ゲッスゲス童話~女好き男の冬の女王様篭絡物語~

シフォン

冬の女王様、篭絡の前の準備編

「さーて、塔まで来たは良いが、これどうやって開けるんだ?」
男は冬の女王様を篭絡しつつも王様に養ってもらうという最悪の目的のため、塔まで来ていました。
しかし塔の前には多くの男たちの屍………の、ようにも見えるが凍らされて仮死状態になっている肉体と、なんらかの紙が大量に転がっていました。
一体これはなんだろう、と思って男が立ち止まり紙を読むと、そこに書かれていたのは驚きの言葉。
『浮気男』『変態』『子ども扱いするな!』
どうやら、これまでの挑戦者にも彼と同じく冬の女王を篭絡しようとした者たちが居たようです。
しかし彼らは皆なんらかのミスを犯して凍らされて追い出された模様。
自分と同じことをしようとして失敗してきた男たちを見て彼は、「まったくバカだな」と呟きました。
百戦錬磨の女好きである彼にとって、ここに転がる失敗者たちが失敗した理由など手に取るように分かるのです。
ある男は、すでに妻も子供も居るのにそれを隠して近付き、それがバレて凍らされた。
ある男は、過去に関係を持った相手の動向をしっかりと見ていなかったせいで嫉妬に狂った女に過去の事を誇張して(あるいはそのまま)バラされ凍らされた。
ある男は………恐らく、小柄な冬の女王様を子供だと思って対応し、キレた女王様によって他の人間より時間をかけて凍らされた。

ですがその点彼は、妻も子供も(少なくとも公式に認知している範囲では)居ませんし、過去に関係を持った女性の動向をある程度知っており、何か問題が発生する可能性を極限まで抑えているため過去のことを暴露される恐れもありません。
そして何より、彼は口説く相手を子ども扱いするような男ではないので、それが理由で凍らされることもありえません。
つまりこれまでの挑戦者と違い、失敗する要素が少ないのです。
しかし失敗の要素が少なくなろうと………問題が残っています。
塔の扉は凍っているのです。これでは冬の女王様というよりも氷の女王様ですね………それはともかく。
彼がその手で凍った扉を開けることは出来ないのです。
まずあまりの低温に触れたならばすぐさま手が張り付き、剥がせば皮膚を持っていかれてしまうでしょう。
そしてそれ以外の方法で入るとしたら氷を溶かす、あるいは壁を登って窓から侵入するしかないですが………現在彼は、正面から入る前提でここに来たために登攀用の道具も、氷を溶かすための道具もありません。

ですがそんなどうにもならないような状態で彼はあることを考え付きました。
「冬の女王様ー!開けてくださーい!」
それは正面から話しかけて開けてもらうという方法。もはやどうにもならないならば、普通に頼んで開けてもらおうという魂胆なのです。
普通に考えれば、バカとしか言いようがありません。
自分で閉じこもった上に氷で強固に施錠(正確に言うのなら、施氷せひょうでしょうが)している相手が開けるはずがありませんからね。
ですが彼は、これまでに挑戦した人数からかんがみてもちょうど自分の番で入口を固められるなんて都合がよすぎるので、むしろ頼んで開けてもらうのが正解なのでは?と考え、こうしたのです………が、ここで一端男ではなく………そして冬の女王様でもなく、あえてお城の他の女王様含む権力者の方を見てみましょう。
何故かって?
それは、今彼らの居る場所では大問題が発生していたからです。

「なぁ、みんな………どうするよこれ」
王様は困り顔を通り越して泣きそうな顔で言いました。
この国で起きている異常な冬は、食糧難だけでなくもう一つの問題も浮き彫りにしていたのです。
「隣国との繋がりのあった大臣は軒並み逃げ出して、しかも貨幣も食料もたんまり持っていきやがった」
それだけ言って、王様は血色をさらに悪くして倒れ込みました。
そして残されたのは、春夏秋の女王様たち。
「えー、王様が倒れたので私が進行を引き継ぎますけど………どうしましょうねぇ?」
「武力に訴えて脅迫できないってのが痛いよな」
「そしてあっちの方は何もせずとも私たちを追い詰められる………と」
しかし女王様たちはほぼ諦めたのかと見まがうようなやる気のなさで会議を進めています。
それもそのはず、彼女たちは冬の女王がキレて塔に閉じこもってしまった理由をいるのです。そして、冬の女王がキレると途方もない期間、怒りが収まることがないということも。
「うん、まぁなんだ………とりあえずどこが悪かったのか反省しとこうか。はい春、アンタが最初ね」
夏の女王は不意に意味がないと分かっていながら反省会のようなものをしようと言い出しました。
まぁ、言い出しっぺが最初にやるわけではないのですが。
「あなたもやってくださいね?………どう考えても私が酔った勢いで彼女の彼氏に手を出して、結果的にとはいえ寝取ってしまったのが理由かと」
そして春の女王が言ったのは意外にもえげつない理由。
酔った勢いで冬の女王の彼氏を寝取るとは、もはや女王じゃないですね、むしろあれです、痴女です。
きっと冬の女王がここに居ればこう言ったでしょう………『このアバズレがぁ!』と。

