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巫夏希

第五話 不穏な気配

「フル・ヤタクミ殿。あなたには不穏な空気が致しますぞ。」

 ボォォ。
 何処からかすきま風が入り、長老の家の松明の炎が揺れる。

「えっ……?それは、一体……?」

 ルイスが言う。

「うむ……。」

 長老は静かに目をつぶった。

「……やるしかあるまいな。」

 ササァーッ。
 長老の家の扉が開くほどの強い、風が吹く。

「バレちゃあ…仕方ねぇな。」

 ルイスがいきなり言った。


「え…。じゃあ、不穏な空気、というのは?」
「さすがだな。まさか私の本当の姿が見えていたとはな…」
「ふん。わしには、『気観』という能力がある。ヒトとは違う気をお主から感じたからな。」
「クックック…。」

 ルイスは笑いだした。
 まるで、悪者みたいに。

「バレては仕方あるまい。お主ら…」

 バァァァッ!!!!
 ルイスの背中に隠されていた翼が大きく開く。

「『予言』の勇者と、神の子孫を倒すためには…もう少し時間をかけるべきだと思ったが…仕方ない!」
「今、この場で倒してやる!」

 針のように尖った翼がフルたちを襲う!



 ガァッ!!!!!



「…………えっ?」
「大丈夫?」
「先生!?」
「どうしてここに?」
「校長がね、さっき私に言ったのよ。」

 フル達が旅に向かって直ぐ、校長はアルケミークラスの先生を呼び出した。
 名前はサリー・クリプトン。
 錬金術に長け、リーガル城お抱えの錬金術師だった。
 三年前、ある事故で無実の罪を着せられ、リーガル城主からその任を解かれた。
 そしてラドームが引き取った。
 どんな事故だったのか?
 それは『禁断の錬金術』を行なった為に起きた爆発事故だった。
 『禁断の錬金術』はトップクラスの錬金術師しか知らない、いわば『シークレット』なのだ。
 故に殆どの錬金術師はそれを『シークレット・アルケミー』という。
 さておき、話を戻すと、

「サリー先生。」
「何でございましょうか。校長?」
「お主のクラスに…フル・ヤタクミというのがいるな?」
「はぁ…。」
「聞いた話に依れば、フル達のグループは原住民の儀式を見にいくそうだな。」
「えぇ…。それが何か?」
「実はアルケミークラスに怪しい動きがあってな…。」
「えっ、」
「お主はA-1の担当だから、知らんだろうが、A-3とA-4には我々祈祷師と対立する『祓師業』の手下が暗躍しているらしいのだ。」
「何ですって!?」

 『祈祷師』と『祓師業』はもとを辿れば同じ神ガラムドだが、仲は悪い。
 『祈祷師』は裏で強力な権力を持ち、自らが目の敵にする者をどんどん排除していった。
 『祓師業』も例外ではなかった。
 『祈祷師』は権力を用い、『祓師業』の絶滅を謀った。
 しかし、流石の権力も『祓師業』という、いわば神の子孫を絶滅させることは敵わなかった。
 急激に衰退していった『祓師業』は『祈祷師』たちを怨むようになった…。

「では、どう致しましょう?」
「うむ…。実は本題はここからだ。」
「?」
「そのフル達についていったルイスは、『祓師業』の手下だ。放っていたら、生徒達に被害が及ぶ!」
「どうすれば…?」

 ラドームはしわくちゃとなった顔のキリッとした眼を細め、

「うむ、サリー先生、そなたに排除を任せようと思う。」
「かしこまりました。必ず…生徒達を救ってきます!」
「頼んだぞ。」

 では、話を戻すとしよう。

「貴様…『錬金術師』のようだな…。」
「えぇ!生徒達にはもう、手を触れさせやしないわよ!」
「やはり…『主』様の言う通りだったな…。」
「!!」
「ならば、これを!」

 ルイスは何かを持ち、天に掲げた。

「あれは、『マジック・エッグ』!!」
「何ですか?それって?」
「あぁ…あなたたちは知らないのよね。私達『錬金術師』にとっては初歩中の初歩となる錬金術を応用した道具よ。一番力を封印しやすいフェニックスの卵に各属性の力を封じ込む…。使うときはその殻を割れば、力は力として発動される…。非常に強力かつ戦術的な道具ね。」
「その通り!そして、この魔法の効果は…」

 シュルルル…!!

「な!!」
「五感を封じ込める『ダーク』の魔法だ!!」
「キャァァァッ!!」
「先生!!」
「……あ……あ……」

 五感を封じ込まれたため、声が出ない。

(…どうすれば、いいかしら。生憎手の動きは塞がれてない。だから…陣をつくることは出来る!けど…。目標が分からねば…もしかしたら生徒達に当たりかねない!)
(…ならば!)





 ピキーン!!




「何をするつもりだ?」
(フル、メアリー、ルーシー。よく聞いて、)
「先生?」
(いい?今から私が指示する事をして。)
(それはね…)

 サリー先生がその指示を言った。 

「!?」
「えっ!?」
「そんなこと…やれるかどうか自信ありませんよ。」
(それでもいいわ。お願い。)
「わかりました、」


 タッ!!


 三人はバラバラにわかれた。

「おのれ、チョコマカと!!」
(いい?今から私が指示する事をして、)
(出発前、あなたたちに魔物を驚かす火薬玉を渡したわね?)



 コクン。



 三人は頷く。

(それを敵にぶつけて欲しいの。そうすれば、ヤツの"気"を感じる事が出きるわ。)
「!!」
(いい?出過ぎた真似はしないこと。自分の首を絞めるからね!!)
「はい!」
「オリャア!!」


 パーン!!


 パーン!!


 火薬玉があちらこちらで爆発する。

「おのれェェェ!!!!」
(もう少し、もう少しよ…。)
「これが…最後の一個…。」
「行くよ」


 コクリ。


「ウリャア!!」


 ボガーン!!


「見えた!」
「くらいなさい!」


 キュウウウウウ…。


「雷炎錬金術『サンファイア』!!!」
「く…。グァァァァ!!!!!!」
「ふぅ。どうやら…儀式ごと潰されたようね。」
「さて!」

 サリー先生はフル達の方を向く。

「ありがとう。助かったわ。あなたたちが立派に闘ってたのは実際には見えなかったけど、心で感じてたわ。」
「ありがとうございます!」

 フル達は先生に一礼す。

「いいのよ。別に。さ、学校に帰るわよ!」


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