ODD

巫夏希

第十五話 知恵の木の実

 次の日。

「船は…無事だったみたいだね。フル。」

 ルーシーは言った。
 フルはメアリーの部屋を探っていた。
 女の子の部屋を探るのは少々気まずいがあの銀髪の男の手がかりを探すためだ。
 フルは心の中でメアリーに謝った。
 すると、


 チャリーン



「ん?」

 ルーシーが何かを見つけた。
 それは…。









 ボォーッ


 船内。
 フルの部屋。
 フルは考えていた。
 何故あの港町で会った奴─バルト・イルファといっていた、はメアリーを誘拐したのだろう、ということを。

「城で戦ったゴードン、何で私が神の一族だって知ってたんだろ?…… 分かんないな~」

 メアリーの言葉が頭に響く。


 コンコン


 甲高くドアを叩く音が聞こえる。
 返事を返し、扉を開ける。
 ルーシーだった。

「…ルーシー、どうした?」
「…もうすぐスノーフォグだから用意しろ、って船長さんが。」
「どれ、」

 フルは丸い窓から外を眺める。
 外枠にすっかり雪が積もっていた。

「…雪、いつの間に」

 外を眺めると島が見えた、そして少し高い所に灯りが灯っていた。

「あれは?」

 フルはルーシーに尋ねた。

「なんだい?フルの世界にはないの?あれは『灯台』っていうんだよ。航海から帰ってきた船はあの灯りを頼りに港に着くんだよ。」
「ふうん…」


 ガシャン


 錨が海底に落ち、船から階段が下ろされる。

「到着したみたいだね」





 ここは港町、ソラリス。


 ガリ、ガリガリ。


 スノーフォグは全国的に気温が低く、海には氷が張っている。
 だから毎日砕氷船が運行している。その音だ。
 その音が町に響く。

「…そういえば、お前ら。友達が拐われたって言ってたけどよぉ、手がかりでもあんのか?」

 若い船員がフルに尋ねた。

「これ」

 フルは小さなバッジを渡した。
 それは先程メアリーが泊まっていた部屋でルーシーが見つけたものだった。

「…何だよ、これ」

 船員はもう一度尋ねた。

「バッジに書かれているアルファベットをよく見てみなよ」
「え?」
「…ASL?」
「そう、正式には、ALCHEMY SHRAS LABORATORYっていって、出発する前に調べたんだ。あの港町の図書館で。」

 ここでフルはASLについて調べた事をまとめて、言った。
 それを文章でまとめてみよう。
 アルケミー・シュラス・ラボラトリー…ASLはスノーフォグ直轄の錬金術師、シュラス・アルモア教授の下、集められた40数人の、何れも腕利きの、錬金術師が錬金術の未来について研究している国営の研究所である。
 しかし以前はシグナルが実権を牛耳っていた。
 それもセカンドインパクト後に解散、ASLもそれに加担したとして同様の処置が為された。

「…それがどういうことなんだ?俺は頭が悪いんだ。」

 船員は火打ち石をカチカチと叩いて言った。どうやらこの船員の知能指数は低いらしい。

「…言える事は二つ。まずシグナルは復活している、ということ。」
「次に、シグナルがASLを使っている、ということだと思う。」
「なるほど!じゃあ、メアリーはそこに…」


 コクリ


 フルは頷いた。

「…俺には全然分からんが、行く場所が分かったようだな、じゃあな!友達を大事にしろよ!」

 二人は町の外へ歩きだした。





 三日後。
 フルとルーシーはASLに到着した。

「ここか…」

 古びた、廃虚だった。


 ゴクリ


 フルは勇気を振り絞って、中へ入った。
 中は意外と広く、入った時は夜だったが、足場が見える程度に灯りが点いていた。

「…ビンゴだな」

 ひそひそ。

「?」

 どこからか声が聞こえる。
 …なんだろう?
 フルはルーシーを呼び、その方へ向かった。

「…ということはこの薬をこの配合で入れれば強くなるというのだな?」
「はい、ドクター・シュラス。」
「…そういえば、ドクター。先遣隊のバルト・イルファがいい収穫をしたそうですね。」
「なに?」
「神の一族が一人、手に入ったんですよ。研究するいいチャンスではありませんか?」
「メアリーの事だな」

