ODD

巫夏希

第一話 事の始まり


 もしも、もしも。
 
 自分が『選ばれし者』として、どこか別のところであがめられていたとしたなら、あなたはどう思うか?
 
 
 
 
 
 時は2015年。
 町は今日も人で賑わう。
 ここは、東京・秋葉原。
 歩行者天国に人がずらずらと並び、何処かへと向かう。
 彼、古屋拓見もまた、その一人だ。
 彼は一枚のチラシを持っていた。
 今日は新型ファンタジーゲームの発売日らしい。
 そのチラシには『並ばずに手に入る!』と書いており、簡略な地図とそのゲームの値段が書かれていた。
 びっくりする値段だった。

「……このへんかなぁ」

 拓見は一軒の店を発見した。
 そこはガード下に聳える薄汚い店だった。

(……ホントにここであってんのか?)

 拓見はドアを見る。それはとても錆びついていて、開けるのが難しかったが、何とかあけることに成功した。



「いらっしゃい」

 そこには怪しい老人がいた。

「ゲームって、ここで販売してるんですか?」

 それを言った瞬間に老人は不敵な笑みを溢す。

「あぁ。ついてきなさい」

 拓見は老人の言う通りについていき、地下室に辿り着いた。

「何もないじゃないですかぁ」
「フハハハ。あぁ……」

 老人は鈍器を持っていた。
 そして、

「な……」

 拓見の頭を叩いた。

「う……うん……」



 拓見はとてもとてもゆっくりと、まるでスローモーションがかかっているかのように、倒れていった。









「フル、」
「フル、」
「……」
「フル!!」
「わっ!」
「何やってるの!! もう朝よ!! 始業時刻に遅れるじゃない!!」

 フル?
 始業時刻?
 拓見、いや、フルは訳が分からなかった。

「さ! 行くよ!」
「う、うん」

 部屋から出ていくフルを見るのがひとり。

「?」

 フルが気付いた。

「……!」

 去っていった。




〔1-1クラス〕

 フルが一人の女の子に連れて行かれ、教室にたどり着いたと同時にチャイムが鳴った。

「一時間め、何だっけ?」

 隣の席の子にさりげなく聞いた。

「歴史よ」

 答えた。

「???」

 しかしながら、フルはこの世界の言葉など――当然理解できるわけもない。隣の席の子が話していたのは、まさしく現地語なのだから。

「では、授業を始めます」
「起立!!」

 全員立つ。まるでどこぞやの国の軍隊のように。
 慌ててフルも立つ。

「礼!」

 同じく、一斉に礼。
 フルもその通りにする。

「着席!!」

 さらに、一斉着席。
 フルも座る。

「今日は『偉大なる闘い』についてです」
「『偉大なる闘い』とはぁ、2015年前、地の底から突然『メタモルフォーズ』と呼ばれる怪物が現れて……」

 全く訳が分からなかった。
 でも、音を頼りに闇雲にノートに書いていく。
 ノートは自分の部屋にもともとあったものだ。
 しかし、ペンが使いづらい。
 何故なら、それは羽ペンなのだ。
 小瓶に入ったインクを付け、書いていく。
 その作業が、とても。

「うーん……難しい……」

 ペンを左手で握り、書いていくフル。
 後ろからクラスメートのひそひそ声が聞こえる。

「あいつ、左利きじゃね?」
「ホントだ! ってことはあいつは…?」
「?」

 不審に思ったフルは後ろを向いた。

「フル・ヤタクミ!!」

 先生の声が響く。

「はっ、はい!!」

 フルは自分に向けられて、声が発せられたと思い、即座に立った。
 
「この問題を答えなさい」

 先生は黒板を指す。
 しかし、黒板に書かれている文字は日本語でない。やはりフルはわからず、うろたえるだけであった。

「え……えーと……」
「答えられないのですか?」

 困ったフルだったが、すぐピンチを脱した。

「ガラムドよ」

 親しみのある言語が聞こえた。
 そうだ、日本語だ。

「答えなさい、ヤタクミ。」
「が、ガラムドです!」
「…………」

 先生は一瞬首を傾けた。が、すぐに、戻した。
 
「そう、ガラムドですね。そのガラムドももともと人だと言われています……」





 そして、1時間後、始業時と同じチャイムが鳴る。

「あら、じゃあ、今日はここまでね。それじゃあ、解散!」
「さっきはありがと、えーと……」
「メアリーよ。メアリー・ホープキン」
「ありがとう、メアリー。ところで、君はなぜ一体日本語を喋れるんだい?」
「私にも分からないわ……。でも昔から聞いたことのある言葉だった……。だから、知ってるの」
 
 確かに彼女は日本語をしゃべっている。でもそれは外国人がしゃべるたどたどしい日本語ではなく、まるで日本人かのようにすらすらとしゃべる。それにフルは多少違和感を感じるくらいだ。

「ふーん」

 フルはそのことに関し、不審に思うがすぐに考えるのをやめた。

「次は……二時限目、専門か」
「何処だったけ……?」
「私と同じクラスよ。えーと……アルケミークラスよ」
「錬金術?」




[どこかの場所]

「フフフ……」

 誰かが水晶玉から二人を眺めている。

「フフフ……。まさかあの『予言』通りになるとはね……!!」





[ラドーム学院]

「?」
「どうしたの?」
「いや、なにか気配を感じて……」
「え?」

 メアリーは周りを確認する。

「いないわよ」
「でもっ、いたんだ。なにか……」
「気のせいよ。行きましょ!」

 メアリーはフルの服の裾を引っ張る。

「う、うん」

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