でも女王らしくなさでは夏の女王も負けてはいません、いやもう女王らしくなさで争うのもちょっと頭が悪い話ですがね。
「アタシはあれだね………不正を正してやろうとしたらあの子の親友が奴隷落ちした上に暗殺仕掛けてきちゃった例のアレで、アタシがそれに気付かなかったのが原因じゃないかと」
………あれ?と思った方、居るでしょう。いや居ますね。
ですがご安心を。ここからが本番です。
「正確にはー、夏がフラれた腹いせでそいつの裏を調べ上げてー、色々告発したらその傘下にいた親友のその子が被害食らったし、冬もその子に被害がいかないように夏を止めていたのに強引にやったからだよなー」
そう、この不正を正したという事件は、ただ不正を正したのではなく夏の女王が自分の影響力を目当てに近づいてきた新進気鋭の若い商人にフラれてイラついたからという理由で、それをすればある程度の罪のない人々が職を失い路頭に迷うというのが見えていたにも関わらず、徹底的に調べ上げて不正を正した、あまりに大人げない事件なのです。
女王らしくないどころか大人げないとは、もうダメですね。末期みたいなものです。
さて、秋の女王は何を言うのでしょうか………と、気になる所ですがここで一度男の方へ戻ってみましょう。
突然すぎてついていけない?
大丈夫、ここまで激しく場所を変えることはもうほとんどないでしょうから安心してください。



………男は塔の中で、頭を残して氷漬けにされていました。
メタ的なことはあまり言うべきではないのですが、これは主人公としてどうなのでしょうか。
いやそもそも口説いて引きこもりを部屋から(この場合は塔から)連れ出すのもどうかとは思うのですがね。
「これは手厳しいことで………」
ですが男は余裕です。
いくら冷たくても先ほどまで恐ろしく寒い場所に居たのでそれほど冷たくは感じませんし、水を凍らせた氷ではないのか体が濡れないからです。
まぁ、男はこう能天気に考えているわけですがこの氷は二酸化炭素を凍らせて作ったドライアイスですので、実際の所男に余裕はありません。
もし防寒具に隙間があったりして、そこにドライアイスが触れてしまった場合すぐに凍傷を起こして大惨事になってしまいます。
男は、寒さのあまり全く隙間のない服で来たという偶然により救われていたのです。
見た目などを重視して少しでも隙間のある服を着ていたらすでに凍傷で大変なことになっていたでしょう。
「ところで冬の女王様はまだですかな?」
実は意外と危険な状態にあることを知らない男は、何でもないように冬の女王はまだかまだかと口に出しています。
実際、こんな手荒な歓迎で動けなくするんだから何か働きかけてきてもおかしくはないと思っているのです。
このまま放置されて餓死するとか、うっかりドライアイスに触れてしまうとかは露ほども考えていません。
経験則、というのでしょうか。彼には不思議と冬の女王が来ないという予感はしていません。
バカと言ってしまえばそれまで、しかし彼にはそれを支える膨大な経験と知識がありました。

そして二時間ほど経って………ようやく冬の女王は現れたのでした。
「………おやおや、想像してたよりも何倍もお美しいことで。これは待った甲斐があるというものですよ」
「お世辞は聞き飽きたわ。どうせあなたも心の中では私の事をチビとか思ってるんでしょう?」
しかし誤算だったのは、冬の女王様はどうにも………とてもロリロリしい、もとい小柄だったのです。
幾人もの女性を口説いていまだ不敗の彼と言えど、まだ子供は口説いたことはないのでした………さぁ、彼はどうするのでしょうか

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