 フルは小さな声で言った。

「…ここは、一気に肩をつけるぞ」
「うん」



 ダッ


「むっ!?」


 ガキィィィン


 フルの刀は少しずれてコンクリートの床に激突した。

「ま、まずは逃げるぞっ」

 科学者は丸腰で逃げていった。

「追うぞっ!」
「うん」

 フルとルーシーも後を追った。







 その頃、ASLのどこか、倉庫らしきところ。

「…あ、あれ?」

 メアリーはそこで目を覚ました。
 そして自分の体の身動きがとれない事が分かった。

「…とにかく、出なきゃっ」
「…錬金術で封じてるみたいね」


 ガキィィィン


「よし、」


 ギィィィィ
 メアリーは扉を開ける。

「ここはどこかしら。えーと…」
「『第四倉庫』?」






 その頃、フルとルーシー。

「さぁ、もう逃げても無駄だぞ!!」

 科学者を袋小路に追い詰めていた。

「さぁ、メアリーは何処だ!!」

 すると突然。

「クククク、フハハハハハハハ」

 科学者は笑い出した。

「何がおかしい!」
「お前らは気付かぬのか。なぜ我々が何の抵抗もせずに逃げたか…」

 科学者の後ろにはレバーがあった。

「ま、まさか!?」
「そうだ。今こいつを放つ!!」

 科学者は上を見る。
 バカでかい水槽に何かいた。
 そう、メタモルフォーズだ。

「目覚めよ!!」


 ガチャン!!
 科学者はレバーを下げた。
 それと同時に水槽にいっぱい満たされていた水が抜かれていく。
 隣にいた助手らしき男が「あれは実験段階ですよ!いつ、形が崩れるか…」と言った。
 しかし科学者は、

「うるさい!これしか方法はないのだ!!」

 と言い返した。


 ギィィィィ


 水槽の割れ目から水が噴き出し、その割れ目をメタモルフォーズがこじ開ける。


 ガシャァァン


 この音とともに水槽が真っ二つに割れ、地響きをあげながら、ドシンドシンと進んでくる。

「さぁ、こいつに勝てるかな?」






 その頃、メアリー。

「ここは何処かしら?」

 メアリーは扉に書かれている部屋の名前をみた。

「『資料庫』?」
「…なにかあるかも。」

 メアリーはその部屋に入った。
 そこには膨大に書類があった。

「うわぁ…」

 メアリーは、何かを見つけた。

「『知恵の木の実について』…?」


 ギィッ


 メアリーは側の古い椅子に座り、新聞紙程ある大きさの本を開いた。


 ペラ


 まずは一ページ捲る。
 そこにはこう書かれていた。
 『知恵の木の実』とは遠い昔、エデンにいたアダムとイブが蛇の誘惑に負け、食べた。神は怒り、アダムとイブをエデンから追放した。
 なぜ神は怒り追放したのか?
 神は"アダムとイブ"という人間が自分の地位に近づくのを恐れたのではないか?
 しかしそれは伝説上の産物である。
 時は流れてガラムドが生まれ、そして空へ還った。
 ガラムドの墓を守っていた男─ニーチェ・アドバリー、はガラムドの墓に樹が生えていることを見つけた。
 そこには一、二個木の実が生えていた。
 その木の実は黄金に輝き、形は林檎のようだった。
 その男は敬意を込めてこう呼んだ。
 『知恵の木の実』と─。

「ふうん。昔にもそんなことがあったんだ」

 メアリーはそう呟きながら更にページを捲る。

「?」

 メアリーは気になる記述を見つけた。
 そこには、こう書かれていた。
 ガラムド暦年史にはこう書かれていた。
 『偉大なる戦い』の時、神ガラムドは錬金術師に小さな木の実を渡した。
 そして、ガラムドは言った。

「この木の実を使えば小さな代償で強力な錬成が出来るでしょう」と…。

 つまり、ガラムドが死ぬ前から『知恵の木の実』はあった事になる。
 これは一体どういう事なのか…。
 メアリーがそこまで読み進めた時だった。


 ドシィィィィン


 大きな地響きが聞こえた。

「な、なに!?」


 パタン


 メアリーは何かを察知し、本を閉め、立ち上がり、外に出た。


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