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巫夏希

第四十七話 炎の剣

 心臓を貫かれたサリーの体からは噴水のように血が噴き出していた。あまりの勢いでルーシーの体にもかかってしまったほどだった。

「……」

 しばらく、ルーシーはしゃべることができなかった。
 当たり前のことだろう。彼ははじめて“人を殺めた”のだ。しかも“今まで味方と思っていた”人を。

「……ルーシー、大丈夫か?」

 フルはルーシーに、そういう。

「……フル」
「なんだい?」
「早く、取り戻そう」
「“平和な世界”を……!!」

 ルーシーの目は血走っていた。正直言って人を殺したあとの人の精神は正常ではない。これは戦争が多かった時期も、フルが昔“いたとされる”時代でもそうだ。

「……とりあえず行こう。メアリーが危ない」
「そうだね」

 フルとルーシーはメアリーのところへ向かった。




 その頃メアリー。

「がはっ……!!」

 メアリーはリュージュの魔法弾を食らってまるでボロ雑巾のように転がっていく。

「さあ!! 立ち上がりなさい!! あんたの力はそんなもんなのかしら!?」

 リュージュは高笑いしながら、言った。

「……成り上がってる場合じゃないわよ!!!!」

 メアリーは手をたたく。これしか方法はない、とメアリーは考える。しかし、その方法はメアリー自身の首を絞めることになる。そんなことは関係ない。ともかく、この目の前にいる敵を倒さねばならないのだから。

「ふうん? なにをするつもりかしら?」

 リュージュはなお、笑みを崩さない。

「ふん! これをみて……笑っていられるかしらね!!」

 メアリーが叩いた手から炎が出てくる。
 それはまるで竜のよう。

「あなただって……これを喰らえば、無傷でいられる訳がないわよね!!」
「……これは"錬金魔術"!! こんな術式を使えるのが"私以外"にいるとはね……。さすがは私の娘」

 リュージュはその後、無言で手を差しのべる。
 既に、空は暗い。
 月の光がほのかと当たる程度だった。

「……ふぅ」

 リュージュは、腰にかけていたとみられる剣を引き抜く。
 その剣は剣というには余りにも細く、長いものだった。メアリーの身長よりも30cm以上、大きなものだった。

「知ってるかしら? この剣はフランベルジェ。過去文明の両手剣。私が“アリス”からの情報をもとにつくらせたものだけどね。刃の表面が波だっているでしょう? これで傷を広げることができる」

 リュージュは目の前に炎が迫ってきているというのに、余裕をもっている。

(何か、策があるのかしら?)

 メアリーはそう思ったが、“すぐにその可能性を消し去った”。
 あんな細い、ゴードンが持っているようなレイピアより細い剣が、この業火から身を守れる訳がない。そう思ったからだ。

「そして、この剣は」

 まだ、リュージュの話は続いていたようだった。
 リュージュがそれを言ったと同時に剣を水平にする。
 すると、火が、まるで見えない壁でもあるかのように、消え去った。

「な!!!!」
「炎の剣、と言われているわ」





 フルとルーシーは、脇からそれを眺めていた。
 この“ゲーム”は手助けしたら“負け”らしい。だからフルもルーシーも何も手も足も出ないのだった。

「知っているかしら?」

 リュージュがいきなり喋り出す。口元の笑みはそのままに。

「ガラムドの母、木葉秋穂は楽園教というのを?」
「え??」

 メアリー、ルーシーは当たり前で、フルも全く話の意味が分からなかった。

「フル? わかるか?」

 ルーシーはフルに話を振る。

「いいや、残念ながら……。けれど、その名前を聞く限り、どうやら僕がもともといた世界『ニッポン』でのもののように見える……!」

 リュージュはフルの話を無視し、「その宗教は弾圧を避けるため、様々な生活習慣のなかに術式を混ぜ込んだと言われているわ」話を続けた。

「そこから、この世界の様々な術式は生まれた」

 きづくと、リュージュの周りにはいろんなものがあった。

「ここにある、様々のもの。本の数、栞の位置、栞があったページの合計、食べかけの食事、その中身、割合、使われていたもの、素材、数、全てが関わっている」
「……わかるかしらねえ? あなたたちは"ここに来た時点で"私の術式にはまっているのよ。あとは命じるのみ」

 リュージュは、一呼吸、おいて、ゆっくりと言った。

「“このまま何もかも居なくなれ”」

 ギン!! という大きな音とともにリュージュの目の前に巨大なエネルギーの塊が生み出される。

「なんだあれは!! 止めるぞ!!」

 フルが言う。

「しかし、このゲームのルールは!!」
「もう“二人”倒した!! あとは大丈夫だ……」

 とフルが言ったその時、
 ドグン!! と大きな衝撃がフルに走った。

「え……?」

 フルは、その衝撃の発生源――胸のあたり、を見ると、レイピアがまるで土から春を知らせるようにゆっくりと出てくる筍のように、フルの体から“生えていた”。
 そして、そこから血が噴き出す。まるでスプリンクラーのように。さっきのサリーのように。
 フルは、ゆっくりと振り返る。

「……残念だったね。ヤタクミ君、戦いに『油断は禁物』だよ?」

 “倒したはずの”ゴードンが“初めてフルたちとあった時の笑顔で”いた。
 その手にはレイピアが握られていた。
 そのレイピアはフルの体を貫いていた。

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