感じ翼はパタパタさせてるし、麻痺には掛かってないようだ。両足にぐるりと巻き付いた雷の鎖を解こうと必死だ。
「王妃陛下、身に付けた宝石をなるべく遠くへ投げて下さい! ワイバーンは光るものを好んで、巣に持ち帰る習性があります!」
私の言葉で、王妃様は身に付けていた宝石を遠くへ投げやった。
「ナイスだ、リオーネ嬢!」
エルンスト様が助走をつけてテーブルを踏み台に跳躍し、ワイバーンに斬りかかる。しかし硬い鱗で覆われた皮膚に物理攻撃はあまり効かないようで、決定打にはならない。
動けるようになったワイバーンは警戒したのか、一旦空へ逃げた。空をゆっくり旋回しながら、こちらの様子を窺っているようだ。
「王妃陛下、お怪我はありませんか?」
「え、ええ。貴方のおかげで助かりました。でも腰が抜けてしまって立てないのです」
ポシェットから状態異常を解くアイテム『沈静花の葉』を取り出して王妃様へ渡した。
「状態異常を解くアイテムです。こちらを使われてください」
今のうちに、戦えない人は建物の中へ避難した方がいい。
「かったいな、あいつ。空中じゃ斬れない。何とか地面に落とせればいいんだが……」
「エルンスト様、私が魔法で援護します。ですがまずは皆さんを、避難させた方が良いと思います」
「そうだな。あの巨体がここに落ちてきたら、皆下敷きになる」
異変に気付いて駆けつけた王国騎士達に、エルンスト様は速やかに皆を建物へ避難させるよう指示を出した。王妃様も騎士達に預けたからこれで一安心だ。
人々を守りながら誘導する騎士の中には、エルンスト様が前に連れてきたあの元山賊達の姿もあった。
流石は荒くれ者のシュトラール。
無自覚に悪党を改心させるのが上手すぎる。
エルンスト様が国に残ってくれたら、ウィルハーモニー王国の騎士達が弱体化する事もなさそうなんだけどな。
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