ODD

巫夏希

第八話 旅立ちの時

「行き先はハイダルク本土、リーガル城です」
「「えっ!?」」

 メアリーとルーシーが驚く。
 フルは相変わらずおいてきぼり。

「首都リーガルまで行くんですか!?なんでです?先生」

 メアリーは口早に問う。

「世界を滅ぼそうとするやつらが、再びあなた達を……特にヤタクミ、世界を救うと予言された勇者を殺そうとするでしょう。しかし、多勢で攻め込まれては、あなた達を守れないのが現状です……」

 魔法・錬金術・守護霊・獣使い――さまざまな分野のスペシャリストが先生として学院にいる。しかし、あくまでも学問的スペシャリスト。戦力として活躍できる人物は、ほんの一握りだった。
 先生はうつむきつつも話を続ける。

「そこで、校長がリーガル城下で匿ってくれるよう、取り計らってくれました。さっそくですが明日の朝、ここを出発します。十分に準備しておいてください」

 そう言い終えると先生は早々と教室を後にした。


 ……


「それじゃあ、私、先に戻るから……」

 メアリーが立って、教室を出る。

「オレも……」

 ルーシーも続く。


 ガラガラ

 ガラガラ

 戸の閉まる音。
 教室にはフル一人のみ。


 ……


「なんで、僕が勇者なんだろ……」




 翌朝、フルとルーシーは集合場所のA-1教室に向かった。2人とも大きなかばんを抱えている。教室へ入るとすでにメアリーがいた。

「メアリー、おはよう」
「おはよう、フル」
「おはようさん」
「おはよう、ルーシー」

 みな、どことなく暗い。


 ガラガラガラ



「3人ともおはよう」
「「「おはようございます、先生」」」

 入ってきた先生にもあいさつ。

「それじゃ、今後の予定を話すわね」

 教卓の前に立ち、先生が言う。

「本土に行くのはもちろん、船を使います。ここから港までは、私の転送魔法で。本当は城に直接転送させたかったのですが、私の技術では無理でした……。船は、確か1泊2日で着くはずです。本土の港に降りたら使いの方がいらっしゃるはずです。後は、その方の指示に従ってください」

 先生は一人一人の顔をじっと見つめる。

「分かりましたか?」
「「「はい……」」」
「さっそく港に行きましょうか。それでは、転送陣を作ります」

 そう言うと、先生は手を合わせ、目を閉じた。

『我、ここに願う。我、風の力を集め、ここに使うことを。我、……』

 詠唱を始める。
 合わせた手が緑色のベールに包まれたように色を放っている。

『……ことを。我、ここに願う。風の力を用いて、彼らをかの地へ届けんことを!』

 目を見開き、両手を前に放つ。
 手を包んでいたベールが拡散し、床に1つの陣を作り上げた。
 3人は、その光景に見とれてしまう。

「さあ、陣の上に乗ってください。みなさんいっぺんに転送しますから」

 各々、床に置いてあった荷物を持ち、黄緑色の陣に乗る。

「あの… 先生……」

 フルは、悲しい顔でそう言いだす。

「短い間でしたが、ありがとうございました」
「いいえ、これで最後というわけではありません。すぐに戻れるよう頑張りますから、少し待ってってくださいね」
「はい…!」
「それでは、転送しますよ」

 再び手を合わせ、目を閉じる。

『我、ここに願う。彼らが無事、かの地へ着くことを』

 3人の視界は緑色に染まった。




 船、甲板。
 港を出発してかなりの時間が経った。
 フルは、カガル島の方を見ていた。
 ルーシーも現れ「よっ」と声をかけてきた。

「オレ、船に乗るの始めてなんだ。意外と快適なもんだよな。フルは乗ったことあんの?」
「いや、僕も始めて。いつも船じゃなくて飛行機に乗ってたから」
「飛行機? なんじゃそりゃ!?」
「この世界じゃ実用化されてないのかな?飛行機っていうのは、人を乗せて空を飛ぶ乗り物なんだよ。けっこう大きいんだぜ」
「へえー。空飛ぶ乗り物ねぇ。そいつは乗ってみたいな」


 バァン


 突然大きな爆発音がして、船が横に揺れた。
 海水が少し、甲板に打ち付ける。

「な、なんだ!?」

 ルーシーが叫ぶ。

「二人とも大丈夫!?」

 どこからかメアリーがやってきた。

「今のところは……いったい、何があったんだい?」

 フルは問いかける。


 バァン


 再び爆発。船は大きく揺れる。

「このままじゃ海に投げ出される! みんな!はぐれないように手をつないで、どっかにつかまるんだ!!」

 降りかかる波の音に負けぬよう、フルは叫ぶ。

「「うん!」」

 三人はがっちりと手を結んだ。


 バァン


 三度目の爆発。船はさらに大きく揺れた。
 波が襲い掛かり、三人は大海へと放りだされた。







 ザバーン


 ザバーン


 波の打ち付ける音。
 3人は砂浜に打ち上げられ、ぎらつく太陽を浴びていた。
 手はまだつないだまま。

「助かったのか……」

 意識が戻ったフルは安堵する。
 しかし、それを上回る不安と疑問。

「ここはどこだ?」

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