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巫夏希

第十一話 伝説の武器


「よし、行こう!」とフル。

 メアリーとルーシーも頷く。

『待ってください!』

 ミントが再びフル達の頭に直接話しかけた。。

「なに?」

 シュリアが尋ねる。

『これを使ってください』

 ミントが指差した方向には剣、弓矢、杖があった。

「なんですか?これ?」
『これはね、昔私たちにガラムドから渡された物なんです。』
「ふーん…」


 キラン


 フルが剣を見た瞬間、剣がほのかに光った。

「?」

 メアリーとルーシーにも同じような事が起こった。
 メアリーが杖を見たら、杖がピクピクと動き、
 ルーシーが弓矢を見たら、弓がキシキシと音をたてた。

『!?』
「なんだ…この反応は…」

 フルは剣、メアリーは杖、ルーシーは弓矢を持ち、

「…行こう。」


 ダッ!


「グラァァァァ!!!!」

 外では獣が暴れている。

「ルーシー!弓矢で援護して!」
「私はこの杖で…防御壁を作る!」


 パキィィィン!!!!


「ノーモーションで錬成が!?」

 フルは闘いの間際なのに、ふと思ってしまった。
 そういえば、フル・ヤタクミが古屋拓見という名で生活していたころ、そんな漫画があったような…。
 さっきの光の粒といい、いったいこれは現実なのか空想なのか…。

「フル!何してんの!ぼーっとしてないで、加勢してよ!」

 メアリーの言葉でフルは我に返った。


 フルは『シルフェの剣』で攻撃に徹し、
 メアリーは『シルフェの杖』で壁を錬成し、防御に徹し、
 ルーシーは後衛から弓矢でフルを援護した。

「おりゃあ!」


 ヒュウウウウ…。


 フルの手が赤いベールに包まれた。
 同時に、手から炎が発せられた。


 ボオオオオ!!!!!!!


 グラァァァァ!!!!!!


 獣は大きな声で喚いている。
 先ほどの炎が相当効いたのだろう。

「これで…終りだ!」


 ザシュッ!


「グ…グラァァァァ!!!!!!!!」


 ドゴォォォォン!!!!!!


 獣は倒れた。
 そして、徐々に分解された砂らしきものが風に吹かれていった…。

「や…やった…。」
「倒した…初めて魔物を倒したんだ!」




 その頃、ラドーム学院。
 校長室。

「ムッ。怪しい気配だな…」
「…いや」

 校長は手を止めた。

「これは懐かしい気配だな。何百年振りかな。そこにおるのは分かっている。」
「でてこい!」


 ズズズズ…


「ばれちゃしょうがない…」

 地響きとともに地面から一人の女がせり上がってきた。
 服は巫女が着るような服で、両手に小さな水晶玉を抱えていた。

「やはり…お前か。」
「リュージュ!」
「久しぶりねぇ。『スノーフォグ』で争った以来かしら?」
「しかし…まだ生きていたとは、」
「当たり前でしょう?私たち『祈祷師』は神ガラムドの血を受け継いでいるからねぇ。あなただってそうじゃない。一時は『ハイダルク最高の頭脳』なんて評されたあなたが今はこんな学院の校長として治まってるんだからねぇ。」
「何が言いたい。」
「ねぇ。ラドーム。私たちは『神の一族』。殺生はいけない、それは知ってるわよね?」
「あぁ」
「だからなるべく人は殺したくないのよ。」
「?」
「ここで取引といかない?ラドーム。」
「…どんなだ」
「予言の勇者フル・ヤタクミの場所を教えなさい。そうすればこの学院の生徒と先生だけ生き長らえさせてあげるわ。」
「断る!フル・ヤタクミは仮にもここの生徒だ!」
「…交渉決裂ね」


 ザクッ


「な……。こいつ…は…」


 ドサッ


「あなたなら知っているでしょう?メタモルフォーズよ。」
「き…貴様…『テーラの予言』を遂行するつもりか!」
「『予言』は必ず叶う。だから『勇者』はこの世界に導かれた。でも…」
「『勇者が世界を救う』とは予言されてないわよねぇ?」
「何をいうか!あの予言では『テーラの予言を覆す』と…」
「教えてあげましょうか。そんな予言存在しないのよ!」
「な、なんだと!」
「あの祈祷師、ドグ・フェックは『勇者がここに来る』としか予言してないのよ。それをハイダルクが膨らませて、『テーラの予言、覆す』と付けたのよ。」
「な…なんだと…」
「おあいにく様!つまりテーラの予言は当たって、世界は滅亡するのよ!」
「…これで安心して死ねるでしょう?」


 ヒュン!


 ザクッ





〔エルフの隠れ里〕

「ありがとうございました。お陰で…平和にエルファスの村に行けそうです。」
「行って…くれるんですか?」
「当たり前です。私たちはあのバケモノがいたから行けなかったのです。数日もすればここは…今まで通り森の精の楽園となる事でしょう。」
「それさえなければ行かない理由はありません。」
「では、また会いましょう!」

 フル達は馬車に乗り込み、エルファスの村に帰った。





〔ラドーム学院、校長室〕

「…やはりね。」
「忘れっぽいやつの事だから何処かにメモは残していると思ったわ。」
「…やつら、首都リーガルまで行くつもりね。いいじゃない。メタモルフォーズの力を見せつけるチャンスだわ。ンフフ」





〔エルファスの村〕

 次の日。

「あの…この人知りませんか?」
「うーん…いたようないないような…。」

 カウンターの方からそんなやりとりが聞こえてきた。

「なんだろ…」

 メアリーは眠い目を擦りながら、下に降りる。

「…あ、そこのお嬢さん!この人、知らないかい?」
「え?」

 メアリーはその男の持っていた絵を見た。
 もしかして…。





〔フルの部屋〕

「フル!フル!」

 メアリーはフルを強く揺さぶって起こす。

「なんだよ、せっかく人が寝ていたのに…」

 後ろには見知らぬ男が、
 ゆっくりと口を開いた。

「…あぁ。やっと会えた。フル・ヤタクミさんですね。」
「え?」
「申し遅れました。私ハイダルク国軍兵士長のゴードン・グラムと申します。以後お見知りおきを。」

 その男はどう考えても兵士には向いていない細身で、まるで俳優かというくらいすっきりとした顔立ち…まぁ、それはおいておくとしよう。

「馬車をご用意しております。裏口から行きましょう。」
「え?」
「あなたがこの村から出たと知られたら困るからです。」
「なるほど」
「急いで用意してください。わかりましたか?」

 荷物をまとめ、外に出た。
 ほのかに息が白かった。
 この世界に来て今日1ヶ月が経った。
 空が少し輝いている。
 エルフたちが「行ってらっしゃい」と手を振っているようだった。
 馬車に乗り込み、馬車の中でフルはそう思った。

「…僕はどうやってこの世界に来たんだっけ。」

 彼はそう呟いて再び眠りについた。

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