悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!
第五十話 強くなりたい!
助かったんだと、そこでようやく実感した。緊張が解けて、思わずその場にへたりこむ。
先生にもらったポーションを飲んでいたら、身体がさらに癒えて軽くなった。しかし勢いよく飲みすぎたせいか、むせてしまった。
「うっ、ゴホッ! ゴホッ!」
「リオーネ、大丈夫か!?」
咳き込んで浅い呼吸を繰り返す私の背中を、リヴァイが優しくさすってくれた。
「はい、大丈夫です。リヴァイ、さっきは助けに来てくれて、ありがとうございました」
「先に助けてくれたのは、リオーネじゃないか。礼を言うのは俺の方だ。ありがとう」
「いえいえ、リヴァイこそ! あんな無茶をして、大丈夫ですか? 気分が悪かったりしませんか?」
水に触れるだけで顔面蒼白だったのに、水中に飛び込むなんて!
「俺は大丈夫だ。先生にもらったポーション飲んだら、ここに来る前より調子いい感じがする。それに水も……」
リヴァイは海の方に近付いて屈むと、流れてきた波に手をやって確かめる。
「平気みたいだ。水に触れる事よりも、お前を失う事の方が怖かった。本当に、無事でよかった……っ!」
俯いたリヴァイの肩は小刻みに震えていた。ポタポタと落ちる雫が砂浜を濡らす。手の甲で乱暴に涙を拭って、必死に嗚咽をこらえていた。
そんなリヴァイの姿を見て、胸が締めつけられるように苦しくなった。本当に心配をかけてしまったのだろう。安心した事で、恐怖が一気に押し寄せてきたのかもしれない。
怖かったはずだ。苦しかったはずだ。それでも私を助けるために、それを乗り越えて来てくれた。その勇気が、その想いが、とても嬉しかった。
「ありがとうございます」
リヴァイの頭を抱えるようにして、抱き締めた。多分リヴァイは、泣き顔を見られたくないのだろう。だからせめてその涙が止まるまで、肩の震えがおさまるまで、今度は私が守ってあげたかった。
「何であの時、手を離したんだ……」
泣き止んだリヴァイは、私の真意を探るように顔を上げてじっとこっちを見ている。真偽の腕輪をつけているから、下手な嘘は通用しない。
「それは……私はもう限界だったので、リヴァイだけでも助かって欲しかったんです。折角助けにきてくださったのに、本当にごめんなさい」
私の言葉に、リヴァイは悔しそうに唇を噛んだ。
「先生が助けてくれなかったら、俺達はきっと助からなかった」
「そう、ですね……」
「だから俺、強くなる。誰よりも強くなって、もう二度とお前にそんな選択肢を与えない。与えたくない。そして今度こそ、必ずお前を守ってみせる」
リヴァイの瞳には強い覚悟が宿っているように見えた。どこまでも真っ直ぐに注がれるその眼差しに、胸が早鐘を打つ。抑えようとしても抑えきれなくて、やはりこの気持ちは素直に認めるしかないようだ。
「だったら、一緒に強くなりましょう? 私だって、リヴァイを守れるようになりたいです!」
もう二度と、リヴァイにあんな悲しそうな顔をして欲しくないと思ったし、させたくなかった。後悔しないように、きちんと正面から向き合っていこう。
「ああ、約束だ!」
「はい、約束です」
賭けをした時のように握手をして、約束を交わした。
「おーい! リヴァイ、リオーネ嬢! 怪我はないかー!?」
クラーケンを倒し終わったエルンスト様とセシル先生がこちらへ走って来られた。
「先生が治してくださったので大丈夫ですよ。助けてくださり、本当にありがとうございました」
