悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!
第五十七話 お別れパーティー②
「大変ご迷惑をおかけして、誠に申し訳ありませんでした……!」
ようやく普通に喋れるようになって、開口一番私が発した言葉が、それだった。
「私との別れを惜しんで泣いてくださったのでしょう?」
「はい。笑顔で送り出そうって思ってたのに、抗えませんでした……」
「君のその気持ちはとても嬉しいのですが……あの、リオーネ。心を保って冷静に聞いてください。決して取り乱してはいけませんよ?」
「……はい?」
先生がとても言いにくそうに口を開いた。
「国には帰りますが、私はリオーネの先生を辞めるわけではありません。月に数回はこちらに来て、君の成長を見守る予定です」
「…………え、また来てくださるのですか!?」
嬉しくて聞き返すと、先生は申し訳なさそうに謝ってくれた。
「すみません、先にお話しておけばよかったですね。まさか君があそこまで取り乱すとは思っていなかったもので……」
「いえいえ、こちらこそ! 本当にすみませんでした……自分で思ってたよりも、私にとって先生の存在はとても大きかったようで……でも、大丈夫なのですか?」
「リオーネは貴重な古属性持ちですし、魔法に関しては普通の先生に指導はお願い出来ないとロナルド卿が悩んでいましたので、月に数回ならと引き受けたのです」
ちょっと待って。ということは、またすぐに来てくださるのに、私は寂しくて泣いてたの!? 恥ずかしい! すごく恥ずかしい! 穴があったら隠れたい気分でいっぱいになった。
ああ、だからさっき取り乱しちゃだめだって先生が言ったのね……大丈夫、涙はだいぶ枯れた。
「次に先生にお会い出来るのは、十年後だって思ってました……」
だって先生は、神出鬼没な伝説の錬金術師で他国の皇子様。私の先生やってくれてたのが奇跡みたいなことで、本来ならありえないことだから。
「弟に公務を引き継ぐために忙しくなるので国に戻りますが、ここへはテレポートブックがあればすぐに来れますしね。休みの日には、顔を出しても構いませんか?」
「はい、いつでも大歓迎です! でもそれだと、先生はいつお休みになるのですか?!」
忙しい中で、休みの日はこちらで先生やってくれるって過労すぎやしないだろうか。先生の身体の方が心配になってきた。
「君と過ごす時間は私にとって安らぎですので、気にしなくて大丈夫ですよ」
いや、気にする。色々気にするよ! それはいくら笑顔でも誤魔化されないよ!
「ですが先生の身体が心配で……」
「私が来るのは嫌ですか? 迷惑ですか? 他の先生の方が良いのですか? リオーネに拒絶されたら、私はしばらく立ち直れません……」
そう言って先生は悲しそうに目を伏せた。
中世的な顔立ちの先生は、一見すると儚げな雰囲気のミステリアスな美人さんに見える。美人の悲しそうな横顔というのは破壊力が抜群で、慌てて否定した。
「そ、そんなわけないじゃないですか! 先生は、私の憧れなんですから!」
「それなら問題ありませんね。私だって手塩にかけて育てた愛弟子を、そこら辺のぽっと出の教師に奪われたくはありません。出来ることなら君が先生と慕うのは、私だけであって欲しい……」
妖艶な笑みを浮かべてそんな事を言う先生を前に、鼓動が大きく跳ねた。
愛弟子……慕うのは先生だけであって欲しい!?
てっきり、私だけが先生をすごくリスペクトしてるんだと思ってた。
でも先生も私の事を大切に思ってくれてたんだと分かって、嬉しすぎて胸が幸福感で満たされる。きっと今なら何を言われても笑顔で許せる、それくらいニヤニヤが止まらない!
「まぁ、それは私の完全な我儘ですけどね。今後ともよろしくお願いします」
その我儘、是非押し通して下さい! って、先生の身体を心配していたはずが、いつの間にかペースを完全に持っていかれた。
リヴァイが昔言ってた、先生は見た目に反して押しが強いってこの事だったのか。
でもこれからも先生の指導受けられる事は、素直に嬉しい。それなら私がやることは一つ。
先生がリラックスできるように、アトリエを癒し空間に改造しておく事だろう!
