ODD

巫夏希

第三話 メアリーの過去


 寮は四つに別れていた。
 こっちの世界の言語で書かれていたが、メアリーが翻訳してくれた。記してみると──。

第一の寮
『purple』

第二の寮
『orange』

第三の寮
『scarlet』

第四の寮
『black』

 それぞれ、かなり広かったが、繋がって一つの建物になっているため、見分けがつかない。
 フルは第二の寮『orange』の地下三階だった。

「地下だったんだ……。明るくて分からなかった……」
「え?」
「……ううん。何でもない。メアリー」

 フルは空を仰ぎ見て、大きく息を吸った。

「…あのさっ」

 フルはメアリーに"あのこと"を聞こうとした。

「あっ、そうそう」

 メアリーは何かを思い出したかのようにフルに言った。

「これっ」

 メアリーが持っていた大量の書類のうち、半分をフルに渡した。

「これは…?」
「宿題よ。アルケミークラスは毎日宿題出るから。あ、安心して。私が全部翻訳しておいたから」
「あ……うん」



〔フルの部屋〕

 結局、フルはメアリーに”あのこと”を聞けずじまいに寮の部屋に到着した。
 この寮は相部屋のようだ。
 フルのルームメート(?)はルーシー・アドバリーだ。
 温厚な性格でフルは助かったらしい。
 しかし恥ずかしがりやのようでルーシーの方から話すことは滅多にない。

「………………」
「あのさ」
「なに?」
「メアリーって……何でいつも一人ぼっちなの?」

 彼が気になっていた、もう一つの気になる事だった。



「…………」

 ルーシーは口をつぐんだ。
 そして、こう言った。

「実は、彼女は不思議な事が多いんだ」
「?」

 そして、ルーシーは彼女について語りだした。
 ルーシーが言うには、彼女は去年編入学したが、何処から来たかは一切言わなかったという。
 目をつけたのはスピリッツクラスのいたずら三人組だった。
 それぞれ、ヤミ、ヒル、アスラ。
 一番背の高く目が狐のようにつり上がっているのはヤミ。
 二番目に背の高い少しぽっちゃり、髪型がボサボサと整然でないのはヒル。
 一番背が低く、それに似合わず顔がすぅっとしているのはアスラだ。
 三人はメアリーの髪や目を対象として、苛めた。
 メアリーの髪と目は赤い色をしていたのである。
 この世界では髪と目は黒、と決まっている。
 例外もいる。
 何故黒、以外は駄目なのか?
 それは世界を崩壊に導いた軍団のボスが赤髪、赤目だったことからに所以する。
 さて、三人がそれをいじってきた。

「なぁなぁ、どうしてお前、髪と目が赤いわけ?」とヤミ。
「ホントホント。なに? 触んないでくんない?」とわざとらしく、ヒル。
「うぇーっ! 気持ち悪ぃ!」とアスラ。

 そんな"言葉の暴力"に耐えてきたメアリー。
 しかし、一ヶ月後。
 謎の現象が起こったのだ。
 先のいたずら三人組のヤミ、ヒル、アスラが退学させられたのだ。
 『ラドーム学院』としては初の措置だった。
 校長は理由を『学力が優れない』としたが、実はそうでないと思う学生が多い。
 それからというものの、メアリーに近寄る者は誰も居なくなった……。




「そんなことが……」
「うん。ホントかどうか分かんないけどね。君もメアリーと友達って事を話せば苛められないと思うよ。君も僕らと違うもんね」
「…………」

 フルは頷いた。

「さぁて、宿題片付けなきゃ、な!」

 ところで、ここで疑問に思ったかもしれないことを、一つ解消しておこう。
 何故、フルはルーシーの言語が理解出来るのか? ――ということについて、だ。
 それは、先程メアリーと話している間にこの世界の言語の基本的な表現を教わったから、という至極単純な理由だった。
 いつまでもメアリーに頼ってばかりいられない、とフルは考えて、メアリーに教えてもらった、というわけだった。
 閑話休題、終わり。

「うん。え? 同じ学科なの?」
「うん、あ、言わなかったっけ? 僕も君やメアリーと同じアルケミークラスだよ」
「そうだっけ?」
「うん。そうだよ。ヤタクミくん」
「いいよ。別に他人行儀じゃなくて、『フル』でさ!」
「うん。フル」



 次の日。
 一時間目はアルケミークラスの専門教科だった。
 いつものクラスに集まったアルケミークラスの学生たち。

「全員集まったようね。それでは授業を始めます」

 メアリーから教えてもらったので、大体の事はもう分かるようだ。

「宿題は出したわね?じゃあ、一つお知らせがあります」
「?」

 フル、メアリー、ルーシーら学生たちには予想外の事だった。
 続けて教師はこう言った。

「三人一組で班を組んで旅をしてもらいます」

 と。

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