悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!

花宵

第五十六話 お別れパーティー①

「よし、何とか完成した!」

 良い素材を使って、品質はギリギリ高級品を作れた。特性効果には一番時短効率のよかった『頭脳明晰』をつけている。ちなみに1/6まで給水時間を削れる。

 ボディは先生のアメジストのような綺麗な瞳の色に合わせて、紫紺色にカスタマイズした。

 アトリエから飛び出して、私はメアリーを探した。ちょうど私の部屋の掃除をしてくれていると聞いて、急いで自室へと戻った。

「メアリー!」
「お嬢様? そんなに慌ててどうされました?」
「これを綺麗にラッピングしたいの!」
「分かりました。リボンは何色になさいますか?」

 ウォーターガンは先生の瞳の色にしたから、リボンは髪の色にしよう。

「薄い青色がいいんだけど、ある?」
「確か水色ならあったと思いますが……」

 水色とはまた違うんだよな、もっと上品な感じの青白色……

「それでしたら、青色と白色のリボンを二重にしたらいかがでしょうか? お洒落で可愛いですよ」
「じゃあそれでお願い!」
「かしこまりました。腕によりをかけて、綺麗に包んで参りますね!」

 五分後、メアリーが青と白のリボンを巧みに使い、お洒落にラッピングされた箱を持ってきてくれた。

「いかがでしょう?」
「流石メアリーだわ! ありがとう!」
「喜んでいただけて嬉しい限りです!」

 可愛いや美しいを作り出す事に関しては、レイフォード家ナンバー1の美的センスの持ち主だわ!

 先生、喜んでくれるといいな。
 間違いなくこれが、今私が作れる中で一番のアイテムだから。





 夜、先生への感謝を込めてパーティーが開かれた。先生の意向で、お世話になった屋敷の皆も楽しめる仕様が良いとの事で、夜の庭をライトアップしてビュッフェスタイルで開かれた。

 外からの招待客はおらず、参加するのはレイフォード家に関係がある人と先生だけ。堅苦しいドレスコードなんて何もなくて、使用人達は交代制でパーティー参加できるようにして、皆で和気あいあいとしながら美味しい料理を摘まみつつお喋りを楽しんだ。

「セシル先生、隣国へお帰りになるなんて寂しいです!」
「そうですよ! また絶対に遊びに来て下さいね!」
「セシル先生ならいつでも大歓迎です!」

 先生は屋敷の皆にも優しく接してくれてたから、老若男女問わず大人気だな。困ってる人が居たら声をかけて、腰にさげた鞄からさりげなく有効な錬金アイテムで手助けしてた。

 カトレット皇国が元々身分にそこまでこだわらない国でとてもフランクだから接しやすいのもあって、皆は先生が隣国の皇子様だって事に全然気付いていない。

 こちらに来る条件として、それは先生が仰った事らしい。絶対に身分は明かさないでくれと。リヴァイがたまたま先生と遭遇してなかったら、私も知らないままだったしね。

「先生、大人気だね」
「明日で会えなくなるんだもん、皆寂しいんだよ」

 お屋敷の皆に囲まれてプレゼント攻めされている先生を、庭園の隅に設置されたベンチに腰かけて、ルイスと一緒に眺めていた。

「でも一番寂しいのは、リィでしょ? 先生にずっと色々教わってきたし、たくさんお世話になったんだし」
「そうだね。先生には本当に、たくさんの事を教えてもらった。感謝してもしきれないよ」

 最初の体力作りや魔法の扱い方、武器の使い方から始まって、錬金術のやり方やそれに向かう姿勢。初めての場所にも色々連れ出してもらえて、本当に楽しい一年半だった。

 初めは他の先生達みたいに見捨てられるのが怖くて、必死になって魔法を何とか扱えるようになろうと無理して、窘められたりもしたな。

 失敗しても、出来なくても、先生は明日も私の先生で居てくれる。それがどれだけありがたくて嬉しかったか、今でもよく覚えている。

 そしてそれは一生忘れることが出来ない、私の大切な思い出で、宝物だ。


「……リィ?」

 くそ、絶対に泣かないって心に誓ってたのに。

 八歳の身体は感情の起伏に抗えないのか、涙腺が緩いのか……いや、生まれ変わる前から私の涙腺は緩かった。卒業式を泣かずに乗り越えられた事はない。

 重力に逆らえない雫がポロポロと地面に落ちて、ルイスが慰めるように頭を撫でて、横からぎゅっと抱き締めてくれた。

 もう二度と会えなくなるわけじゃないのに。それでもやっぱり先生とのお別れは悲しくて、必死に堪えようとしたら余計に止まらなくなった。

 そうしたら私の悲しい気持ちが伝染して、ルイスまで泣き出してしまった。

 先生に気付かれないように、二人で必死に縮こまって声を噛み殺して泣いた。

 この涙を全て出しきったら、きちんと笑顔で先生を見送ろう。私もプレゼントを渡しに行こうって思ってたのに――

「リオーネ……!? ルイス君……!? どこか痛むのですか?!」

 頭上から、心配そうな先生の声が降り注ぐ。ああ、ばれてしまった。もうぐだぐだすぎて最悪だ。

「うっ……ひっく……」

 嗚咽がもれて、声をだそうとしても上手く行かない。

「あらあら、きっとセシル様とのお別れが悲しいのね。昔からこの子達は感情が伝染する事があって、悲しい事があると目立たない隅っこでこうしてよく泣いているのです。リオーネが泣き止めば、ルイスも落ち着くのですが……」

 ルイスに何かを囁いて私から引き離すと、お母様は先生に声をかけた。

「セシル様、よかったら少しリオーネの話し相手になってもらえませんか?」
「分かりました。落ち着くまで傍に居ます」
「ええ、ありがとうございます」

 お母様はそのまま、ルイスを連れていってしまった。先生ときちんと話して、最後のお別れをしなさいっていうお母様の優しさだったのだろう。

 でも、嗚咽が止まらなくて声が出せないよ、お母様っ! こんな嘔吐きながら泣き止まない子供の相手させられる先生が、気の毒すぎる。

「せん、……せ……ごめ……な、……さい……っ」
「リオーネ、無理して喋らなくても大丈夫ですよ。落ち着くまで傍に居ますから。ほら、まずはゆっくり深呼吸をしてください」

 私が落ち着くまで、先生は優しく背中をさすってくれた。泣きすぎて過呼吸になりかけてたから、すごく助かった……

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