前世にあった人をダメにする究極の癒しソファーやらクッションを置いて、寛ぎながら教えてもらおう。うん、それがいい。
「はい、よろしくお願いします! あの、先生。これを受け取ってくれますか? 今の私に出来る最高傑作です」
方向性が定まった所で、渡しそびれないうちにプレゼントを差し出した。
「開けてみてもいいですか?」
「はい、もちろんです!」
「とても素晴らしい出来です。それに、綺麗にカスタマイズしてくれたのですね」
紫紺色のウォーターガンを手にして、先生が誉めてくれた。
「先生の瞳の色に合わせてみました」
「ありがとうございます、リオーネ。大切に使わせて頂きますね」
嬉しそうに目を細めて微笑む先生を見て、喜んでもらえてよかったとほっと胸を撫で下ろす。
「リオーネ、私からも君にプレゼントがあります」
先生は私に、鞄から取り出した一冊の本をくれた。
「これはマジックブックです。もし何か分からない事があれば、ここに書いて下さい。そうすれば私のマジックブックに書いたことが転送されるので、質問に答える事が出来ます」
「離れていても、先生に質問が出来るんですね!」
「ええ、そうです。今までみたいにその場で教えてあげる機会が減ってしまうので、遠慮なく使って下さいね」
「はい、ありがとうございます!」
「それともう一つ。これは外に行く時に使ってください。リオーネの倉庫と連携させておきましたので、すぐに使えますよ」
そう言って先生がくれたのは、可愛いリボンのポシェットだった。倉庫に連携って……
「まさかこれ、転送バッグですか!?」
「君が持っていても違和感がないように、デザインを変えてみたのですが、気に入ってもらえなかったでしょうか……?」
「いえ、すごく可愛いです!」
でも、買うと3000万する鞄……しかもカスタマイズしてあるから、もっと値が張るだろう。
「こんな高価なもの、私が頂いても良いのですか……?」
「ええ、君のために作ったのですから。もしもらって頂けない場合は、倉庫で埃を被り続ける事になるでしょうね……」
先生は悲しそうに視線を落とした。その手は慰めるように、転送バッグを撫でている。
可愛いポシェットが倉庫で埃を被る姿を想像して、いたたまれない気持ちになった。
「とても嬉しいです! 先生、ありがとうございます!」
「最後にもう一つ。これは私が作ったオリジナル錬金アイテム『リバイブ』です」
コトンと片手で握れるサイズの小瓶をくれた。
「五分以内であれば、壊した物を元通りに修復できるアイテムです。もしうっかり誰かの楽器に触れて壊してしまった時は、すかさずこれを使って誠心誠意謝りましょう」
『リバイブ』
品質:最高級
特性:効率アップ(1回使用量/1滴)
性能:5分以内に壊れた物であれば、元通りに修復する事が出来る。
容量:10ml(約20回分)
めちゃくちゃすごいアイテムもらった。
「これ先生が考えたんですか!? すごいです!」
「古属性というのは、時に意図せず壊してしまう事もありますからね。他の方が一生懸命描かれた絵を、一瞬で無にしてしまう事に悩んで、学生時代に開発したアイテムなんです」
「先生も、色々と苦労されてきたのですね」
そっか、先生は美的センス0の持ち主で絵が描けない。絵を描こうとするだけで道具が壊れてしまうって仰っていた。人の描いた絵まで触れなかったんだ。
もしかして私が作ったウォーターガンの設計図も、触れないように細心の注意を払ってメモ紙を置いてくださったのかもしれない。
「恐れることなく進んでください、リオーネ。君の錬金術は、人々を幸せにし笑顔に変える魔法です。君の歩む先にはきっと、輝かしい未来が待っていると信じています」
「はい、ありがとうございます! 先生に教わった事をしっかり胸に刻んで、精進していきます!」
「ええ、お互い頑張っていきましょう!」
◇
翌日の朝、先生はカトレット皇国へお帰りになった。一人になったアトリエはいつもより少し広く感じたけれど、また近いうちに来てくださるって分かってるから寂しくない。
さぁ、使命を果たそう。
目指すのは居心地の良い癒しのアトリエ空間への改装。
