二十次元世界に現れた『メアリー・スー』とされる女性に関する記述

海沼偲

二十次元世界に現れた『メアリー・スー』とされる女性に関する記述

 女が町で一番人通りの激しい広場の真ん中に立っていた。女は非常に美しく、すれ違う男はあまりの美しさに振り返って顔を確認してしまうほどである。何とも言い表すことはできないのだが、『美』というものを擬人化したような存在、それが広場に立っていた。
 女は着ている者を脱ぎ始めた。そこには一切の前後の関係などはない。突然女が広場の真ん中で着物を脱ぎ始めたという事実だけがあった。その出来事に、少し離れた位置にいた男までもが立ち止まり、女が肌色になっていくのを見ていた。
 しかし、そこには汚らしい劣情などの感情は湧き起こることはない。それを起こすことは女にとって最上の侮蔑であるとすら思わせるほどであった。女が来ているものを一枚ずつ脱ぐたびに人々は女の虜となる。脱ぐことによって、少しずつ究極の芸術と呼ばれるものが出来上がっていくのだ。それを作ったのは神なのか。神なのだろう。神が生み出した至高の芸術である。男たちはこの世の英知を集結させた至高の芸術品を目の前にして陶酔してしまう。誰が見ても女の持ち得る美というものは全ての男を刺激するのには十分であった。その姿を絵に描いたものもあった。しかし、再現できずに歯がゆい思いをしてその紙をくしゃくしゃにした。写真を撮ったものもいる。しかし、写真では全く美しさが感じられない。少しでも醜く感じてしまう。本物でなければならないのだ。
 女はしばらく裸で立ち尽くした後、再び服を着始めた。男は愕然とした。もうあの芸術を見ることはできないのだ。男たちはこの世に絶望したような顔をして神に祈りをささげた。もう一度あの美しい肢体を拝ませてくれ。
 十数年後。その町から子供が消えた。

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