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巫夏希

第二十六話 船とライトス銀


「そんな…あれは罠。ウソだったのか……」

 氷の神殿でのリュージュの言葉を思い返して、フルは頭を抱えた。

「しょうがないわよ、フル。リュージュに関する情報はあれしかなかったわ…… それに、あの水使いの女をぶっ飛ばして訊けばいいのよ」
「でも…船が……」

 船は燃え尽き、跡形もなくなっていた。

「船くらい、作ってもらえばいいんじゃないかな?」

 ルーシーは思いついたように提案する。

「それよ! 船の職人さん、探しに行きましょう! 行くよ、フル!!」

 メアリーに腕を掴まれ、フルは半ば引きずられていった。




『そんな!? どうにかできないの?』
「だから、あの材料が切れてるから船はできないんだって」
『そんな材料、早く取ってきなさよ!』
『そうだそうだ! こっちだって大事な仕事があるんだ!! 早くしてくれ!!』

 港沿いの大きな建物。
 大勢の客だろうか? 入口に人が押し寄せていた。
 なにかもめているようだ。

「だ・か・ら! ライトス銀がないから作れないって言ってるだろ!!」

 職人だろうか、頭をタオルで覆った男が、大声で叫んだ。
 何のことだろう、とメアリーは建物の看板を見た


 ――“エーミッド造船所”


「これだわ!!」

 メアリーは人だかりをかき分けてゆく。
 それをあわててルーシーも追う。

「あの…ライトス銀とやらを持ってくれば船はできるんですか?」

 メアリーは職人の男にそう話しかけた。

「そうなんだよ。船の動力部に使うんだけどね……」
「私たち、採ってきましょうか?」
「え?! 君たちが? 本当に大丈夫なのかい? ライトス山にあるんだけど…道は相当険しいらしいよ」
「大丈夫です! 私たちはこれでも旅をしてて、体力は十分にありますから。それに…もってきたら私たちも船、作ってくれませんか?すぐにでもこの島を出なくちゃいけないんです」
「ああ、その時には真っ先に作ってあげるよ」
「ありがとうございます!!」

 メアリーは深く頭を下げる。
 すぐ振り返って。

「フル、ルーシー、さっそく行くわよ!」




「ライトス銀が採れるからライトス山…ネーミングセンスないよな」

 フルはそういってため息をつく。
 丸一日を要して鉱山に到着し、三人は坑道を奥へ奥へと進んでいた。

「いや、その逆らしいよ」

 ルーシーがそういう。

「なんでも、大昔に神ガラムドがこの山に現れて、“ライトス山”と名付けたらしいんだ。それで、この山でしか採れない貴重な銀が発掘されて、その逸話から“ライトス銀”って命名されたんだって」
「へぇ~  それ、どこで聞いたんだ?」
「入り口の作業員詰め所で。二人が『この先掘り進められないんだ』とか言う話を聞いてるあいだに、他の作業員の人と話してたんだ」
「それにしても、奥にも横にも掘り進められないって、変な話よね」

 現在の最深部までは、一本道で掘られていた。
 それが数日前、いきなり掘り進めなくなったという。
 脇道を作ろうとしたが、四方八方坑道のどこをほろうとしても堅いなにかに当たって、掘り進めないというのだ。

「あ…掘り進めないって、そういう意味だったんだ」

 そうこうしているうちに、坑道最深部へとたどり着いた。

「ただの岩…に見えるわね。錬金術で分解できるかな」

 メアリーは壁をぺたぺたと触る。

「岩、ね……」

 フルも壁に手を触れた。


 ピーーーー


 機械音と共に、フルの頭上から光の輪が降りてきた。

「え?  なんだこれ!?」

 光は地に消え、代わりに機械音が再びなる。

“スキャン カンリョウ。セイタイデータ ヲ カクニン。ニンショウ。ドア ヒラキマス”

 壁が割れ始め、両側に開いた。
 奥に広がる空間には、沢山のライト。
 それは、中央の台を照らし出していた。

「これは……」

 フルは、奥へと進んでいく。
 そして、台の上に置いてあったものを手に取った。

「本?」

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