まず手始めに、人をダメにするクッションでも作ろうと意気込んでいたら――
「リオーネ、遊びに来たぞ!」
トントンと軽快なノックの音がして、元気な声が聞こえた。
ようやく普通に喋れるようになって、開口一番私が発した言葉が、それだった。
「私との別れを惜しんで泣いてくださったのでしょう?」
「はい。笑顔で送り出そうって思ってたのに、抗えませんでした……」
「君のその気持ちはとても嬉しいのですが……あの、リオーネ。心を保って冷静に聞いてください。決して取り乱してはいけませんよ?」
「……はい?」
先生がとても言いにくそうに口を開いた。
「国には帰りますが、私はリオーネの先生を辞めるわけではありません。月に数回はこちらに来て、君の成長を見守る予定です」
「…………え、また来てくださるのですか!?」
嬉しくて聞き返すと、先生は申し訳なさそうに謝ってくれた。
「すみません、先にお話しておけばよかったですね。まさか君があそこまで取り乱すとは思っていなかったもので……」
「いえいえ、こちらこそ! 本当にすみませんでした……自分で思ってたよりも、私にとって先生の存在はとても大きかったようで……でも、大丈夫なのですか?」
「リオーネは貴重な古属性持ちですし、魔法に関しては普通の先生に指導はお願い出来ないとロナルド卿が悩んでいましたので、月に数回ならと引き受けたのです」
ちょっと待って。ということは、またすぐに来てくださるのに、私は寂しくて泣いてたの!? 恥ずかしい! すごく恥ずかしい! 穴があったら隠れたい気分でいっぱいになった。
ああ、だからさっき取り乱しちゃだめだって先生が言ったのね……大丈夫、涙はだいぶ枯れた。
「次に先生にお会い出来るのは、十年後だって思ってました……」
だって先生は、神出鬼没な伝説の錬金術師で他国の皇子様。私の先生やってくれてたのが奇跡みたいなことで、本来ならありえないことだから。
「弟に公務を引き継ぐために忙しくなるので国に戻りますが、ここへはテレポートブックがあればすぐに来れますしね。休みの日には、顔を出しても構いませんか?」
「はい、いつでも大歓迎です! でもそれだと、先生はいつお休みになるのですか?!」
忙しい中で、休みの日はこちらで先生やってくれるって過労すぎやしないだろうか。先生の身体の方が心配になってきた。
「君と過ごす時間は私にとって安らぎですので、気にしなくて大丈夫ですよ」
いや、気にする。色々気にするよ! それはいくら笑顔でも誤魔化されないよ!
「ですが先生の身体が心配で……」
「私が来るのは嫌ですか? 迷惑ですか? 他の先生の方が良いのですか? リオーネに拒絶されたら、私はしばらく立ち直れません……」
そう言って先生は悲しそうに目を伏せた。
中世的な顔立ちの先生は、一見すると儚げな雰囲気のミステリアスな美人さんに見える。美人の悲しそうな横顔というのは破壊力が抜群で、慌てて否定した。
「そ、そんなわけないじゃないですか! 先生は、私の憧れなんですから!」
「それなら問題ありませんね。私だって手塩にかけて育てた愛弟子を、そこら辺のぽっと出の教師に奪われたくはありません。出来ることなら君が先生と慕うのは、私だけであって欲しい……」
妖艶な笑みを浮かべてそんな事を言う先生を前に、鼓動が大きく跳ねた。
愛弟子……慕うのは先生だけであって欲しい!?
てっきり、私だけが先生をすごくリスペクトしてるんだと思ってた。
でも先生も私の事を大切に思ってくれてたんだと分かって、嬉しすぎて胸が幸福感で満たされる。きっと今なら何を言われても笑顔で許せる、それくらいニヤニヤが止まらない!
「まぁ、それは私の完全な我儘ですけどね。今後ともよろしくお願いします」
その我儘、是非押し通して下さい! って、先生の身体を心配していたはずが、いつの間にかペースを完全に持っていかれた。
リヴァイが昔言ってた、先生は見た目に反して押しが強いってこの事だったのか。
でもこれからも先生の指導受けられる事は、素直に嬉しい。それなら私がやることは一つ。
先生がリラックスできるように、アトリエを癒し空間に改造しておく事だろう!