「俺一人ではどうしようも出来ませんでした。助けてくれて、本当に感謝してます」
「二人が無事で本当によかった。エルンスト君とくだらない勝負をしていたばかりに、気付くのが遅れて、怖い思いをさせて申し訳ありませんでした」
私達の目線に合わせるよう片膝をついて頭を下げた先生に、慌てて声をかける。
「先生には本当に感謝しかありません。だからどうか顔を上げて下さい! 冒険は楽しい事だけじゃないって良いお勉強になりましたし、これからはより一層精進しようと思います!」
あらゆる事を自分で対処できるようになって初めて、冒険に出ることが出来るんだって身に染みて分かった。じゃないと、簡単に命を落としてしまうから。
お父様が私一人での外出許可をくれないのは当然だって思った。先生のようにとても強い方が付き添ってくれないと、まだ私には早すぎるからだ。
「リオーネ嬢は立派だな! しかし愛の力とは本当に偉大だな。あの苦手な水に飛び込むほどリヴァイを突き動かすとは、正直驚いたぞ」
それは貴方がよくご存知なのでは……
と思わずツッコミたくなったのは不可抗力だよね。だってエルは精霊族の少女と交わした、銀蝶花を見せてあげる約束を叶えるために、全てを捨てて冒険者となった。愛のために生きたのは、紛れもなくエルンスト様だと思う(ゲームの中で)。
「ええ、おかげで苦手も克服出来ました。これも全てリオーネのおかげです」
「モンスターも全て片付けた事だし、折角だからリヴァイ、兄ちゃんが泳ぎの稽古をつけてやろう! ほら、服を脱げ!」
「……は?」
「セシリウス様のポーション飲んだら、回復したろ? 効果抜群だからな」
「それはそうですが」
「よし、なら服を脱げ! また溺れたくないだろう?」
そそくさと、上着を脱いでズボンのベルトに手を掛けようとしたエルンスト様に、リヴァイが慌てて待ったをかける。
「え、ちょっと! 兄上!? ここにはリオーネも居るのですよ!」
「あ……そうだった。じゃあ、上だけでいいからリヴァイ、お前もはやく脱げ」
あぁ、やっぱりこうなるよね。溺れかけた弟を心配しての兄心なんだろうけど、それがスパルタすぎるんだって。
「エルンスト君、あまり無理をさせてはいけませんよ。リヴァイド君はまだ、こんなに小さな子供なんですから」
「こんなに小さな……子供?」
先生がリヴァイを庇ってくれたけど、リヴァイが拳を握りしめてプルプルしている。あぁ、なるほど。子供扱いされるのが嫌なんだね。
「兄上、稽古をつけてください!」
「いい面構えになったな。よし、やるぞ!」
「はい、兄上!」
上着を脱いだリヴァイは、エルンスト様と海の中へ行っちゃった。さっそく強くなるために頑張ってるんだね。そんな姿を見ていたら、私も頑張らなきゃいけないなって改めて思った。
先生にもらったポーションを飲んでいたら、身体がさらに癒えて軽くなった。しかし勢いよく飲みすぎたせいか、むせてしまった。
「うっ、ゴホッ! ゴホッ!」
「リオーネ、大丈夫か!?」
咳き込んで浅い呼吸を繰り返す私の背中を、リヴァイが優しくさすってくれた。
「はい、大丈夫です。リヴァイ、さっきは助けに来てくれて、ありがとうございました」
「先に助けてくれたのは、リオーネじゃないか。礼を言うのは俺の方だ。ありがとう」
「いえいえ、リヴァイこそ! あんな無茶をして、大丈夫ですか? 気分が悪かったりしませんか?」
水に触れるだけで顔面蒼白だったのに、水中に飛び込むなんて!
