ODD
第十四話 二つの共通点
3人は馬車を乗り継ぎ、本土最北端の港町“バイタス”にたどり着いた。
スノーフォグへの船は明日早朝出港、もう日も暮れ始め、宿で休むことになった。
埠頭近くで小綺麗な宿を見つけ、2人部屋と1人部屋をそれぞれ取る。
2部屋取るのは、もちろん男女別に泊まるためだ。
料金は3人部屋より割高だが、リーガルを旅立つときに国王から十分なお金をいただいたので、何の問題もない。
フルはその時、この国――いや、この世界の通貨を初めて知った。
“ムル”と“ロクス”という。
“ムル”が紙幣で、“ロクス”が硬貨だ。
1ムルは1000ロクス。
今まで通ってきた村や町での市場を見る限り、1ムルは日本円で1000円くらいだと分かった。
10・5・1ムル札、500・100・50・10・5・1ロクス硬貨とあり、まるで日本円そっくりだとフルは驚いていた。
3人は宿の夕食を終え、部屋へと向かっていた。
「さっきのご飯、本当においしかったね~~」
メアリーは満面の笑みを浮かべてのびをする。
「たしかに、港町だけあって魚の鮮度が違うよな。刺身がとってもうまかった」
ルーシーもうなずきながらそう言う。
「まさか“醤油”がこの世界にもあるとは思わなかったよ。あれは、驚いたな」
この世界では、刺身に“マキヤソース”というものをつけて食べる。
これが“醤油”そのものと言っていいほど色も、味も似ている代物。
これと言いお金と言い、日本との共通点が多いなと、フルは少しうれしく思っていた。
「なんか思い出しちゃったんだけどさ……」
メアリーは眉間にしわよ寄せ、話を続ける。
「城で戦ったゴードン、何で私が神の一族だって知ってたんだろ?…… 分かんないな~」
「あいつの前で左利き使った?」
フルはそう訊いてみる。
「いや、あいつの前では使ってないはずだよ。文字も書いてないし、食事もしてないし…… 私のことを元々知ってたのはあんたたち2人に、校長先生、マリー先生、それから家族くらいだし…… あぁもう、分かんないわね!~」
頭をもみくしゃにしながらメアリーはうなる。
「まあ、そんなに考え込んでも、分かんないもんは分かんないだろ」
「そんなもんかな……」
ルーシーの言葉に同意しきれないメアリー。
そうこうしているうちに、メアリーの部屋の前にたどり着いた。
フルとルーシーの部屋はもう少し奥だ。
「それじゃあ2人とも、おやすみなさい」
「「おやすみ、メアリー」」
「う…熱い……」
メアリーと別れてすぐに寝てしまったフルだが、あまりの暑さに目を覚ました。
強い光がカーテン越しに射しこむ。
「もう、朝なのかな?……」
フルは眠たそうに目をこすりながら、片手でカーテンを開ける。
すると、すんだ星空のもと、町が火の海と化していた。
「ルーシー、起きろ!! 火事! 火事だぞ!!」
「え…… どうしたのフル?」
隣のベットで寝ていたルーシーをたたき起す。
やはり、まだ眠たそうに目をこすった。
「だから火事だって!! 町が火の海なんだ! 早く着替えてとりあえず建物から出るよ!!」
フルは着替えながら手早く着替える。
「え!? マジ!? 分かった、早く逃げよう!」
ルーシーも目を覚ます。
着替え完了。荷物も背負い、ドアを開け放つ。
皆、一刻も早く外へ出ようと廊下を走っている。
2人は人の流れとは逆、メアリーの部屋を目指した。
すれ違う顔は、必死の形相。
「メアリー!! 大丈夫!?」
部屋に着くや否や、フルはドアを バン と開け放ち、叫んだ。
しかし、部屋の中にメアリーの姿は無く、代わりに1人の男が窓の方を向いて佇んでいた。
「君、ちょっと遅かったね。この子は僕がもらってくよ」
その男はこちらを向く。
銀髪で赤いシャツに赤いズボン、白いネクタイをしめた男は、肩にメアリーを担いでいた。
「メアリーを…メアリーを放せ!」
戸惑い、怒り。
フルは無意識のうちに背中に掛けていた『シルファの剣』を抜いて構えていた。
「おっ、予言の勇者様のお出ましですか」
フルの顔を見てか、男はそう言い、さらに続ける。
「でも言っとくけどね、僕は強いよ。この町を火の海にしたのは、なんたってこの僕だからね。規模から言って僕の強さ、分かってくれるよね? それに、こっちには人質だっているしね」
「く… くそっ……」
所詮フルは魔法を使い始めてまだ数カ月。剣を手にして数か月。経験も技量もまだまだ浅い。
城を襲ったアイスンを倒したのだってメアリーの機転のおかげだ。
フルとルーシーの二人だけでは戦いはおろか、メアリーを傷つけてしまうかもしれない。
今にも飛びかかりたい思いをぐっとこらえる。
「そうそう。それがベストな選択だね」
フルの感情を読み取ったのか、男はそう切り出す。
「状況のよくわかる子には、リワードをあげないとね。リーガルを襲って君たちと戦ったアイスン、あれは僕達の組織の人間さ。その名も『シグナル』。魔法科学組織『シグナル』だ」
男は言い終えると、窓に足をかけた。
「そう言えば名乗ってなかったね。僕の名前はバルト・イルファ。今度会ったときは……成長、楽しみにしてるよ、予言の勇者君」
窓をけって大きく跳ぶ。
どんな魔法を使ったのか、バルト・イルファの姿はすぐに見えなくなった。
「くそ…… くそぉぉぉぉおおお!!!」
部屋にはフルの叫び声が大きく響き、床には何滴もの涙がこぼれおちた。
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