悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!

花宵

第二十三話 人生をかけた賭けをしよう(前編)

 客間にはジーク国王陛下とリヴァイ、そして向かい合うようにしてお父様と私が座っている。
 お父様が陛下と挨拶を交わして、軽く談笑をかわした後、陛下が本題を切り出してきた。


「早速だが、改めて紹介しよう。息子のリヴァイドだ。あんな形で婚約をとりつけてしまい驚かせてしまったことだろう。すまない、リオーネ嬢」
「い、いえ……滅相もございません。お顔をお上げ下さい、陛下」


 一国の王に頭を下げされる経験など中々出来ないだろうが、恐れ多すぎて心臓に悪い。


「先日の演奏も素晴らしかったが、心根も優しいお嬢さんで良かった。息子が一目惚れするのも納得だよ。それで、今日は正式に息子との婚約をお願いしに来たわけだが、受けてもらえるだろうか?」


 笑顔で了承するのが私の役目だ。それなのに、いざ陛下を前にして言葉に詰まる。

 本当にそれでいいのだろうか。

 いくらリヴァイの頼みだとはいえ、陛下を欺くのは……それだけじゃない、私の幸せを願ってくれるこの屋敷の皆やルイス、お父様やお母様さえ騙すことになってしまう。あの時は、目先の欲望につられて思わず引き受けてしまったけれど……やはりそれではいけない気がする。


「私は……」


 なんと答えたら良いのだろうか。後ろめたくて思わず俯いてしまった時、リヴァイが助け船を出してくれた。


「父上! リオーネ嬢は、まだ私のことをよく知りません。中庭で散歩でもしながら、少し2人でお話しさせて頂いてもよろしいですか?」
「そうだな、行ってきなさい。構わないか? ロナルド卿」
「勿論です。リオーネ、リヴァイド王子をご案内して差しあげなさい」
「はい。分かりました、お父様。リヴァイド王子、こちらへ」


 リヴァイを連れて中庭まで来たのはいいけれど、約束を上手く守れなかった事に申し訳なさが募る。


「あの……リヴァイ。ごめんなさい。約束したのに、上手く演技出来なくて……」


 私の言葉にリヴァイはふっと表情を緩めた後、口を開いた。


「よく手入れされた庭だな。屋敷も、細部に至るまで綺麗に磨かれていた」
「屋敷の皆が、私のために頑張ってくれてすごく綺麗にしてくれたんです」
「……皆を騙すことに、心が痛むのか?」
「……はい。あの時は自分のことしか考えてなくて。でも、私のしていることは皆のその頑張りを、思いを……侮辱しているようなものだと気付いて」


 本当は何の楽器も弾けないのに世間を欺いて、今度は大切な家族や家族同然の親しい者達までをも欺こうとしている。

『皆さんの頑張りを無にしてはいけませんよ』

 出かけられる前にセシル先生に言われた言葉が胸に突き刺さる。嘘を重ねて生活すればするほど、私は皆の思いを裏切っているのと同じだ。


「だったら、本当のことにしてしまえば良い」
「……え?」

 一瞬、何を言われたのか分からなかった。

「元より俺は、破棄するつもりは無い」
「……え?!」

 信じられない言葉に思わずリヴァイを見つめると、彼は真剣な顔で言葉を紡ぐ。

「リオーネ、お前のその真っ直ぐな所が好きだ。家族思いな所も、夢にひたむきな所も」
「ちょ、ちょっと待って下さい! リヴァイ、私たち会ってまだ2度目ですよ? いきなり何を……」
「俺にとっては3度目だ。約1年前、窓から悲しそうに空を眺めるお前の姿を見てからずっと気になってしかたがなかった。儚くて目を離すと消えてしまいそうだと思っていたお前が、実はしっかりとした夢を持っていて、ひたむきに頑張っている面白い子だと知り、益々興味を惹かれた。初めてなんだ、こんなにも心を動かされたのは」


 そう言って、リヴァイは苦しそうに胸を押さえた。


「お前が俺に気が無いことはよく分かっている。でも俺は、もっとリオーネの事を知りたいし、俺のことも知って欲しい。だから、賭けをしないか?」
「賭け、ですか?」
「ローゼンシュトルツ学園の卒業式、それまでに俺はお前の心を手に入れる。もしそれが出来なければ……婚約を破棄して最強の用心棒を冒険のサポートにあてがうと約束しよう」
「本当ですか?!」
「そこでそんなに目を輝かせられると、ものすごく複雑なのだが……」
「ご、ごめんなさい……」


 突然のことに働かない頭が、最強の用心棒という言葉だけに反応し胸を躍らせた事に激しく後悔。ステータスが魔法よりだから、戦士タイプの傭兵さんは何れ見つけなければならないと思っていた。でもこのタイミングでそこだけに反応してしまった事は、失礼以外の何物でもない。
 申し訳なさから謝罪の言葉を口にすると、リヴァイは何故か肩を震わせて笑い出した。


「でも、それでこそリオーネだな。見ていて本当に面白い」
「わ、笑わないで下さい」
「そうやって怒った顔も可愛いな。もっとお前の色んな顔を見てみたい」
「か、からかわないで下さい!」
「からかってなどいない。ただの本心だ」
「……っ!」


 うぅ……なんか変な動悸がする。そんなストレートに言われると、恥ずかしすぎて心臓に悪い。

「悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く