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巫夏希

第二十二話 怒りと神殿


 フルは力に溢れていた。
 その根元は怒り。
 「シグナル」がメタモルフォーズとかいう異形の獣を使って何をしたいのかは知らない。
 トライヤムチェン族の村での攻防。
 首都リーガルへのメタモルフォーズの襲撃。
 港町バイタスの放火、メアリーの誘拐。
 廃墟でのメタモルフォーズの研究。
 スノーフォグの王、リュージュが黒幕だと言う真実。
 フィアノの人々、そしてメアリーの再びの誘拐。
 奴らの行動全てに怒りを感じていた。
 その感情が頂点に達し、フルはいつの間にか神殿へと走り出していた。
 怒りのパワーが、いくらでも湧き上がってくる。
 何分、何十分、何時間走り続けたのかもわからない。
 いつの間にか神殿へとたどり着いていた。
 北国、しかも氷の神殿だと聞いていたのに、氷は愚か雪も見当たらない。

「はあ、はあ、はあ………フル…速いよ……」

 息も切れ切れ、ルーシーもなんとか追いついた。

「いこう。ルーシー」

 やすむ間もなくフルは中へ進んでゆく。

「フル~ まってよ~」

 開け放たれた門をくぐって中へと入る。
 中は質素な教会で、沢山の長椅子が並んでいた。

「あっ…あれって……」

 フルは、教壇の前に床の隠し扉らしい穴があいているのをみつけた。

「これ、地下への階段かな?」

 ルーシーは下を覗き込む。
 そこには、下へ下へと暗闇に向かって階段が延びていた。

「よし、行こう」

 フルを先頭に、2人は狭い階段を下りた。
 数分間下り続けると、地下の空間へとたどり着いた。
 どうやらそこは廊下のようで、細長く一直線にのび、壁のロウソクには火が灯っていた。
 しかし、その神聖な、厳かな雰囲気に似合わないものが動き回っていた。

「うわ…メタモルフォーズ……」

 何十頭といて、フルは剣を抜いた。
 だが、メタモルフォーズは2人を見ても、なんら気にしていないようだった。
 フルが注意しつつ近づいてみても、威嚇すらしない。
 ルーシーは目を細めてメタモルフォーズを観察していた。

「あっ! こいつら、リーガルを襲ったヤツらじゃない?」

 たしかに、このメタモルフォーズには羽が生えていて、リーガルで見たものだった。

「それじゃあ、アイスンの根城ってここだったのかな?」
「そうかもね…… 元々の目的地はここだったけど、今はメアリーが先。こいつらの気が変わらないうちに行こう」

 メタモルフォーズの真横を進んでゆく。
 フルが何度か触れてしまったが、ヤツらが攻撃してくる様子はなかった。
 なんとか通りきって突き当たり、ドアにたどり着いた。

「この先にいるのかな?……」

 フルはドアノブにてをかける。
 するとドアが青白い光を放って、突然消えた。
 ドアの先には、地上より何倍も豪華な氷の神殿が広がっていた。
 中央に何人もの人影が見える。
 その人々のなかに、メアリーの姿があった。

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