「俺は大丈夫だ。先生にもらったポーション飲んだら、ここに来る前より調子いい感じがする。それに水も……」
リヴァイは海の方に近付いて屈むと、流れてきた波に手をやって確かめる。
「平気みたいだ。水に触れる事よりも、お前を失う事の方が怖かった。本当に、無事でよかった……っ!」
俯いたリヴァイの肩は小刻みに震えていた。ポタポタと落ちる雫が砂浜を濡らす。手の甲で乱暴に涙を拭って、必死に嗚咽をこらえていた。
そんなリヴァイの姿を見て、胸が締めつけられるように苦しくなった。本当に心配をかけてしまったのだろう。安心した事で、恐怖が一気に押し寄せてきたのかもしれない。
怖かったはずだ。苦しかったはずだ。それでも私を助けるために、それを乗り越えて来てくれた。その勇気が、その想いが、とても嬉しかった。
「ありがとうございます」
リヴァイの頭を抱えるようにして、抱き締めた。多分リヴァイは、泣き顔を見られたくないのだろう。だからせめてその涙が止まるまで、肩の震えがおさまるまで、今度は私が守ってあげたかった。
「何であの時、手を離したんだ……」
泣き止んだリヴァイは、私の真意を探るように顔を上げてじっとこっちを見ている。真偽の腕輪をつけているから、下手な嘘は通用しない。
「それは……私はもう限界だったので、リヴァイだけでも助かって欲しかったんです。折角助けにきてくださったのに、本当にごめんなさい」
私の言葉に、リヴァイは悔しそうに唇を噛んだ。
「先生が助けてくれなかったら、俺達はきっと助からなかった」
「そう、ですね……」
「だから俺、強くなる。誰よりも強くなって、もう二度とお前にそんな選択肢を与えない。与えたくない。そして今度こそ、必ずお前を守ってみせる」
リヴァイの瞳には強い覚悟が宿っているように見えた。どこまでも真っ直ぐに注がれるその眼差しに、胸が早鐘を打つ。抑えようとしても抑えきれなくて、やはりこの気持ちは素直に認めるしかないようだ。
「だったら、一緒に強くなりましょう? 私だって、リヴァイを守れるようになりたいです!」
もう二度と、リヴァイにあんな悲しそうな顔をして欲しくないと思ったし、させたくなかった。後悔しないように、きちんと正面から向き合っていこう。
「ああ、約束だ!」
「はい、約束です」
賭けをした時のように握手をして、約束を交わした。
「おーい! リヴァイ、リオーネ嬢! 怪我はないかー!?」
クラーケンを倒し終わったエルンスト様とセシル先生がこちらへ走って来られた。
「先生が治してくださったので大丈夫ですよ。助けてくださり、本当にありがとうございました」
「俺一人ではどうしようも出来ませんでした。助けてくれて、本当に感謝してます」
「二人が無事で本当によかった。エルンスト君とくだらない勝負をしていたばかりに、気付くのが遅れて、怖い思いをさせて申し訳ありませんでした」
私達の目線に合わせるよう片膝をついて頭を下げた先生に、慌てて声をかける。
「先生には本当に感謝しかありません。だからどうか顔を上げて下さい! 冒険は楽しい事だけじゃないって良いお勉強になりましたし、これからはより一層精進しようと思います!」
あらゆる事を自分で対処できるようになって初めて、冒険に出ることが出来るんだって身に染みて分かった。じゃないと、簡単に命を落としてしまうから。
お父様が私一人での外出許可をくれないのは当然だって思った。先生のようにとても強い方が付き添ってくれないと、まだ私には早すぎるからだ。
「リオーネ嬢は立派だな! しかし愛の力とは本当に偉大だな。あの苦手な水に飛び込むほどリヴァイを突き動かすとは、正直驚いたぞ」
それは貴方がよくご存知なのでは……
と思わずツッコミたくなったのは不可抗力だよね。だってエルは精霊族の少女と交わした、銀蝶花を見せてあげる約束を叶えるために、全てを捨てて冒険者となった。愛のために生きたのは、紛れもなくエルンスト様だと思う(ゲームの中で)。
「ええ、おかげで苦手も克服出来ました。これも全てリオーネのおかげです」
「モンスターも全て片付けた事だし、折角だからリヴァイ、兄ちゃんが泳ぎの稽古をつけてやろう! ほら、服を脱げ!」
「……は?」
「セシリウス様のポーション飲んだら、回復したろ? 効果抜群だからな」
「それはそうですが」
「よし、なら服を脱げ! また溺れたくないだろう?」
そそくさと、上着を脱いでズボンのベルトに手を掛けようとしたエルンスト様に、リヴァイが慌てて待ったをかける。
「え、ちょっと! 兄上!? ここにはリオーネも居るのですよ!」
「あ……そうだった。じゃあ、上だけでいいからリヴァイ、お前もはやく脱げ」
あぁ、やっぱりこうなるよね。溺れかけた弟を心配しての兄心なんだろうけど、それがスパルタすぎるんだって。
「エルンスト君、あまり無理をさせてはいけませんよ。リヴァイド君はまだ、こんなに小さな子供なんですから」
「こんなに小さな……子供?」
先生がリヴァイを庇ってくれたけど、リヴァイが拳を握りしめてプルプルしている。あぁ、なるほど。子供扱いされるのが嫌なんだね。
「兄上、稽古をつけてください!」
「いい面構えになったな。よし、やるぞ!」
「はい、兄上!」
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