前世にあった人をダメにする究極の癒しソファーやらクッションを置いて、寛ぎながら教えてもらおう。うん、それがいい。
「はい、よろしくお願いします! あの、先生。これを受け取ってくれますか? 今の私に出来る最高傑作です」
方向性が定まった所で、渡しそびれないうちにプレゼントを差し出した。
「開けてみてもいいですか?」
「はい、もちろんです!」
「とても素晴らしい出来です。それに、綺麗にカスタマイズしてくれたのですね」
紫紺色のウォーターガンを手にして、先生が誉めてくれた。
「先生の瞳の色に合わせてみました」
「ありがとうございます、リオーネ。大切に使わせて頂きますね」
嬉しそうに目を細めて微笑む先生を見て、喜んでもらえてよかったとほっと胸を撫で下ろす。
「リオーネ、私からも君にプレゼントがあります」
先生は私に、鞄から取り出した一冊の本をくれた。
「これはマジックブックです。もし何か分からない事があれば、ここに書いて下さい。そうすれば私のマジックブックに書いたことが転送されるので、質問に答える事が出来ます」
「離れていても、先生に質問が出来るんですね!」
「ええ、そうです。今までみたいにその場で教えてあげる機会が減ってしまうので、遠慮なく使って下さいね」
「はい、ありがとうございます!」
「それともう一つ。これは外に行く時に使ってください。リオーネの倉庫と連携させておきましたので、すぐに使えますよ」
そう言って先生がくれたのは、可愛いリボンのポシェットだった。倉庫に連携って……
「まさかこれ、転送バッグですか!?」
「君が持っていても違和感がないように、デザインを変えてみたのですが、気に入ってもらえなかったでしょうか……?」
「いえ、すごく可愛いです!」
でも、買うと3000万する鞄……しかもカスタマイズしてあるから、もっと値が張るだろう。
「こんな高価なもの、私が頂いても良いのですか……?」
「ええ、君のために作ったのですから。もしもらって頂けない場合は、倉庫で埃を被り続ける事になるでしょうね……」
先生は悲しそうに視線を落とした。その手は慰めるように、転送バッグを撫でている。
可愛いポシェットが倉庫で埃を被る姿を想像して、いたたまれない気持ちになった。
「とても嬉しいです! 先生、ありがとうございます!」
「最後にもう一つ。これは私が作ったオリジナル錬金アイテム『リバイブ』です」
コトンと片手で握れるサイズの小瓶をくれた。
「五分以内であれば、壊した物を元通りに修復できるアイテムです。もしうっかり誰かの楽器に触れて壊してしまった時は、すかさずこれを使って誠心誠意謝りましょう」
『リバイブ』
品質:最高級
特性:効率アップ(1回使用量/1滴)
性能:5分以内に壊れた物であれば、元通りに修復する事が出来る。
容量:10ml(約20回分)
めちゃくちゃすごいアイテムもらった。
「これ先生が考えたんですか!? すごいです!」
「古属性というのは、時に意図せず壊してしまう事もありますからね。他の方が一生懸命描かれた絵を、一瞬で無にしてしまう事に悩んで、学生時代に開発したアイテムなんです」
「先生も、色々と苦労されてきたのですね」
そっか、先生は美的センス0の持ち主で絵が描けない。絵を描こうとするだけで道具が壊れてしまうって仰っていた。人の描いた絵まで触れなかったんだ。
もしかして私が作ったウォーターガンの設計図も、触れないように細心の注意を払ってメモ紙を置いてくださったのかもしれない。
「恐れることなく進んでください、リオーネ。君の錬金術は、人々を幸せにし笑顔に変える魔法です。君の歩む先にはきっと、輝かしい未来が待っていると信じています」
「はい、ありがとうございます! 先生に教わった事をしっかり胸に刻んで、精進していきます!」
「ええ、お互い頑張っていきましょう!」
◇
翌日の朝、先生はカトレット皇国へお帰りになった。一人になったアトリエはいつもより少し広く感じたけれど、また近いうちに来てくださるって分かってるから寂しくない。
さぁ、使命を果たそう。
目指すのは居心地の良い癒しのアトリエ空間への改装。
まず手始めに、人をダメにするクッションでも作ろうと意気込んでいたら――
「リオーネ、遊びに来たぞ!」
トントンと軽快なノックの音がして、元気な声が聞こえた。
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